ToLOVEる VII   作:フェンネル

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バレンタインと旧校舎の幽霊

金色の闇にふざけた依頼をし、あまつさえリトも始末しようとしていたというララの婚約者候補。

それをとっちめるべく、猿山は爆走していた。

 

「にしても、さっきから何だ?この野太い鳴き声は......ネコかな......?」

 

そんなことを言った途端、何かが吹っ飛ばされたように空高く飛んでいき、星になった。

 

「えっ?」

 

それを見た猿山は、飛んだ方向から大元が近くにあるのではと考え、手当り次第に探し回った。

そして、何故か神社でリト、ララと出会った。

 

「こんな所でドンパチやってたのか?」

 

「猿山、助けてくれっ!」

 

会って早々縋り付くリト。

近くに危機らしきものはないのに、何故ここまで焦っているのか。

 

「あの殺し屋が、オレを始末するまで地球にいるって......」

 

「あの殺し屋」というのが、例の金髪美少女であると察した猿山は、泣き出すリトの肩に手を置いた。

 

「あー......大丈夫だよ。学校にいる内は守ってやるから」

 

「ほ、ほんとか!」

 

「あァ。けど、それ以外はララちゃんを頼れよ」

 

「......お、おう」

 

ララの方を見ながら、不安を隠さぬ様子で項垂れるリト。

 

「(つっても、あの子なら大丈夫だと思うんだけどな......)」

 

猿山は金色の闇をそれ程危惧するでもなく、未だに死んだ顔をしているリトを落ち着かせることに尽力した。

その一件から少しした時、猿山がいない時にリトは金色の闇とバッタリ会ってしまったらしく、

 

「あいつぜってー猿山がいない時見計らってるって!」

 

と慌てていた。

対して猿山は、

 

「俺は会いたいんだけどなぁ」

 

と楽観的な様子だった。

楽観的というのはあくまで金色の闇を恐れているリトから見たものであり、猿山やララは彼女に対して良くない感情は持っていなかった。

 

「ま、あの子が楽しいならそれでいいや」

 

そんなこんなで数日後、リトは下駄箱で猿山と話していた。

 

「ところで今日バレンタインだけど、リトは春菜ちゃんからチョコ貰ったか?」

 

「えっ!?も、貰ってねーよ!」

 

「おぉ、すげぇ食い気味だな。欲しいんじゃねーの?春菜ちゃんチョコ持ってたろ」

 

事実、リトの想い人である春菜はチョコを持参しており、それを知ったリトはもしや本命を誰かに渡すのではとハラハラしていた。

 

「そ、そりゃ欲しいけど......」

 

「だったらアピールしようぜ!」

 

「アピールって言ったって......」

 

「見とけ。俺が手本見せてきてやる」

 

そう言って猿山は廊下にいる里紗と未央の元へ向かい、それは丁寧な土下座を繰り出した。

 

「お二方、どーかチョコレートを恵んでいただけないでしょうか!」

 

「(アピールってそれかよ!?)」

 

ただのタカりである。

 

「えっ、持ってないけど」

 

「私もー。あ、でもララちぃがチョコ持ってきてくれてるから貰ってきなよ」

 

「マジ?ちなみにララちゃんは何処に?」

 

「教室ー」

 

「ありがとう2人とも!」

 

それを聞いた猿山はスキップでリトのもとへ戻り、親指を立てた。

 

「ざっとこんなもんよ!」

 

「2人からは貰えてねーじゃねーか!」

 

「ま、まぁ要は真摯な気持ちだよ」

 

そんなやり取りをしながら教室に入ると、大量のチョコを持ったララがいた。

 

「あ、2人ともおはよー!はいこれチョコだよ!」

 

「お!?ララちゃんくれるの!?うれしィ〜〜!!」

 

「ララ、お前なぁ......」

 

「ていうか珍しくリトと来てねーと思ったけど......」

 

「あ。なんか用があるって言ってたけど、こういうことだったのか」

 

ララはバレンタインを「皆にチョコを配る日」だと思っていたらしく、男女問わず全員にチョコを渡していた。

クラスメイト達もチョコを食べていたらしく、味は概ね好評だった。

 

「ララちゃん、チョコもう一個貰っていいかな?他の人にもあげたいんだけど」

 

「もちろん!はいどーぞ!」

 

「ありがとー!」

 

ララから2つ目のチョコを貰った猿山は、チョコを紙に包んで保健室へ向かった。

 

「御門せんせー!おはようございまーす!」

 

「あら、おはよう。久しぶりね」

 

「すみませんね、最近顔出せてなくて」

 

「怪我してないってことでしょ?むしろ喜ばしいわ」

 

「ありゃ、寂しがってくれてると思ったのにー」

 

「で、どうしたの?」

 

「あ、そうだ。ララちゃんから皆に配ってるチョコ貰ったんですけど、良かったらどうですか?」

 

猿山がララのチョコを2つ差し出すと、御門は少し固まった。

 

「先生?」

 

「......あ、あなたはそのチョコ食べたの?」

 

「えっ?まだですけど」

 

「......そう」

 

御門はホッとしたような、ガッカリしたような様子で息を吐き、説明を始めた。

 

「そのチョコはね、催淫効果のあるホレ星の薬草が入ってるの。要は惚れ薬ね」

 

「えっ!?」

 

思わずチョコを凝視する猿山。

それと同時に1つの疑問が。

 

「あれ?なんで先生が知ってるんすか?」

 

「そのチョコの作り方を教えたのは私だもの」

 

「あーそういう......って、そういえばこの学校の人達がチョコ食べちゃってるんですけど」

 

「てっきりララさんは結城くんに渡すのかと思ってたんだけど......それならちょっと大変なことになってるかもしれないわね」

 

「何やってんすか先生ぇ......」

 

「ふふ、ごめんなさい♡」

 

誤魔化すように笑う御門。

その顔が可愛らしいので猿山はすぐ手のひらを返した。

 

「全然良いんすよ!てか食わなくて良かったぁ......」

 

「あら?あなたは食べても変わらないんじゃないかしら?いつもあんな感じだし」

 

「あれ?俺の扱い雑になってません?」

 

「冗談よ。とりあえずみんなの様子を見に行きましょうか」

 

「そっすね」

 

御門曰く薬草の効果はすぐ切れるらしく、それほど心配する事態でもないと言われて多少安心した猿山だったが、教室に向かう途中で多数の生徒達に追いかけられたことでその安心は一瞬にして消え去った。

さらに気づいた時には御門とはぐれてしまっていた。

 

「あーくそ、どうやったら止められんだこれ」

 

「さ、猿山ー!」

 

「その声はララちゃ───って、どういう状況?」

 

ララに助けを求めるように呼ばれたので振り返った猿山だったが、何故か服が少しはだけていたり、髪もボサボサになっているという状況に思わず戸惑う。

 

「みんなヘンになっちゃったよ〜!」

 

そのすぐ後御門の言葉を思い出し、目の前の光景が惚れ薬の効果であることを察した。

 

「御門先生から聞いたんだけど、あのチョコ惚れ薬が入ってるんだってさ」

 

「えーっ!?だ、だからみんなこんな風になっちゃったんだ......」

 

「そうみたいね。でも効果はすぐ切れるらしいから大丈夫って言ってたんだけど......」

 

猿山は今のララの状況を見て、リト達がどうなっているのか気にせずにはいられなかった。

 

「あれ?でも猿山は普通じゃない?チョコ食べたんだよね?」

 

「や、俺はまだ食べてないんだよね。御門先生にあげようと思って2つとっておいたんだ」

 

猿山は結果として助かったと、改めて胸を撫で下ろした。

 

「あ、そうだ。リト達ってどうなってるかわかる?」

 

「うーん、気づいたらいなくなってたんだよね。春菜も」

 

「春菜ちゃんも?......ララちゃん、とりあえずどっかに避難しときなよ。俺リトを探してくるがら」

 

「じゃあ私も行くー!」

 

「えぇ!?あ、危ないと思ったんだけど......まぁララちゃんがそう言うならいっか」

 

「それじゃレッツゴー!」

 

かくして珍しい2人組のリト、春菜の捜索が始まった。

始まったのだが、

 

「ぜんっぜん見つかんねー......」

 

「どこ行ったんだろ......」

 

2人は学校中を粗方探し回った。

途中生徒達に迫られたりもしたが、窓から飛んだりして上手く逃げていた。

結局リトと春菜は見つからなかったものの、ひと段落したので今はベンチで休憩している。

 

「そういえば猿山に聞きたかったんだけどさぁ」

 

「うん?」

 

「ヤミちゃんって知ってる?」

 

「ヤミちゃん?うーん、女の子の名前なら忘れないんだけどなぁ......」

 

「金色の闇って呼ばれてるんだけど」

 

「あの子ヤミちゃんっていうの!?」

 

猿山が思わず大声を出すと、ララは質問した側ながらも少し驚いた反応を見せた。

 

「で、あの子がどうかしたの?」

 

「リトから聞いたんだけどね、前にヤミちゃんがリトを狙ってきた時、猿山が助けてくれたって」

 

「そういえばあったねぇ」

 

「それってさぁ、ヤミちゃんと戦ったってこと?」

 

「えっ?あー、まぁ話し合いだよ」

 

「ほんと?」

 

「ほんとほんと」

 

やたら疑うララに対して、猿山は何かの探りを入れているのではと考えついた。

 

「猿山って結構強そうな感じしたからさー、もしかしたらヤミちゃんと戦って勝ったりしたのかなーって思ったんだけど」

 

「へへへ、照れるでやんすよ」

 

「それになんとなくだけど、他にもそういう人がいるような気がするんだよね」

 

「ほぇー。ララちゃんも面白いこと考えるねぇ」

 

「あとヤミちゃんが猿山のこと強いって言ってたから」

 

「あれぇ!?ヤミちゃん!?」

 

「あーっ、やっぱりそうなんだ!なんで隠すのーっ!?」

 

「......まぁ隠すつもりもないんだけど、謎がある方がかっこいいじゃん」

 

「そうかなぁ......あっ!私、猿山が戦ってるところ見てみたい!」

 

目を輝かせるララに対して、負けずとノリノリの猿山。

 

「へへ、じゃあちょっとだけ見せちゃおうかな!」

 

「おー!」

 

演劇でも始まったように拍手するララ。

猿山は準備しようとした時、あることに気づいた。

 

「......戦う相手いなくない?」

 

「えっ?......確かに。あっ、じゃあ私と力比べしてみる?」

 

「えぇ......女の子と戦うのは趣味じゃないんだけどなぁ」

 

「えー......見たかったのになぁ......」

 

「ごめんごめん。機会があったら見せてあげるからさ」

 

機会というのはリトが周りに助けて貰えない状況にあったり、ララ達がピンチになってしまってる時なので、余程のことが無い限りは見られないとララは項垂れた。

そんなこんなで2人が話している間に惚れ薬の効果も解けたらしく、この件は一件落着(?)となった。

 

「は、春菜ちゃんからチョコ貰っちゃったぜ」

 

「マジ!?」

 

本命か義理かは分からなくとも、リトにとっては最高のバレンタインとなった。

そして猿山はいつも通り保健室にいた。

 

「そういえばあの時、何でチョコ2つ持ってたの?」

 

「あぁ、御門先生に渡してから俺に渡してもらえれば、先生からチョコ貰ったことになるでしょ?」

 

悲しい男である。

 

「......それでいいの?」

 

「貰えないよりマシです!」

 

「......じゃあこれ、ちょっと遅いけどあげるわ」

 

御門は小さなチョコを1つ、猿山に渡した。

ララが持っていたものとは違う形のチョコだった。

 

「ララさんに教えながら作ったやつだから、処分に困ってたの。ホレ草は入ってないから、安心していいわよ」

 

「うおおお!やったーーっ!!いただきまーす!」

 

ご機嫌でチョコを口に放り込む猿山。

そして数秒後、目を見開いて満面の笑みを浮かべた。

 

「う、うんめぇええ!!」

 

「そ、そう?そんなに?」

 

「はい!マジで美味いっすよ!先生、もう1個、もう1個ないですか!?」

 

「はいはい。また今度あげるから早く教室戻りなさい。もうチャイムが鳴るわよ」

 

「絶対っすよ!」

 

猿山を保健室から追い出した後、御門は椅子に座り直して仕事を再開した。

その最中、

 

「......よかった」

 

そんな一言が思わず漏れていた。

このバレンタインからしばらく時が経った朝、猿山は下駄箱で春菜に会った。

 

「あ、春菜ちゃんおはよ」

 

「おはよう、猿山くん」

 

「ごめんね、企画しといて誕生日会行けなくて。めちゃくちゃ行きたかったんだよー」

 

「ううん、気にしないで。でも、結城くんは寂しがってたよ」

 

「えぇ......?で、春菜ちゃんは楽しいひと時を過ごせたのかな?」

 

「え?うん。もちろん───」

 

「リトと」

 

「へぇっ!?」

 

春菜はみるみる顔を赤くし、顔を手で覆った。

 

「ゆ、ゆゆゆ結城くんとって......!?」

 

「キャー!春菜ちゃんったら可愛いんだから!」

 

猿山は半ばオネエ化していた。

 

「猿山ー!」

 

「ん?はいはーい♡」

 

そして更に春菜をからかおうとしたところ、ララに呼ばれたのでそちらへ移動した。

リトや里紗、未央も集まっており、何やら盛り上がっている様子だった。

 

「旧校舎の幽霊話ィ?」

 

「うん。昼休みに皆で確かめに行くんだけど、猿山も行かない?」

 

「行く行くー!」

 

というやり取りの後、ララ一行は旧校舎に来ていた。

震える春菜と共に。

 

「わ〜、いかにもって感じだね〜」

 

「幽霊さんいますかー?」

 

「ラ、ララさん、別に呼ばなくても......」

 

臨海学校よろしく幽霊の類があまりにも苦手な春菜は、入ってまもなく既に青ざめていた。

 

「(た、頼むから出てくるな〜......)」

 

そしてリトもフライパンを持ちながら、猿山の背中に隠れていた。

 

「ん?」

 

「ど、どうした猿山?」

 

急に真剣な顔つきで一点を見つめる猿山。

思わず一行の空気が冷える。

 

「も、もしかして幽霊いた?」

 

「えっ!?」

 

焦るララ以外の女性陣。

リトもフライパンを構え直して猿山と同じ方を見つめる。

 

「あそこから女の子の気配が───」

 

瞬間。

 

「おぼぼぼぼぼ!!」

 

猿山は里紗と未央から往復ビンタを喰らい、吹っ飛ばされていった。

 

「猿山ー!?」

 

「もー、猿山ってばビックリさせないでよ!」

 

「あんな奴ほっとこ!」

 

「お、おい───うわっ!」

 

「ほら、リトも早く行こっ!」

 

そして猿山を拾おうとしたリトもララに手を引かれて連れていかれてしまう。

 

「でも猿山が......」

 

「猿山なら大丈夫だって!」

 

ララがそう言った数秒後、届くから猿山の呑気な声が聞こえた。

 

「みんなー!俺はこの気配を探ってみるぜーい!」

 

「ね?」

 

「気配って......ただナンパしにいくだけじゃねぇか......」

 

心配ご無用のいつも通りの猿山を見て安心したリトはララに引かれるままついて行った。

そしてその猿山が感じた気配の正体は、風紀委員の古手川唯だった。

 

「あれ?古手川サンじゃん。何してんの?」

 

「さ、猿山くん!?わ、私は風紀委員として見過ごすわけにはいかないから───」

 

「あー、そういうことね。リト達ならあっち行ったけど、ついて行かなくていいの?」

 

「えっ?あっちって......」

 

猿山の指さした方は、廊下の奥。

真っ暗で何も見えない、薄気味の悪い場所。

 

「っ!」

 

「ありゃ、古手川サン幽霊とかダメなタイプ?」

 

「ば、バカバカしいわ幽霊なんて!」

 

唯は口では強がっているが、猿山が離れると大急ぎで距離を詰めてくる。

怖がっているのは明らかだった。

 

「......とりあえずリト達と合流しようか」

 

「え、えぇ」

 

「急ぐかゆっくりするかどっちが良い?」

 

「そ、そんなの急───きゃあっ!?」

 

「ちょっとごめんねー」

 

「ハ、ハレンチよっ!!」

 

「ぐふっ!」

 

唯を抱え、ビンタを喰らいながらも猿山はリト達の方へ走った。

思ったほど離れていなかったらしくすぐに追いつき、唯を下ろした。

 

「へいお待ち」

 

「女の子の気配って唯だったんだー。猿山ってばよくわかったね」

 

「へへっ、俺にかかればレディーの発見なんて容易いもんさ!」

 

「びっくりしたー。やっぱり幽霊なんていないよねー!」

 

「うん?......おーっともうひとつ発見!」

 

合流してすぐ猿山はまた女性の気配を見つけたようで、廊下の奥へ消えていった。

 

「行っちゃった......」

 

「ま、猿山はほっといてとりあえず進もっか!ほらララちぃも早く!」

 

「あ、うん!」

 

そして猿山はというと、

 

「へぇ、じゃあお静ちゃんはずっとここに?」

 

「はい......もう400年になります」

 

本当にいた旧校舎の幽霊と話していた。

和服の幽霊の名はお静。彼女は誰にも看取られず死んでしまったせいでこの地で留まっていた。

 

「400年かぁ......すごいねぇ、途方もない数字だよ」

 

「ふふ。女は強し、です」

 

「じゃあ噂の正体はお静ちゃんで間違いないのかな?」

 

「はい。ここにいる幽霊ということなら、私だと思います。ただ......」

 

「ただ?」

 

お静は、何か問題を抱えているようだった。

 

「私の他にも、ここに住み着いている方々がいらっしゃって......」

 

「他にも......」

 

「その方々も噂に一役買っているかもしれません」

 

「へぇ......ちなみにその方々ってのは───」

 

猿山が問うた瞬間、旧校舎のどこかで轟音が鳴った。

 

「なんだぁ!?」

 

「恐らくあの方々が、ここに入ってきた皆さんを襲っているのでしょう」

 

それを聞いて猿山はすぐ走り出した。

 

「ごめんお静ちゃん!ちょっと待ってて!またすぐお話しに来るからー!」

 

「ふふ、お待ちしてます」

 

お静は微笑みながら手を振り、猿山を見送った。

 

 

 

 

 

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