その日、メジロマックイーンは珍しく練習を休み、図書室へと詰めていた。俗にいう戦略の勉強、歴史の勉強という奴である。
「やはり第三コーナーの位置取りまでの戦略の組み立て方が重要ですわね。スタミナがある場合は…先頭集団でペースを作るべし…と」
本をめくりながら、独り言をつぶやく彼女。周囲を見てみれば、同じようなウマ娘達が多く存在している。逃げウマ娘であるとか、追い込みのウマ娘であるとか。見知った顔もいるようだ。
「よー、マックイーン」
「あら、ゴールドシップさん。ごきげんよう」
「ごきげんよう。勉強してんのか?」
「ええ。メジロ家でも教育を受けておりますが、やはり知見は広げて損は無いと思いまして。貴女は?」
「アタシもだぜ。追い込みの極意、って奴を探してるのさー」
「あら、真面目ですわね。珍しい」
「あ?ゴルシちゃんだってやるときゃやるのよ?あ、そうだマックイーン。ついでなんだけどよ」
ゴールドシップはそう言うと、自らウマホを取り出して、画面をマックイーンに見せていた。
「この画像のCD、なんか知らね?」
「ちょっと見せてくださいまし」
ウマホをゴールドシップから受け取ったマックイーンは、まじまじとその画像を見る。燃えるギターの表面、どこかSFのようなギターの裏面。ネッキバサラ、とアルファベットで書かれた名前らしき部分。なかのCDは変哲もない普通のCD。一応成人男性らしい写真が挟まっている。
「…初めて見るCDですわね。これが、どうかされたのですか?」
「それがな、フジキセキの寮長からシラネー?ってメッセージが回ってきたのよ。ま、自慢じゃねーがこのゴルピッピ、こういう方面にはめっぽう強いわけさ」
「そうなんですの?でも、貴女なら知っているんでしょう?」
マックイーンがそう言うと、判りやすくゴールドシップは顔を顰めていた。
「それがな、知らないんだよ。驚くことにこのゴルシちゃんでも知らねーモンが出て来ちゃったわけよ。んで、今いろんな奴に聞いてるわけさ」
「そうでしたの。でも、申し訳ございませんけれど、存じ上げません」
「そっか、ワリーワリー。勉強の邪魔をして」
「気になさらないでください。あ、もし、何か思い出しましたらお伝えします」
「助かるぜ。マックイーン。じゃ、あたしはまた聞き込みにいってくんぜー!」
「お気をつけて」
手をひらひらとさせながら、ゴールドシップを送り出すマックイーン。そしてふう、とため息を1つついて、軽く息抜きをしていた。
「ゴールドシップさんが知らないCDですか…。あとで爺やに聞いてみようかしら」
そう言いながら、新たな本に手を伸ばすマックイーン。そこには、歴代天皇賞覇者、の文字が刻まれている。それをぺらぺらとめくっていき、あるページでその指を止めた。
「メジロアサマ…メジロ家のルーツ、ですわね」
そう言いながら、その項目に目を通していくメジロマックイーン。やはり特筆すべきは天皇賞秋での優勝であろう。当時は3200で行われたそのレースを勝利した彼女がいるからこそ、メジロ家は大きな発展を遂げたのだ。
「…そういえば、専用曲は無かったのかしら?」
そうひとり呟きながら、メジロマックイーンは更に資料を読んで行く。するとやはり、天皇賞を制覇したときの曲が描かれていたが、どうも聞き覚えの無い曲だ。資料によると、当時の流行りを模した歌謡曲のようなものであったらしい。
「歌謡曲…やはり、時代によって曲は変わっていくのですね」
しみじみをそう呟く彼女の目に、もう一曲、ある特に謳われたであろう曲の名前が目に入る。
「メジロアサマの引退ライブ…セットリストがあるのですね」
引退ライブ。数万人が訪れて、大盛況だった、と描かれているそれには、当時のウイニングライブのタイトルが数曲描かれていた。ただ、そこに一言『当時としては革新的な曲で、彼女を代表する曲である。音源が残っていないのが大変に残念である』と書かれた曲があった。
「ANGEL VOICE…ですか」
作曲者は不明。しかし、メジロアサマと作曲者らしき男性が2人で、最後の一曲として歌われたこの一曲は、大層盛り上がりを見せたそうだ、と資料には描いてあった。