トレセンの朝は早い。それは、何もウマ娘だけの話ではなく、そこで働く職員も含まれる。
例えばそれはコース整備員。日の登る前には出勤し、芝の調整、整備を行い、更にはラチや各種トレーニング器具の整備までを行っている。
例えばそれは、一般教員。ウマ娘が朝食を取る前には出勤し、その日の一般教養やトレーナーが居ないウマ娘に対してのトレーニングメニューを考えている。
例えばそれは、トレーナー。ウマ娘が起きる前にはトレーナールームで日々の練習内容やレースへの準備を事欠かさない。
そして、食堂に通う職員もそれは変わらない。仕込みはある程度前日に終わらせているとは言え、ウマ娘の大量の食事を管理する人々だ。やはりウマ娘が起床する前から厨房に入り、その準備を進めている。朝採れの新鮮野菜たちが搬入されれば、それの仕込みを行い、更にはハンバーグのタネを作り、一番人気の特製ニンジンハンバーグを最低でも日の出前には数百人分は作る。何せこの学園はウマ娘だけでも4桁の人数が居る。たかだか数百の準備ではまだまだ足りないのが現状である。
「ニンジンの搬入が少ないな、何かあったか?」
「南濃のトラックが遅れてます」
職員はその報告を聞いて、大きくため息を吐いていた。
「はぁー!ったくいつもの運輸業者か。何回文句言っても改善されないな。業者変えるように意見を上げてんのになぁもう。全部白猫か右川にしちまえば簡単に解決すんのによぉ!あ、で、仕込みは今どんなもんだ?」
「2キロ単位のハンバーグの種はとりあえず300用意できてます。米も今の所2000人分の1トン分の仕込みは完成済みです。先に500人分の炊きを始めています」
そう言って笑顔を浮かべて指を2本立てる職員。その顔は自慢げに笑顔を浮かべていた。
「結構だ。あ、オグリキャップ用のスペシャルは忘れてないよな?」
「彼女の分は別で一升分は用意していますよ。予備に二升の米と、あとは焼き魚と肉、サラダも彼女用に仕込んであります。新しい冷蔵庫の面目躍如ですね」
「おっけーおっけー。じゃあ残りの分もちゃっちゃとやっちまいますか。朝練帰りのウマ娘が戻る前には、数百人分の仕込みを済ますぞ!」
「承知です!」
厨房ではやんややんやと軽口を叩きながら、手際よく食材を切り、刻み、つぶし、焼き、煮て、形を仕上げていく。おおよそウマ娘の好みというのを把握している彼らの手際は相当なものである。
そうして、時刻にして6時頃。食堂の扉が開くと同時に、多くのウマ娘達が食堂に流れ込んで来ていた。ちらほらとまだ私服姿のウマ娘も見えるあたり、どうやら朝練なしのウマ娘達らしい。
「おはよーイクノー!よくねれたー?」
「ええ。そちらは?」
「ターボはぐっすり寝れたよ!」
「ふふーん。今日はなにをたべよかなー?」
そんな軽口を叩きながらウマ娘達は続々と券を取り、窓口へと渡していく。やはりハンバーグ定食を頼むウマ娘が多い様で、厨房はてんやわんやの大騒ぎである。
「米は大盛!ハンバーグはしっかりと熱を通せよ!にんじんのボイルはまだかかるか!?」
「あと20秒で上がります!少々お待ちを!」
「おっけーい!ボイル仕上がったらとりあえず20人前は出せるな!悪いけど先に鯖味噌定食と大盛カレーライス、お待ちどうさまー!ハンバーグは少し待ってくれ!」
「わ!いただきますー!」
「おいしそー!いただきます!」
「たんと召し上がれー!」
「ニンジン上がりました!ハンバーグ定食お待ちどうさまー!」
「わーい!いただきまーす!」
窓口から次から次へと渡される定食たち。ニンジンハンバーグがやはり数としては一番多い、次に多いのが意外や意外のサバの味噌煮、そしてカレーライスも同じようにどんどん出ていく。そうしいているうちに、小一時間が立つと、ウマ娘達の波が一旦落ち着いていた。どうやら、朝練をする前のウマ娘達の食事が終わったようだ。
「一旦おつかれー。ほい、珈琲」
「ありがとうございます。いやぁ、やっぱりウマ娘さん達は良い食いっぷりですね。作り甲斐がありますねぇ」
「だなぁ、ま、あと数分もすりゃ今度は朝練上がりのウマ娘達がなだれ込んでくるんだ。珈琲飲んでいる間はしっかり気を抜いて、んで、また気合入れて乗り切ろうや」
「勿論です。あ、ニンジンがやっと届いたんで、これ飲んだら仕込み行ってきます」
「おう。頼んだ。…っと、いらっしゃい。ハンバーグかい?」
「おはようございます。おねがいしまーす!」
気づけば、またウマ娘達が波のように食堂に詰めかけ始めていた。先頭に立っていたのは緑と赤の耳カバーが特徴的なウマ娘であった。その後ろには茶髪のロングのウマ娘が並び、更にその後ろには、葦毛のウマ娘が2人続いていた。
「お。おい、オグリシフトだ」
「来ましたか。承知しました。準備してきます!」
その葦毛の姿を見たとたん、更に厨房が慌ただしく動く。食券が出される前から一気に数枚のハンバーグが焼かれ、良い匂いが一気に充満する。
「はい、鯖味噌ねー」
「ありがとうございます」
茶髪のロングのウマ娘が鯖味噌を受け取ると、次に来た葦毛のウマ娘は、数枚の食券を窓口に渡していた。同時にすぐさま、料理が提供される。
「ハンバーグ定食3人前に鯖味噌にカレーライスを3人前ね。ほいこちら」
「ありがとう」
「相変わらずやなぁオグリ。あ、おっちゃん。ライス半分でよろしゅうなー」
「半分ね」
そう言ったウマ娘が出したのは野菜炒め定食の食券であった。少し珍しいと思いながらもそれをさっと作り、ウマ娘に手渡していた。
「ありがとなー!」
「はいよー!はい次の子ー!」
「おはようございます!ハンバーグおねがいしまーす!」
時計が差す時間はまだ7時前。授業開始が8時30過ぎだ。まだまだ彼らの忙しい時間は続く。