ToLOVEる VII   作:フェンネル

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ぼんち揚と出会い

遂に訪れた10月16日。

リトの誕生日である。

 

「祭だ祭だ!祝え祝え!」

 

登校してきたリトに紙吹雪を投げかけ、それはそれは楽しく祝う猿山。

リトもこれを想定してか、吹っ切れて受け入れていた。

 

「サンキュー猿山。ララ見なかったか?」

 

「あ、そういえば俺も見てねー。一緒に来てねーのな」

 

「あぁ.......」

 

「多分誕生日プレゼントでも探してんじゃね?ララちゃん宇宙人だし、宇宙のもん貰えるかもしんねーぞ!」

 

他人事と思って茶化し始める猿山。

リトはこれまでのララの行動から、猿山の言った通りにする可能性は中々に高いと考えた。

 

「帰ったら祝ってもらえるんだろ?楽しみに待っとけばいいじゃん」

 

「そうだな」

 

その夜、帰宅したリトからある星でしか取れないとんでもなく大きい植物がプレゼントとして贈られたと猿山の元へ連絡が来た。

 

「.......ドンマイ!」

 

数日後、ララの発明品のせいでリトの体が消しゴムと同程度まで縮んでしまう事故が起こった。

猿山はそれを知らず保健室に向かったがいるのは御門だけで、彼女からリトは出ていったと聞かされた。

 

「先生、ホントのところは?」

 

「あのお姫様が何かしたんでしょうね」

 

「お姫様?」

 

「あの転校生よ。彼女はデビルーク人.......宇宙人なの」

 

衝撃のカミングアウトに猿山は驚いた。

 

「し、知ってたんすか?てかそんな軽々しく.......」

 

「.......驚いた。逆に君が知ってたのね」

 

「なんで先生が.......」

 

「私もそうだもの」

 

御門が髪を耳にかけると、尖った耳が見えた。

見た目は人間と変わらないという点はララと同じである。

 

「美人なのは変わんないんすね。宇宙人って言っても皆美人なのか?」

 

「.......それよりも、君には話さなくちゃいけない事ができたわ」

 

「なんですか?」

 

「今の君は、下手したら宇宙までナンパしに行きそうじゃない?だからそうしないよう釘を刺すの。”金色の闇”なんかに声かけたりするとどうなるか分からないから」

 

猿山はその単語を聞いて謎の組織か何かか?と、無駄に頭を使った。

御門はその様子を見て知らないのも当然だと話し始めた。

 

「私の知り合いの子よ。宇宙でもトップの殺し屋だから、くれぐれもナンパなんてしないでね。本当に強いから」

 

「てことは女の子って事ですか?」

 

「ええ。美少女だと思って声かけちゃうと痛い目見るわよ」

 

美少女の殺し屋というものにピンと来ないのも大きいが、ララでもあるまいに強い美少女などいてたまるかと、猿山は自信ありげに言った。

 

「さぁ、どうですかね?」

 

前にララの肘が顔に激突した件を大した事と考えていないであろう猿山。

御門は言っても無駄なのは重々承知していたので、養護教諭として一言。

 

「ま、酷い事になったら私の所においで」

 

「相手殺し屋なのに!?」

 

そして12月某日。

沙姫の家にクリスマスパーティで招待されたが、猿山は都合が合わず断る事となった。

 

「今頃クリスマスパーティか.......なんで俺は御門先生にパシられてんだ?」

 

御門から渡された予算に余裕はあるが、距離が異常だった。

初めは猿山も断り、御門に行かせようとしたが、普段付き合ってやっている借りを返せと言われ、強く出られなかった。

 

「と、こんなもんか。はぁ〜、やっと帰れるぜ.......」

 

猿山は少しの悪戯心から余った金でぼんち揚を2つ買って公園で呑気に食べていた。

1袋食べ終わった頃、少し離れたベンチに癖のある格好の小柄な金髪美少女がいるのを発見した。

 

「うわっ、超可愛い!」

 

猿山が早速声をかけに行こうと歩き始めると、どこからがやってきた男とバッチリ目が合った。

お互いにあの少女に声をかけようとしていることをすぐに察した。

 

「お兄さん、ここは俺に譲ってくんないかな?」

 

そう言うと、男は不服そうな顔をした。

 

「なんで初対面の奴にそんなこと言われなきゃ───」

 

「ぼんち揚あげるからさ」

 

「.......仕方ねーな」

 

ぼんち揚を1袋丸々渡すと、男は上機嫌でその場を離れた。

ぼんち揚>美少女なのかと、自分で渡したながらも猿山は混乱していた。

そして気を取り直し、少女に声をかける。

 

「こんにちは」

 

「なんですかあなた」

 

「俺は猿山ケンイチ。君は?」

 

「.......あなたに教える理由はありません」

 

「ありゃ、残念」

 

少女が探るような目で自分を見るので、猿山は不審者と思われる前にその場を去ろうとした。

 

「待ってください」

 

「ん?」

 

「さっき言ってたぼんちあげ?っていうの、ください」

 

猿山は何故ぼんち揚なのかは理解できなかったが、性格上女性の頼みを断る訳にもいかないので、既に無くなったぼんち揚を買いに行こうとする。

 

「いいよ」

 

そして少し考えた後、少女に手を伸ばす。

 

「でも手繋いどこうか。迷子になったらダメだろ?」

 

だが、その手は弾かれた。

 

「やめてください。不愉快です」

 

「あぁ、ごめんごめん」

 

「どういうつもりですか?」

 

「まだ子供っぽいし、心配で」

 

「心配.......?」

 

まるで、今までされた事が無いかのように疑問を持つ少女。

猿山は少し妙な感覚を覚えると共に、少女の手を優しく握った。

 

「っ!」

 

「(この子.......)」

 

少女の反応を見て手を離す猿山。

 

「急にごめんね」

 

「.......理由を教えてください」

 

自分に触れられることに慣れていないのか、はたまた余程猿山の事が嫌いなのか、少女は少し震えていた。

 

「可愛い子とお近付きになりたいと思ってさ」

 

変に重い空気を出すのもどうかと思い、少し茶化しつつ事実を混じえて述べると、少女は驚いたようで顔を赤くしていた。

 

「可愛い?」

 

「え?うん」

 

「私が.......ですか?」

 

「そうだけど、どうかした?」

 

「あ、いえ、そんな風に言われたのは初めてなので.......」

 

先程とは打って変わってツンとした物言いや無感情さが無くなっており、初めての事にどうしたらいいか分からず混乱している様だった。

猿山は少女の顔をじっと見る。

 

「えーほんとに?こんなに可愛いのに?」

 

「ちょ、ちょっと.......!」

 

少女は咄嗟に髪を拳に変化させ、猿山の顔を殴った。

 

「ごはっ!」

 

猿山が吹っ飛び、手が離れる。

 

「き、急に近づかないでください!」

 

「ご、ごめん.......」

 

「.......殴った事は謝ります。ごめんなさい」

 

そして照れた様子を見せつつも少女の方からぎこちなく手を握ったので猿山は立ち上がり、2人はコンビニへ向かった。

中に入ると、少女は店内を見渡していた。

 

「ここがコンビニ.......ですか」

 

「そ。これがぼんち揚」

 

猿山はササッと会計を済ませ、少女に1袋渡す。

今購入したぼんち揚は通常製品と比べてサイズも小さくなっており、中身も1口サイズの物である。

 

「美味しいです」

 

「喉渇くから、水も飲みな」

 

「.......どうも」

 

少女は小さな口で少しずつぼんち揚を味わっており、顔には出ていなかったがご機嫌な様子だった。

そして食べ終わった後、満足気に息を吐いた。

 

「ありがとうございます、猿山ケンイチ。美味しかったです」

 

「どういたしまして」

 

「借りを作るのは嫌なので、あなたの願いを聞く事にします」

 

「じゃあ、行きたい所があるんだけどいいかな?」

 

「どうぞ」

 

猿山はにっ、と笑って少女に言った。

 

「俺が奢るからさ、一緒に飯食おうよ」

 

少女が答える前に手を引き、目的地へ向かう猿山。

数分後、2人はファミレスにいた。

だが、少女は納得いかない様子だった。

 

「.......これではあなたが得をしません」

 

「さっきも言ったけど、君といるのが楽しいんだ。だからこれで良い」

 

「.......またそういう事を」

 

2度目は少し慣れたのか、それほど戸惑わなかった。

けれども、赤くなっている耳を猿山は見逃さなかった。

 

「好きな食べ物とかある?」

 

「.......ぼんち揚です」

 

「あー、なら俺が頼んでもいいかな?」

 

「どうぞ。あなたの思うままにしてください」

 

猿山は少女の好きそうな物を考え、パフェを頼んだ。

そして自分の方にはコーヒーのみ。

 

「あの、本当にいいんですか?」

 

「ん?勿論。食べな食べな」

 

食べ辛そうにしている少女を見かね、スプーンを差し出し、パフェを1口食べさせる。

 

「.......!」

 

ぼんち揚を食べた時とは違う、目を輝かせて猿山を見つめる少女。

 

「美味いでしょ?ほら、沢山あるから」

 

それから、少女は無言でパフェを食べ続けていた。

完食した頃には、頬が緩みきっていた。

笑顔ではないにしても朗らかな雰囲気で、周りには花が咲いている。

 

「(......大人になったらすげー綺麗なんだろうな)」

 

そんな事を思う猿山と目が合った少女は、緩みかけた顔を引き締め、猿山を睨む。

だが元の顔がとても可愛らしいので、殆ど意味を為さなかった。

店を出た後、少女は猿山に感謝の意を伝えた。

 

「ですが、まだ信用したわけではありません」

 

「うん」

 

「.......また来ます。地球の食べ物には興味があるので」

 

「今度会ったら、名前教えてよ」

 

答えず去っていく少女を見送った後、猿山はふと、おかしなことに気づく。

 

「地球の.......?」

 

ひょっとしたら彼女も宇宙人なのではと考えながら帰宅した後、家でだらけていたところに沙姫から鬼電が来た。

なんでも会場である沙姫の別荘を、弄光とララが全壊させたらしい。

 

「ララちゃんは無理として、弄光さんは何やってんだ.......普段のあの人なら止めてたと思うんだけどなぁ.......?」

 

猿山は後日、その件で沙姫から叱られていた。

 

「ケンイチ、正気ですの!?あなたがいなければこうなる事は分かっていたでしょう!?」

 

猿山の胸ぐらを掴んで揺らす沙姫。

猿山の目には、沙姫の背後に鬼神が見えていた。

 

「ごめんお嬢、どうしても用事が外せなくてさ。今度招待してくれたら必ず行くから、それじゃダメ?」

 

沙姫の怒りを沈めようと優しく宥めながら説得する。

すると猿山の説得の甲斐あってか、沙姫は眉間に皺を寄せて考え込むも渋々納得した。

 

「.......むぅ、いいわ。それで手打ちにしてあげる」

 

2度は無いわと忠告する沙姫。

 

「お嬢」

 

「どうしたの?」

 

「こんなになってちゃ、お顔が台無しだぜ?普段はすげー気遣ってんのによ」

 

沙姫の眉間に指で触れ、真似する猿山。

 

「あら、私としたことが.......」

 

沙姫は急いでいつもの優雅な顔に戻す。

1秒もしない内に先程まで場を支配していた鬼神は引っ込み、気品溢れる天条院沙姫がそこにいた。

 

「さすがお嬢!美人!天才!」

 

「私にかかれば造作もないわ!ほーっほっほ.......」

 

ピタ、と高笑いが止まる。

 

「お嬢?」

 

猿山の声に反応せず、沙姫は考える。

顔がどうという問題は、目の前の男が招待に応じていればそもそも怒らなかったのでは?と。

 

「ケンイチ」

 

「?」

 

「それ程怒っていたと思ってね?」

 

「.......うーす(言わなきゃ良かったかな?)」

 

その気持ちを隠し、もう許したかのような気持ちを持ってニコッと微笑みかけるも、先程引っ込んだ筈の鬼神がまた出現してしまったので、猿山にはバレバレとなった。

 

「まぁ、今回のような異常事態はそうそう起きないだろうとは思うけれど、くれぐれも約束を破るなんて事はしないでね?もし破ったら.......」

 

「(もっとキレるのか?)」

 

背筋が凍る猿山。

沙姫はふふんと笑って猿山に近づき、弱みを突いた様に言った。

 

「泣くわ。それはもう盛大に」

 

「それはズルいって.......分かったよ。絶対守る。だからマジで辞めて」

 

「ふふ、分かればいいのよ」

 

沙姫は猿山の頭を撫でた後、自分の教室へ帰って行った。

結局最後まで沙姫の立場が上であり、猿山はまぁ大丈夫だろうと深く考えるのをやめた。

今の猿山には、思考をやめる理由があった。

 

「お嬢には悪いけど、今は.......」

 

クリスマスパーティがあった日から、以前出会った少女の事が頭から離れなかった。

 

「どうにかしてまた会えねーかな」

 

だが会えない事には何も始まらないのに加え、この事を話せる相手が猿山の周りの生徒にはそうそういなかった。

数少ない内の1人である沙姫はそれどころではなかったのでアテのある御門に話す為に保健室に向かったが、誰もいなかった。

 

「さーて、寝かせてもらいますか!」

 

巫山戯る事にした猿山はベッドに飛び込み、はしゃぐ間もなくそのまま眠った。

 

「.......あら?」

 

しばらくして保健室に入ってきた御門だったが、何故か保健室で寝ている猿山を発見し、想定外の出来事に笑った。

 

「そんなに私に会いたいのかしら?」

 

少し悪戯してやろうと考え、猿山の頬を指でつつく。

すると、ふがっと変ないびきが出た。

 

「ふっ、ふふ.......」

 

それに味を占めた御門が、繰り返しつつく。

時には指で伸ばしたり、楽しんでいた。

 

「こう見ると、やっぱり子供ね」

 

御門が猿山の顔をまじまじ見ていると、猿山の目が開いた。

猿山はじっと御門の顔を見る。

変に緊張している御門を他所に、猿山の方から声を出した。

 

「おはようございます」

 

「お、おはよう」

 

「いやー、すんません。寝ちゃってました」

 

「え、えぇ」

 

「.......?」

 

普段の御門らしくない言葉の詰まりに、猿山は目をぱちくりさせた。

 

「先生、どうかしました?」

 

「い、いえ。なんでもないわ」

 

「もしかして俺に惚れちゃったり?」

 

「有り得ない事を確認するのは、虚しい事よ」

 

「あっはい」

 

すぐいつも通りの空気に戻ったので、御門は少し安心した。

猿山は御門に出会った事で、保健室に来た目的を思い出す。

 

「そういえばこの間、凄い可愛い子に会ったんですけど」

 

「可愛い子?」

 

「ちょっと妙な感じがしたんですよね。それに、人から褒められたこともなかったようで。あーんなに可愛いのに」

 

「あら、家庭の事情かしら?」

 

「でも宇宙人ぽかったんですよね。地球の食べ物に興味があるとか言ってたし」

 

年齢が分からないとはいえ、外見は歳幼い少女であるというのに、相応にはしゃいだりする様子は見られなかった。

それは、猿山にとってあまり見ないタイプだった。

 

「それを何で私に?」

 

「先生なら俺とは違う意見持ってそうだなと思ったんで」

 

猿山は当初、親との関係が悪いのかなどと勘繰っていたが、結論が出なかったので頼れる大人こと御門に相談しに来たのだ。

 

「御門先生はちゃんと聞いてくれそうですし」

 

「君、結構私の事好きよね」

 

「そりゃもちろん!」

 

「.............(その割には本気じゃないらしいけど)」

 

言い様の無い気持ちを誤魔化すためか、髪を指でいじる御門。

猿山は頭に「?」を浮かべるばかり。

 

「(まぁ彼は子供だもの。仕方ないわ)」

 

御門は自分が魅力なしと思われるのは嫌なので、無理やり都合の良い様に結論づけた。

 

「(これでも生徒からは綺麗だとか言われるんだけど.......)」

 

「先生?」

 

心の中で色々考えていると話が逸れてしまったので、御門は気を取り直して猿山に語りかける。

 

「猿山くん」

 

「はい?」

 

「宇宙人は、君達が思う以上におかしい所も多いわ」

 

自らが宇宙人である事も踏まえて猿山という男の性格を考えた結果、御門はハッキリ言い切ることにした。

 

「宇宙人には宇宙人の、地球人には地球人の生き方があるの」

 

「生き方ですか.......」

 

「えぇ。君達が思う正しさと、宇宙人にとっての正しさは違うのよ」

 

宇宙人の御門が言うだけに、その言葉は猿山の中で少し重く刺さった。

だからこそ猿山は、ついマイナス方面に考えてしまう。

自分が抱いた感情は、彼女にとっては理解し難かったのかと。

自分が楽しんで欲しいと思って過ごしたあの時間は、彼女にとって煩わしいだけのものだったのかと。

 

「(別に正しいと思って誘った訳じゃない。ただあの子が少しでも.......喜んでくれたらって、そう思った)」

 

「その子の事を知りたいなら、もう一度会ってみたら?」

 

「はは、会えたらいいんですけどねぇ.......」

 

「君がそう思っていれば、いつか会えるわよ」

 

御門の言葉に、猿山は自身を納得させるしかなかった。

その隣で、御門は思った。

 

「(意図せず宇宙人に会うなんて、悪運かしら?)」

 

同時刻。

どこかにいたその少女もまた、あの日から猿山の事を考えていた。

 

「猿山、ケンイチ.......」

 

あの日握られた手を見て、触れる事のなかった温かさを思い出す。

 

「あなたは一体、何を.......」

 

触れた温もりの中に、知らない何かもあった。

だが少女に向けられていたものは100%の優しさであり、少女自身もそれを理解していた。

 

「何故、私を.......」

 

1度の出会いだとしても、少女の今までを振り返れば、猿山との関わりはとても珍しく、記憶の中に強く残るものだった。

 

「何故私は.......」

 

標的が、殺し屋に優しくするなど。

 

「彼を、殺したくないと思っているの.......?」

 

 

 

 

 

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