「春菜ちゃんさ、ジンクス知ってる?」
「うん、ゴールした組は必ず結ばれるって.......」
「この状況だと春菜ちゃんは俺とカップルになっちまう。俺としてもそれは避けたい。あぁ、別に春菜ちゃんが嫌いな訳じゃないぜ?」
「?」
「つまるところ、リトとゴールさせてぇ」
それを聞くと春菜はほんのり頬を染め、目を逸らしながら鼓動を早めていた。
猿山自身もそんな春菜を見てリトに対して悪くは思っていないことを察する。
「だからリトが来るまでここで待とう。幸いゴールする組は少ないって聞いてるし、ちょっとくらい遅れても大丈夫だ」
「.......い、いいの?」
「何が?」
「ここまでしてもらって私は何もしてないから.......」
「あぁ、気にしないで。俺の自己満足とでも思っといてよ」
春菜は改めて、目の前の猿山ケンイチという男を不思議だなと思った。
それを知ってか知らずか、猿山は春菜を草陰へ誘導した。
「何でもお化けの格好がハイクオリティらしいんだ。だからリトが来れるか.......」
「ペアは確かララさんだったはずだよ」
「ちゃんと見てんだな、リトの事」
そう言われて更に顔を赤くする。
それを見た猿山はリトを羨ましがると共に応援するのだった。
そんな猿山を余所に、リトとララは道中こんな話をしていた。
「リトってさ、猿山とどれくらい仲良いの?」
「うーん、そこまで互いに踏み込んだりしねーよ。美柑だってあんまり知らねーしな」
「猿山だったらいつもみたいにナンパだっけ?したりするのかな」
「美柑にするのは許したくねーけど、それはないと思う」
まるで絶対だと言わんばかりに自信を持つリトに、疑問を覚えたララは問うた。
「なんで?」
だがリトは答える気など更々無かった。
「それは俺だけが思ってる事だから、お前に言っても分かんねーよ」
「ひっどーい!頑張ってリトの事知ろうとしてるのに!」
「今お前が質問してるのは猿山の事だろ!俺じゃねーよ!」
「だって気になる所が多いもん!」
「はっ?」
その場が一瞬固まる。
リトは思わず立ち止まってしまい、若干恐怖していた。
「どうしたの?」
「い、いやお前それって.......」
自分が好きだと言っておきながら思い切り「猿山が気になる」と発言したララに。
「え?」
デビルーク星と地球とでは文化が違うのかもしれないが、堂々と二股をかけようとしている事に驚きを隠し得なかったのだ。
驚きが大きすぎて通り越した故に、今恐怖している。
「違うよ!気になるって言っても好奇心みたいなやつだよ」
「お、おう。なら良かった.......(.......いや別に気にしてねぇけどっ!)」
何故かホッとしてしまった自分を疑うリト。
その最中、違和感に気づく。
「ん?でもお前と猿山ってそんなに話すか?」
「リトに比べたらないよ。猿山は私と春菜にはナンパしないもん。なんでかなぁ?」
今までの猿山の行動を考えれば、正しい理由を考えるのはそう難しくなかった。
「(多分、俺が春菜ちゃんの事が好きで、ララが俺の事を好きだからだ。あいつ、基本別の相手がいたらしねーからな。知らねー時のが多いけど)」
だからこそ御門に声をかけるわけなのだが、御門がそれを知る由もなく、リトは心の中で謝罪した。
「別にいいだろ。ほら行くぞ」
それをララには話さず何とか誤魔化し、2人は歩みを進める。
そして猿山はというと。
「さーて、どうしたもんかな」
春菜に抱きつかれていた。
経緯としては、2人で話していた時も春菜はビクビクしており、他のペアの悲鳴が今になって聞こえてしまった事で、お化け等が大の苦手な春菜に拠り所にされてしまっているのだ。
「ほんとに苦手で、私.......!」
「リトが来るまで待てる?」
「1人じゃダメだと思う.......」
「じゃあ今は一緒にいるから、リトが来たらあいつから声かけると思うからすぐ駆け寄りな」
「うん.......!」
本来なら自分の立場をリトと入れ替えたい等と考えている猿山だが、春菜の怖がり様を見てそうも考えていられなくなった。
「とりあえず一旦座ろうか。俺の上着敷くから、そこ座って」
「あ、ありがとう」
できるだけ春菜から離れない場所に座り、リト達を待つ。
数分程経つと、リトはやって来た。
「春菜ちゃん、リト来たぜ」
「!」
1人で。
「1人で.......ってなんで?」
「さ、さぁ?」
「とりあえず、リトには俺が急にいなくなったって言っといてよ」
「.......うん。ありがとう」
2人は戸惑いこそしたが、当初の目的を思い出し、春菜はリトの方へ駆け寄って行った。
猿山はそのまま1人で森を歩くことにした。
「うーん、こりゃあ春菜ちゃんも怖がるか」
辺りを散策していると、後ろから誰かに驚かされた。
「ばぁ!」
「.......こりゃあ、随分可愛らしい声でやんすね」
振り向くと、そこには空に浮きながらお化けの格好をしているララがいた。
「あ、猿山!」
「.......何やってんの?」
「これ楽しいんだ!地球って本当に面白い!」
「お気に召したなら何よりだよ。ところでリトと別れて大丈夫なのか?」
「んー?多分大丈夫だよ。猿山と行けばいいし」
こう言われて喜ばない男はいないだろう。
猿山とてその男の内の1人だった。
ララに好きな人がいないという条件を満たしていれば。
「ララちゃんはさ、ジンクス知ってる?」
「何それ?」
「一緒にゴールした奴と結ばれるんだよ。だからリトと離れて大丈夫?」
そう言った時には、ララが目にも止まらぬスピードで走り去った後だった。
「恋する乙女は強いねぇ.......」
1人残った猿山も、ゴールへ向かうことにした。
「ララちゃんも可愛いし、リトも奥手だからなぁ.......どっちが選ばれるかわかんないな」
未来を考えながら進むと、案外退屈せずに住んでいた。
「リトのラッキースケベ体質もあるし、そうなった場合有利なのはリトに好かれたいララちゃんか?春菜ちゃんはそこんとこピュアだし.......」
しばらく考えていると、ある事に気づく。
「って、ハーレムなんて漫画じゃねーんだから考えても無駄か!」
笑いながら進むと、どこかで爆発が起きた。
「なんだぁ!?」
急いで爆心地に向かうも、誰もおらず、手当り次第に人を探しているといつの間にかゴールに到着していた。
「おぉ!1番目のゴールは猿山くんですか!あれ?ペアの方は?」
「あぁ、俺が怖くなって逃げたらいつの間にかはぐれちゃって」
「ほぉ.......」
校長はサングラスの奥の目を光らせ、猿山が嘘をついていることを見抜く。
「まぁ、今は信じましょう」
「ところで校長、さっきの爆発って何か分かりますか?」
「恐らくはアレかと」
校長が空を指さしたので、猿山もその方向を見る。
するとリト、ララ、春菜の3人が空から降ってきた。
「はぁああああ!!!?」
あまりの驚きに叫びながら、3人の着地地点へ急ぐ。
そして腕を犠牲に受け止め、リトに事情を聞いた。
「ララの発明品が爆発して.......」
実際リトの言葉に嘘はなく、ララがお化けを投影する機械を作ったものだからそれを見た春菜が恐怖で暴走し、リトを振り回した結果機械にぶつかってしまい、爆発した。
「ギャグ漫画じゃねーんだぞ.......」
小さく吐き捨てられたツッコミは、リト達に届くことなく消えていった。
その翌日。
海で遊んでいた猿山達だったが、水着泥棒が現れ、犯人が校長と分かり、覗きの時以上に執拗にボコボコにされていた。
「何やってんすか校長」
「ご、誤解ですぞ.......」
そして、夜。
リトは女子部屋に春菜と2人きり、猿山はジュースを買いに行っていたララと遭遇していた。
「臨海学校でよく会うな、ララちゃんと俺」
「たしかに。リトとも会いたいな」
「あいつは多分.......いや、ララちゃんは早く部屋に戻りな」
「うん。そういえば、猿山は何してたの?」
「俺もジュース買いに来たんだよ。ほら、部屋暑くてさ」
本当はリトのために偶然を装って春菜の部屋に突っ込んだのだが、そんな事は言えるはずもなかった。
「ふーん。じゃあさ、私の部屋でお話しようよ!」
「え”っ」
「ほら行こっ!ジュースもあげるから!」
ララに手を引かれた猿山は、止めるための言葉を発す前に部屋に連れて行かれた。
「(仕方ねぇ。リトには頑張ってもらおう)」
道の途中で携帯で春菜にメールを打ち、リトがいるのを知っている事と、これからララと部屋に向かう事を伝え、後はララにされるがままになっていた。
「着いたよー」
「お邪魔しまーす」
部屋の中には女子が3人。
春菜と、その友人の里紗と未央だった。
「げっ、猿山!」
露骨に嫌な顔をする里紗。
「里紗ちゃん、げっはやめようぜ?」
「ララちぃなんで連れてきたの!?」
眉間に皺を寄せ、歌舞伎のような顔で嫌がる未央。
「未央ちゃん、顔顔」
「猿山嫌われてるの?」
「ララちゃん。そういうの本人に聞いちゃダメだよ」
ナンパによる評価の低さなので致し方なし。
ララも猿山から聞いて納得したが、結果として猿山はそのまま部屋に居座ることとなった。
「(春菜ちゃんだけが布団を被ってるって事は、中にリトがいるはず)」
何とか気づかれないようリトとの脱出を試みるが、布団が動いた時点で気づかれるので詰んでいた。
そして女子達は色んな話をしていたが、遂に恋バナを始めてしまう。
「春菜って好きな人いるワケ?」
「な、なによいきなり!」
「だってこーゆー夜の定番でしょ〜!正直に言いなさい春菜!さもないと〜」
手をわきわき動かして胸を揉む動作をする里紗。
リトは布団の中で耳を傾けながら春菜の言葉を待つ。
「どうしたのよぉ〜、言えないのぉ〜?」
「あー!まさかぁ、ララちぃみたく結城の事が好きとか言うんじゃないでしょーねー」
「な、何言ってんのよ未央」
「え!?そーなの春菜」
「キャハハハっ、ジョーダンよララちぃ!結城はどー見てもマジメな春菜のタイプじゃないもん」
里紗と未央はないないと笑い合っていた。
春菜は答えを有耶無耶にできて安堵した。
「つーかさぁ、ララちぃも結城なんかのどこがいいワケ?」
「言っちゃ悪いけどララちぃならもっと上の男狙えると思うんだよねー」
「結城ってなんかガキっぽいしー」
「女のコの扱いとかも苦手そーだよねー」
「頼りがいがなさそー!」
好き勝手言い始める女子達にリトが心の中で怒っていると、猿山は静かに笑って言った。
「あいつは良い奴だよ。ちょっと奥手だけど、カッケーんだ」
猿山らしからぬ冷静な物言いに、女子達が一瞬戸惑う。
その隙をついてすかさずララも同意する。
「そうだよ!リトはね、宇宙で一番頼りになる人だよ。私はそう信じてる」
「(ララ.......)」
「私にはリト以上の人なんて、考えられない.......」
布団の中のリトは驚き、春菜も素直な気持ちを吐露したララに思うところがあったのか、目を伏せてしまった。
「うひょー!ララちぃカッコいー!」
「宇宙で一番だってぇー!」
「ねーちょっと聞いた?春菜ー!」
「あんたもララちぃ見習って好きな男の1人も作ったらー!?」
少し答え辛そうな春菜。
「わ、私.......」
その時。
ジリリリリリ、と非常ベルが鳴った。
一斉に部屋から飛び出る生徒達。
「非常ベル!?」
「なになにどうしたの家事!?」
全員が火災報知器の方へ向かうと、年老いた骨川という教師がエレベーターのボタンと間違えて非常ベルのボタンを押していた。
「結城くん!今のうちに早く!」
「あ、ああ!サンキューな西連寺!猿山も行こう!」
「あっ.......」
リトはいの一番に走り去っていき、春菜が咄嗟に名前を呼んで触れようとするも、空振りに終わった。
「春菜ちゃん」
「え?」
「いつかきっと伝えてやってくれ。君の気持ちを。それがプラスでもマイナスでも」
「.......うん」
猿山とリトが男子部屋へ戻った後、3人も戻ってきた。
「もー、骨川センセーのモーロクにも困ったもんねー」
「そもそもこの旅館エレベーターないし.......あれ?どーかしたの?春菜」
振り返り、少しだけ寂しげな顔で笑う春菜。
「んーん、なんでもない」
そして男子部屋で、リトは悩んでいた。
理由は先程のララの発言にあった。
『宇宙で1番頼りになる人だよ』
普段から好きだ好きだと言われていたが、この日は特別ララの好意を感じた気がしていた。
「(ララの奴.......俺の事をそんな風に.......)」
あまりにも純粋かつ素直な気持ちを隠れてとはいえ伝えられてしまい、リトは謎の気持ちに胸を押える。
「(.......何だろう、コレ.......)」
「.............」
猿山は、何も言わなかった。
「(どうなるかな)」
それから夏休みが終わり新学期が始まり、レン・エルシ・ジュエリアという転校生がやってきた。
ララと幼い頃結婚の約束をしていたらしく、ララに「ボクの花嫁」などと言った事で教室中を混乱させた。
「リトのライバル、なのか.......?」
猿山が特に手出しせず過ごしているといつの間にかレンはクラスの人気者になっており、噂ではリトとキスをしたという情報もあった。
「大変だな.......」
その後日、1学年上の天条院沙姫という生徒がララの存在を知り、付き人に調べさせていた。
彼女は「自分以外に美しい存在はいらない」という考えをしているのに加え、彩南祭という学校行事で去年彩南祭クイーンと呼ばれた(自称)事へのプライドから、人気者のララを敵視していた。
「お嬢、ララちゃん見てる時の顔すごいけどどうした?」
「ケンイチ.......あのララとかいう娘は一体何ですの?この私を差し置いて」
「ララちゃん可愛いもんな。仕方ねーよ」
「あなたもそう言うの?躾られたいのかしら?」
猿山がこうも仲良さげに話せるのは、ナンパ→付き人にどっちめられる→自分のあまりの美しさに声をかけてきた姿勢を認める→以降話すようになるという経緯があったからだった。
「お嬢は美しいからさ、ララちゃんとはベクトルが違うと思うぜ」
「でも納得いかないわ」
「お嬢の良い所知ってる人は少なくてもいいんじゃないの?」
「それはケンイチが私の事が好きで好きで堪らなくて独占したいからでしょう?」
「なんでお嬢はそんな事を恥ずかしげもなく言えるかな.......」
自信満々だからである。
「あら、事実でしょう?」
「.......俺はお嬢の良さを皆に知って欲しいと思ってるよ。でもお嬢は自己顕示欲が強いから却って悪い結果に転ぶと思う」
途端に猿山に飛びかかる沙姫。
猿山は何とか殴られないように躱した。
「無理にララちゃんに対抗するより、お嬢自身が楽しいと思って考えたやつの方が絶対良いって」
「むぅ、一理ありますわね」
それから彩南祭が開催され、猿山のクラスでは彼の企画した「アニマル喫茶」で学校中の男子生徒から人気を博した。
沙姫のクラスでは元々「昆虫喫茶」が開かれようとしていたが、猿山が必死に意見を伝え、正統派の「喫茶店」となった。
「やっぱお嬢は品があるからな!その衣装も綺麗だぜ!」
「当然ですわ!ほーっほっほっほ!」
その間、弄光がララを口説いたり、校長が沙姫にちょっかいをかけたりと中々刺激のある祭りとなった。
「なにやってんすか弄光さん.......ララちゃんはリトが好きなんで口説いても無駄っすよ。校長も、あんまりお嬢に何したんすか」
「なるほどな。あの嬢ちゃんがオレに反応しなかったのはそういう事か」
「ま、また誤解ですぞ.......わたしはただ喫茶店を楽しもうと.......」
「お嬢?」
「あ、あらそうでしたの?私を見る視線があまりにもいやらしいものだから、つい」
それを聞き、猿山はココ最近で1番辛い目に遭っているのは校長では無いかと思った。
そしてら労いの意味も込めて、沙姫のクラスの食事を奢る事にした。