レノ・クルーデルのメソッド   作:公私混同侍

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親衛隊の覚悟

 

「やぁ、今日の顔合わせをどうだった?その殺気立った様子を見ると、マフラヴィ将軍にレノを正式なネゴシエーターとして認めさせたようだね」

 

僕はあからさまに不機嫌な態度を取りガレスを見下ろした。

隣に座っていた姫様が不安気に僕の顔を覗き込む。

 

「レノ、顔色がよろしくないようですが、お兄様が原因なのですか?」

 

「あはは、怒りの矛先がボクに向いているということはそういうことなのさ」

 

悪びれるどころか、余裕たっぷりに僕の服の埃を取る素振りをした。

 

「正直に話してほしい。僕が『将軍』との交渉役に選ばれたのは()()()()()()()()()()()()()。どうしてそんな下らない嘘をついた?」

 

「レノは誤解している。身分議会に不信任を可決されたのは事実だけど、その後、『修正審議』があったことはミグレッタから教えてもらってないかい?その浮かない顔だと寝耳に水のようだね」

 

 

修正審議。

裁決にかけられた議案が否決又は不信任になった場合、身分議会議員による議案内容の修正が行われる。

議員の審議の結果、修正された議案は裁決が可決、又は信任されたものとみなされる。

 

 

ガレス(あなた)はレノをミオナウルとの交渉役に抜擢するため身分議会に乗り込んだ。議場は紛糾し不信任になる公算が極めて高い。そう判断したあなたは修正審議が行われる前に予防線を張ることを私たちや支持者に打ち明けた。それが非公式かつ非公開という条件付きであれば、不信任派も賛成に回るという内容だったんだ」

 

不信感は拭い切れていないが、ミグレッタの言葉に嘘偽りはない。

 

「あれやこれやと普段使わない頭をフル回転して、議会のお墨付きを貰おうとしたんだけどね。まあでも苦労して譲歩を引き出した甲斐があった。ついでにソレルの両親に票の斡旋を依頼しておいたんだけどね。代わりに非公式であれば身分議会の任命責任は問われない。非公開であれば国益を損なう結末になったとしても国民の耳には届かないし、全責任は親衛隊が負うという条件まで呑まされたんだから。少しはボクの意を汲んでほしいくらいだよ」

 

「親衛隊が全責任を負う……それって……」

 

「結論から言っちゃうとマフラヴィ将軍との交渉で王国の権威を失墜させた場合、親衛隊は解散になるという筋書きさ」

 

「な、な、なんだってぇぇぇッ!?」

 

重い……重すぎる……とんでもない重荷を背負わされてしまった。

姫様が情緒不安定な僕を心配そうに見つめる。

 

「お兄様はレノに背負わせ過ぎです。いくらなんでも国家の利益を天秤にかけて、交渉役を担わせようなんてやはり無謀だったのですわ」

 

「でもマフラヴィ将軍は身分議会でレノが不信任になったことは知っていたけど、修正審議で信任されたことまでは知らなかったようだね。ミオナウルに後援者がいるとは聞いていたけど、やっぱりボクの想像した通り息のかかった政治家は限られる」

 

ガレスに振り回されっぱなしだが、親衛隊の存続を賭けてまで僕を立てようとしてくれてたのか。

 

「そういえばマフラヴィ将軍の思想に賛同する支持者の名簿を手に入れてたんだよ。黙っていたお詫びといってはなんだけど、レノも見てみるかい?人数だけでも二万もの名が載っているみたいだね」

 

僕は無意識にガレスから手渡された迷彩柄の分厚いファイルを開こうとした。するとミグレッタが咳払いをする。

 

「レノの考えを聞いておきたい。クメリオ・マフラヴィという男についてどう思う?」

 

ミグレッタの咳払いに意図的なものを感じたが、ファイルの中身を確認する前に質問に答えた方が良さそうだ。

 

「う~ん……人望のある人だけあって背後に多くの人間が関与しているから、力ずくで頭を抑えようとするのは僕たちにとってもリスクが高い。それに余計な混乱を招く危険性がある。これは推測だけど腹の底にまだ国家建設以外にも別の野心を隠している、と思う。だけどどうして独立宣言までして、国内外に争いの火種を撒こうとしているのか気にはなってるんだ」

 

「ミオナウルは独立宣言後、特に目立った動きをしていない。嵐の前の静けさと考えれば納得いくが、オーバーグレーツ州内で音沙汰一つ無いのは不自然過ぎる。ミオン神殿周辺及び州境の避難指示は既に完了しているが、あまりにも手際が良すぎて猜疑心が軍部内で広まる有り様だ」

 

「ミグレッタ、オーバーグレーツ州の人間でも全ての民が将軍に賛同しているわけじゃない。それに独立宣言しているのにも関わらず、独立反対デモが州内で起きている話すら出てこない。ミオナウルは国家建設の手続きを進めているのかすら怪しい感じがする」

 

「レノもミグレッタも気づいたみたいだね。プトレミシュ・セレスツカ・アケメニのサレミオ同盟諸国はミオナウル支持を明確に表明した。とすると王国政府の動きを牽制しながら、僕たちの出方次第で武力介入も辞さない姿勢の表れと見ていいのかもね」

 

将軍が行った独立宣言の意図、オーバーグレーツ行政の不自然な対応、そしてサレミオ同盟諸国の圧力。

これらが一体何を指し示しているのか、見当もつかない。

考えれば考えるほど解こうとした糸が絡まっていく。民族と宗教は本当に厄介だ。

手を尽くそうとすればするほど複雑に絡み合っていく。皮肉なことはそれらの糸が束ねられて、積み重なって『歴史』となっている。困難を極める民族と宗教の問題、この二つの問題を解決するにはあらゆる側面からアプローチをかけていくしかない。

 

「レノはどうなさりたいのですか?」

 

僕たちの話を固唾を飲んで聞いていた姫様が問いかける。その目には小さな灯火がひらひらと揺らめく。

 

「解決策を三つだけ……あっ!?」

 

姫様の訴えかけるような表情が視線に入ってきたせいで、思わず口走ってしまった。

 

「もしかして解決策が浮かんでいるのかい?」

 

「それは本当なのか?しかも三つだと?」

 

いやいやいや。こりゃまいった。どう言い訳したらいいか。背中がやけにヒンヤリする。

解決策をみんなで出し合って三つぐらいは提案してもらおうと発言しようと思ったら、僕が三つも発案したみたいな空気になってしまったぞ。

今ならまだ間に合うが……。

ダメだ、姫様の純粋無垢の瞳は僕しか映していない。

ガッカリさせたくない。ああっ、なんて心苦しさだ。

もし時間を遡れるのなら、貝のように閉じこもって毎日が祝日なんだと自分に言い聞かせたい。

僕の心は優越感が勝っているんだ……思考を研ぎ澄ませ……神経を張り巡らせろ……。

 

「アハハ、レノが言葉に詰まらせてしまった。ランシアは過度に期待を膨らませているみたいだけど、ボクとミグレッタはキミをからかっただけだからね。気にしない、気にしない」

 

「そうだったのか。自分本位であった。すまない、レノ」

 

ミグレッタも僕に希望を抱いていたのか。裏切ってしまったみたいで胸が締めつけられる。

 

「そうじゃなくて――」

 

姫様とミグレッタが僕を見る。

二人の熱い眼差しを受け、僕は勇気を振り絞った。

 

「僕は……僕は三つの解決プランを提示します」

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