じっぐりグリルで
ピーマンを
熱して食えば
破顔せり
チケットさんらとの出会いの後、私は軽く筋トレをするためにトレーニングルームへと足を運んでいた。まぁ、怪我をしているから足回りはトレーニングが出来ないけれども、スパートやバランスに関係する背筋や体幹を鍛えることは出来る。
ジャージに着替えて、早速、ラットプルマシンと呼ばれる機械に陣取った。このラットプルマシンというのは、上から棒がつるされていてその棒からワイヤーが伸びて重りに繋がっている。つまり、上からつるされている棒を座った状態で引き下げれば、二の腕から背筋まで、下半身にそれほど負荷をかけずに綺麗に鍛えられると言うわけだ。
さて…重量はどうしようか。昨日は151キロだったから…そうだな、156キロまで重量を増やしてみるかとプレートを追加していると、背後に何者かの気配を感じ取っていた。
「せいが出るねぇファレ!」
「あ、お疲れ様。寮長」
「はは。足を怪我してるってのによくやるねぇ。ほら、あんたはさっさと座りな。プレートはあたしが置いてやるからさ」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて、マシンの椅子へと腰かけた。すると、プレートを何枚か置きながら、ヒシアマゾンがふと、視線を此方に向けた。
「重量はいくつだい?」
「156でお願いします」
「りょーかい」
コン、コンとプレートが重なる音が耳に届き、さて、やるかという気持ちにさせてくれる。それにしても、相変わらず寮長は気が利くなぁと思う。普通、気にしないよ、こんな事。
「ほい、156キロだ。必要なら追加するから、声かけてくれ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいっていいって。こういうのはお互い様だよ!」
あっはっは!と快活に笑って彼女は私の傍を離れて行った。どうやら彼方はベンチプレスでトレーニングを行うらしい。おーあちらの重量は…40が4つついてら。やるねぇヒシアマゾン。
「よいしょ」
まぁ、他人はともかくとして、棒を引き下げて軽く一度感覚を確かめる。うん。重量としてはまぁまぁ。下半身に負荷はそこまでいっていない。でも、背中の筋肉や体幹に軽く刺激が行くような感覚はある。
「よし」
とりあえず今回は筋肉量を上げる、というよりも維持が目的なので重量は軽めで回数を多めにする感じで行く。引き下げて、戻して、引き下げて、戻して。戻すときも一気に戻すのではなく、筋肉でブレーキを掛けながら、つまり負荷をしっかりと背中と体幹にかけていく。
「ふっ、ふー。ふっ。ふー…」
10回を過ぎたあたりになってくると、良い感じで体が熱くなってくる。目標は…そうだな、30回、出来れば50回程度を目標としていこう。それ以上はオーバーワークだ。
…そういえば、前に人間もいるジムに通っていたけれど、これをやると滅茶苦茶驚かれたよなぁ。実際、筋肉ムキムキの男性よりも、重い重量を簡単にぶち上げて回数もこなしちゃっているから、まぁ、そりゃあ驚かれるのも当然であろうか。
ウマ娘のこのパワー。一体どこから出ているのだろうかと、ウマ娘である私から見てもおかしいなぁとは思ってしまう。
「ふー、ふっ!…ふー、ふっ!」
そんな事を思いながらも、鍛錬はしっかりと行う。時折リズムを変えて、今度は引き下げをより勢いよく、そして戻す動作を倍の時間をかけて行う。こうすると、筋肉にキクのだ。ま、筋肉痛は必至だけれど、嫌いじゃあない。
そういえば、ヒシアマゾンはどうしているだろうかと視線を向けてみれば、やはりというか、ウマ娘の爆発的な力で、ベンチプレスをなかなかのテンポで行っていた。
ふと、そんな彼女と目が合う。にやりと笑みを作ると彼女はベンチプレスのテンポを更に上げていた。…なるほど?仕掛けて来たな?
―ほらほら、付いて来れるのかい?―
そう言われた気がして、まけじとこちらもペースを上げる。軽く背中と腕の筋肉が悲鳴を上げてきたが、仕掛けられた勝負に負けるわけにはいくまいよ!
…そう意気込んで勝負を始めた、までは良かったのだが。
「たわけが!怪我をしているのにも関わらずこれほどのハードトレーニングをする奴があるか!ヒシアマゾン!貴様もアップザイツファレが怪我人だと判っているだろうになぜ煽る!?ファレ!お前もお前だ!養生もせずに一体何をしているんだ!貴様はさっさと寮に戻って体を休めろ!全く。ほら、ヒシアマゾン、ファレを寮に連れて行け!目を離すなよ!」
「大丈夫だよ、エアグルーヴ。怪我って言っても足の…」
「言い訳無用!貴様は怪我が治るまでトレーニング禁止だ!」
怖い怖い女帝様にそう言われてヒシアマゾンと共にトレーニングルームを追い出された私である。いやぁ、女傑と言われ始めているヒシアマゾンが、女帝と呼ばれるエアグルーヴに詰められている様はちょっと面白かった。ま、私も同じように詰められた、ということなのだけどね。ということで、数日間、女帝様からは怪我が治るまではトレーニング禁止令が発せられてしまった。いやはや。困ったものである。
「すまないねぇファレ。調子こいちまったよ」
一緒に寮に戻るヒシアマゾンがそう言って頭を私に下げていた。その耳はすっかり垂れてしまっていて、落ち込んでいる彼女の気持ちを十二分に表していた。
「気にしないでよ。ああいう風に煽ってもらった方が、実際、捗りますしね」
「はは、そうかい。じゃあ、怪我を治したら改めて煽ってやるさね」
「ふふ。待ってます」
耳がしょんぼりと垂れてしまっていたヒシアマゾンだが、私が『捗る』と言った所で耳が上を向いた。よしよし、なんとか気持ちを持ち直してくれたようだ。まぁ、それにエアグルーヴも本気では怒ってないだろう。
ヒシアマゾンが怪我をした私に気を遣って、筋トレ比べをしてくれた、なんてことは十二分に承知しているはずだからね。きっと、単純に私の体を心配してくれたのだろう。
「それはそうとしてさ、わびと言っちゃだんだけど、夕飯、まだだろ?」
夕飯か。確かにまだだ。ヒシアマゾンを観れば、こちらの顔を微笑みを交えながらのぞき込んで来ていた。
「まだだね」
「じゃあ、丁度いいね!ヒシアマ姉さん特製の夕飯を作ってやるから、食ってきな」
「え?本当?」
私が疑問を呈すれば、ヒシアマゾンは満面の笑みで答えてくれた。
「おう!まかせな!今日は良いピーマンが入っているからね。期待してくれ!」
「へぇ。ピーマン。それは楽しみですね」
ヒシアマゾンのピーマン料理か。これは楽しみにせざる得まい。筋トレのしすぎで突っ張る背中と腕を意識しながらも、彼女の作る料理に思いを馳せた。