帝国封印超越者   作:フルト・フルト=フルト

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第3話

 アルシェが働き始めて一週間が経った。

 最初は地下空間にいる存在がアンデッドだらけだったことに空気が結構死んでいたが、仕事内容は問題なかった。

 アルシェが<飛行(フライ)>の魔法を使えないと知ったモモンガは翼のペンダントを渡してこれまた地下空間にある戦闘場という場所で<飛行(フライ)>を使わせてスケルトンなどの弱いアンデッドと戦わせて<飛行(フライ)>の感覚を掴んでもらい、習得させた。

 

 そこからは第三位階魔法を覚えさせるためにレベリングをしたり、仕事内容を教えたり。

 アルシェは地頭が良かったのか仕事を覚えるのは早かった。

 スケルトンに農作業の指示を出して実際に農作物を収穫したり。

 巻物の大量生産のために巻物に書かれた特殊言語を学んだり。巻物に書かれている言葉が日本語だったり現地の言葉であればモモンガもアドバイスができたのだが、あいにくわからない言葉だった。

 

 モモンガが持っている片目眼鏡(モノクル)があれば日本語に訳されるので書いてある言葉はわかるのだが、ユグドラシルで書かれていた特殊言語で書かなければ巻物にならない。魔法を籠めるだけでは巻物にならないのだ。

 モモンガも最近は第七位階までの魔法を巻物に籠めることに成功していた。ただそれはドラゴンの皮を使わなければ無理で、フロスト・ドラゴンレベルだとそれが限界だった。

 

 他のモンスターの体皮を用いたら最大で第四位階までしか籠められず、それ以上の魔法を籠めるには何が必要なのか研究していた。この研究はあまり進んでいないが魔法詠唱者としての手段が増えるので急務となっている。

 モモンガとアルシェはやっていないが、武器や防具を作る生産職の傭兵NPCもいる。ユグドラシル金貨はそこそこ消費したが、低レベルの生産職は何人か確保していた。

 

 ソロプレイヤー用の救済措置でそこまで高レベルの生産職は産み出せなかったが、それでも事細かな物なら大量生産できていた。マジックアイテムの生産はモモンガ達魔法詠唱者の役目だったが、武器などは傭兵NPCに任せていた。

 アルシェはマジックアイテムの作り方もモモンガから教わり、そのノウハウを覚えようとしていた。一応国家機密なので家に持って帰れないが地下室では散々資料を読み込んでいた。

 

 モモンガはマニュアルを逐一作成してそれを項目ごとに分けていた。営業職をしていたが事務もしていたモモンガはそういった雑用や書類整理も人間時代にやっていたために作成していた。とはいえ決済書とかは無理なのでジルクニフとフールーダに丸投げしていた。

 仕事を一通り教えて休暇も与えて、また出勤となった日。

 帝都に二人で繰り出していた。

 

「先生。あの、大丈夫なんですか?」

 

「ただの幻術だけど、直接触れられなければバレることもないさ。フールーダと確認済みだ。それに一応触れられても大丈夫なようにラバーマスクとか、ゴムハンドとかつけているぞ」

 

「……ラバー、マスク?」

 

「……ああ、そうか。ゴムがこの世界にはないんだった。まあ、人間の感触に近い作り物と覚えておけばいい。いや、覚えなくてもいいか。本来の言葉とは別物だし、俺にしか意味が通じない言葉だ」

 

 アルシェの隣を歩いている男性は帝国の一般市民のような服に身を包んだ高身長の男性だった。黒髪黒目なので南方の出だと思われる出で立ちで、痩せぎすの体躯から裕福な人間には見えない。

 貴族の頃からの私服を着ているアルシェの方が綺麗な服装をしているだろう。

 これはモモンガの帝都を歩くための変装で、外出する時は大体同じ格好をしていた。地上に出るのは珍しいので同じ服でも問題なかった。

 

 それとアルシェは働くようになってモモンガのことをフールーダのように先生と呼ぶようになった。様付けを嫌がったモモンガが妥協案でそう呼ばせているだけ。本当だったら呼び捨てでいいと言ったのだが、第十位階を使えるモモンガに対して恐れ多いということでこの呼び方に収まっていた。

 モモンガもたまには外に出るが、その場合はほとんど帝都をうろつくだけか、マーケットに向かうか気分転換に遠出をするくらいだ。

 

 皇帝がジルクニフになる前は年単位で外に出なかったことを考えると少しは外出するようになっていた。

 今日の目的は帝都にある魔法組合に顔を出すことだ。

 魔法省があるために帝国には王国のように魔法組合がないと思われがちだが、ちゃんとある。魔法省と係わりのない、商人や冒険者などが使う場所だ。巻物やマジックアイテムの売買に魔法詠唱者の仕事の斡旋など、魔法省の名前を冠していないからこそ成り立つ商売もある。

 そういう場所に珍しいマジックアイテムが売られていたりするのだ。掘り出し物がないかと調べることがモモンガの気分転換になっており、それにアルシェを付き合わせた形だ。

 

「今日はどういった物を探すのですか?」

 

「特に決めてはないぞ。珍しいと思った物を調べたり買ったり。それだけだ。個人的な目当ては飲食可能になる指輪か、人化の指輪だな」

 

「飲食可能は、先生の事情からわかりますが……。先生は人間に戻りたいのですか?」

 

「アンデッドとして生活することには慣れたが、たまには人間らしい生活に戻りたくもある。いやホント、種族変更についてはユグドラシルの運営は厳しすぎた。なんで人間種に一時的に変化する指輪が最高レアリティなんだよ……」

 

 モモンガは一応外なので堅い言葉遣いをしていた。アルシェが先生と呼ぶ限りモモンガが上であると示す必要があった。まだアルシェは幼いし、男女で歩いているので関係性を周りにアピールしないと何かがあったら困るのだ。

 帝国は騎士が巡回しているので人間国家では治安はとても良い。それでも犯罪者は出るので教師と生徒の買い物という体裁は整えなければならなかった。

 

 アルシェはたまにモモンガから出るユグドラシルという単語についてよくわからないなりにもモモンガが以前いた場所なのだと思うことにした。それ以上は踏み込まない。

 生きているのならそれぞれの事情があるはずなのだ。そして絶対の力を持つはずのモモンガが日陰者として暮らす理由についても、聞いたりはしない。地雷はどこにあるのかわからないために。

 

 ジルクニフやフールーダと話すのは面倒にしながらもアルシェのことは庇ったり、仕事を教える時は優しかったり、仕事は真面目にやっていたり。こうして独り言を零す姿はとても人間らしいと思っていた。

 アンデッドだが。

 そういうわけで魔法組合に来てカタログを見せてもらうアルシェ。アルシェもこの魔法組合に来るのは初めてでどんな物が売っているのかわからなかった。

 

 アルシェが見ているのは巻物のカタログ。モモンガが見ているのはマジックアイテムのカタログだ。

 アルシェも帝国魔法学院で勉強していたが、全ての魔法を知っているわけではない。第0位階魔法は数多く開発されており、生活に直結するようなものから何で魔法になっているのかという物まである。

 それにこの世界で産み出されたオリジナルの魔法もある。それら全部を把握しているわけでもなく、特に他国で産まれた魔法だと帝国魔法省でも把握していないこともあるので魔法学院にも伝達されない。

 

 だからアルシェはわからない魔法があればすぐに職員に尋ねた。そしてこんな魔法があるのかと勉強していた。魔法学院が知識の全てだった貴族のアルシェからすれば驚きの連続だった。役に立つかどうかはわからないが、知識は増えていく。

 オリジナル魔法の作り方なども研究している人がいたのでその人の話も詳しく聞いていた。何も買わずに知識ばかり求める子供なんて本当なら面倒がられておしまいだったのだが、そこはモモンガが手を回して数点の高価なマジックアイテムを買ったことであの子弟子なので融通してくださいと頼んだ結果許されていた。

 

 モモンガは大した効果はなくても自分で開発できないアイテムだったら買うことが多い。それを地下に持って帰ってバラして作り方を知って他の研究に活かそうとしているわけだ。

 大体成果が出るのはマジックアイテムだ。モモンガはこれ以上ユグドラシルでのレベルを上げられないし、新しく魔法を覚えることもできそうになかった。その辺りも研究して諦めたのだ。

 

 一回死んでレベルダウンした後に習得種族バランスを直せばできるかもしれないが、そこで貴重な種族レベルを失うのも怖いのでやることはしなかった。死ぬことは怖いし、この世界でレベリングをできる相手もいないからだ。

 様々なことを聞いているアルシェを見て。初めてこの魔法組合に来た自分と同じだなとモモンガは思っていた。

 

(そうだよなあ。この世界の魔法ってわけわかんないもんなあ。魔法省の魔法研究が世界的に見ても進んでいるからって、法国もあるから信仰系魔法は一歩劣る。それに天才も在野にいるから突飛な魔法も開発されたりするんだよな)

 

 結局アルシェがモモンガの元に帰ってきたのは魔法組合が閉まる直前。これではマーケットに行く時間がなかった。

 

「ごめんなさい、先生……。熱中しすぎた」

 

「いやいや、学びがあったなら十分だ。明日またマーケットに行けばいい」

 

 そう言ってモモンガはアルシェを借家まで送る。人々も仕事を終わらせて帰宅している者もいればこれから飲むつもりなのかお店に入っていく人も。

 そんな人々の中に耳長属──エルフが多いことにモモンガはポツリと呟いた。

 

「エルフも増えたなあ」

 

「そうですね。わたしが小さい頃は彼らが奴隷だったと知って困惑している人が多かった覚えがあります」

 

「ジルクニフが変えたからな。大手を振るって歩けるようになったのは大きな一歩だ」

 

「神殿の方で回復魔法の開発が進んだのだとか。そのおかげで耳の治療ができて奴隷の証を失くせたのが大きいと学院で学びました。エルフの方々の魔法の知識も多くて、研究は一層進んでいると」

 

 アルシェとそんなことを話しながらエルフ達の様子を見るモモンガ。

 エルフの国は絶賛法国と戦争中だ。捕虜になったエルフは法国によって耳を切られて奴隷になって帝国に流れて来る。

 ここで歴代皇帝に待ったをかけたのがモモンガとフールーダだ。

 

 モモンガとしてはギルメンの妹にエルフのアバターの者がいたため、残っていた人間性から奴隷に嫌気が差した。法国が嫌いだったからという理由もあるが、一番の理由はあけみちゃんの存在だった。

 フールーダとしてもエルフは長寿なので長生きしていたエルフは魔法について博識だった。使える魔法の位階も高く、独自の魔法を覚えていることもしばしば。森祭司(ドルイド)の人間が多いが、違う観点からの発想というのはブレイクスルーになりやすい。

 

 それを歴代皇帝に進言し続けたが叶わず。ジルクニフが国を奪るためにとモモンガに話を通しに来た時にエルフのことを約束させてクーデターを手伝った。

 本来モモンガに会えるのは皇帝になった者のみ。皇位継承者であっても会えず、存在も語られることはない。だがフールーダが現在の状況に嘆き、独断でジルクニフを見出してモモンガに面通しをしたわけだ。

 

 モモンガも変えたかった現実なので、いつもは皇位継承争いにはノータッチでも今回ばかりは介入した。その結果十代前半でジルクニフは「血の革命」を為して大改革を行なった。

 ジルクニフのその判断は間違っておらず、魔法の研究は一気に進んだ。奴隷の頃は魔法省でエルフを何人か手伝わせていたがあまり口を開くことはなかった。だが人権が認められると口を軽くしてエルフの魔法の理解度が一気に進んだのだ。

 

 今では流れて来るエルフは神殿で第五位階魔法で耳を治されて帝国の一員になり、魔法省で働いたり騎士になったり、それこそお店を開いたり冒険者になったりしている。狩猟技術が高かったり、森祭司(ドルイド)だったり、木の上で生活していることや戦争を経験していることから身体能力が高かったりと様々な場面で重宝していた。

 特にカッツェ平野と並んで帝国騎士の仕事であるトブの大森林の東側でモンスターの間引きをしているのだが、森に慣れているエルフが加わってから効率が上がった。

 

 魔法の開発も軍事力も上がって、万々歳ということだ。

 モモンガとしては笑顔でエルフが街中を歩いていることこそが一番の報酬だった。

 

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