ToLOVEる VII   作:フェンネル

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下心と寂しんぼ

「何だか、やけに旧校舎の方が騒がしいわね......」

 

そんな声が、保健室で聞こえた。

 

「皆大丈夫か!?......って」

 

猿山がリト達の元へ駆けつけた時に目にしたのは、気絶した人間ではない見た目の生物(?)多数と荒れに荒れた校舎、そしてボロボロのリトというどういう過程でこうなったのかが分からない光景だった。

 

「あっ聞いてよ猿山!春菜ってば凄いんだよー!」

 

ララ曰く、恐怖でパニックになった春菜がリトを振り回したことで全員をノックアウト出来たのだという。

 

「マジ?パワフルだねぇ」

 

そのせいでリトはボロボロになって気を失っていた。

 

「それにしても、お化け沢山いたんだねぇ」

 

「違いますよプリンセス。どうみても皆、宇宙からの来訪者です」

 

「え?」

 

「そ、その通り」

 

ヨロヨロしながら、1番大きなお化け、もとい宇宙人は旧校舎に住み着いていた訳を話し始めた。

 

「オ、オレ達......みんな故郷の星でリストラされたんだ......宇宙を放浪している内に流れついて、いつの間にかそんな連中が集まって......」

 

「なるほどね、それで住み処を守るために幽霊騒ぎを起こしてたワケね」

 

「御門先生!」

 

ララが名前を呼んだ途端、宇宙人達はざわつき始めた。

 

「ミカド......?あの有名なドクター・ミカド!?」

 

「フフ......あなた達、この子達に手を出してよくその程度で済んだわね」

 

宇宙人達は御門からララがデビルークの姫であること、金髪の少女が金色の闇であることを教えられると、泣きながら許しを乞うていた。

 

「しっかし、ここに住み続けるのはマズイと思うのよねぇ......あ、そうだ。私がお仕事紹介してあげよっか!」

 

御門の知り合いに遊園地を経営している宇宙人がいるらしく、そこで働かないかと提案したことで旧校舎の宇宙人たちは去ることとなった。

 

「いやー、良かった良かった」

 

「宇宙にもリストラってあるんだな......」

 

「俺達と規模違い過ぎねぇ?」

 

改めて幽霊はいなかったと各々がホッとし、旧校舎は笑いに包まれた。

と思ったのも束の間、最後の最後でお静が現れたことにより校舎中に悲鳴が響き渡ることとなった。

 

「お静ちゃんってばおどかすのうまいんだから」

 

「ま、まさかあんなに驚かれるとは思わず......」

 

「まぁ苦手な子はとことんダメって言うしなぁ......」

 

猿山はリト達が旧校舎を出た後、お静と話をしていた。

 

「ところで、お静ちゃんはこのままずっとここにいるの?」

 

「そうですね。離れても何もできませんし......」

 

寂しげなお静の顔を見て、猿山は言った。

 

「......ね、時々遊びに来てもいいかな?」

 

「まぁ!本当ですか!?」

 

そう提案をすると、お静はぱあっと明るい顔になった。

 

「本当本当!俺もお静ちゃんともっと仲良くなりたいし!」

 

「はいっ、お待ちしてます!いつでもいらしてください!」

 

本来はこういう性格なのだろうと猿山は思った。

 

「ほら、もう昼休みも終わるわ。早く行くわよ」

 

「いでででで!!」

 

猿山は御門に耳を引っ張られながらお静と約束を交わし、旧校舎を出た後保健室でだらけていた。

 

「御門先生、怖さで言えば宇宙人もお化けもどっちもどっちじゃないすか?」

 

「地球の感覚で言うと宇宙人の方がフィクションだからねぇ。幽霊は長年いるかもって噂されたりしてる分怖さが刷り込まれてるんじゃない?」

 

「ははぁ、なるほどなぁ」

 

「というか、もう授業始まってるわよ?」

 

「......マズーイ!!」

 

慌てて廊下を走る猿山を見て、御門はくすりと笑った。

 

「さ、仕事しようかしら」

 

その日の放課後、屋上にて。

ヤミはたい焼きの袋の傍らで本を読みながらドアを何度も見ていた。

誰かを待っているように。

 

「あ、いたいた!」

 

そしてドアが空いた時、慌てて視線を本に向けて気にしていない素振りを見せた。

 

「久しぶり。ヤミちゃんでいいのかな?」

 

「何か用ですか」

 

「ご用ご用!お隣失礼しまーす」

 

ヤミの隣に腰を下ろした猿山は、彼女の方を見て微笑んだ。

 

「......なんですか」

 

「地球はどうかな?楽しい?」

 

「そうですね。地球の文学は面白いですし、食べ物も美味しいです」

 

「そっか、良かった」

 

しばらく本を読んでいたヤミだったが、ふと口を開いた。

 

「......何も思わないんですか?」

 

「へ?」

 

「私は殺し屋ですよ。あなたも結城リトと同じ、私の標的です」

 

「ヤミちゃんに狙われんなら光栄でやんすよ。いつでも喜んで相手するぜ!」

 

そう言う猿山の笑顔は敵意などまるで無く、楽しそうなものだった。

この時ヤミがわざわざそんな質問をするのは優しさの表れだろう、と猿山は思った。

 

「それに、俺たちを狙ってる間は地球にいてくれる訳じゃん?君がこの星を離れない理由になれるしね」

 

「離れない、理由......」

 

「勝手な話だけどさ、ヤミちゃんにはもっと笑っててほしいんだよね。あとデートしたいし」

 

「あなたは、何故そう思うんですか?会って間もない、何も知らない私に」

 

「え?もったいないなーって」

 

「それは前に聞きました」

 

猿山は口をつぐんでしばらく考え込む。

そして絞り出した言葉が。

 

「可愛いからじゃダメ?」

 

これだった。

実に単純かつ馬鹿らしい理由である。

思わずヤミは顔を逸らす。

 

「そんな意味のわからない理由で......」

 

「だって実際そうじゃん」

 

「まったく......」

 

そして、

 

「変な人ですね」

 

少し綻んだ顔でそう言った。

それから2人の間に会話は無かった。

聞こえるのは部活動に勤しむ生徒達の声だけ。

どれだけ時間が経ったか分からない頃、ふと夕日が沈みそうになっているのを見て、ヤミは本を閉じて立ち上がる。

 

「いつか、あなたも始末しに行きます」

 

そう言い残して。

背を向けて、その場を去る準備をする。

対して猿山は引き止めることはせず、ただ一言。

 

「待ってるよ」

 

笑顔で言った。

返事をすることなくヤミは飛び立った。

猿山は彼女を見送り、自身も屋上を後にしようとした。

 

「...........」

 

一瞬の躊躇いの後引き返したヤミは、再び屋上に降りた。

そしてドアノブに手をかけている猿山の名を呼び、彼が振り向いた瞬間、たい焼きを1つ渡した。

 

「良かったらどうぞ」

 

「ヤミちゃんからのプレゼント!?」

 

「別に。この前の借りを返しただけです。勘違いしないでください」

 

ヤミは起伏のない声で冷たく言い放った。

 

「トホホ......」

 

猿山は涙目になった。

 

「......いらなければ捨ててもらって結構です」

 

そんなヤミの一言を、猿山は笑い飛ばしながらこう言った。

 

「捨てないよ。せっかくくれたんだから残さず食べるぜ!」

 

そしてたい焼きを頬張り、生地と中身の甘さのバランスに思わず唸った。

 

「ヤミちゃん!めっちゃ美味しいよこれ!」

 

「そ、そうですか」

 

ヤミが渡したたい焼きはあっという間に完食された。

3口で。

 

「ふぅ、ごちそうさま。ちょうど腹減ってたんだ。ありがとね」

 

猿山がとても嬉しそうに笑顔で礼を言うと。

 

「......どういたしまして」

 

ヤミは少し恥ずかしげに返した。

その表情を見逃す猿山ではなく。

 

「うわっ、今の顔超可愛い!」

 

もう1度可愛らしい顔を拝もうとヤミに詰め寄る。

 

「ま、またそうやってあなたは......!」

 

「もっかい見せて!お願いお願い!」

 

急に距離を詰められたことと褒め殺しにされそうな状況で、ヤミの顔はみるみる赤くなる。

 

「〜っ!」

 

そして恥ずかしさのあまり、思わず拳に変身させた髪で猿山を殴り飛ばした。

 

「ぐはっ!」

 

猿山は大きな拳に吹き飛ばされ、屋上を転がり回った。

頭には大きなタンコブが。

その上では星が回っている。

ヤミは荒くなった息と鼓動を静め、いつものクールな表情に戻り、

 

「......さようなら」

 

そう言い残して屋上から去った。

それに対して猿山は指を立てて見送った。

 

「またねヤミちゃーん!今度会ったらデートしよー!」

 

「しません」

 

というやり取りがあったことを、ヤミは読書中に声をかけてきたララとリトに話した。

 

「へーっ、ヤミちゃんって猿山と仲良いんだねぇ」

 

「別に仲良くありません。私にとって彼は結城リトと同じ標的。仲良くする理由もありません。向こうから話しかけてくるので、仕方なく応じているだけです」

 

「はは......(てか猿山も狙われてんだ......)」

 

そして件の猿山はというと、御門から呼び出しを食らっていた。

デートのお誘いかと呑気なことを言いながら保健室に入ると、そうそうに用件を切り出された。

 

「明日か明後日にオキワナ星で薬草を採りに行くからついてきて」

 

一瞬だけガッカリした表情になった後、御門と旅行できると知るや否や喜色満面になった。

 

「喜んで行きますけど、なんでまた?」

 

「万が一があったら怖いじゃない?ボディーガードをお願いしたいの」

 

「そういうことならお任せあれ!」

 

自信満々に親指を立てる猿山。

 

「報酬はそうね......これから治療費半額にしてあげる」

 

御門は本来ならば教え子からは治療費を取らない主義なのだが、猿山が実に馬鹿らしい理由で何度も怪我をしてくるのに加えてナンパもするものだから、保健室に来させないようにする為にハッタリも込みで「保健室に来る度に」治療費を取ると釘を指していたのだ。

 

「えぇ?もっと女の子からモテる薬とか───」

 

しかしこの男、それを聞いても保健室に来る頻度は減るどころか以前よりも足繁く通うようになってしまった。

これには御門も頭を抱えた。

 

「あら、こんな所に死ぬ程しみる薬があるわね」

 

「げっ!?」

 

「それで猿山くん。報酬の件なんだけどお気に召さないようなら他のものでもいいわよ?」

 

よって最初はハッタリだったので計算していなかった治療費を、割増で本当に取る事にしたのだった。

だがこの男、治療費の全てをツケと宣い有耶無耶にしていた。

なので御門は目の前の万年金欠男をいつかとっちめるため、これまで請求した治療費をメモしながら現状泳がせている状況である。

 

「い、いや!治療費半額かぁ〜!こ、光栄だなぁ〜!はは......」

 

「ふふ、交渉成立ね。それで、私たちが行く星の話なんだけど───」

 

御門からオキワナ星がどういう環境か説明を受けたことで、猿山は更にやる気を出していた。

 

「(ほぼ沖縄みてぇな海が綺麗な星か......てことは!)」

 

「?」

 

「(御門先生の水着が見れる!何がなんでも行くしかねーぜこれは!)」

 

「なんか変な事考えてないかしら?視線が怪しいんだけど」

 

「えっ!?いやいやいや!全然っすよ!先生をどうお守りしようかなと......」

 

「......ふーん。あ、それと日帰りだから準備は軽くで大丈夫よ」

 

「えっ!?2泊3日とかじゃないんですか!?」

 

「そんな訳ないでしょ。あなたとそんなに居たら何されるか分かったもんじゃないわ」

 

「トホホ......」

 

猿山は項垂れながら保健室を出た後、不意に何かを思い出した。

 

「ん?待てよ?明日か明後日って......」

 

そして教室にいたリトに謝罪した。

 

「すまんリト、俺海行けねぇわ!」

 

「えっ!?な、なんでだよ?」

 

この男、リト達と御門を天秤にかけて「御門の水着を見たい」という下心丸出しの理由でリト達との予定をキャンセルしたのだ。

日帰りであろうとその目的だけは達成するべく、心を燃やしている。

などと正直に言えるはずもなく。

 

「ちょ、ちょっと急用が......」

 

無理やり誤魔化した。

 

「き、急用なら仕方ねぇよ!でもそっか......男1人か......」

 

猿山は少し不安げな様子のリトと肩を組み、助言を与えた。

 

「周りはあんな可愛い子ばっかなんだ。とことん楽しんでいきゃいいんだよ!」

 

それが助言になっているかはさておき、あまりにも惜しそうな顔をしている猿山を見て、リトは貰った言葉を飲み込まざるを得なかった。

 

「お、おう。ありがとな」

 

リトの気遣いは純粋に猿山を思ってのことだったが、対する猿山の悔しげな顔の理由を理沙か未央が聞こうものならビンタものである。

 

「それに春菜ちゃんもいるんだろ?」

 

「!」

 

想い人の名前が出されたことで、リトは心を切り替えて強気になった。

 

「そうだよな、楽しめば良いんだよな!」

 

「おうよ!ちゃんと水着を目に焼き付けろ!」

 

「......なんか目的変わってねーか?」

 

そんなこんなで迎えた当日。

猿山は御門から連絡が無かったので結城家にお邪魔し、買ってきたアイスを食べながら美柑と遊んでいた。

 

「さ、最近の子ってこんなゲーム上手いの?」

 

「皆こんなもんじゃないの?」

 

2人は某レースゲームで遊んでいたのだが、猿山はCPUには勝てても何故か美柑には一向に勝てていなかった。

美柑は平然と1位を掻っ攫っていく。

そして猿山はというと、連敗数は2桁に突入してから数えないようにしていた。

 

「あ、そこバナナ」

 

「ぎゃああああ!今バナナの方からこっち来たって!」

 

小学生女児相手にゲームでボロ負けしながら1人で数人分騒ぎ散らかす男。

傍から見れば情けないことこの上ない光景である。

 

「っしゃ!このままブチ抜くぜーい!!」

 

ここで猿山がついに美柑を抜き去り、リードを広げようかというところ。

 

「甲羅投げるよー」

 

「ちょ、ちょちょ待っ───」

 

一瞬の栄光の後ゴール前で盛大に転がされ、中位でのゴールとなってしまった。

 

「あかーーーん!!」

 

「あははっ!猿山さん弱いね〜♪」

 

「ま、まぁ今は腹減ってるから弱いだけですー!」

 

苦し紛れに出た言い訳を聞いて、美柑は何かを閃いた。

 

「じゃあせっかくだしご飯作ってあげようか?」

 

「正直その言葉待ってました!お願いしやす!」

 

どさくさに紛れて人の家から、ましてや小学生に土下座で食事を集ろうとしていたこの男。

 

「いいよいいよ。アイス買ってきてくれたし」

 

それはそれとしてこのままじゃ35連敗も夢じゃないと危機感を覚えていたので、1度流れを止めるという意味でも猿山にとってはありがたい話だった。

 

「美柑ちゃんやっぱ料理上手いねぇ」

 

「まぁいつも作ってるし」

 

先程までの悲鳴やら絶叫はどこへやら。

全敗男は美味い美味いと言いながら食事を頬張っていた。

 

「いやー、しっかりしてるねぇ」

 

「そんなことないよ」

 

ここでは流石の猿山も食費を払っていた。

御門の治療費を踏み倒している男が。

当の御門はそんな事を知る由もなかった。

 

「猿山さんって料理しないの?」

 

「そりゃーちょっとはするけど、美柑ちゃん程頻繁じゃないよ」

 

「ふーん......」

 

美柑が作った昼食は普通の家庭料理だが、猿山の胃袋は完全に掴まれてしまっていた。

現に箸が止まらずにいる。

ひたすら美味しそうに食べる猿山を見て、美柑は笑っていた。

 

「よく食べるねー」

 

「美柑ちゃんのご飯が美味しいからでやんすよ。おかわり!」

 

「はいはい」

 

人の家で大飯を食らっているという状況ではあるが、猿山の賑やかな様子を見て美柑は嬉しそうにしていた。

 

「そういえば今日、リトに会いに来たんじゃないの?」

 

「ん?今日は美柑ちゃんに会いに来たんだよね」

 

リスのように頬を膨らましながら昼食を頬張っている猿山は何故といった顔をしている美柑を他所に。

 

「私に?」

 

「そ。寂しがってるんじゃないかと思ってね」

 

そう言い放った。

その言葉は美柑にとって図星だったらしく、その証拠と言わんばかりに驚いた表情をしていた。

だがすぐに取り繕って強がった。

 

「べ、別に?全然大丈夫だけど?」

 

なんでもなさそうな様子ではあるものの、美柑とて幼い少女。

家族との関わりに飢えることは仕方ないことである。

 

「ま、寂しくないならそれでいいんだけど」

 

家族でもない自分が変に詮索するのもよろしくないと思った猿山は、それ以上は深追いしなかった。

作ってもらった昼食を米1粒残さず食べ切り、食後にお茶を勢いよく飲んだ。

 

「あ、食器洗っとくよ」

 

「いいよいいよ。美柑ちゃんはゆっくりしてて」

 

そう言って食器を運んで今から洗い始めようとした時、猿山は動きを止めた。

 

「美柑ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「このお家ってどうやって食器洗ってる?ここのやり方教えてくんない?」

 

「あ、うん。ちょっと待ってね」

 

「いやーごめんね、ゆっくりしといてとか言っときながら」

 

「別にいいよ。いつもの事だし」

 

美柑から結城家のスタイルを学び、食べさせて貰った分の食器を丁寧に洗う。

そして。

 

「よっしゃ、一丁上がり!」

 

「おー、お見事」

 

食器を洗い終わった猿山は美柑に家で待つように言ってから外へ出た。

家の中にいるのは美柑1人。

いつもいるリトも、ララも、ペケもいない。

急に来てさっきまで騒ぎ散らかしていた男も、今はいない。

「寂しがっている」

その言葉を聞いてから、美柑は上手く笑えなかった。

 

 

 

 

 

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