ToLOVEる VII   作:フェンネル

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旧校舎の悲劇

ある日、リトのクラスでは数学のテストの返却が行われていた。

 

「春菜ー、今日の数学のテストどーだった?」

 

「見せて見せて!」

 

里紗と未央は春菜の机に集まり、返却された答案の点数を見る。

 

「へー98点!すっげー!」

 

「やだ......そんな大声で言わないでよ」

 

というやり取りがある中、リトの点数は。

 

「(じ、18点......これはマズい......!)」

 

リトは教師にたるんでいると小言をもらったことを思い出す。

そう言われても仕方ない点数だった。

休み時間、校舎の外で改めて答案を見る。

 

「(そーいや最近まともに勉強してなかったもんなぁ......)」

 

愛しの春奈は98点。

優等生と言って余りある数字である。

対して自分は18点、赤点も赤点だった。

 

「(こ、このままじゃ......)」

 

リトは危機感を覚える。

そして、同時に不安に駆られた。

もしこの点数を春菜に見られたなら。

 

『え、結城くんってそんなに頭悪かったの?ゴメンなさい、私バカな人嫌いなの』

 

こう言われてしまうのではないかと。

 

「(うわぁああ !やべーーー!!明日またテストだぞ!勉強しなきゃ!)」

 

そう思って頭を抱えていると前触れなく風が吹き、答案がリトの手から離れてしまった。

 

「あっ、いけね!」

 

慌てて答案を取ろうとすると、誰かの足が見えたので思わず見上げる。

すると。

 

「ヤ、ヤミ......」

 

目の前に、ヤミのスカートの中の景色があった。

リトは顔を真っ赤にして固まってしまう。

そして、ヤミに顔面を踏まれた。

 

「いつまで見てるんですか」

 

「ス、スミマセン」

 

鼻血を出しているリトを横目に、ヤミは答案を拾って点数を見る。

 

「フッ」

 

そんな声が聞こえた。

 

「......返します」

 

「(え?今笑われた?)」

 

「勉強、人に教わるなり努力した方がいいのでは?この星では学力がものを言うんでしょう?」

 

ヤミはどこかへ歩き出す。

 

「せっかく身近に適任者がいるじゃないですか」

 

そう言い残して。

 

その日の夜。

結城家では夕食を済ませた後、美柑が鼻歌混じりに食器を洗っていた。

 

「美柑さー、最近楽しそうだよね。何か良いことあった?」

 

それを見たララの一言に、美柑が顔を上げる。

 

「え?どしたの急に」

 

その質問に、リトも共感する。

 

「確かに。ここ最近機嫌良いっつーか......」

 

美柑は心当たりがありそうな様子を見せた。

 

「あー......」

 

リトは前々から思っていた。

年齢以上にしっかりしていた妹が、程よくワガママになってきてくれている事が兄として嬉しい。

しかし、そうなったきっかけは一体何なのだろうかと。

美柑は食器を洗い終え、ソファに座る。

 

「前にリト達がいなかった時、猿山さんが家に遊びに来てくれたんだよね」

 

思わぬ名前に、リトはぎょっとした。

 

「え!?な、何で......?」

 

「私が寂しがってるんじゃないかと思ったんだって」

 

リト達が海から帰ってきた時、美柑は最初こそ怒っていたものの、最終的には心の内を吐き出して寂しかったことを打ち明けた。

 

「あ......」

 

その時、美柑の正直な気持ちを聞いたリトは心配をかけたことを謝ると同時に、これからは家族として、兄としてしっかり一緒に過ごす時間を作ろうと心に決めたのだ。

 

「(そうだったのか......)」

 

しかし、そのきっかけを作ったのが自分の親友であるというのは知らない情報だった。

 

「それから色々あったんだけど......気づいたら正直に話しちゃってたんだよね」

 

美柑はその日のことを鮮明に思い出す。

自分にとって大切な日のことを。

 

「それからいっぱいゲームしたり、ご飯作ったりして......やりたいことやって」

 

恥ずかしさと気遣いから必要以上に我慢してしまっていた自分の気持ちを、猿山は引き出してくれた。

 

「なーんか変に我慢してたのが馬鹿らしくなっちゃってさ」

 

そしていつでも助けになると、心強い言葉をくれた。

 

「もっとみんなに甘えていいんだって思ったら......」

 

それがただ嬉しくて。

 

「すごく安心した」

 

猿山の存在が、美柑にとって変え難いものになった瞬間だった。

 

そして件の猿山はというと。

 

「はぁ......はぁ......!」

 

何かから必死に逃げていた。

ひたすら夜道を走り、振り返ることなく。

 

「(とりあえずどっかで休憩しねぇと......!)」

 

夜とはいえ、季節は夏なので暑い事に変わりはない。

水分補給の為に1度近くの公園に立ち寄り、自販機から飲み物を買おうとした時。

猿山の頭のすぐ後ろを、何かがとてつもない速度で通り抜けた。

 

「(さすがに速ぇ......!)」

 

すぐに振り返ると、鬼神の如き顔の弄光がいた。

 

「よぉ猿山ァ......ちょこまか逃げてんじゃねぇぞ」

 

「っ、流石野球部でやんすね」

 

手には鎖付きの鉄球を持っている。

今にも投げつけてきそうな雰囲気だった。

 

「黙ってついてくる気はねぇんだな?」

 

「死んでもゴメンだね」

 

まさに一触即発。

両者が動くタイミングを伺っていると。

 

「残念」

 

後ろからそんな声が聞こえた。

 

「っ、が......!」

 

瞬間、猿山の視界は真っ暗になった。

弄光は気絶した猿山を担ぎ、もう1人と共にどこかへ向かった。

 

そんなことがあった一方結城家にて。

リトは1人で勉強をしていたのだが、ふとララの点数が気になり、答案を見る。

そして驚愕する。

 

「あ、あいつ......こんなに頭良かったのか......」

 

全問正解。

文句なしの100点満点だった。

 

《何を今さら......ララ様は銀河でも知られた天才頭脳の持ち主ですよ》

 

その頭脳を主にイタズラ目的の発明品にしか使わないのがタマにキズだ、とジャンプを読みながらペケは言う。

 

《過去にはララ様の頭脳を兵器開発に利用しようとした輩もいるくらいで......》

 

「でも、随分前にララに成績を聞いた時は0点だったような......」

 

《それはララ様が地球の文字を覚えていなかった頃でしょう》

 

ペケは眠たそうにしながら答える。

 

「問題が読めなかったって事か......」

 

思えば、ララの発明品はどこか抜けているところがあるとはいえ、いつも凄いものばかりだった。

そう思いながらリトが勉強を再開しようとすると、風呂上がりの、タオル1枚のララが部屋に入ってきた。

 

「タ、タオルで出てくるなーっ!!」

 

「えーいいじゃない、裸じゃないんだし♪......って勉強してるの?」

 

「あ、あぁ。明日テストあるから......でもさっぱりわかんなくてさ」

 

「どれどれ......あーこの問題はね───」

 

ララがリトの方に寄ってノートをのぞき込む。

そしてムニッ、とララの胸が肩に当たった。

その感触に、リトの顔から煙が立ち上る。

 

「お、教えてくれるのはいいんだけど......その格好何とかしてくれ......」

 

勉強どころではなかった。

 

「えー部屋着は全部洗濯中なんだけどな......じゃあペケ!」

 

《え......あ、ハイ》

 

眠たげなペケを可愛らしい部屋着に変化させ、深夜の家庭教師ことララのマンツーマン指導が始まった。

 

その時、彩南高校旧校舎では。

 

「わかんねーっ!」

 

「猿山ぁ、もっかい言うぞ?この問題は

───」

 

「あはは、頑張って猿山くん。ほら、ご飯用意してるから。校長もどうぞ」

 

「おぉっ!佐清くんの料理は絶品ですからなぁ!」

 

椅子に縛りつけらている猿山の姿があった。

弄光、佐清、校長の3人は猿山の赤点回避のために泊まり込みで勉強することとなっていた。

弄光は勉強を。

佐清は食事を。

校長は監視という役割を担っていた。

 

「ていうか校長と佐清さんは先生でしょ!?弄光さんの横暴止めてくださいよっ!」

 

「うーん美味♡」

 

「皆の分も残しておいてくださいよ?」

 

「無視!?」

 

「おめーが赤点なんか取るからだろうがよ!まだ課題あんぞ!」

 

「誰か警察呼んでェーーーーーッ!!」

 

その夜は旧校舎から男の悲鳴が聞こえたとか。

そんな4人の様子を、お静は陰から伺っていた。

 

「猿山さん......頑張ってくださいっ!」

 

1人の男が地獄を見る中、結城家ではリトの勉強が順調に進んでいた。

 

「じゃあここは?」

 

「それは指数方程式だから......こうなるワケ!」

 

「おぉーっ!」

 

リトの予想以上にララの指導は的確で、教え方も上手だった。

 

「ララ、ほんと頭良いんだな!マジすげーよ!」

 

リトが目を輝かせてララの方を見ると。

 

「あは......なんか、リトが褒めてくれると嬉しいな......」

 

ララは頬を染めながらしおらしく笑った。

いつも明るく笑っている時とのギャップに、リトの胸がドキッと音を立てる。

 

「は、はは......」

 

気恥ずかしさから笑って誤魔化したが、鼓動は早まっているままだった。

 

「あっ」

 

そんな時、机から消しゴムが落ちる。

 

「私拾おっか?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

リトは椅子から降りて机の下に潜り込む。

 

「(いかんいかん雑念が入ってる!勉強に集中しねーと!)」

 

そう思いながら勉強を再会しようとした時、ふと違和感を感じた。

 

「ん?......なっ!?」

 

「リト、どうしたの?」

 

ララに視線を向けると、所々服に穴が空いていた。

 

「ラ、ララ!服が消えてる!」

 

「へっ?」

 

《すみません......充電切れです......睡眠を取らないと......》

 

無慈悲にもペケの充電が切れ、ララの一糸纏わぬ姿が露になってしまう。

 

「わわ!とにかく隠せーっ!」

 

「きゃ!」

 

リトは慌ててララの身体を隠そうとするが、焦ってしまったことで足をひっかけてバランスを崩し、ララをベットに押し倒してしまう。

 

「リトーっ、勉強お疲れ!コーヒーでも......」

 

と、タイミング悪く、コーヒーとお菓子を持ってきた美柑が部屋に入ってしまい。

 

「み、美柑!ちがうんだ!今勉強してて、その......!」

 

実兄が裸の美少女をベッドに押し倒している光景を目にしてしまった。

 

「あ......そ。引き続き頑張ってね。何の勉強だか知らないケド」

 

リトのフォロー虚しく、美柑はドアを閉めてしまう。

 

「ご、誤解だーっ!」

 

猿山とはまた別の理由で、リトも悲鳴を上げたのだった。

これが災いして、翌日のテストでは覚えたことが全部飛んでしまっていた。

 

そんな出来事からしばらく経ってのこと。

 

「ララちゃんとヤミちゃんが戦ってるぅ!?」

 

猿山は窓から見える激闘に、目玉を飛び出させた。

猿山は知らないが、この闘いはルンと沙姫がララをギャフンと言わせるため、ヤミに依頼をしたことで始まった。

 

「おらどこ見てんだ猿山!」

 

「あだぁ!?」

 

余所見をしたことで弄光のチョーク投げを喰らい、吹っ飛ぶ猿山。

あの旧校舎での指導の後、結局赤点を取ってしまったので、それを知った弄光から連日指導を受けていたのだ。

 

「ったく......ま、今は勉強してる場合じゃねぇな。さっさと出るぞ」

 

「ふぁい......」

 

猿山はパンパンに腫れた頬を擦りながら、弄光と共に闘いの余波で今にも壊れそうになっている校舎から脱出した。

そんな中、リトは。

 

「うわっ!?」

 

ララとヤミが壊した校舎が瓦礫となって降り注ぐので、それを必死に避けていた。

 

「ふ、2人とももうやめろ〜!って、どわあ!?」

 

2人は空中で戦っているので、リトの声が耳に入るはずもなかった。

それでも闘いを止めようとするリトだったが、眼前に特大の瓦礫が迫ってきた。

 

「な......!?」

 

直感で避けられないことを悟り、神に祈る気持ちで目をつぶる。

真っ暗な視界の中、リトは衝撃が来ないことに違和感を感じ、そっと目を開いた。

すると目の前には。

 

「大丈夫?結城くん」

 

「さ、佐清先生!?」

 

綺麗な羽衣を纏った佐清の姿があった。

 

「ここは危ないから早く逃げて。あの2人は止まらないよ」

 

「でも......」

 

「なに、死ぬまでやるなんて事はないさ。だけど校舎は確実に全壊する。だから避難した方がいい」

 

そう言いながら、佐清は降りかかる瓦礫を羽衣で器用に砕き割る。

 

「(す、すげー......てか数多過ぎ!?)」

 

リトは目に見えて瓦礫の数が増えているのを見て、命の危険を感じたことですぐさま避難した。

途中沙姫のスカートの中に顔を突っ込んでしまうという事件が起きたのだが、顔面にパンチを食らったことでプラマイゼロとなった。

 

後日。

 

「猿山ー!」

 

「おーリト、どした?」

 

「明日うちですき焼きやるんだけど、良かったら来ないか?」

 

「マジ!?行く行く!」

 

「じゃあ美柑にも伝えとくな」

 

「おうよ!......ハッ、殺気!?」

 

「悪いな結城くん、こいつは今日勉強会があるんだ」

 

「誰か助けてェーーー!!」

 

「......美柑、猿山来れないってさ」

 

『えーっ!?』

 

こんなやり取りもあった。

 

またある時、宇宙のどこかで。

 

「ボス、ドクター・ミカドの消息が判明いたしました」

 

「......どこだ?」

 

「太陽系第3惑星です」

 

「ケイズ......お前に任せる」

 

ケイズと呼ばれた男は、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「了解しました。朗報をお待ちください」

 

彼らの目指す星地球では、今日も変わらぬ日常が流れていた。

 

「ふぅ......どうも朝が弱くていけないわね」

 

朝、シャワーを浴び終えた御門が出勤前の僅かなひと時を過ごしていると、誰かが有り得ない回数ドアをノックしてきた。

 

「...........」

 

御門はため息を吐きながら、玄関へ向かった。

誰がドアを叩いているのか察しながら。

 

「あのね猿山くん、こんな朝から......どういう状況?」

 

ドアを開けて最初に見たものは、顔中パンパンに腫らして泣いている猿山の姿だった。

 

「みがどぜんぜぇ......」

 

「とりあえず入りなさい。処置はしてあげるから」

 

いつものふざけた様子から一転、ひたすらに痛い痛いと呟く猿山に御門は少し同情した。

 

「で、どうしたのその怪我?」

 

「テストで赤点取ったら死ぬ程ビンタされました......」

 

「めちゃくちゃねぇ」

 

処置をしながらそんな会話を交わす。

ドクター・ミカドの手にかかれば、この程度の傷を治すことは造作もない。

 

「うおおおー!ありがとう先生ーー!」

 

「ほら、早く学校行きなさい」

 

「いってきまーす!」

 

顔が治るや否やスキップしながら登校して行く猿山を見て、御門は呟いた。

 

「......私も支度しなきゃね」

 

楽しそうな声だった。

 

「(この星に来てもう3年か......はやいものね)」

 

道中、街の顔見知りと挨拶を交わしながらそんなことを思う。

そして校門をくぐって早々に、絶叫しているリトとそれを追いかけるララの声が耳に入った。

 

「あ!おはよー御門先生!」

 

「おはよう。朝から元気ねぇ、あなた達」

 

「先生も何とか言ってよ!ララのやつミサイル型の乗り物なんか作って......!」

 

「だって空を飛べれば学校に行くのがラクだってリトが言うから......」

 

「ふふ。結城くんを喜ばせたいのね。それならとっておきの薬草があるんだけどあげようか?」

 

御門は悪戯っぽく笑いながらララに言った。

 

「ホント!?」

 

「何勧めてんだー!!」

 

冗談よ、と笑ってから3人で歩き始めた。

 

「そういえばさぁ、御門先生はどうして地球に来たの?」

 

美柑は一瞬の沈黙の後。

 

「風が吹いたから......かな」

 

意味深長にそう答えた。

 

「風?」

 

「どーいう意味?」

 

「ふふ......別に深い意味は無いわ。気紛れよ気紛れ!」

 

そんなやり取りをケイズはどこからか監視していた。

 

「くく......その気まぐれな風に我々がどれだけ振り回されたことか」

 

《ケイズ様、如何なさいますか》

 

「予定通りに事を進める。お前らしくじるなよ」

 

彩南高校に、危険が迫ろうとしていた。

 

「待っていろ、ドクター・ミカド......!」

 

 

 

 

 

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