ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

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ピーマンイズ


序章ー2:ファンとウマ娘

 カッカッカッと規則だたしく地面を蹴る蹄鉄の音。乱れないリズムが、このウマ娘の確かな実力を示している。府中の都会から、東京の中では田舎といえる羽村へと抜けて青梅へとその脚で駆け抜けていく。途中で多摩川の河川敷に上がったりしながら、ウマ娘の朝のトレーニングはつつがなく進んでいた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…?」

 

 ふと脚を止めたウマ娘。その目の前には「全品100円」と書かれた直売場が置かれていた。土の付いたニンジン、キャベツ、カブ、ネギ、そしてレンコンや季節外れのピーマンまでが置いてある。ほう、と直売場をのぞき込んでいると。

 

「おお、朝早くからご苦労さま。ウマ娘さん。ニンジン、食べるかい?」

 

 ウマ娘の背後から、そう声が聞こえて来た。はっとして後ろを向けば、そこには歳にして70歳ぐらいであろうか、おじいさんが野菜を片手に立っていた。

 

「おはようございます」

「おはよう。トレーニングかい?精が出るねぇ」

「ありがとうございます。あ、それで、ここに置いてあるのって全部100円なんですか?」

 

 そう言いながら、ウマ娘は視線を野菜へと向けた。

 

「そうだよ。ま、趣味で出しているものだよ。でも味は保証できるよ。ほら、一本どうだい?食べてみな」

 

 おじいさんはそう言って、ニンジンを一本ウマ娘へと差し出していた。

 

「あ。じゃあお言葉に甘えて、頂きます」

 

 それを受け取ると、ウマ娘は早速とニンジンを頬張る。カリっと心地よい噛み応えの先にあったのは、濃いニンジンの香りと甘みであった。

 

「おわっ。これは甘いですね!」

「だろう?肥料が違うんだ肥料が。ははははは!」

 

 自慢気に笑うおじいさんを尻目に、ウマ娘はニンジンを一本平らげてしまっていた。そして、ポケットからコインケースを取り出すと早速2枚、100円を料金箱に入れていた。

 

「すごくおいしかったので、ニンジン2つ頂きます」

「おお、こりゃあ有難い。ああ、そうだ。ついでにこれもサービスでつけておくよ」

 

 そう言われて渡されたのは、季節外れのピーマンであった。それに加えて、大きめの紙袋も渡される。

 

「わ、袋まで。ありがとうございます。でも、ピーマンですかぁ…」

「苦手かい?」

「はい」

「そうかそうか。ま、だまされたと思って一度食ってみ。肥料が違うからなぁ。甘いぞぉ?」

 

 甘いピーマン。そう言われて、少し心が躍る。でも、とはいってもあの苦いピーマンだ。ウマ娘多しとっても、ピーマン好きのウマ娘は極少数だろう。ま、食べて不味かったら学食にでも渡そうかとウマ娘は考えていた。

 

「判りました。試してみます。あ、じゃあ、そろそろ行きますね。ありがとうございます!」

「おう!美味しく食べてくれよー!」

 

 手を振りながらウマ娘はおじいさんの直売場を後にしていった。片手にはニンジンとピーマンが大量に入った紙袋を抱えているものの、そこはウマ娘。自慢の力とバランス感覚で、今までの手ぶらと同じようなペースでトレーニングコースをかけていく。

 

「うん、これはこれで丁度いいトレーニングかもねー」

 

 呑気にそう言いながら、紙袋になるべく負荷をかけないように、しかし足運びは変わらず、カッカッカッと規則だたしく地面を蹴る蹄鉄の音がウマ娘の足元からは響く。大通りを抜けて、小道を抜けて、住宅街を走り抜けて。

 そうやって縦横無尽に街中を走り抜けてみれば、気づけば目的地である青梅の駅へとたどり着いていた。紙袋を適当なベンチに置いて、コインケースから数枚のコインを取り出して自販機へと叩き込む。スポーツドリンクを喉へと流し込めば、ほっと一息つくように、長くため息を吐いていた。

 

「ふー」

「お?朝から精が出るな。珈琲、買ってやろうか?」

 

 首だけをそちらに向けるウマ娘。すると、そこにいた声の正体は、トレーニング途中であろう少し汗ばみ、そして背の高いウマ娘であった。

 

「おはようございます。甘い奴なら欲しいです」

「はは。そうかそうか。なんだ、テメェも少しは成長してんだな。―ほら、甘い奴だ。ありがたく味わえよ。じゃあな」

「ありがと。じゃあねー!」

 

 知り合いのウマ娘と軽くじゃれ合いを演じながら、ウマ娘はベンチへと腰かけて、缶コーヒーのプルタブを立てた。甘いコーヒーを味わいながら駅の時計を見てみれば、5時半を丁度回った頃であり、ちらほらと人の姿が増え始めていた。

 

「ウマ娘さんおはよー!」

「おはようございます」

「練習頑張って下さいね!」

「はーい!ありがとうございます!」

 

 会社員だろうか、スーツをまとった男女の姿も見え始めている。町がようやく動き出して来た、そういう雰囲気をウマ娘は感じ取っていた。

 

「さぁてと。じゃ、帰ろうかな」

 

 ウマ娘はベンチから立ち上がると、手を合わせてぐっと背を伸ばす。そして、紙袋を左手に持ち、態勢を少しだけ低くした。

 

「ふっ!」

 

 右足で地面を蹴れば、カツン、という音と共に、ウマ娘の体がアスファルト舗装の道路へと簡単に押し出される。再度、カッカッカッと規則だたしく地面を蹴る蹄鉄の音が足元から響き始めている。まるでそれは、動き始めた精密な機械のような正確さで、早朝の街を染め上げている。

 

「お!」

 

 対面の道路からも、また同じようにカッカッカッと規則だたしく地面を蹴る蹄鉄の音がする。ウマ娘はといえば、ちらりと目線をそちらにやり、対面の道路を走るウマ娘に向けて手を軽く上げた。その動作で、対面を走る葦毛のウマ娘も気づいたのであろう、軽く会釈を返し、そして手を上げ返していた。一瞬の交錯の後、お互いにまた自らのペースへと戻る。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 息遣いも機械の精密なギアのように正しく刻まれている。流れる街並みには、徐々に徐々に朝日の輪郭が見え始め、新しい一日の始まりを予感させていた。

 

 そして、ウマ娘が持つその紙袋。ガサガサと紙袋とニンジンを包むビニールが擦れあう音がウマ娘の耳に入ってきている。ニンジン、ピーマン。ニンジンが甘かった。きっとフジキセキさんかヒシアマゾンさんあたりに渡せば、美味しい料理が出来るはずだ。楽しみだなぁと思っているに違いない。

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