「全く、貴様は何という事を公衆の面前でやってのけたんだ」
「…何が?」
「ファレ、貴様は今朝の食堂で会長に言ってのけたのだろうが。とんでもない事を。皆の噂になっているぞ」
はてと首を傾げる。時は流れて昼食時、遠い親戚筋のウマ娘、エアグルーヴと一緒の席にいたわけだが、全く謂れのない事を言われてしまった。ちなみに、彼女の昼食は特製ニンジンハンバーグ。私は、会長お勧めの豚肉のXO醤炒めである。
豚肉を口に放り込みながら、今朝の会長との会話を思い出す。うーん…特に何を言った気がしないでもないのだが。普通に雑談の一環だと思うのだがなぁ。
「そういえばエアグルーヴ。その会長はどこに?」
「会長は未だ生徒会室で仕事をなさっている。全く、時には我々に仕事を任せてしっかりと休んでいただきたいものだ」
「ああ…そういえば副会長になったんだよね、エアグルーヴ。皇帝と女帝、お似合いじゃない?」
「何を冗談を言っているんだ。それに私は、女帝と言われてはいるがまだまだデビュー前の身だ。称号だけが独り歩きしてしまっているだで、並び称される覚えはない」
とか言いながらも、ほほが赤い。照れているね。ま、あまり揶揄いすぎると彼女の雷が落ちるのでここら辺にしておこう。ちなみに彼女もどちらかというと持っているウマ娘だ。その振舞や練習の姿から、デビュー前らかすでに『女帝』との評判が高い。まぁ、実際、年齢で言えば私の方が一つか二つ上なのだが、彼女との練習をするときはついて行くのがやっとという感じだしね。同じ練習量でもここまで結果に差が出るかと、一時は落ち込んだものである。
「はは。ああ、それはそうとして、私、会長に何か言ったっけ」
私としては雑談だったんだけどーと続けようとしたのだが、彼女の腫物を触るような顔を見て、言葉を慎む。
「…たわけが。ファレ、貴様は会長に宣戦布告をしたのだろう?しかも、三冠を獲る宣言まで、他の生徒が見守る中、会長の目の前でして見せたとか。本当に覚えがないのか?」
「うーん…?宣戦布告…あー、確かに言ったね」
確かに、言われてみれば言った記憶がある。会長は持つ者。私は持たぬもの。しかしながら、貴女に負ける気は一切ない。むしろ三冠ぐらい引っ提げて夢の舞台で貴女の隣に立って見せようか。…たしかに、これは戦線布告ととらえられてもおかしくはないか。
「全く、トレーナーからも、生徒からも、驚きの声が上がっていたぞ。しかも、わざわざ周りが気を遣って会長の周りの席を空けているさなか、ずかずかと踏み込んで行ったとも聞いている」
「ああ。それは席が空いていなかったからね。それに、ずかずかとなんて。ちゃんと声を掛けて会長の正面に座ったさ」
「それをずかずか、というのだ。全く、以前からどこか天然だと思っていたが、ここまでくると褒めたくなる」
「よせやい照れる。っていうか、ここに居る生徒ならだれでも思ってるんじゃない?」
「何をだ?」
「最強を下したい。ってさ」
その言葉にエアグルーヴは、ふむ、とどこか納得しているしぐさを見せていた。うん。だろうね。君だって会長、いや、シンボリルドルフと勝負できるとなったら、勝ちに行くだろう?決して遊び気分とか、記念的な感じで走る事はしまいさ。
「ま、確かにそれはそうだ。だが、それを公衆の面前で言う、ということがどれほどの事か、考えてはいないのか?」
「うーん。そう言われれば確かにそうかも。でも、どうせ目指すんだから言葉にしておいた方がいいでしょ?エアグルーヴだって、オークスを獲るって言ってはばからないじゃないか。それと同じことだよ」
私の言葉に納得したのだろうか、彼女は数回頷いて食事を再開していた。合わせるように私も白米を口に放り込み、スープに口を付ける。うん、丁度いい塩梅だ。具の玉葱も良い食感と甘さである。溶き卵のアクセントも効いて、なるほどこれはメインだけじゃなくて副菜もなかなかイケるじゃないかと、流石会長のお勧めの食事だなぁと納得していた。
「それはそうとしてだ」
ハンバーグを半分程度食べ進めていたエアグルーヴの箸が止まった。なんだろうかと、おかずから視線を彼女の顔に向ける。
「貴様、あれから足の痛みは大丈夫なのか?」
視線の先に合ったのは、心配そうに此方を見つめる瞳であった。ああ、そういえば、彼女にも手当をしてもらっていたか。
「大丈夫。経過は良好っていったところだね。チケゾーさんと君の手当の賜物さ」
練習中に急に痛み出した私の片足。その場で蹲るほどの痛みであったが、すぐさまチケゾーさんとエアグルーヴに治療して頂いたお陰か、今では普通に歩けるまでに回復はしている。医者に見せた所で言えば、幸いにして軽い炎症であったため、ま、大事を取って練習はお休み中、という奴だ。
…まぁ、ひどくなると屈腱炎になるから気を付けてねーとも医者からは言われてはいる。ただ、屈腱炎の可能性ついては私の心の中に仕舞っておく心積もりだ。余計な心配を彼女らにさせるわけにもいかないしね。
「そうか。それなら幸いだ。何せ普段であれば必死に背中に付いてくる一人の生徒が、脚を痛めたとかで数日休んでいてな?私自身の調子がどうも上がらないんだ。練習に身が入らないと言ってもいい。全く、自分のことながら困ったものだ」
ほう。いつもはエアグルーヴの背中を追いかけていて、でも今は足を痛めて休んでいるウマ娘の生徒ねぇ。なんだか、聞き覚えのある生徒がいたものだ。数日休んでいる、というもまた聞き覚えのある話だ。
全く、ある程度、気心が知れた中とはいえ、なかなか君も公衆の面前で挑発をしてくれるじゃあないか。
「それはそれは。女帝ともあろう方がメンタルをそのぐらいで崩すとは。ま、ご安心ください。もう数日で、その練習には復帰できますので。もう少々お待ちくださいね、エアグルーヴ」
彼女の顔を見てみれば、いやらしく、しかし楽しそうな笑みを浮かべている。
「そうかそうか。ならば首を長くして待つとしよう。期待しているぞ、アップザイツファレ」
期待しているぞ、か。今朝、会長からも言われた言葉だ。全く、持たざる者としては辛いところだけれども、こうも期待されてしまっては頑張るしかないじゃないか。
脚が治ったら、しっかりと練習を積んで、この期待を裏切らないようにしないとね。…ただ、そう考えると、三冠引っ提げて、ドリームに行きましょうか?って会長に言ったのは、言い過ぎたかなぁ?