私めは朝晩の涼しさに腹痛を覚えております。ビオフェルミンはお友達。
それはそうとして。ピーマンを千切りにしまして、そこにシラスと胡麻を和えます。塩、胡椒、ごま油で味を調えて、ご飯の上、豆腐の上などに乗せると食が進みます。簡単ですのでぜひ一度。
ヒシアマゾンと夕飯を取った後、彼女とは別れて寝る準備を行っていた。まずはお風呂。寮の部屋に一応シャワーがあるものの、私はお湯に浸かる派だ。寮には大浴場があるため、私はそっちを利用している。服をロッカーに入れて、タオルで前を隠しながら大浴場の扉を潜ったけれど、やはり、時間的にまだまだ練習の時間であるからだろうか、ほぼほぼ貸し切り状態の風呂であった。
「ふう」
軽く体を洗った後に、湯船に体を沈めれば思わずそんなため息を吐いてしまう。少しだけ視線を泳がせてみれば、ウマ娘は2~3人といったところだ。各々、のんびりと湯船に浸かっている感じである。お互いを認識しつつも、お互いに干渉しない。なんというか、心地よい空間だ。
ふと、一人のウマ娘と目が合った。模擬レースで仲良くなった知り合いだ。挨拶代わりに軽く手を上げておく。すると、相手も此方に向かって手を振ってくれていた。よしよし。
「んー…」
伸びをしながら、今日一日を思い返す。朝はトウカイテイオーにピーマンを貰い、朝食でまさかまさかシンボリルドルフ生徒会長と会話をし、そして普通に授業を受けて、放課後に練習をしていたら自業自得だけどエアグルーヴに叱られて、そしてなぜか夕飯はヒシアマゾンの美味しいピーマン料理で締めくくられた。
ピーマンに始まり、ピーマンに終わった一日だなと思う。というかウマ娘として生きて来た中で、これほどまでピーマンを意識した日もないだろう。シンボリルドルフ生徒会長との会話が盛り上がったキッカケも、彼女がピーマンを残していたからだしね。なんだか、ピーマンに導かれたような、不思議な一日だった。
ぐっと手を組んで背中を伸ばす。小さくぽきぽきと音が鳴ると、少しだけ体のきつさが取れたようにも感じて居た。
そうやって肩の力を抜いて風呂に浸かる事十数分。にわかに脱衣所が騒がしくなってきていた。どうやら、練習帰りのウマ娘達が寮に帰ってきているらしい。それならば、混む前に部屋に戻ろうか。そう思い立ち、湯船から体を上げた。
■
部屋に戻り、自分のベッドでウマホをいじりながらのんびりと横たわっていると、寮の部屋のドアが不意に開いた。どうやら、同居人のご帰還らしい。
「お帰り、エアダブリン」
「ただいまー。いやー、今日も疲れたー!」
「お疲れ様」
「ありがとう、ファレ。そっちは脚の様子大丈夫?」
「うん。徐々に快方に向かってるよ。そっちの練習は?」
「今日は坂路2本に2000メートルダッシュを4本。いやー、ほんっとー疲れた!」
そう言うと、彼女は荷物を床に放り投げながら、自らのベッドにダイブしていた。そして、首だけを此方に向ける。
「そう言えばファレ。筋トレしすぎてエアグルーヴさんから怒られたって聞いたけど、ほんとー?」
「え?誰から聞いたの?」
「寮のみんな。エアグルーヴさんが凄い声で怒鳴ってたって聞いて」
嗚呼…確かに怒鳴られた怒鳴られた。でも、あれは私が悪いと言うか、悪いんだけど、ヒシアマゾンも関係しているから、ね?
「軽い筋トレをしていたら、体を心配してくれたエアグルーヴに叱られた、ってだけだよ」
オブラートに包んで彼女には伝えておこう。筋トレ比べをしてエアグルーヴに怒られた、なーんて話を伝えるのはちょっと恥ずかしい。
「なるほどねー。確か、エアグルーヴさんとは知り合いなんだっけ?」
「うん、遠い親戚筋のウマ娘だよ。子供の頃から交流があったんだ」
「へー!すごいねー!」
「ありがと。でも、彼女の練習を見ていると、なかなか追いつけないなーって思っちゃうよ」
「あー、確かに。すごいもんね。エアグルーヴさんの練習」
「うん。時々あの皇帝もいるし、なんだか、気合っていうか、光り方が違うよね」
「えー?でもファレ、あの練習について行ってたじゃない」
エアグルーヴの練習時にはあの皇帝もいれば、ナリタブライアンも居る時もある。ま、私はそれを必死に追いかけていただけなのだけれどね。
「本当について行っていただけだよ。追いつくだけで必死だったもの。ダブリンだってついて来てたじゃない?」
そう。エアグルーヴの練習は、一般のというか、トレーナーが居ない連中も一緒に走れるようになっている。彼女なりの配慮という奴だ。その中で私とエアダブリンは一緒に練習をさせてもらっている。エアダブリンだって、結構良い位置で練習について行っていたはずなんだけどね?
「あはは、冗談言わないでよ。ファレ。あたしだって本当についていけていた、っていうだけだもん。でも、あれだけ高みを見せられると、ぞくぞくするよねー」
「うん。本当にするよね。武者震いっていうか、あの高みに立ってみたいっていうか」
「ね!」
彼女の言うように、エアグルーヴを筆頭とする『光るもの』を持つ彼女らの練習は本当にハードだ。でも、それを身近で体感すると『無理!』という気持ちは消え失せて、『楽しい!』『勝ちたい!』という気持ちが表に立つのだ。不思議なものである。
「あ、いけない!お風呂の時間やばっ!」
ふいに彼女が時計を見て、そんな風に慌て始めた。時計を見てみれば、既に8時30過ぎ。風呂の時間は9時30までであるから…うん、確かに結構厳しい時間だ。1時間もある、と思うかもしれないけれど、ここから移動して、風呂に入り、髪の毛と尻尾の手入れ、そして肌の手入れまで含めればカツカツも良い時間である。
「ちょっと行ってきます!」
「はーい。気を付けてねー。あ、あとこれ」
彼女にそう言いながら一つの瓶を投げ渡した。
「わ、なにこれ?」
「尻尾用の椿油。確か尻尾用のリンス切らしてたって言ったでしょ。よかったら使って」
「わわわ!ありがとう!助かるよ!じゃ、今度こそ行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
慌てながら彼女は寮の部屋を後にしていった。再び静まり返る私達の部屋。ふと、窓の外を覗いてみれば、冬の大きな夜空が星を従えて、私を眺めているような気がしていた。