ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

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鍛錬の日々ートウカイテイオーの場合

 無敗で皐月賞を獲ったトウカイテイオー。そのニュースは瞬く間にトレセン中に広がり、やれ三冠だ、無敗でダービーウマ娘だ、あのシンボリルドルフに並ぶだのとトレセンでは噂と期待が大きく膨らんでいた。それは勿論、かのシンボリルドルフとて同じである。

 

「期待しているぞ、テイオー」

 

 そう彼女に話しかけるぐらいには、無敗の三冠になりうる実力者であるトウカイテイオーには期待をかけていた。だが、どうやら、当の本人は少し様子が違うらしい。

 というのも皐月賞を終えて暫く、ダービーまでもう少しというところで彼女の心に少しの変化が産まれていた。その変化は小さいものであったが、確実に、未踏の地へと彼女を導くものである。その葛藤が、今しばらくは彼女の練習に影を落としているほどに。

 

「テイオーちゃん、最近どうしたの?なんか元気ないけど」

 

 練習を終えたテイオーが寮の部屋に戻れば、いきなり同室のマヤノトップガンがそんなことを彼女に話しかけてきていた。このマヤノトップガンというウマ娘は、トウカイテイオーに違わず天才の部類である。特に直感が鋭く、彼女が疑問に思った事は、大概が当たっている。

 

「判る?」

「うん。最近変だもん。皐月賞を勝ってるのに、なんか、練習に身が入ってないっていうか」

「そっかー」

「テイオーちゃん、どうしたの?無敗で皐月賞を勝って、会長さんに並べるかもしれないっていうのに、前なら、もっと喜んで自信満々だったじゃない」

 

 マヤノトップガンの言葉に頷くトウカイテイオー。確かに今までの彼女であれば、自信満々に叫んでいたであろう。会長に並ぶのはボクだ!と。だが、どうやら、ここ数日、というか皐月の手前ぐらいからだろうか、何か雰囲気が別のものへと置き換わっていた。それは、マヤノトップガンの言葉を借りるのであれば。

 

「…もしかして、もっと、ワクワクしそうなこと見つけちゃった?」

 

 ワクワク。マヤノトップガンが良く使う言葉。強い相手と競い合いたいという、彼女の願望。つまりそれはウマ娘にとって根源的な欲求だ。今までのトウカイテイオーは、きっと、シンボリルドルフに並ぶことがそれだったはず。だがそれが、何かがキッカケで変わってしまっているようなのだ。

 

「そうだね。ワクワク、うん。そうだ、ボク、もっとワクワクしそうなこと見つけちゃったんだ」

 

 納得したようにトウカイテイオーが頷いていた。マヤノトップガンは、元々のトウカイテイオーの夢を良く知っている。それは寮で同室であり、よく夢を語り合う仲だからだ。マヤノは強い人と走って勝ちたい。それをテイオーに語っていた。対して、トウカイテイオーは子供の頃に見た強いシンボリルドルフに衝撃を受け、あの人に並びたいと思うようになった。並び立ち、超えたいとマヤノトップガンに語っていた。

 

「それは、会長さんに並ぶより、もっと楽しいの?」

「うん、うん。きっと」

 

 トウカイテイオーはどこかすっきりとした顔で、笑顔を浮かべていた。彼女が目指すもの、それは一体何なのであろうか。

 

 

 心変わりが起きたのは、間違いなくあのCDが手に入ってからだとトウカイテイオー自身も自覚はしている。特にあの、Dynamite Explosionを聞いてからだ。最初の内は何か、背中を押される気がしていたぐらいだったのだけれど、ピーマンを食べる夕食会を通じでみんなと交流するうちに、どんどんとその背中を押される感じが、自分の気持ちへと変わっていった。

 

「テイオー、おめでとう。皐月賞、見事だった」

 

 その夕食会でシンボリルドルフにそう賛辞の言葉を受けた時に、その気持ちが確定した、と言っても良いだろう。

 

「ありがとう、カイチョー」

 

 そう言いながら、トウカイテイオーの中で生まれた気持ち。それは、自分が気に入っている曲の歌詞の如く、彼女の心の向きを決めた。

 

―ボク、なんでシンボリルドルフさんに憧れたんだっけ?―

 

 それはきっと、カッコいいから。強かったから。ヒーローのようだったから。憧れのウマ娘になりたい。そう思ったのだ。それを疑わずにいた。だけれど、それは本当にトウカイテイオーらしいのだろうか?

 

―ボクはサイキョームテキのウマ娘だ。シンボリルドルフさんに…並んで、超える、だけでいいのかな?―

 

 気づいた心。並ぶだけでいいのか?超えるだけでいいのか?いや、良くない。そんなの、トウカイテイオーらしくないじゃないか。ニヤリと口角が自然と上がる。

 

―そうだ、どうせなら、誰もやったことが無い事をやらないと。それでカイチョーに自慢するんだ。ボクがサイキョームテキのウマ娘なんだって!―

 

 そうやって気合を入れて向かったのは、トレーナー室。その手には、2枚の書類が握られていた。レースの申込書だ。一枚は勿論もうすぐやってくる、日本ダービーの最終確認書類。大きく参加と書かれたそれは、自信が見てとれる。

 

 そしてもう一枚。こちらは、今後行われる大きなG1レースの登録書類だ。三冠を目指すのであれば、菊花賞の名前が入るであろう。だが、そこに描かれていたのは、かの皇帝がたどり着けなかった、大きな舞台の名前が自信満々の文字で描いてあった。

 

「トレーナー!書類、持ってきたよ!」

「お、テイオー。待っていたぞ、ダービーの最終確認書類と、菊花賞の申し込みだな」

「ちっちっちっ。トレーナー。何を言っているの?ボク、サイキョームテキのウマ娘だよ?ダービーの後は、これしかないでしょ?」

 

 にししと笑った彼女の心の中では、きっと今、とてつもなく大きな爆発が起こっている事であろう。書類を見たトレーナーは、あんぐりと大きな口を開けていた。同時に、どこからか、歌の一節が聞こえるような気がしていた。

 

『ナマヌルい毎日に ここでサヨナラ言うのさ そうさ誰もオレの熱い想い止められない』

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