ピーマンは、何度でも実りをもたらすのだから。
「お待たせ!これがひき肉のニンジン入りの甘辛味噌和えだ。で、こっちが見ての通り、半分に割ったピーマン。せっかく新鮮なピーマンだからね。食感を楽しもうと思ってさ!」
ヒシアマゾンが机に出して来たのは、甘辛味噌に味付けされたひき肉とニンジンの和え物、それに、半割にした生の新鮮なピーマンであった。米とみそ汁もあるあたり、完全に朝食と言って良い代物であろう。
美浦寮に入った後、彼らは共用のキッチンへと足を運び、3人で料理をした結果が、今に至る。とはいえ、ブライアンは軽くニンジンを切っただけ、テイオーもピーマンを半分に割っただけなのであるが、そこはご愛嬌と言うものだ。
「へー!ヒシアマゾンさんすごいです!こんな料理作れるなんて!」
机に並べられた料理を見てはしゃぐトウカイテイオー。それを見て、ヒシアマゾンは大きく笑顔を作っていた。
「褒めても何も出ないよ!ほら、白米と味噌汁もあるんだ。腹いっぱい食ってきな」
「はい!いただきます!」
「まぁ、肉はあるか。アマさん、いただきます」
「たんと召し上がれ。ああ、ひき肉はこの割ったピーマンの中に入れて食べてみてくれ」
トウカイテイオーとナリタブライアンは、ヒシアマゾンに言われた通りに、生のピーマンの中にひき肉を詰め込みそれを口に運んでいた。シャリ、という新鮮なピーマンの音が彼女らの口から響き、表情が笑顔に変わった。
「あ、美味しい!ピーマンのシャリシャリっていう触感と、ひき肉の味がすごいよく合うよ!」
「うん、これは旨いな。アマさん、流石だ」
「はははは!まだまだたくさんあるからね!ああ、あと」
ヒシアマゾンは自身も椅子に座りながら、トウカイテイオーに一つの薄い四角い箱を手渡していた。
「トウカイテイオー。これ、紙袋の中に入ってたよ」
ヒシアマゾンがそう言いながらトウカイテイオーに手渡したのは、俗にいうCDのケースだ。しかし、トウカイテイオーはといえば、そんなものを紙袋に入れた記憶など無い。
「ありがとうございます。んー?でも、これなんだろう?」
「なんだい。お前さんのじゃないのかい?」
「うん。ボクのじゃないです。…あー、これもしかしたら、直売場の人の奴かも…」
トウカイテイオーは紙袋を持たせてくれたおじいさんの姿を思い出していた。それに、今時CDというのも珍しい。きっとこれは彼の私物であろう。CDを改めて見てみればパッケージには燃えさかるギターの絵がかいてある。本来であればパッケージの下にはタイトルが入っていたのだろうが、相当古いものなのか、色あせてしまって読み取ることが出来ない。
唯一、アーティスト名らしいNekki Basaraの文字だけが読み取れた。
「そうかそうか。ま、そのうちに返してやりなよ。古いCDだし、大切なモノかもしれないからねぇ」
「そうします。それにしても、見たことのないCDですね、これ。ねっき…ばさら?という人がアーティストっぽいですけど、知ってます?」
「アタシは知らないね。そっちの寮のフジの奴なら詳しいはずさ。一度聞いてみたらどうだい?」
「そうします!」
トウカイテイオーはそう言いながらCDを机の横に一旦置いた。そして、もう一度ピーマンを頬張る。そしてご飯、味噌汁と三角食いでご飯を食べていく。対してナリタブライアンは、ピーマンにひき肉多目で頬張り、米、米、ピーマン、米と言った具合で飯を喰らっていた。ヒシアマゾンもそれを見ながら、ひき肉をピーマンに乗せて一口頬張る。実の所ヒシアマゾンもピーマンは比較的苦手な方だ。だが、このピーマンは旨い。そう思うほどに出来の良いピーマンであることは間違いがない。
そうして食が進むこと暫く。ヒシアマゾンが不意に口を開いていた。
「なぁブライアン。そういやお前さん、注目しているウマ娘なんてのはいるのかい?」
その言葉に、ブライアンはちらりと視線を上げる。そして一瞬手を止めると、口の中のピーマンを飲み切ってから、ヒシアマゾンにこう答えていた。
「注目のウマ娘か。姉貴は当然として、テイオー、お前も当然注目しているし、アマさんも当然だ。あと生徒会の面々に…」
「ああ、いやそうのじゃないんだよブライアン。同世代で誰かいないのかい?こいつは!っていうウマ娘!」
同世代、という言葉に、ブライアンは手を止めて視線を泳がせていた。判りやすく悩んでいる。数秒、視線を漂わせていたブライアンであるが、ああ、と納得したようにヒシアマゾンへと視線を向けた。
「…そうだな、一人だけ」
「お、居るんじゃないかい。誰なんだい?」
ヒシアマゾンもピーマンをしゃくりとやりながら、ブライアンへと視線を向ける。
「アップザイツファレ。まだ私と同じでデビューは迎えてない奴だ。でも、体格や瞬発力は目の見張るものがある…と姉貴が言っていた」
「そうかいそうかい。って、姉?お前さんが気になってるわけじゃないのかい?」
「ああ。姉貴が注目しているだけで私が直接見たわけじゃない。私は強い奴と勝負できればそれでいい」
「はは。相変わらずだねぇブライアン」
そう言いながら、2人は食事を再開していた。山盛りであったピーマンとひき肉の甘辛味噌和えがどんどんと数を減らしてく。そのさなか、今度はトウカイテイオーがちらりとナリタブライアンの顔を見た。
「ねぇ、ブライアン。そのファレって栗毛のウマ娘?」
「ん?ああ、そうだ。なんだ?気になるのか?テイオー」
「うん。ちょっとだけ」
ニシシと笑うテイオーに、ブライアンもふっと力の抜けた笑みを返していた。
「そうか。でも私は何も知らない。気になるのなら姉貴に聞いてくれ」
「姉貴…お姉ちゃん?」
「ああ、そうか、お前は知らないか。私の姉貴はビワハヤヒデだ」
「へぇー?強いの?ブライアンのお姉ちゃんって」
テイオーの言葉に、どこか誇らしげな顔を浮かべながら、ブライアンはこう答えていた。
「ああ。文句なく姉貴は私の知る中では最強だろう。負ける姿が想像できん」
「へぇ?すごいね。そんな人が注目っていうんだから、ファレも強いのかなぁ」
「さぁな。最初に言った通り、私はそいつの事は知らないからな。何も言えない」
肩を竦めて、興味なし、と言った風に食事を続けるブライアン。その姿に、テイオーは少し納得がいっていないようだった。
「えー?ブライアン。相手の事気にならないのー?」
強い相手の事を知りたい。そうは思わないのか。そういう気持ちを込めて、テイオーは少し語気を強めてそう言葉を投げていた。しかし。
「気にならないな。走ったら判るだろう?」
何の気なしもなく、ブライアンはそう言葉を返していた。
「そうだけどさぁ。そうなんだけどさぁ!もっとこう、わくわくーってする気持ちって言うか…」
「ははは、トウカイテイオー。ブライアンはこういう奴なんだよ。納得させたいなら、レースで走るっきゃないさね」
快活に笑いながらヒシアマゾンが会話に割り込んでいた。すると、便乗するようにブライアンが頷き、ぶー垂れるようにテイオーが不満を垂れている。更にくすりと笑ったヒシアマゾンは、話題を変えるように、こう2人に言葉を投げた。
「で、どうだいピーマンの料理…と感想を聞くまでもないか!」
ヒシアマゾンがそう言ったのも無理はないだろう。大量のピーマンとひき肉、ご飯と、味噌汁がきれいさっぱり無くなっていたのだから。
「うん。凄く美味しかったよ!ピーマンも料理次第でこんなにおいしく食べれるんだね!」
「旨かったよ、アマさん。これならまた食わせてくれ。できれば次は肉多目で」
笑顔でそうヒシアマゾンに伝える2人。その反応が満足であったのだろう、ヒシアマゾンは満面の笑みを浮かべていた。
「ははは。そうかいそうかい!そりゃあ良かったよ!…おっと、そろそろ学園に行きな。時間、まずいんじゃないかい?」
その言葉に、ブライアンとテイオーは時計を見る。すると時間はそろそろ8時を回る頃になっていた。授業開始まで多少余裕はあるものの、もう寮は出なければいけない時間である。
「え?あ!ほんとだ!ヒシアマゾンさん。ごちそうさまでした!行こうブライアン!」
「ん?ああ、行くか。ご馳走様、旨かったよアマさん。…なぁ、テイオー。あのピーマンはどこで買ったんだ?学園じゃ売ってないだろ?」
「トレーニング中に青梅の近くの直売場で買ったんだー。ニンジンも同じ所のやつだよ!」
「そうか、直売場か。なあテイオー、CD返しに行くんだろう?私も同行していいか?」
「もちろんだよー!」
そんなことを話しながら、ヒシアマゾンに送り出されれた2人、ナリタブライアンとトウカイテイオーは肩を並べて寮を後にしていた。道中でも、先ほど食べたピーマン料理の談義が続き、更に珍しい組み合わせの2人が仲良く歩いていたせいであろうか、学園内で少々騒ぎになったのはまた別の話である。
―ひょ!?なぜ、なぜテイオーさんとブライアンさんがあんなに親し気に!?も、もしや知らないところで何か親密な何かが…!?―