パプリカと申すらしいですね。パプリカ イスト ヴンダバー!
トレセン学園。正式名称は日本ウマ娘トレーニングセンター学園という、長ったらしい名前だ。『唯一抜きんでて並ぶものなし』という校訓を持ち、日々、ウマ娘達が切磋琢磨している場所である。別称としては中央、中央トレセン。本体、などなどの呼ばれ方をすることが多い。
何よりここは、トゥインクル・シリーズの総本山と言ってもいい場所なのだ。故に、一流の中の超一流のウマ娘しかここには在学できない。しかもその超一流の中でも、レースで活躍できるのは上澄みの上澄みのさらに濾された上澄みの一滴。
考えてみても欲しい。毎年、1万近いウマ娘が全国のトレセンの門を叩く中で、有名なG1レースには18人しか出れず、勝者は1人。この事実だけで、その門の狭さは判るであろう。
正直、将来を期待されて入学するも、1年とたたずに去るものも多い。怪我しかり、実力不足しかり、メンタルしかり。そう、思うに、このトレセン学園では、長く居続ける、というのも才能の一つなのだと思う。諦めの悪さ、とも言うが。
右手に持ったピーマンを眺めながら、私はトウカイテイオーの顔を思い出す。彼女は間違いなくトゥインクルシリーズで活躍するウマ娘の一人であろう。実力者としてのオーラが違う。それは私の同期のナリタブライアンもそうだ。彼らのオーラ。雰囲気と言い換えて良いその空気は、対峙するだけで精神をゴリゴリと削るものである。
じゃあ、トレセンに、しかも中央のトレセンに入学できた私はどうかと分析をしてみる。正直に言おう。一流で活躍できるか?と言えば難しい所だ。
地元では良い体格、バランスの良い体だと言われ、その秘めたるものは日本屈指だと言われて送り出されている。しかし、現状はトレーナーも付かず、本格化はまだ鳴りを潜め、あまつさえ怪我寸前の痛め方をしてしまうぐらいにはまだ体が出来上がっていない。
まぁ、考えようによっては力が有り余りすぎているとも言えるだろうが、それは都合よく考えすぎという奴であろう。
私は実際、実力のあるウマ娘か?と言われれば疑問が残る。
事実、試しに出場した模擬レースでは2着ばかりだ。トレーナーから声が掛かる事もなく、既に1年の年月は流れている。
何の気なしに、シャク、と残りのピーマンを口に放り込んだ。それにしても、変わったものをトウカイテイオーから貰ったものだと思う。ピーマンというわりには苦味がなく、甘いのだ。パプリカの様であろうと言っても良いだろう。ま、ピーマン、という言葉自体が日本独特のものなので、世界的にはどちらかというとパプリカ、というべきものなのだろうか?と思ってしまう。
そもそも私の名前もそうだ。アップザイツファレ、とは何かと気になって調べてみれば、ドイツ語のとある言葉だった。いや本当、なぜアップザイツファレなのか。そもそも覚えてもらえない。アップザイ…なんだっけ?とか、アップ…ファレ?とか。フルネームを間違わずに呼ばれることなんてまずない。しまいには諦めて私から「ファレ」でいいよと先に言ってしまう有様だ。
全く、名前は授かるものだとは言え覚えやすいものがいいなぁと思う。実際、他の国の言語だったら私の名前は一発で覚えられるようなものなのにねぇ。
おっと…いけない、いけない。思考が逸れてしまった。とりあえずは、残りの野菜、ニンジンも喰らってしまおう。そう思いながら、ニンジンを齧る。―うん、こちらもまた甘くて旨い。ああ、後でトウカイテイオーに会ったら、入手した場所を聞いておこうかな。
■
ニンジンを食べた脚で学食の敷居を跨ぐ。少しばかりピーマンとニンジンで腹が膨れた様な気もするけれども、私のお腹はまだまだ足りないと訴えている。ということで、迷うことなく特製ニンジンハンバーグご飯味噌汁大盛を窓口に頼んでいた。
「おねがいしまーす」
「はいよー!特製ニンジンハンバーグ大盛ねー!」
ジュウウウウ!と肉と鉄板が触れる音が響き、良い香りが漂ってくる。ちらりと学食を見渡してみれば、ほぼほぼ全員が肉に関する何かを食べているようだった。お肉美味しいから仕方ないさねぇー感心していると、一角におかしな量の空皿が置いてあった。その前に座るのは葦毛のウマ娘。
ああ、オグリキャップさんのいつものやつか、と納得していると。
「お待ちどうさま!特製ニンジンハンバーグご飯味噌汁大盛ねー!」
「ありがとうございます。頂きます!」
「はい召し上がれー!つぎの子はー?」
「大盛のカツカレー!」
カツカレー…それもよかったかも。なんて後ろ髪を引かれながら、空いている席を探す。すると、一角だけ妙に空いている場所があった。一人のウマ娘が朝食を取っていたのだが、何やら近づきがたい雰囲気があるらしい。まぁ、席など空いてないし、お構いなしにとその席へと歩みを進めた。
「ここ、空いてます?」
「!ああ、もちろん。空いているよ。よろしければどうぞ」
どこかで聞いた声のウマ娘に促されて椅子に座る。さて、このウマ娘はどんな顔をしているのかと顔に目線を向けてみれば、ああ、なるほど、これは確かにこの近くにウマ娘は寄らないわなぁと納得いってしまった。
「…おはようございます。シンボリルドルフ生徒会長殿」
「おはよう。アップザイツファレ。ああ、そんな形式ばらなくてもかまわない。気軽に、というのは難しいだろうが、そうだな、会長とでも呼んでくれればいいよ」
皇帝と呼ばれるシンボリルドルフがそこには座っていたのだ。完璧と言えるウマ娘を代表する名プレイヤーの一人である。こう相対すると雰囲気が違うなぁとひしひしと感じている。威圧感、というのか。
ただ、本人は笑顔を浮かべているのだけれど、どうも、どうもねぇ?滲みである威圧感が凄い。凄すぎて、移動したほうがいいのだろうかと、少し気圧されていたのであるが、彼女の皿を見て少しだけ笑ってしまっていた。
「ふふっ。会長も苦手なものがあるんですねぇ?」
「ん?」
疑問の顔を浮かべる会長に、私は指をさして答えていた。その指先の行く先を、会長は目で追う。すると、会長は、あっと驚きつつも少し苦笑いを浮かべていた。
「ああ…いや、そのな。今日は少し、苦かったんだ」
私の言いたいことが判ったのだろう。ルドルフの主食、その皿の端に除けられたピーマンを恥ずかしそうに、箸でつつくシンボリルドルフの姿があった。もしかして、威圧感があるだけで、中身は私とさほど変わりは無いのかもしれない。うん、せっかく相席になったのだ。相手が皇帝、私はただのウマ娘…だとしても、そうだな。雑談をしてもバチは当たらないだろう。