レノ・クルーデルのメソッド   作:公私混同侍

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クルーデル・プラン

 

クメリオ・マフラヴィ将軍との二度目の会談が始まった。

 

「また(ぬし)か。国民の付託を得ずによくもぬけぬけと顔を見せられたものだ。ここが戦場なら迷うことなく主の頭を撃ち抜いたものだが」

 

「フッ、哀れなピエロだな。老練さの欠片もない老兵はもはや戦場に必要とされない。身分議会が条件付きでレノを信任したことさえ知らず、べらべらと舌が回るものだ」

 

「ぬぅ……身分議会は我が関知しないところで調略されていたか。さしずめ陛下の落胤の差し金。損得勘定だけで動く性格は昔から変わっていないようだ」

 

「レノ、前置きはいらないぞ。あの男に我々が編み出した妙案を突きつけてやれ」

 

僕が胸の内に秘めた三つの方策を授ける時。

心臓の鼓動が高鳴る。負けることは嫌いだ。

でもそれは戦争で勝つことじゃない。

口喧嘩で勝つことだ。

相手に気圧されるな。絶対にへこたれるものか。

メガラ人として、国教信徒(エルミオン)としての誇りを見せつけるんだ。

今、この場で。

 

「僕らが提案するプラン。まず一つ目は二国家共存です」

 

「実に理想といえるかな。だがしかし、本気かどうか甚だ疑問ではある」

 

「独立宣言通りオーバーグレーツ州を一国家として認め、無条件かつ平和的に解決する案です」

 

「続けたまえ。耳障りの良い言葉でだけでは、我々の頑なな意志は梃子でも動かせまい」

 

「二つ目はオーバーグレーツに大幅な自治権を付与するプロシアデス連邦構想」

 

饒舌だった将軍は鳴りを潜める。まるで蝋人形のように眉一つ動かさない。

 

「ど、独立を認めない代わりに自治権をオーバーグレーツ州に付与します。主に王国憲法の範囲内に限り行政権、立法権などの権限を行使することになるでしょう」

 

「一応問うが、三つ目は独立すら認めぬのではないかな?」

 

「察しがいいな。流石は元帥まで掌中に収めただけのことはある」

 

ミグレッタが挑発する。これは作戦なんかじゃない。会談は予想とは違った方向に向かってしまう。

脱線した列車はすぐには元に戻せない。それは外交でも一緒だ。一度壊れた関係を修復するには時間を要する。でも今回は悠長なことなんて言ってられない。人の命がかかっているんだ。

 

「ミグレッタ、まだ僕の話が――」

 

「世迷言を。メガラ共和国建設以外に道はなし。対案なんぞに首を立てに振るとでも思ったか?我も愚弄されたものだな。よもや餓鬼共の茶番に付き合わされるとは」

 

「待って下さい。三つ目の案はメガラ人だけでなく反国教信徒(サレミオン)も救済される方法があるんです」

 

「メガラ人とサレミオンが救われる?フフフ、フハハハ!一も二も知らぬ餓鬼がほざくな!百年前、メガラ併合戦争で数多のメガラ人が命を散らしたのだ。併合後も対等に扱うなどと嘯きメガラ人とサレミオンは抑圧され、聖地まで奪われた。主は侵略者どもに加担する共犯者ではないか!違うと申すのなら意を唱えてみせよ!」

 

「ですが、将軍がしていることは侵略者と変わりありません。サレミオ同盟諸国を煽り戦争の引き金に指をかけて王国を揺さぶるつもりのようですが、これでは無関係の人たちまで命の危険にさらされてしまいます」

 

「だからなんだというのか。戦争は命の奪い合い、覇権の取り合い。即ち国家としての通過点に過ぎぬ。一般市民には戦争に協力する義務がある。国家を作るには民の力なくして成り立たぬのだ。なれば血が流れるのは必定。国家というものは血肉の上に建つということだ」

 

ミグレッタが加勢する。迷彩柄の分厚いファイルをテーブルに叩きつけた。

 

「しかし、貴様が差し出した独立賛成署名名簿はたった二万名しか書き連ねていない。しかもその内、戦闘員に成り得るものは八千弱。たったこれだけの軍事力でどうやって独立を担保する気だ?」

 

「戦争というものは軍事的な差で決まるものではない。外交、政治、経済などの複合的要因で決する。更に一度火蓋が切られれば、サレミオ同盟諸国数十万の兵たちも海を越えてくる。そうなれば王国も無傷ではすまんであろうな」

 

将軍の言っていることは正しい。けれど正しいが故に矛盾している。将軍は恐らく僕たちを試している。

ここは少し時間をかけよう。

 

「戦争までして得られるものは何ですか?富ですか?それとも名声ですか?」

 

「無粋なことを問うものだ。主らは人を殺したことも女子供に銃口を向けたこともない軟弱者。ディクレアート家のご息女は我々を討つための軍を指揮するようだが、果たしてその責務を全うできるのかな?」

 

「何が言いたい?」

 

「例え話をしようか。もし我がオーバーグレーツ州メヌエに住む者たちにミオナウルを支援するように求める。しかしメヌエの中に拒絶する者が現れた場合、その者たちを問答無用で処刑する。こう脅したら主は黙っていられるかな?」

 

「な……」

 

「き、貴様!レノの家族を人質に取ってゆするつもりなら、このファイルを全国民に公開するぞ!」

 

「例え話如きで揺さぶられているようでは国は守れんのだ。繰り返すが戦争というものは命の奪い合い、覇権の取り合い、勝つか負けるかしかない。出来る出来ないではない。()るか()られるかだ。主はメガラ人でありながらエルミオン。なればどちらにつくというのか、腹を決めてもらいたい。父母を見殺しにしてまで、自らの信念を貫ぬくか、それとも我々と手を取り共存を模索するか。どうかな?」

 

「レノ、奴の言葉はまやかしだ。秩序も規律もない武装組織の頭に耳を貸すのか?」

 

僕の故郷には父と母がいる。小さい時からお世話になっているオーバーグレーツステーキの店主。それに少ないけど友人だっているんだ。

生まれ故郷も帰る場所もある。かけがえのない宝物がたくさんある。失うわけにはいかない。見知らぬ誰かに奪われる道理もない。腹は決まっている。

 

「将軍、僕には……いや僕たちにはお互いを理解し合う時間が不十分だと感じます。戦争は国権の最終手段です。その前提に対話があります。対話がなければ相手を知ること、つまり何を望み何を譲るのか、相手に伝えることが不可能になります。相互理解こそが民族や宗教を越えた絆を生むはずなんです」

 

「我々は時間が惜しいのだ。これ以上、主らが描いた妙案とやらに付き合う義理はない。望むものはただ一つ。メガラ人とサレミオンのあるべき故郷、ミオンの地のみ」

 

どうすればいい?

僕にはもう将軍の心を動かす手立ては残されていないのか?

真っ暗なトンネルの中を永遠に彷徨ってる気分だ。

ミグレッタの目にはまだ光が灯ってる。

 

「貴様は同族を斬り捨て、聖地を焦土にしてもなお、国家建設などという幻想にしがみつくのか?」

 

「我々が宿願を果たすためならば、身を焼かれたとて代わりはいくらでもいる。それが神が与えし使命なのだ。地上に魂が降り、肉体はあるべき場所へと還る。それこそミオンの教えなのだよ。その教えに背くプロシア人、トリスタ人、そしてエルミオンは聖地ミオンから取り除かなければならないのだ」

 

「聖地に宗派は関係ない。勝手な解釈で神の名を穢すな」

 

「まあいい。小鳥の分際で鴻鵠(こうこく)の器を推し量ることはできまい。今日はこれぐらいにしておこう。次で最後だ。我々の要求が受け入れられなければ、干戈を交えるものと心得よ」

 

僕は全身から力が抜け椅子にもたれかかる。

ミグレッタは怒りに身を震わせながら部屋から出ていった。

僕たちに残された時間は多くはない。

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