ToLOVEる VII   作:フェンネル

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舞い降りた少女

「ねえ御門先生、今日暇?」

 

とある学校の保健室で、養護教諭をナンパしている猿顔の少年がいた。

 

「よかったら夜景の綺麗なレストランでディナーでもどう?」

 

「ごめんね猿山くん。今日彼氏と待ち合わせしてるの......はい。消毒しといたしガーゼも貼ったから、教室戻って授業───」

 

体良く追い出されようとしたその時、タイミング良く終業のチャイムが鳴った。

 

「はいはい。今戻りますよ」

 

「その傷を作らないようにしたら、ナンパの成功率も上がるんじゃないかしら?」

 

「わー、耳が痛い......」

 

そもそも今ある顔の傷もいつものように女子生徒をナンパしていた所、遅れてきた彼氏と思しき厳つい大男に拳を喰らわされたものだった。

 

「でも可愛い子を見かけたら声をかけずにはいられないんですよね」

 

「あら、私のこともそう思ってくれてるの?」

 

「いやー、先生は大人の女性だからなぁ......どっちかって言うと美人さんでしょ」

 

「そう。なら可愛くない私が落ち込んでる時は慰めてくれないのかしら?」

 

「いやいや、その時は喜んで付き合いますよ。俺はこの学校ではレディーを一番大切にする男で通ってるんでね。カワイイ系も綺麗系も大好きでやんす」

 

「あら、女子更衣室を覗いたりするのはどうなのかしら?」

 

「ははっ、流石御門先生。それじゃ、失礼しやすね」

 

痛い所を突かれた猿山は笑って誤魔化し、さっさと教室に戻るため保健室を後にした。

 

「怪我作る前提で話しちゃダメだと思うんだけど」

 

その様子を見て御門は特に心配するでもなく、かと言って呆れるでもなく、ただ次に来る生徒を待ちつつ、仕事をこなすだけだった。

 

「薄情かしら?なんて考えても無駄よね」

 

と言うのも猿山は入学してからも成功率の低いナンパを繰り返しており、中には今回のようなケースも少なくなく、ほぼ毎日保健室に通っていることも相まって今更何を思っても手遅れだと理解している故のものだった。

 

「うーん、今回はいけると思ったんだけどなー」

 

そして件の猿山は、教室に戻ってからもうんうん唸っていた。

 

「猿山......そのナンパ癖、ほんとやめろよな。御門先生に迷惑だろ」

 

「魅力的な人がいたら声かけちゃうだろ?それに所構わずじゃないぜ?ちゃんと保健室でしてるから」

 

「それはお前が怪我してるからだろ」

 

猿山と話しているのは、親友である結城リトという狐色のツンツンヘアーと黄土色の瞳の少年。

2人は”彩南高校”に通う同級生だった。

 

「で?今日告白するって言ってたけど、ほんとにできるのか?」

 

「あっ、ああああ当たり前だろ!?」

 

その動揺ぶりから猿山は結局またいつもの展開かと未来を読んだ。

 

「逆にリトは女に免疫が無さすぎるんだって。ちょっとはナンパでもしてみたらどうよ?」

 

「仕方ねーだろ。いざ前に立つと緊張するんだから」

 

「あーはいはいそうだったな。でもさ、未だに声もかけられないってどんだけヘタレなんだよってな!」

 

この結城リトという男は、普段は強気な性格だが、恋愛になると超がつくほど奥手、簡単に言えばヘタレである。

猿山は長い付き合いから片思いの年数も含めて、リトのヘタレ具合はよく知っていた。

 

「う、うるせー!そっちだってあんまり女子からの好感度高くねーだろ猿顔!」

 

「お前それは言うなよぉ!」

 

猿山は自分でも自覚しつつあることをストレートに言われ、膝から崩れ落ちた。

2人は傷互いにつけ合っているだけだった。

 

「け、けど実際さ」

 

これ以上はどちらかがメンタルブレイクすると悟った猿山は無理矢理話を切り替える。

 

「そんだけ真剣に想えるのはすごいと思うぜ。うちの学校可愛い子いっぱいいるけど、ずっと春菜ちゃんだけ好きでい続けてるのはお前だけじゃねーかな」

 

「褒められてる気がしない......」

 

「ま、焦らずいこうぜ」

 

「......おう」

 

リトの肩を優しく叩き、応援していることを暗に示す猿山。

言葉が無くともわかる応援というのは、親友故だろう。

 

その日の夜、電話でも猿山と言い合いになりお互い傷を抉った後、リトは湯船に浸かって考えていた。

 

「免疫、かぁ......今まで遊び最優先で生きてきたから、春菜ちゃんと出会うまで女の子と会話した覚えすらほとんどねー......」

 

猿山の言う事も一理あるかと思いながら、今後どう過ごしていこうか試行錯誤していた時。

リトは湯船の中で謎の光が発せられていることに気づく。

 

「ん?」

 

その光に視線を向けた瞬間、湯船が爆発した。

 

「な、何だ!?」

 

あまりの出来事に混乱を極めているリトの目の前に、突如全裸の美少女が現れた。

 

「んーっ、脱出成功!」

 

2人は同じ湯船に浸かっていた。

しばし間をあけ、リトは少し落ち着きかけているところで目の前の人物の格好を再確認する。

 

「ん?」

 

全裸。

布一つ無く、全裸。

目の前で、スタイル抜群の美少女が。

 

「ぎ......ぎ......」

 

現実離れした現象に加え、女性への免疫の無さからリトは今日一番の悲鳴をあげた。

 

「ギャーーーーー!!!!」

 

それを聞きつけ、家にいた妹の美柑が駆けつけてくるも、美少女の姿は無く、美柑からは小馬鹿にされてしまった。

 

「リト、年頃なのはわかるけどさ、妄想と現実の区別くらいつけようね。妹として恥ずかしいから」

 

風呂上がりに部屋へ向かう途中、リトは先程見た光景を妄想と言うにはあまりにもリアルだと考えていた。

 

「確かに見たんだけどな......あれがマジで妄想だとしたらヤバくねーか?オレ......でも、それ以外考えられねーか......」

 

そして部屋のドアを開けると、ベットの上には体にタオルを巻いただけの先程の美少女が。

 

「あ、タオル借りてるよー」

 

咄嗟に両目を手で隠し、美少女から距離を取ろうと壁に激突した。

 

「な、なな何だお前!?」

 

「私?私ララ」

 

「ラ、ララ?」

 

「そ!デビルーク星から来たの」

 

このララという少女の発言をショート寸前の頭で考えた結果、ある結論にたどり着いた。

 

「う、宇宙人だってのか!?」

 

「まぁそーゆー事になるねー。地球から見たら」

 

リトが信じ切れずにいると、ララはタオルを捲り、尾骶骨から直接生えている尻尾を見せた。

 

「ね?地球人にはないでしょ?尻尾♡」

 

尾骶骨をリトに見せるということは、尻を向けるということ。

タオルで隠していない尻を。

 

「あ、別にシッポ生えてるからって満月見て変身したりはしないからね」

 

「わ、わかった!わかったから隠せ!早く!」

 

「何で赤くなってんの?カワイー♡」

 

リトは赤面しつつもララの体を見ないように目を逸らしながら質問した。

 

「ほ、本当に宇宙人なら、なんでフロからいきなり現れるんだよ」

 

「ああ、それはね。コレを使ったの!」

 

ララが見せてきたのは左手首に付いている腕輪のような何か。

 

「私が作った「ぴょんぴょんワープくん」!行先の指定はできないけど、生体単位での短距離ワープが可能になるの!」

 

「ワ......ワープ!?」

 

「そ!宇宙船のバスルームでこれを使ったら、たまたまここのおフロにワープしたってワケ」

 

「宇宙船から......?何でそんな......」

 

ララは、少しだけ悲しげな目をした。

 

「追われてるんだ......私」

 

「!」

 

「地球まで来れば安全だろうって思ってたけど追手が来ちゃって......ヤツらの船に乗せられて、もう少しで連れさられる寸前だったの。このリングを使わなかったら今頃......」

 

「(追手......?)」

 

自分が思う以上にこの件はとてつもないものなのではとリトが思い始めた時、改めてララの姿を見てしまった。

 

「と、とにかく!さっさと出てってくれよ(刺激が強すぎる......!)」

 

《ララ様ー!》

 

どこからが聞こえた2人のものではない声。

 

「うわ!何だコイツ」

 

声の主は、目が渦巻きで背中から羽が生えているロボットだった。

 

「ペケ!」

 

飛んできたロボット、ペケとララは少しの間別れていたらしく、無事に脱出できたことを2人で喜んでいた。

 

《ララ様、あのさえない顔の地球人は?》

 

「この家の住人だよ。そーいえば名前まだ聞いてないね」

 

「あ、オレ?リト......だけど」

 

「ふーん。このコはねー、ペケ」

 

《ハジメマシテ》

 

「私が作った”万能コスチュームロボット”なの」

 

「コスチュームロボ?」

 

リトは聞き慣れない単語を何となくオウム返しするが、ララは構わずタオルを取り、ペケに何かの命令を下した。

 

《チェンジ!ドレス形態!》

 

「ジャーン!」

 

ペケが光ったと思えば、そこには先程の全裸ではなく、ペケの形状を維持したまま服にしたかのようなものを来ているララがいた。

 

《キツくないですか、ララ様》

 

「ん、バッチリ。よかったぁ。早めにペケが来てくれて!ペケがいないと私着る服ないもんねー♡」

 

服と言っても、それはピチピチのスーツのようなスタイルで、言ってしまえば恥ずかしい見た目をしていた。

 

「どう?ステキでしょ、リト」

 

「ん?あ、ああ(な......なんつー恥ずかしい服だ......)」

 

《時にララ様、これから何をするおつもりで?》

 

「それなんだけどぉ、私、ちょっと考えがあるんだ♡」

 

そんな時、カーテンが風に吹かれる。

その瞬間、黒いスーツを着た2人の大男がリトの部屋に侵入してきた。

 

「......全く困ったお方だ。地球を出るまでは手足を縛ってでもあなたの自由を封じておくべきだった......」

 

大男2人には尻尾が生えており、リトはララと同郷の者である事をすぐに理解した。

 

「ペケ......」

 

《はっハイ!》

 

「私言ったよね。くれぐれも尾行には気をつけてって」

 

《......ハイ》

 

「もー、このマヌケロボ!ぜんぶ水の泡じゃないのっ!」

 

《ゴメンナサイ......》

 

ララと同郷であることを理解したとて、大男2人が途轍もなく強そうに見えることに変わりはない。

リトは自分と追手の体格差に青ざめていた。

 

「さぁ、今度こそ覚悟を決めてもらいましょーか」

 

《ラ、ララ様......もう一度リングを使っては?》

 

「ムリよ......あのリングは一度使うとエネルギーを充填するのに一日はかかるもの」

 

ここで追手の1人がララの腕を掴んだ。

 

「さぁ行きましょう!」

 

「やっ......はなして!」

 

ララと追手では筋力の差が大きく、加えて2対1となれば状況は絶望的だった。

 

「イヤッ!はなしてよよっ!」

 

リトは、自分の部屋でこんなにシリアスが繰り広げられていることに困惑していた。カーペットが土足で踏まれている事にも。

 

「...........」

 

ララの嫌がる顔が目に入ってからのリトの行動は早く、サッカーボールを追手にぶつけ、ララを窓から連れ出した。

 

「こっちだ!」

 

後先考えず近くの家の屋根の上を走る。

 

「リト......どうして?」

 

「わかんねーよ!」

 

リトは半ばキレ気味に答える。

 

「わかんねーけど......目の前で女の子がさらわれそうって状況で、黙って見過ごすなんてできねーだろ!!」

 

「......!」

 

道中、犬の散歩をしていたリトの想い人、西連寺春菜が屋根の上を走る2人を見てしまった。

 

「ゆ、結城くん......?」

 

そしてどこかの公園に入った頃、逃げ続ける2人に痺れを切らしたのか、追手の1人は生身の状態でトラックを投げ飛ばし、道を塞いた。

 

「ジャマしないでもらおうか、地球人......!」

 

「(何つー怪力......!)」

 

「ララ様、いい加減におやめください」

 

「やーよ!」

 

「そうそうやなこった!」

 

「家出など!」

 

「そうそう家出......え?」

 

リトは衝撃の言葉に思わずララを2度見してしまった。

 

「(い、家出だとぉぉーーー!?)」

 

「私もうコリゴリなの!後継者がどうとかしらないけど、毎日毎日お見合いばっかり!」

 

「しかしララ様、これはお父上の意志なのです」

 

「パパなんて関係ないもん!」

 

逃げられないなら対抗するまで。

そう考えたララは携帯電話らしき物を取り出し、ボタンを押す。

 

「電送!「ごーごーバキュームくん」!」

 

送られてきたのはタコの化け物のようなロボ。

それを見て追手2人は焦る。

 

「まずい!ララ様の発明品だ!」

 

「それ!吸いこんじゃえ!」

 

ララの命令により、ごーごーバキュームくんは圧倒的な力で追手を口の中に吸い込もうとする。

 

「う、うわああああ!!」

 

抵抗する間もなく2人とも吸い込まれ、これにて一件落着かと思われたその時、どんどん強力になる吸引力で、公園のベンチやゴミ箱等、近くの野良犬や野良猫、そしてリトさえも吸い込まれていく。

 

「ど、どんどん強力になっていくぞーー!早く止めろーー!!」

 

一向に止める気配のないララ。

 

《ど......どうしました?ララ様》

 

「これ......」

 

見かねたペケが問いかけるも、ララは何かを考えていた。

 

「どうやって止めるんだっけ?」

 

このロボを使った者としては論外な言い分に、リトは思い切り叫んでしまった。

 

「なぁにぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

その叫びも虚しく、リトはごーごーバキュームくんに吸い込まれてしまった。

その翌日の朝、登校中にリトは思う。

 

「ちっくしょー......昨日はひでー目にあったぜ......ったくあの女、あんなアイテムがあるんなら別にオレが助けなくてもよかったじゃねーか」

 

ララはあのタコを作ったのが随分昔だったので使い方を忘れていたらしく、何もできなかったところ、あらゆるものを吸い込んだせいで容量超過したのか、ごーごーバキュームくんは夜の公園で大爆発を引き起こしたのだった。

 

「いや......でもオレの部屋であのタコマシンを使われてたら......」

 

部屋どころか家ごと吸われる未来が簡単に想像できてしまった。

 

「結果的にはよかったのかもな......何にせよ、もう二度と関わるのはゴメンだぜ。あんな家出宇宙人......」

 

「......おはよ、結城くん」

 

「(は、春菜ちゃん!?春菜ちゃんに声かけられたぁぁ!!)オ、オハヨ......」

 

緊張から声が震えているリト。

 

「(う、うれしぃーっ!こ......こんなのいつ以来だよオイ!)」

 

春菜の頭に浮かぶのは昨日の光景。屋根の上を走る2人。

 

「(ハッ、待て!浮かれてる場合じゃねぇ!これはチャンスだ!)」

 

「私、昨日......」

 

「(今しかねぇ!)あ、あのっ!」

 

今は自分と春菜しかおらず、周りに人の気配もない。

告白には絶好のタイミングだった。

 

「......?」

 

急に地面に影が差したことから、春菜は空を見上げた。

 

「オレ......初めて見た時からキミの事が好きでした!だからっ、その......付き合ってください!」

 

男を見せたリト。

今までの奥手ぶりを思わせぬようなストレートな告白。

深く頭を下げ、春菜からの返事を待つ。

 

「(言った!言ったんだ!)」

 

しばらく返答が来ないことから、春菜の反応を確認しようと頭を上げる。すると目の前には春菜ではなく、見覚えのある恥ずかしい服を着た宇宙人がいた。

 

「へー、そっちもそーゆーつもりだったんだ。ちょーどよかった♡」

 

なんとタイミング悪くララが上空から降ってきたことと春菜の名を呼ばず「キミ」と言ったせいで、今の告白をララにしたものだと勘違いされてしまった。

 

「じゃ結婚しよ♡リトっ!」

 

「はぁ!?な、何でお前が......」

 

ララとの思わぬ再会に初めは驚いたが、少しして彼女の発言を振り返るリト。

 

「って......結婚ん!?」

 

今しがた人生最大の勇気を振り絞って告白したというのに、振られる以前に別の相手から求婚される始末。

 

「(何でぇーーーー!!!?)」

 

一方その頃地球近くで漂う宇宙船。

中にはごーごーバキュームくんのせいでボロボロの追手と、2人の上司と思しき男がいた。

 

「......そうか。やはりあの方はお前達の手には負えないか......仕方ない。次は私が地球へ降りよう」

 

男はボソリと呟く。

 

「まったく、困った姫君だ......」

 

 

 

 

 

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