帝国封印超越者   作:フルト・フルト=フルト

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第2話

 それからすぐ。

 アルシェはモモンガの工房で働き始めた。そして一週間もしない内にこじんまりとした借家を借りてそこで妹二人と、フルト家を解雇になった家政婦の女性を再雇用して四人で暮らしている。

 メイドをどんどん解雇してしまったために双子のお世話ができる人が足りず、環境的にもマズイと考えたアルシェが連れ出した形だ。両親とも喧嘩したが、アルシェがジルクニフとフールーダの直筆入り雇用契約書を出した瞬間黙った。

 

 ジルクニフが勅状でアルシェは優秀なので仕事の邪魔になるようなことはするなと書いたためだ。アルシェの父親もジルクニフに叛意を抱いているとはいえ、ここで逆らえば貴族としてのプライドも命もないと理解して承認した。

 この勅状を書いてもらうようにモモンガが一生懸命ジルクニフと交渉した結果だ。ジルクニフは今回折れたが、フルト家は早々に潰すと決めた。継ぐはずのアルシェがこのざまで、下の娘は幼すぎる。有力貴族から婿を取り入れるとしても間に合わない。

 男児を産めなかった自分達を恨めと吐き捨ててフルト家については終わりだ。なにせジルクニフにはやることが多い。

 

「また王国から麻薬が入り込んでいるのか……。本気であの国を落としたくなる」

 

「今年の戦争はどうなさりますか?陛下」

 

「いつも通り四軍だ。当たるフリでいい。要は法国から目を背けさせればいいんだからな」

 

「かしこまりました。ではそのように準備を」

 

 秘書官のロウネが指示を受けて退室する。王国から流れてくる麻薬「黒粉」が「八本指」という組織から流れてきていることは把握していた。できるだけ国内に入り込む前に検閲でどうにかしているが、低い確率で国内に入ってしまう。

 流した者も麻薬とわかって使用した者も等しく処分しているが、手が足りない。

 

 帝国としては現在竜王国とドワーフの国と国交を開いている。どちらの国ともなんとかして国難の状況に介入して帝国として恩を売って様々な商品を手に入れていた。特にドワーフの国とは武器防具の件でお世話になっており、今でも土堀獣人(クワゴア)の制圧に援軍を送っているほど。

 竜王国はジルクニフの代ではなかったが、長年ビーストマンの侵攻に悩んでいたが先代がフールーダを含む特殊部隊を結成させ押し潰した。結果竜王国は秩序を取り戻し、帝国と協力関係になっていた。

 

 竜王国は法国と契約してビーストマンの排除を手伝ってもらっていたがそれも一部。しかも法外の金額を請求されたために憤怒していたところを帝国にほぼ無償で救われた。

 完全な無償は裏があると感じた女王は詳細を聞くと、フールーダにはマジックアイテム蒐集癖があり、おそらくビーストマンが持っているだろうから滅ぼして手に入れたいと考えたこと。

 

 また軍事力の強化は王国と戦争をしているために急務で、実戦経験の場を求めたこと。そして竜王国が盛り返したのなら取り戻した土地で育てた作物を格安で売って欲しいと願ったこと。その穀物の費用もちゃんと力を入れれば二十年ほどで返せるものだった。

 それは実質的に戦争でかかる軍事費の補填。帝国は王国ほど豊かな土地ではないので兵站という意味で食料に不安を覚えたのだ。その解決先を竜王国に求めただけ。

 

 フールーダの話も、王国との関係性も知っていたために女王ドラウディロンは契約書を穴が空くほど読み込んでサインを書いた。竜王国には攻め入らない同盟も同時に結んだために後顧の憂いなく署名をする。

 結果、フールーダと皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)も用いて制圧。見事ビーストマンを壊滅させて竜王国に平穏をもたらせた。

 

 そんな功績に張り合うようにジルクニフはドワーフの国と国交を再開させたのだ。過去は交流があったのに近年ではなくなっていたために調査をさせた。その時に土堀獣人(クワゴア)がドワーフを襲っていると知り軍を派遣。

 モモンガの力も借りてフロスト・ドラゴンに占拠されていたドワーフの首都も無事に奪還。モモンガとしてはドラゴンの素材が手に入って満足、帝国としてもフールーダにドラゴンスレイヤーの称号を付与できたので得た物は大きかった。

 

 竜王国の一件も先代皇帝はモモンガの力を借りたのでジルクニフとしてもやりすぎだとは考えていない。

 そんなこんなで帝国は徐々に勢力を増やしていた。

 だが、勢力が増えればそれだけ人材が足りなくなり、その上で王国も喧嘩を売ってくる。元々は同じ国なのだが、どちらの方が国として先だったか、優れているのはどちらの国か。そんな理由で戦争を吹っ掛けられている。

 

 ジルクニフとしては今王国を手に入れても確実に人材が足りないとわかっているし、肥大な土地を持っていること以外は旨味がない。貴族連中は軒並み腐っているし王族は無能ばかり。犯罪組織も御しきれないどころか国の中枢が深く関わっているために見捨てたいくらいだ。

 しかし最近は特に法国が王国を併合させようと躍起になっている節がある。それに乗せられて王国も戦争をしようというのだからジルクニフの苦労は絶えない。

 

「そういえばバジウッド。そろそろ例の演習の日取りか?」

 

「あー、そうですね。死の騎士(デスナイト)との模擬戦は三日後です」

 

「そうか。心して掛かるように。お前たちもアゼルリシア山脈で経験したと思うが、ドラゴンとはそれだけで厄介だ。アレに慣れろとは言わんが、王国との戦争で死者を出すな。そのための訓練だ。ガゼフ以外は雑魚だというのに軍の損耗があっては目も当てられん」

 

「わかってます。しかし凄まじいですな。我らが帝国主席宮廷魔術師殿は」

 

 近年実施している騎士団への訓練に使っている死の騎士(デスナイト)。これは全部フールーダが使役に成功したどころか召喚もできるようになったからこそできる訓練だった。

 表向きは第六位階魔法まで使えることになっているフールーダだが、実際はそれを超えている。そのため使い捨ての訓練相手に死の騎士(デスナイト)を用意して剣だけ模造刀に変えて実戦訓練に使用できていた。

 

 一体で都市を滅ぼすことができるというこのアンデッドを五体使って行われる三ヶ月に一回の大規模訓練。王国最強戦力である王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを想定した軍事演習は死に物狂いで頑張る騎士達に強力な恩恵を齎した。

 参加した者全員が明らかにその前の自分よりも壁を超えたと実感できていたのだ。確実に撃破する訓練は軍隊行動も習熟させ、力で劣るならどう攻略するかなど知恵を軍略を働かせて、終わったら身体能力が上がっている。

 

 これはモモンガ提案のレベリング作業だった。

 フールーダやモモンガが用意できる戦力で軍全体の底上げができるのであればジルクニフとしては一ヶ月に一回くらいの頻度でやりたかったのだが、都市を落とせるアンデッドというのは伊達ではなく軍事演習の資金がそれなりに必要だった。疲れを知らない強力なアンデッドを倒すのに疲れを知る人間が倒すのは苦労するのだ。

 

 一日で終わらなければ食費や武器を研ぐための砥石など消耗品が結構かかる。それに人払いなども行うので準備などが大変なのだ。

 その訓練を経て実際に強くなった帝国四騎士の一人であるバジウッド・ぺシュメルは魔法キチではあるものの死の騎士(デスナイト)を用意できるフールーダを尊敬しているのだ。

 

「今回はちょっと趣旨が異なるらしい。いつも通りではお前らも慣れてしまうだろう?」

 

「ゲッ。気を引き締めます」

 

「ガゼフくらいは簡単に倒せるようになってくれよ」

 

「もう勧誘はしないんですかい?」

 

「沈みゆく泥船に拘る愚者はいらん。いや、忠義者としては結構だが、それを向ける相手が愚鈍でも良いという感覚がわからん。今では王国民が我が国へ数多く流入しているが、奴が王国から離れない理由はなんだ?立場と忠義心に苛まれているのなら無理は言わんさ。騎士の中から奴を超える者が現れるかもしれんし、こちらには魔法省がある。奴個人に拘る理由はない」

 

(それこそガゼフがモモンガと同等なら話は異なるがな)

 

 バジウッドと話しつつ、そんなことを考えるジルクニフ。モモンガのような「ぷれいやー」だったなら王国の酷さを語って何に変えてでもこちらに引き込んだが、ガゼフは()()()()()()()()()()だ。王国の生え抜きと考えるとその才能は惜しいと思うが、それだけ。

 ただの強い戦士なんて一度声を掛けて断られたのならジルクニフの中では優先順位としてはかなり下がった。今では敵対国の最高戦力としか思っていない。

 

 その三日後。

 軍事演習ではエルダーリッチのような魔法を使えるアンデッドを始め、デス・アサシン、デス・ウォリアー、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)骨の竜(スケリトル・ドラゴン)など死の騎士(デスナイト)以外のアンデッドもわんさかいた。

 

 その演習が三軍を用いられた過去最大の演習だという時点で指揮官や四騎士は予想すべき事態だった。

 結果演習は一週間かかり、全員疲労困憊となり一斉に有給を消化していた。

 代わりと言ってはなんだが、参加した全員が本当に強くなりジルクニフは大喜び。

 竜王国からも食料の輸入が本格的に始まったのでまた来月やろうと提案したら四騎士全員に「殺す気ですか⁉︎」とストップが掛けられてしょうがなく三ヶ月後にすることとなった。

 

 実際軍事演習に参加した者としなかった者の差はかなり広がったので四騎士や騎士団でも上位の軍人は参加を固定にして、その他はローテーションに回すこととした。次回からは魔法省の魔法詠唱者も加わったのでむしろ難易度を上げて至る所から阿鼻叫喚。

 それでも使える位階魔法が増えたり、階位が上がったり、身体が強くなったりしたのでそこまで批判の嵐になることもなかった。

 

 問題はこの演習に参加するとその後の一週間くらい誰もが使い物にならないことくらいか。

 それぐらいなら費用対効果で十分プラスだと考えたジルクニフはこの定期演習を止めることはなかった。

 

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