ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

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継承はふとした時に。

ピーマン・イズ・ワンダフル

― パプリカ・イスト・ヴンダバー!!!


序章ー4:不屈のウマ娘

「ただいまー」

 

 朝練を終えたウマ娘は、自室に戻るとそう声を発していた。ベッドの上に視線をやれば、制服に着替えていた茶髪のウマ娘が、その声に首を向けていた。

 

「おかえりー!あれ、その紙袋どうしたのー?」

「ニンジン。美味しかったから直売場で買ってきちゃった。あとおまけのピーマン」

「ええ?ピーマン?好きだっけ?」

 

 ウマ娘は少し悩んだけれども、すぐさま首を振っていた。

 

「…うーん、あまり。苦いじゃん。でも、なんかね。甘いっていう話なんだー」

「へぇー?ね、ちょっと一つ頂戴?」

「うん、いいよー」

 

 布団から完全に起き上がった茶髪のウマ娘は、練習帰りのウマ娘からピーマンを受け取っていた。瑞々しく輝くそれは、まるで緑のエメラルドのような輝きを放っていた。それを、シャクっと勢いよく齧る。一瞬まゆ毛をしかめるものの、あっと気づいたように、笑顔を見せる。

 

「あ、これ甘い!苦いけど、マヤ、嫌じゃないよ」

「え?」

 

 齧った瞬間、茶髪のウマ娘、マヤノトップガンの顔が笑顔になった姿を見た練習帰りのウマ娘も、ピーマンを恐る恐る口に運んだ。すると、シャク、という音と共に、やはり、顔に笑顔が宿る。

 

「本当だ!甘い!しかも苦いけど本当に嫌じゃない苦さだ!」

「でしょ?こういうピーマンなら私達ウマ娘も簡単に食べられるねー」

「本当だね。あ、でもどうしよう。せっかくならこれで何か料理してみたいけど…」

 

 ウマ娘はお互いに目を合わせて首を振っていた。ピーマンはお互いに苦手だったのであろう、2人はピーマンの調理など出来ない。そういう意思疎通だ。

 

「うーん…フジキセキさんに相談するのが一番かなぁ?」

「そうかも。あ、でも、今朝は生徒会に呼び出されているからってもう出ちゃってたよ」

「え?そうなんだ。うーん、せっかくなら新鮮なうちに料理したいなぁ…どうしようかなぁ」

 

 悩む練習帰りのウマ娘に、マヤノトップガンは指を立ててこう言葉を掛けた。

 

「ねぇねぇ、美浦寮のヒシアマゾンも料理上手って言う話だし、相談してみたら?」

「え?本当?」

「うん。ほら、ブライアンさんなんか野菜嫌いだけど、ヒシアマゾンさんの料理なら食べているっていう話だし!」

「わかった、ちょっと行って来る!ありがとね!」

「いってらっしゃーい。あ、授業に遅刻しないでねー!」

「わかってるよー!」

 

 練習帰りのウマ娘はそう言って、部屋を後にする。今、このウマ娘がいるのが栗東寮。そこからヒシアマゾンが寮長を務める美浦寮に向かうために一旦寮の外に出る必要があった。玄関から勢いよく道に飛び出てみれば、ちらほらと制服姿のウマ娘が道を歩き、教員らしき人々も道を歩いている。時間にすれば7時を回ったところだ。トレセン学園が学園として動き始める時間と言って良いだろう。

 練習帰りのウマ娘も、挨拶をしながらその中を歩いていく。その中で、一人の、脚に包帯を巻いているウマ娘と挨拶を交わしていた。

 

「おはようございます」

「おはようー!…って、その脚大丈夫?すごいテーピングしているけれど」

 

 思わず練習帰りのウマ娘はそう言葉を漏らしてしまっていた。すると、言われた方のウマ娘は、一瞬驚いた顔をしたものの、笑顔を浮かべて言葉を返していた。

 

「ああ、ご心配ありがとうございます。実はその、故障一歩手前まで足を痛めちゃって、治療中なんですよ」

「ええ!?それって大丈夫なの!?」

「あはは。ま、屈腱炎とか敬靭帯炎ではないので、何とかなりますよ。走れないわけじゃないですしね。それにせっかく中央に入れたんですし、なにより、諦められませんからね」

「そっかぁ…あ、そうだ。何かの縁だし、これ、一つづつどうぞ」

 

 練習帰りのウマ娘はそう言いながら、包帯を巻いたウマ娘にニンジンと、ピーマンを差し出していた。困惑しながら、包帯を巻いたウマ娘はそれを受け取っていた。

 

「ニンジン…にピーマン?」

「うん、今朝の朝練で青梅に行ったんだけど、そこの直売場ですごく美味しいのを見つけてさぁ。きっと、脚にも良いと思うよ!」

「へぇ…ありがとうございます。あ、そういえば、貴女のお名前は?」

 

 練習帰りのウマ娘は、ニシシと笑顔を浮かべるとこう言った。

 

「ボク?ボクはトウカイテイオー。未来の無敗の三冠ウマ娘さ!キミは?」

 

 トウカイテイオー。学園の中では結構な有名人だ。シンボリルドルフに気に入られていることからも、その実力は折り紙付きと言って良いだろう。

 

「君が噂の。私はアップザイツファレ。みんなはファレって呼んでくれます。私も未来の三冠ウマ娘を目指しています。もちろん、その先も」

 

 それに呼応するように、アップザイツファレも自分の名前を宣言していた。未来の三冠ウマ娘という宣言もだ。それを聞いたトウカイテイオーは、思わず右手を差し出していた。

 

「そっか!目指すところは一緒だね!じゃあファレ、脚を直したらきっとライバルかな?」

 

 その右手を、アップザイツファレもしっかりと握り返しながら、少しあいまいに首を振っていた。

 

「ふふ。さぁ、どうでしょう。私はまだまだ本格化が来ていませんからね…って、いけない、食堂の時間が迫っているのでそろそろ!」

「あ!本当だ!じゃあ、お互い『此処』で頑張ろうね!」

「ええ、『此処』で、頑張りましょう!あ、じゃあこの野菜、美味しく頂かせてもらいますね!ではまた!」

「またねー!」

 

 アップザイツファレとトウカイテイオーは、手を振りながら別れていた。そして、アップザイツファレのその手にはしっかりとトウカイテイオーから手渡された、新鮮なピーマンが握られていた。ふむ、とアップザイツファレは、ピーマンをじろりと見つめていた。

 

「うーん…ピーマン…パプリカねぇ…どれどれ…あ、結構甘いじゃない」

 

 そんな独り言をつぶやきながら、アップザイツファレはトウカイテイオーの目的地と逆の食堂へと歩いて行った。そしてトウカイテイオーはといえば、ニンジンとピーマンの入った紙袋をそのままに、美浦寮の敷居を跨いでいた。するとそこには、示し合わせたかのように、寮生を送り出しているヒシアマゾンその人が立っていた。

 

「あ、ヒシアマゾンさん。おはようございます」

「おはよう!…ってなんだい。フジの所のトウカイテイオーじゃないか。朝早くから一体どうしたんだい?」

 

 ヒシアマゾンは両手を組み、トウカイテイオーへと何事かと顔を向ける。

 

「実はその、ピーマンを結構多く手に入れまして。料理法を教えて頂けないかなって」

「へぇ?珍しいねぇピーマンなんて。見せてみな?」

 

 そう言ったヒシアマゾンに、トウカイテイオーは紙袋を広げて答えていた。そこからニンジンとピーマンを取り出して、ふむふむと何か納得をしているようだった。

 

「ああ、こりゃあ良い野菜だね。特に、ピーマンなんか季節外れだってのに良い感じじゃないか。ていうか、フジには相談しなかったのかい?」

「それが、朝から生徒会に行っちゃったみたいで」

 

 トウカイテイオーは困り顔でそうヒシアマゾンに伝えていた。ヒシアマゾンはといえば、その言葉を聞いて、さっと時計に目をやった。

 

「なるほどな。うん…時間はまだあるな。トウカイテイオー。ちょっと付き合いなよ。せっかく寮の垣根を超えて野菜を持ってきてくれたんだ。朝飯もまだだろう?ヒシアマ姉さん特製の料理を振舞ってやるよ」

「え!?いいんですか?」

「おう。まかせな!ちゃちゃっと作ってやるよ。あんた、甘辛味噌は好きかい?」

「はい!結構好きです!」

「そうかそうか!なら、アレで決まりだな!お!ブライアン!あんたもちょっと来な!」

 

 丁度、2人の隣を通り過ぎようとしていたウマ娘が足を止める。制服姿であるあたり、食堂に行き朝食でも食べようとしていたところであろうか。

 

「…おはようアマさん。どうしたんだ?」

「なぁに、トウカイテイオーがピーマンを持ってきたんでね!朝食、一緒に食べようじゃないか」

 

 ピーマンという言葉に、一瞬顔を顰めるブライアン。しかし、お構いなしにトウカイテイオーが声をかける。

 

「ブライアンおはよう!」

「テイオー…ああ、おはよう。でもアマさん、私は野菜は苦手なんだが…」

 

 鬱陶しそうに、しかし、どこか気になるようなそぶりでヒシアマゾンを見るナリタブライアン。その表情に、ヒシアマゾンは笑顔を浮かべてブライアンの肩に手を置いた。

 

「あはははは!大丈夫、お前さんでも食えるようにしてやるよ!ほら、いくよ!ブライアン!テイオー!」

「ううん…まぁ、アマさんの料理なら…あー、いやでもピーマンか…」

「はいはい!ぶつくさ言ってないでブライアンも行こう行こう!」

 

 そう言いながらテイオーもブライアンの背中を押した。そうして、ヒシアマゾンとナリタブライアン、そしてトウカイテイオーの三人は美浦寮の奥へと歩みを進めていくのであった。

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