ToLOVEる VII   作:フェンネル

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エクセリオン

休日。

 

「お邪魔しまーす」

 

「なんで家に来るの」

 

「その方が早いかなって」

 

猿山は事前に言う事もせず御門家に突然来た。

常識的ではない行動だが、御門はそれに対して怒るでもなく、慣れた様に茶を出した。

 

「で?何の用?」

 

「今日暇ですか?良かったら───」

 

「デートしませんか?でしょ。私にメリットないじゃない」

 

「途中で買い物とかあったら付き合いますから!」

 

手を合わせて頼み込む猿山。

御門は首を傾げる。

 

「そこまでして私と外出したい理由って何?」

 

「えー、あわよくばいい雰囲気になれたりとか?」

 

「.......そういう発言は控えた方がいいわよ」

 

御門はほんの少し不機嫌になりながら、猿山の頬を抓る。

 

「特に私にはね」

 

「.......なんか怒ってます?」

 

「別に?ヘラヘラ笑って女の人に声かけるのは楽しい?」

 

「ええ、キレイな女性なら尚更」

 

「あら嬉しいわ」

 

笑顔だけ貼り付け、猿山の顔を掴んで自分の顔との距離をどんどん詰める御門。

 

「(このまま、キスでもしてやろうかしら)」

 

その力はかなりのもので、猿山の頭蓋骨は悲鳴を上げていた。

自分が変な事をしでかそうとしている事に気付き、御門は手を離した。

そして着替えのためにリビングを去った。

 

「今から買い物に連れて行ってあげる。少し待ってて」

 

そう言い残して。

猿山は頷き、大人しく待っていた。

 

「行きましょう」

 

「わーい!」

 

100%御門の私用である。

だが、猿山がデートだから嬉しいなどと言ったせいで、彼女は自分が変に悶々としている事に気付かなかった。

その想いを無理やり押し潰し、淡々と準備を済ませた御門は猿山を荷物持ちとして付き添わせる事にした。

 

「ねぇ」

 

「なんですか?」

 

道中、御門は問うた。

 

「私が断ったらどうするつもりだったの?」

 

「そりゃ帰りましたよ。ハッキリ断られたらね」

 

「へぇ」

 

自分がハッキリ断らなかったから猿山はああやって頼み込んだ。

逆に言えば、きっぱり断っていたならば、猿山は今自分の隣にいない。

その考えに至った御門は、ある種ホッとしていた。

 

「(そうよ、荷物持ちがいなくなるもの)」

 

何故か自分にそう言い聞かせる御門。

そんな彼女の心を知っている訳がない猿山が変な様子の御門に声をかけようとした時、電話でリトから助けて欲しいと連絡が来た。

 

「どうした?ララちゃんと喧嘩か?」

 

いつものように茶化しながら言う猿山だが、途端に顔つきが変わる。

 

「.......殺し屋?」

 

目付きが鋭くなり、へらへらした表情も消えた。

 

「猿山くん?」

 

その変わり様に御門が話しかけるが、猿山はすぐいつもの顔になって答えた。

 

「すんません先生、ちょーっと待っててください」

 

「......わかったわ」

 

返事をしつつ、猿山を見る御門。

 

「リト、詳しく言えるか?」

 

リトに話しかけている時は真剣そのものだった。

 

そしてリトはというと、何故か今殺し屋に追われているらしく、その殺し屋が何故か猿山の名前を出したという。

きっと情報に誤りがあるのだと誤解を解こうとしたリトだったが、相手は話を聞く気は更々無いようで、巻き込むまいと思っていたが猿山なら何とかしてくれるのではと思っての行動だったらしい。

 

「.......先生、申し訳ないんですけど───」

 

それを聞いた猿山が御門に謝罪し、すぐにリトの元へ行こうとしていた時。

 

「私の事好きなんでしょ?どちらを優先するべきか、なんて一択じゃないかしら?」

 

御門に袖を引っ張られた。

そんな行動をするなんて微塵も思っていなかったので、驚く猿山。

 

「それでも行っちゃうの?」

 

「え、えーと.......参ったな」

 

暗に離れるなと圧を送る御門。

荷物持ちが増えたから連れてきたと言うのに、突然いなくなってしまえば負担が増える。

そんなのは真っ平御免なのだろうと猿山は思った。

 

「君から誘ってきたじゃない」

 

「えぇ、まぁ.......」

 

「しかも、私は最初乗り気じゃなかったわよね?」

 

「は、はい」

 

「でも君があんまり頼み込むから了承したわ」

 

ここで、猿山を逃がさない様畳み掛ける。

 

「なのに勝手にどこかへ行くなんて、おかしいと思わない?」

 

「うっ......」

 

何も言い返せなくなる猿山。

だが親友の危機に立ち止まっている場合ではない。

 

「えーと、本当にすんません。でもリトがピンチで.......」

 

猿山は少し焦る。

 

「......なんてね」

 

「へ?」

 

どう説得しようと頭をフル回転させていた手前、思わぬ言葉を聞いたことで猿山の思考が止まった。

 

「ちょっと困らせてみたかっただけ。いつもの仕返しよ」

 

そう言って悪戯っぽく笑う御門に、猿山は敵わないと乾いた笑いを出した。

 

「よくわからかいけれど、急用なんでしょ?早く行きなさい」

 

「......今度お詫びに何かします。マジで」

 

そう言ってリトのもとへ駆け出した猿山の背中を見送った後、御門はちょっとした自己嫌悪に陥った。

 

「.......自分でも分かってるわよ。変なことを言ってるって」

 

そして、小さく呟いた。

 

「しょうがないじゃない」

 

その時猿山は、移動しながらもしもの時の備えをとっていた。

 

「あー弄光さん?今から言う場所に来て欲しいんですけど」

 

リトに居場所を聞き、すぐさまそこへ向かう猿山。

弄光を招集をかけ、学校で忙しい佐清には何も伝えなかった。

 

「さーてと、どこだー?」

 

猿山は近くのビルの屋上から辺りを見下ろし、1番騒ぎの大きな場所を探す。

するとすぐ傍で謎の衝撃音が聞こえた。

 

「あそこだな」

 

猿山は2人に連絡しつつ、1番に現場へ駆け出した。

到着すると、猿山を見るや否や背中に隠れるリトの姿が。

 

「猿山!巻き込んでごめん!」

 

「ああ。それで、殺し屋っていうのはどこだ?」

 

「あそこ......って.あれ?」

 

リトが指さす先には倒壊した建物しかなく、殺し屋らしき相手の姿は見えなかった。

2人が今の内に逃げようとした瞬間、猿山の首に刃物が触れようとしていた。

 

「っ!」

 

勘で咄嗟にしゃがみ込んだので、運良く躱す事ができた。

刃物の出処を探ろうと視線を動かすと、そこには見覚えのある金髪美少女がいた。

 

「え、あの子殺し屋なのか?」

 

「ど、どうした?」

 

「.......俺、前にあの子と飯食ったりしたんだけど」

 

「えっ、え!?」

 

リトが驚くも少女は無視して猿山に突進し、髪を拳に変化させて連撃を叩き込もうとする。

 

「あなたに恨みはありませんが、標的である以上、始末させてもらいます」

 

「へぇ、アプローチにしちゃ随分熱烈だな?」

 

「猿山.......?」

 

この時、リトはギ・ブリーの件を思い出した。

あの日乱入してきた猿山には、掴みどころのなさがあった。

そして今の猿山にも、それと同じものを感じていた。

 

「リト、少し離れた所に校長と弄光さんがいるはずだ。そこまで急いで逃げろ」

 

「お、お前はどうすんだよ!?」

 

「大丈夫だ。説得してみせるよ。少ししたら仲良く戻ってきてやるさ」

 

猿山にそう言われ、背を向けて全速力でその場を離れるリト。

少女もそれを気にする素振りはなかった。

 

「親友である結城リトを餌にすればあなたが来ると報告がありましたが、本当だったようですね」

 

「なら、なんであの時殺らなかったんだ?」

 

「.......あの時はまだ、依頼が来ていませんでしたから」

 

「依頼?もしかしてララちゃんの婚約者候補か?」

 

「.......知っていたのですね。なら話は早いです」

 

会話は終わりだと言わんばかりに殺意を向ける少女。

対する猿山は、戦いたくなさげに特殊なグローブを取り出した。

 

「まさか戦うつもりですか?その変なグローブで?」

 

「ん?そうさ。言っとくけどあんまり距離詰めない方がいいぜ?」

 

「舐めないで───」

 

少女は攻撃を繰り出そうとした瞬間、自らに死の気配を感じた。

 

「!」

 

殺し屋の勘で反射的に動きを止めた少女だが、すぐ前で地面が綺麗に切られていたのを見て、一歩踏み出せばどうなっていたかを悟った。

そして、猿山の周りで煌めく細い線。

 

「(糸.......?)」

 

1本1本が細く、常人では視認するのが難しいものの、少女ならば見切ることは可能である。

 

「この”エクセリオン”を武装した俺に迂闊に近づくと、刺身になるからよ」

 

「!」

 

今の猿山は普段とはまるで別人のような目をしていた。

まるで、抹殺者の様な。

 

「あなたは一体.......何者ですか」

 

「ミステリアスな男ってかっこいいと思わない?」

 

猿山が話している途中に、少女は超スピードで切りかかってくる。

容易く避け、少女から距離をとる猿山。

それに対して少女は、エクセリオンの糸を警戒しながら遠距離用の攻撃を仕掛けた。

 

「早く死んでください」

 

長距離射程の拳。

当たれば以前の様に吹っ飛ばされるので、猿山はあくまで攻撃を捌く事に徹していた。

エクセリオンの糸で建造物を切りながら、少女の拳を引っ込ませる。

 

「殺し屋としては強いかもしんないけど、まだ甘い」

 

調子に乗り始めた猿山に怒ってか、少女は全力を以て刃物に変身させ、目の前のナンパ男をねじ伏せようとする。

 

「早く消えてください、猿顔!!」

 

「えっ!?」

 

刃物という事は射程距離が短いので、必然的に少女が猿山に突っ込む事となる。

猿山はそれを回避しつつ、エクセリオンを駆使して少女を縛り上げようとしたが、思わぬ悪口には崩れ落ちた。

 

「.......案外呆気ながったですね」

 

「猿顔はダメでしょ.......」

 

「敵に感情を揺さぶられるなんて、未熟です」

 

それを見た少女は今の内に確実にとどめを刺せるよう、腕を刃に変えた。

 

「さようなら」

 

崩れ落ちている猿山は、刃が振り下ろされた瞬間に人差し指を動かした。

すると、1本の糸が少女を縛り、それに続いて残り4本も少女の体を拘束した。

 

「あなた.......!」

 

「だから言ったじゃん。詰めちゃダメだって」

 

少女は罠に嵌められたと歯噛みした。

対して猿山は余裕の表情。

しかし精神的ダメージ自体は本当に入っていたので、少し引き攣った顔をしている。

 

「く.......!」

 

「変に動くと輪切りになっちまうから、あんまり動かないでもらえると助かるよ」

 

これ以上の戦闘が無駄であり、猿山か自分を傷つけないようにしていることを理解し、少女は戦闘態勢を解いた。

猿山も拘束を解き、少女を現場から逃がし、離れた場所で話を始めた。

 

「なんで宇宙人に殺すよう依頼されるんだ?覚えないんだけどな」

 

「ラコスポ.......依頼人によると、貴方は結城リトと手を組んでデビルークを乗っ取ろうとしていると.......」

 

捏造極まったその情報に、猿山はラコスポという依頼人をとっちめるこ とにした。

少女自身、依頼人には嘘を吐かない様に強く言っていたにも関わず、ラコスポから伝えられたのはあの日の猿山を見れば信じられないものばかりだった。

 

「えっ、ちょっと待ってよ。俺そんなやつに見える?」

 

「依頼人の言葉である以上、信じるしかありません。でも.......信じたくありませんでした」

 

自らの感情を押し殺して依頼を遂行していたのだろうと、猿山は少女の思いを少し理解した。

 

「あらら、結構俺の事好きだったりするのかな?」

 

「好きとか、そういうのは分かりません。でも、あなたは私に優しくしてくれた。嫌われ者の私に笑いかけてくれた」

 

自嘲気味に言う少女。

誰かから与えられる優しさなど、殺し屋として生きていればとても経験できるものではない。

だからこそ少女自身も、それを笑いながらくれた者が悪人だなどと思いたくなかった。

 

「とても、嬉しかった」

 

少女は猿山の抹殺を依頼された時、猿山に勝機はないと思っていた。

ただの人間が自分に勝てるはずないと。

 

「殺し屋である私は、今まで標的からは恨まれるばかりでした。仕事柄当然ですが」

 

だが実際に戦ってみれば猿山は想定外の強さで自分を翻弄していた。

傷つけることなく今こうやって笑ってくれている。

だから少女は、どうしても心の奥底、深い深い所で期待してしまう。

 

「ほー」

 

猿山は少女の話を聞いて尚、何も気にしていないように言った。

 

「知ってる?女の子って笑顔が1番素敵なの」

 

「はい.......?」

 

「だから君も、もっと笑っていいんだ」

 

そう言って少女の口角を指で上げてみせる。

 

「ほら、こんなに良い笑顔なんだからさ。いっぱい笑わなきゃもったいないでしょ?」

 

「あなたは何故......」

 

自分に情を向けてくれるのか。

少女がそう思った矢先、猿山は言った。

 

「誰が君を恨んでたとしても、俺は君を恨まない」

 

「.......!」

 

「だから君は、殺し屋の自分を嫌わなくていい」

 

優しくあやす様に、猿山は笑って言った。

少女の目に涙が溜まる。

少女は、その涙が猿山に見えないよう何とか隠す。

猿山が不自然に動く少女にどうしたのかと問おうとした時、少女はか細い声で呟いた。

 

「.......ずるいですよ」

 

そして、縋る様に猿山を抱きしめた。

猿山はただ受け入れた。

 

「.......ま、レディーは大切にしないとな?」

 

それを聞いた少女は思わず笑い、さらにくっつく。

猿山は少女の背中を優しく叩く。

少女は拒まず、むしろ求めていた。

 

「こういうのって、心が温るんですね」

 

「そりゃあ愛情持ってやってるからね」

 

猿山の胸の中で、少女の肩がびくっと震えた。

 

「どしたの?」

 

「あなたが、私を.......?」

 

「キミみたいに可愛い子は好きだぜ?」

 

「好き.......本当ですか?」

 

少女は好意を向けられる事に慣れていないのか、確かめるように、けれども少し恐れながら聞いた。

猿山はそれに笑みで答え、少女から離れた。

 

「また会おうぜお嬢ちゃん。今度はゆっくりしような?」

 

薄情にもリトのいる方へ向かって消えていく猿山。

 

「猿山、ケンイチ.......」

 

少女は止めようと手を伸ばす事もせず、ただ胸に、彼の名前を刻み込んだ。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

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