ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

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優雅な日々の始まりーまどろみ①

 昼食が終わり午後のひととき。朗らかな陽気と、一杯になったお腹のせいでどうも微睡んでしまう。正面を向けば、教壇では先生がレースについての説明をしていることが、また一つ、子守歌のように眠気を誘う。

 

「えー、おさらいではありますが、皆さんが走れるレースは今のところはメイクデビューとなります。トレーナーが付いて、そしてメイクデビューで勝利すればオープン、そして勝ちを重ねて行けば重賞のレースへの出場権を得るようになっていきます」

 

 うん、眠くなる。大切な事を話されているのは判るのだが、昼過ぎのこのタイミングで難しい話は辛い。

 

「えー、そしてですね、オープンレースの中にはクラシックレースの優先出場権を得ることが出来るレースがあることは前の授業でお伝えしましたね。

 では、アップザイツファレ。クラシックレースの初戦、皐月賞に優先権を持つレース名前を言ってみてください」

「あ、はい!」

 

 おおっと、急なご指名。焦りと共に、感謝の念も湧いてくる。このまま放置されていれば、間違いなく瞼が落ちていただろう。

 えーと…それで皐月賞の優先権を得るレースだっけ?

 

「えーと、スプリングステークス、弥生賞、若葉ステークスの3つです」

「正解です。よく覚えていましたね!さて、ということで、デビューしたウマ娘で、ターフを走る場合はまず、この3つのレースで勝利する、ということを目指していくことになります。皆さんがいるこのクラスの場合は、全員がターフで走りますのでしっかりと覚えておいてくださいね」

 

 はい、と声が揃う。そういえばと思い出す。トウカイテイオーは次走、若葉ステークスを走る予定だと聞いたことがある。今の所メイクデビューを含めて無敗の彼女は、あの皇帝以来の無敗の三冠ウマ娘候補だと名高い存在だ。私も本格化を迎えた際にはぜひ走りたいと思うレースの一つでもある。早く連取を積まなければと、そう自分の気持ちを自覚すれば、怪我をしている脚が非常に悩ましく思えて来た。

 

「では次ですが、蹄鉄とシューズについておさらいをしていきます。さて、まず練習用と本番用の違いについてですが…はい、カエデハーツ、答えてください」

「あ、はい!主な違いは重量と材質です!練習用のシューズが…」

 

 …思えて来たのだが、先生の声とウマ娘のやり取りが子守歌にも聞こえてくる。意識を軽く飛ばすまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 授業が終わり放課後になると、クラスメイト達は各々の場所へと散らばっていく。先ほど蹄鉄の質問に答えていたカエデハーツなんかも、自主練のためと練習場へと足を運ぶようだ。

 

「じゃーねファレ!早く脚を治しなよー!」

「ありがとうねハーツ。そっちも、怪我しないようにねー」

「あはは!私は頑丈さが取り柄だからね!でも、ありがと!じゃ、自主練行って来るからまた明日!」

「また明日」

 

 笑顔で駆けだす彼女を、手を振って見送れば、教室に残っているのは私だけになっていた。ふう、とため息を吐きながらカバンを持ち席を立つ。怪我をしているとはいえ、練習できないというのは辛いものだ。置いていかれてしまう感覚になる。

 

「いやいや、焦るな焦るな」

 

 自分にそう言い聞かせて、大きく深呼吸をする。焦りは禁物。こういう怪我はしっかりと時間をかけて治さなければ引きずるのが世の常だ。とはいえ、あと2~3日で包帯は取れるはずなので、焦らずいこう。そう言い聞かせながら廊下を歩いていれば、どこからか聞き覚えのある声が私の耳に飛び込んできた。

 

「おーい!ファレー!」

 

 元気な声に振り向いてみれば、チケゾーさんがこちらに向かって走ってきていた。どうもと意味を込めて軽く会釈をすれば、あっという間に私の前まで走り込んで来ていた。

 

「こんにちわ。お疲れ様です」

「うん!お疲れ様!いやー、今日も寒かったねぇ」

「本当ですね。春が待ち遠しいです。あれ、チケゾーさんは今日はどうされましたか?」

「あ!そうそう。脚、大丈夫かなって心配になっちゃって。あの時すごく痛そうだったからさー!」

 

 なるほど。私の脚を心配してくれているわけだ。ふふ。なんだろう、会長といい、エアグルーヴといい、トウカイテイオーといい、チケゾーさんといい、私は恵まれた環境に居るようだ。

 

「ありがとうございます。心配して頂いて。幸いにしてあと2~3日で包帯は取れる予定です。練習は…まぁ、お医者さんの判断次第ですね」

「本当!よかったー!」

 

 彼女は満面の笑みでそう言ってくれた。こう見ると、チケゾーさんは本当に裏表のない太陽のようなウマ娘だなぁと思う。近くにいるだけで、元気になると言うか。と、そのチケゾーさんの背後に、二人のウマ娘が近づいていることに気が付いた。一人は比較的背が小さいウマ娘で、もう一人は背が高く葦毛のウマ娘だ。

 

「全く、急に走り出すからどこに行ったのかと思ったぞ、チケット」

「本当。せめて行先ぐらい言えっての」

「あ、ハヤヒデにタイシン。ごめんごめん。知り合いを見つけて嬉しくなっちゃってさ!あ、せっかくだから紹介するね!この子がアップザイツファレ。で、こっちがビワハヤヒデにナリタタイシン!」

 

 なるほど、チケゾーさんのお友達だったか。ということは、先輩だろうか。ひとまず、自分から挨拶をしようと、一歩前に出る。

 

「アップザイツファレです。チケゾーさんとは自主練でお世話になっています」

「これは丁寧に。私はビワハヤヒデだ。ナリタブライアンの姉、と言えば判りやすいかな。なるほど、君がファレか」

「アタシはナリタタイシン。よろしく。あんたがアップザイツファレなんだ」

 

 ほほう。ビワハヤヒデにナリタタイシンさんか。覚えておこう。

 

「…あれ?ビワハヤヒデさんにナリタタイシンさん、私の事をご存じなんですか?」

「タイシン、でいいよ。うん。チケゾーがあんたの事をよく話しているから」

「私もハヤヒデでいい。その通りだ。それに、君の練習する姿をよく見ているからね」

 

 あら、そうなんですかと少し恥ずかしい気持ちになってしまった。チケゾーさんめ、と視線を向けてみると、相変わらずの笑顔であった。

 

「そう、この子があのアップザイツファレだよ!練習を真面目に熟しているし、熱意もすごいんだ!デビューしたら活躍すると思うんだよねー!」

 

 おおっと、予想もしていなかった高評価をチケゾーさんには頂いているようであった。思わず、耳が少し熱くなる。こうも人前で堂々と褒められるのはなかなか慣れていない。

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