トウカイテイオーが皐月を取ったというニュースが流れたのがつい先日。しかも、無敗でここまで来たという事で、トレセン学園内でも彼女はかなりの人気者になっている。
「すごいよねぇ、トウカイテイオー」
「本当本当」
対して私は、エアダブリンと共に朝の恒例のランニングを行っていた。私は高尾の方に走り込みである。エアダブリンは途中まで一緒の方向だが、途中からは山の方へと向かう予定だ。
「それにしても無敗で皐月かぁ。このままいくと、三冠かなぁ?」
「多分そうかもねー。あ、でも、ナイスネイチャさんとかリオナタールさんも実力者だから、どうなるかはレースを終えるまでは判んないよ」
「あはは、確かにね。あ、じゃあここで私は右に行くから。また授業でね、ファレ」
「うん。また後で、ダブリン」
ある程度走ったところで、彼女と別れ、一人で高尾へと向かう。ちなみに最終目的地は高尾駅である。軽く休憩して折り返し、トレセンに戻るのが比較的ポピュラーな朝の練習コースだ。
だからか、結構トレセンのジャージを着用しているウマ娘が多い。なお、ここの近くで走っているウマ娘は大半は中央トレセンだけれど、中には川崎トレセンや大井トレセン、浦和トレセンなどのジャージを見ることもある。
「こんにちわー!」
「こんにちわー!!」
噂をすれば、対面からやってきた別のトレセンのウマ娘達から挨拶をされていた。
「こんにちわー」
挨拶を返しながら相手のジャージを見れば、あのカラフルなジャージは、間違いなく大井であろう。大井と言えば、トウキョウシティレースと銘打ったダートレースが非常に盛んで、ナイトレースなんかは中央を超えているんじゃないかというほどの盛り上がりを見せている。あそこは正直、私も走ってみたいなぁと思う場所だ。…ま、ダート適性がないから現実的じゃないけどね。
「わ、中央のジャージだ。すごいなー」
「本当だ。中央って言えば今年のクラシックすごいよねー、トウカイテイオーさんが三冠かもって…」
「本当本当!すごいよねぇ、中央!」
すれ違いざま、そんな会話が私の耳に飛び込んできていた。うん、そうか、トウカイテイオーはやはり注目の的であるらしい。なんだろう、知り合いだからだろうか、私の事じゃないんだけれど、すごいと言われるとどこか誇らしげに感じることが出来た。
トウカイテイオー。シンボリルドルフに期待をされている無敗の皐月賞ウマ娘で、中央トレセンの中でも指折りのトップクラスの才能の持ち主だ。最近ではピーマンを一緒に食べる仲である…なんだろう、これだけだと全く意味が判らない関係性だ。ま、実際、そういう友達になっているんだから仕方がないんだけれどね。
「あ、そう言えば、ピーマンのおじいさんの農場って、ここらへんだっけ?」
独り言をつぶやきながら、ウマホを取り出して、軽く場所を調べてみる。どうやら、ここから走って5分も無い場所に、彼の農場があるようだ。うん、そうだな。せっかく近くに来たのだ、挨拶ぐらいはしていこうじゃないか。
■
ウマホに導かれて、お爺さんの農場へとたどり着いた。見事なハウスが立ち並び、大きな農家であることが良く判る。結構広い土地の脇には、昔ながらの日本家屋が一棟鎮座している。確か、おじいさんの名前は…『根津木』とか言ったっけ。表札を覗いてみれば、まさに、その根津木、の三文字が彫られていた。
とはいえ、この早朝の時間にインターホンを押すわけにもいくまいと、畑の方に意識を向ける。
『お前の胸にもラブハート まっすぐ受け止めて』
と、どこからか、ギターの音と男性の歌う声が聞こえてきていた。うん、どうやら誰かしかが畑の方に居るらしい。畑のあぜ道を慎重に進んで行くと、歌声がどんどん大きくなっていった。そして、シルエットが見えるまで近づけば、あのおじいさんがギターを片手に歌を歌っていた。
『溢れる想いは流線形 突撃ラブハート!…っと?誰だ?」
私の足音に気づいたのか、歌っていたおじいさんがこちらを向く。
「おはようございます。近くまで来たもので。トレセンでお世話になっております、アップザイツファレです」
「おお!ピーマンを好きなウマ娘さんか!どうだい?俺のピーマンは、旨いかい?」
「ええとても!そうそう。とても美味しいので、お礼も言いたいなと思いまして。いつもありがとうございます」
「ははは!気にしないでいいよ。俺が好きで育てて、ウマ娘さんに届けているだけだからな。歌と一緒さ」
そう言いながら、快活に笑うおじいさん。それにしても、さっきの曲は初めて聞いた。突撃、ラブハート、と言っていたっけ?
「そういえばさっきの曲、聞いたことが無かったんですが、どなたの?」
「俺の歌さ」
「え?そう、なんですか?」
「おう。昔取った杵柄ってやつだよ。ギターもそうだ。なんだ?聞きたいのか?」
そう言いながら、おじいさんはギターを軽く掲げて見せた。うん、結構いい曲だったから、聞けるならぜひ聞きたいところだ。
「ええ、ぜひ。途中から聞いたんですけれど、なんか、パワーを貰えるなって」
「そうかそうか!じゃ、せっかくだ、俺の歌を聞いて行きな!」
おじいさんはそう言うと、早速ギターをかき鳴らし始めていた。うん、素人目だけど、このおじいさん相当ギターが上手い。っていうか、曲も結構良い曲だと思うんだけど、このおじいさんと、お爺さんの作った歌が、世の中に全く出ていない事が不思議だなぁと感じていた。