三つのお題でつくった短編集   作:モノクロコアラ

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友情 ジャングル 現地改修機

 俺がこのジャングルに来たのはたった半年前だ。つまり田中と出会ったのも半年前。田中は俺より十歳年下だが、何だかんだと気が合い、職場で一番気のあう友人となった。

 出稼ぎにこんな遠くまでやってきたが、田中もいるし三年間の契約期間も楽しくできるだろう。そう楽観的に考えていた。

だけどまさか、大規模なテロに巻き込まれるとは思ってもいなかった。

 

 世界的に有名な大企業が手付かずのジャングルを切り開き、大規模な工場をつくろうとしている。それだけの違法性もない話だった。

 だが一週間前、突然襲撃を受けた。工場をつくるために俺たちがつかっている人型建設機が目的だったようだ。最新の軍備には劣り戦闘につかえないようセーフティがかけられているが、基本の性能や素材は一流の人型重機。裏に流れる型落ち軍用機より魅力的だったのだろう。

 

 夜間の宿舎への襲撃だったが、俺たちは他の仲間と集まり人気のない簡易資材置き場の片隅で賭けポーカーをしていた為、難を逃れた。

 なんせジャングルでの作業は夜間の明かりを確保することが難しいため、夜は全員が就寝時間だ。その為悲鳴をあげることもなく死んでいった人間が多くいただろう。

 

 その場にいた5人はそれぞれこっそりと機材に乗って逃げ出したが、なんせ場所はジャングルの奥地。俺たちが切り開いた場所以外には道なんてない。

 逃げる為にはいまやテロリストの巣窟となった元職場を通過しなければならない。

 

「くそっ。あいつら、いつまでのんびりしてるつもりだ」

 

 この一週間、なんとか隙がないか見ているが、夜でも昼でも警戒態勢が敷かれ、まるで軍事施設かのような念の入れようだ。

 あいつら、施設の被害がほぼ宿舎だけで済んだのをいいことにここを本格的な根城にでもするつもりか。電波も届かないここは、異常を知られるまでにも時間がかかる。なんともあいつらに都合のいい事だ。

 

「落ち着いてください、幸いあいつらは今の開拓地内の敷地で満足しているみたいです。あと二週間もすれば本部から人も来る。そうなれば助けも来るはずです」

「田中……」

 

 十分な開拓をして半分ほどを建設中だが、まだまだ予定地には足りていない。拡大するため、周辺の探索も何度も行っていた。その分の地の利もあり、一緒に逃げた俺と田中はなんとか見つからない場所に身をひそめているが、安全に食べられるものなどたかが知れている。

 当然風呂にもはいれないし、睡眠だってろくにとれない。もう限界が迫っている。これ以上助けを待つために潜むと言うのも無理だ。

 

 田中は冷静に俺を諭したが、自分自身に言い聞かせているのだろう。胸にかけているロケットペンダントを握りしめている。

 

 その中には、田中の家族写真がはいっている。見せてもらったが、可愛らしい赤ん坊をだいている写真だった。

 そうだ。俺はまだいい。息子の大学進学費用をだしてもお釣りがでる金額を前払いにつられてやってきた。

 すでに金は振り込まれているから、卒業までは問題ないだろうし、元々長期で出稼ぎによく言っていた。俺がいなくたって立派にやっていけるだろう。

 

 だが可哀想なのは田中だ。子供がまだ赤ん坊のうちに借金を返して、学校に行く頃には落ち着いて参観日にもいけるようなまともな職につくんだと息巻いていたのに。

 自分の親の借金をかかえ、その親にしてもらなかったことを自分の子にはしてやるのだと、目を輝かせていたのに。

 

「……そろそろ、二歳の誕生日になるんだろ?」

「え? ああ、そう、ですね。はい。だから絶対」

「本部から来た人間が助けを呼ぶには、こいつらより先に相手に気が付き、襲われないうちに戻らないといけない。あいつら相手にそんなことできると思うか?」

「それは……」

「早く帰るにこしたことはない。そうだろ? 俺に案がある。聞いてくれないか?」

 

 これ以上時間をかけたところで、操縦者である俺たちはもちろん、ソーラー充電で賄いきれずに減っていっている燃料残量が尽きたらなにもかも終わりだ。今、うってでるしかない。

 

 俺はあちこちに出向してきた。軍の下請けの下請けなんて

どこにだってある。一定以上の速度やパワーが出なくなったり、範囲内に人を感知すると緊急停止する軍用以外の機材につけられるセーフティプログラムを解除することはできる。

 当然銃などの武器はないが、建設用機器としてドリルや固定用釘打ち機能はある。釘打ちもセーフティをいじれば対象に向かって発射することはできる。

 昔の釘とは違い、現在の建築資材を一発で固定する特殊な金属棒のようなもので、威力は打ち所がよければこの頑丈な重機の腕を落とすくらいはできる。

 

 釘は補充されたままなので数はある。テロのやつらを知らないが、重機用装備は軍用武器とは使い方が違う。銃は当たるように設計されるが、重機はそうではない。

 釘の的当ての賭け大会で優勝したこともある。まあそれがバレてその時務めてた会社は首になったが。とにかく、同じ重機を使うなら俺の方が腕はあるはずだ。

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「どっちかがおとりになるなら、俺に決まってるだろ。お前みたいな若造に命任せられるか」

 

 どちらかがおとりになり、気をひいている間にもう一人が電波の届くところまで逃走して助けを呼ぶ。おとりになった方は相手を逃がすのはもちろん、その後自分が逃げないといけない。

 おとりが機能しなければ二人とも犬死だ。そんな重要な役目を任せられるわけがない。田中は人格的にはいいやつだが、まだまだ、俺には敵わない。

 

「ポーカーのイカサマ一つ見抜けない青二才が、俺に勝てると思ってんのか?」

「……え? イカサマ? ちょ、ちょっと、俺、先輩に五万も負けてるからってあれこれパシらされてたのに」

「いいから行け。1900に開始だ。配置につけ」

「……全部終わったら、ちゃんと清算してもらいますからね!」

 

 田中は静かに移動を開始した。田中は静かに丁寧に機械操作する。俺のように手早い操作はできないが、隠れて人目を避けるなら、田中の方がずっとうまくやるだろう。

 

「はっ。帰れたら、利子をつけてやるよ」

 

 俺は田中の背中にマイクをオフにして声をかけた。念のためと、お互いに家族あての遺言書を持っている。あいつが生き残れば、俺の悔いは……まああるが、やるだけやった結果だ。

 

 待機している間、心が揺れないと言えば嘘だ。やっぱりやめようか、たとえ移動させず、ただの夜間休憩所にすれば数カ月は持つ。

 待ちだって、立派な手だ。逃げじゃない。だが、確実ではない。ここにくるのにワクチンをうたされているが、いつまでもここでサバイバル生活をして体がもつか、見つからないか。そんな保証はない。あいつらに、一言もなく行方不明。そんな不義理ができるか。

 

 これがベストだ。大丈夫だ。俺はやれる。あいつなら無理でも、俺なら、万が一、本当に生き残れる可能性だってあるんだ。

 

 俺は震える指先で時刻表を確認する。時間だ。

 

「っ……行くぜぇ!」

 

 機体を動かす。光を灯し、音をたてる。あいつらの死角から飛び出した。

 途端に鳴り響く警報。あいつら、活用してやがる。電源のはいっていない機体は良い的だ。釘を重要関節部に刺して壊し、転がし、少しでも手数を減らさせながら俺はこちらに向かってくる重機から逃げる様に建物の隙間を縫って動く。

 途中、壁に立てかけて放置している柱を一気に押して通路に放りだし、反対側に走る。資材置き場のバラック、見た目は綺麗だが通路側の方はすかすかだ。

 動線上じゃない場所は大した通行量もない。薄くても問題ないと提言したのは俺だ。どうせいつかばらしてしまう予定なのだからと。

 

 そこから突っ込めば簡単に中に入れる。バラックを崩しながら移動する。

 

「ちっ」

 

 さっきから距離をたもって発砲されていたが、どうせ人間用。重機にはダメージはないと思っていたが、どうやら一点打ちされていたようで、左側のブラスターがやられた。

 だが少なくとも、さっきから釘をうってはきていない。あいつら、釘打ちの改造はできていないらしい。大型重機でこちらをつぶそうとしている気配はあるが、テロリストのはいっている建物の陰を狙っているので追いつかれていない。

 

 俺は転がるようにして移動して、本社の一階部分の窓につっこみ、右腕を振る。ここは食堂で、ガスタンクが置いてあったはずだ。

 見えないまま動いたが、想定通りだ。あいつらもさすがに、この状態で火薬系は使えないだろう。

 これ以上はこの機体を使っても逃げられない。俺はそのまま機体を乗り捨てた。

 

 ガスが充満する中、俺は建物の中に入り込んだ。いける。あいつらがこの本棟を使っているのはわかっている。小窓から逃げて、どこかの物置に入り込んで衣類さえ新しいのに変えれば一目で特定はされないはずだ。消火器を持ってガス漏れ対策をしに来たと思わせれば近くにいても。

 

「がっ」

 

 どかんと、世界が揺れたかと思った。食堂の小窓から出た瞬間、俺は何かに吹き飛ばされた。すぐ裏の木々にぶつかり落ちた俺に、何かがさらにのしかかってくる。

 

「ぐ、う」

 

 呻きながら目をあけると、腕には細かなガラスが刺さり、崩れた壁が足をつぶしている。上を見ると、半壊した本棟が見える。今にも崩れて、こちらに振ってきそうだ。

 

「……くそ」

 

 本棟の最上階にはまだ人がいたはずなのに、躊躇なく壊しにかかるとは。テロリストをなめていたらしい。

 しがない下っ端の俺一人でなんとかなるほど、テロリストは甘くない。当たり前だ。

 

「……は、大丈夫だ。大学には、参観日はないからよ」

 

 だから、息子は俺がいなくたって、金があれば生きていける。でもな田中、赤ん坊には、父親が必要だ。だからどっちかが死ぬなら、俺だって話だ。

 

 友人の為に、危険な方をかってでる。なんていう風に言えば、随分格好いいじゃねぇか。俺みたいにはならない、なんていう生意気な息子も、見直すだろうよ。

 

 俺は落ちてくる大きな瓦礫を見ながら、妻を思った。息子は大丈夫だ。あいつも負けん気が強くて、俺の嫁じゃなければ出世だってしただろう。きっと、清々したなんていうだろう。それでいい。笑って生きてくれればいい。

 ああ、でもなあ。俺の事、忘れてほしくねぇなぁ。

 

 落ちてきた瓦礫とぶつかる時には、もう俺の痛覚は機能していなかった。それはきっと、幸いだったんだろう。

 

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