ある日神様は思いました。秘書がほしいなぁ、と。
美人でナイスバディで自分の仕事を一から十までサポートしてくれて、ついでにプライベートも甘やかしてくれるような厳しくも優しい秘書が欲しいなぁ、と。
しかし現実は残酷です。日本だけで神様は八百万もいるので人間にも想像がつくでしょうが、それだけいれば自然とカーストができあがります。こちら、神様の中でも最近生まれたばかりのBSSの神様でした。
BSS、そう、山陰放送、ではなく、「僕が先に好きだったのに」属性を司る神様です。残念ながら生まれたばかりで下っ端の神様であるBSS神に、秘書なんて夢のまた夢。天使を生み出すこともできませんし、他所からスカウトしようにも華々しい経歴もありませんので、難しいです。
しかしBSS神は気付いてしまいました。天使の秘書は難しいけれど、下等な人間ならいけるのでは? そう、神様の中では下っ端でも、人間とは隔絶された格を持つのが神様です。下等な人間一人洗脳して、天使級は無理でも秘書の真似ごとができるくらいに力をあげるくらいなら可能です。
人間は見た目は神様を真似て作られているので、見た目だけなら全然ありです。なんなら秘書の仕事なんてできなくてもいい。見た目だけそれっぽければいい。
これは画期的な気付きだ、とBSS神は自画自賛しました。
そう言う短絡的で表面しか見ないのでまだまだ下っ端な神様であることには残念ながら気づいていません。
「さーて、ボクのお眼鏡にかなう子はいるかなー?」
そんなわけでBSS神は地上の視察をはじめました。
洗脳をかけるにもいい相手、悪い相手がいます。例えば神に仕える力ある人間は、だいたいちゃんと祀られている上位の神の庇護下ですから、手を出そうものなら自分が消されてしまいます。
神職についていなくても、ちょっとでも関連があるとまずいです。基本的に人間への勝手な干渉はよく思われませんし、私利私欲の私物化と知られたら、全然関係ないくせに大神たちはでばってくる可能性があります。古い神は頭がかたくて困ります。
なのでいなくなっても人間の中でも話題にならず、誰も困らず、神に助けを求められもしないような美しい娘がいないかとBSS神は目を皿のようにして探しました。
この際無能でもいいことにします。大事なのはガワですから。
「おっ!?」
力が弱そうなのを積極的にさがしました。力が弱く、死にそうなのは放っておいても近いうちに死ぬのですから、BSS神のせいだと思われないどころか、可哀想な人間を救ったと言い訳も効きますから。
BSS神はあまり強くないので、逆に繊細に人間たちの力の強弱すら感じとることができるのです。今にも死にそうな人間たちの中、BSS神ははっと一人の少女に目をやりました。
とある貧乏なアパートに、泣いている力も見た目も弱そうな少女がいました。髪が長く陰気な雰囲気ですが、来ているシャツのボタンがはじけそうな巨乳にぴんときたのです。
BSS神は顔がいい女の子が好きなのですが、ちょっと芋臭い女の子の方じゃないとうまくお話できない内気なところがあったので、より琴線にささりました。
顔を抑えて泣いていますし、その顔には痣がありますが、そこは腐っても神様ですから、魂からその顔のつくりを見ることができました。
ちょっぴり鼻が低い丸い鼻で愛嬌がありつつ、目はぱっちりしていて、小さめの口も小動物のようで、高得点です。
「君に決めた!」
BSS神はさっそく彼女にアプローチすることにしました。少女が泣きつかれるのを待って、眠ってしまった夢枕にたちます。現実に干渉すると目立ちますが、夢枕にたつくらいなら真面目な人魂にすら許されますので目くらましにもばっちりです。
「ごほん、ごほん。何を泣いているのだ、少女よ」
「……」
夢の中でもうずくまっていた少女にBSS神は偉ぶって声をかけましたが、無視されました。おや? と思います。
気弱そうだったのに。意志が強かったり心を閉ざされると、BSS神程度の力では洗脳も難しいので、焦りながら優しい声音を心がけて少女の前にしゃがんで話しかけます。
「あの、ドリームちゃん? 聞こえてる? あのね、ボク、神様なんだけど、今日はちょっといい話があってね?」
「……」
「あのー? 聞こえてない感じ?」
「……うるさい。黙って」
「え、ご、ごめんなさい」
ちょっとだけ顔をあげて睨まれたので思わず謝ってしまいました。BSSは人間を下等な人間と思っていますが、それはそれとして気が弱いので女子から強く出られるとびびってしまうのです。
え、恐い。やっぱやめようかな。と思いましたが、BSS神は「僕が先に好きだったのに神」なのです。一途で一度決めた思いを引きずるタイプなのです。一度いいな、と思った彼女を簡単にあきらめることはBSS神の性質的にできません。
勇気をだしてもう一度声をかけることにします。
「あの、ボクは神様だから、人間のお願いを叶えてあげられるんだよ? だから話を聞いてほしいな?」
「だったら、殺してよ」
「え?」
「はやく、あのクソみたいな親を殺してよ!」
「あ、あわ、あわ」
勢いよく立ち上がった少女、ドリームちゃんは怒鳴りつけてBSS神の足を蹴りながらそう言いました。もちろん痛くはありませんが、BSS神はその勢いにびびりすぎてしりもちをついてしまいます。
「できないなら消えなさいよ!」
「に、人間を殺すのは許されてないからぁ」
神の世界に連れていくのは本人の了解があればギリセーフなとこあります。昔から神様であろうと恋心は制御できないので、両思いだからと建前をすれば許されます。ですが殺してしまうのはさすがにNGです。
「でも命にかかわらないことならできる、そう! 君をひどい親から離れた遠い、ボクたち神の世界で生活させてあげることはできるよ!」
「……で? それで私は何を要求されるの? 悪魔なんだから、魂? それとも奴隷として魂が擦り切れるまで使い潰されるの?」
「あの、神様なんだけど」
いい考えだ! と思ったのにドリームちゃんは冷めた目でこんこんと足先でBSS神のつま先を蹴ってきます。
しかも何故だか悪魔扱いです。本当に神様なのに。だいたい同年代の他の神からもあまり人望が無く軽く扱われがちなBSS神は、そんなある意味なれた対応に心がしょんぼりしてきます。
ですがそれを気にせずドリームちゃんは腰を折って睨み付けてきます。夢の中なので痣もない彼女は表情豊かで、怒りがストレートに伝わってきてとっても怖いです。
「じゃあ何、なんにもしなくていいわけ? あんたが私の言うこと聞いて何から何まで世話してくれるってこと?」
「あ、あうあう。あの、その、ぼ、ボクの秘書を探してまして、雇いたいなーみたいな」
洗脳するにも心を許してもらわないといけません。BSS神はなんとかまずはBSS神についていこうと思ってもらえるように耳障りのいい言葉を並べます。もちろん嘘ではありません。BSS神は嘘があまり好きではないのです。
「……仕事内容は?」
「えっとあの、詳しくはね、まだ決まってないんだけど。ボクのお仕事をサポートしてもらいたいなって。生活の面倒はもちろん見るし」
「全然わからない。だから何の仕事をしてるわけ?」
「えっと」
BSS神にも仕事はありますが、一番多いのは他の偉い神様からふられる雑用です。なんとかそれをいいように言い換えて、ドリームちゃんの質問に答えていきます。
小一時間ほど問い詰められて、ドリームちゃんは満足したらしく考え込むように腕を組みました。正確に言うといまいち要領を得ない説明だったので、これ以上の質問を諦めたのですが。
「……そっちの世界を見ないと何とも言えないわ。ひとまず仮雇用じゃ駄目? 本採用されたらもう自由に人間界に戻れないなら、おためしは必須でしょ? あなたにとっても、私が使えなかったらクーリングオフしたいでしょ?」
「あ、はい、あ」
もちろん神の世界にクーリングオフはありません。そんな気軽に人を出入りさせられません。許されるのは人間界を捨ててでも一緒になりたい、と言う気合がある人間くらいです。
洗脳させてそのふりをしてもらおうと思ってましたが、今の状況ではとても洗脳がききそうにありません。
だと言うのに、勢いで頷いてしまいました。わかりやすく失言した、と言う顔をしているBSS神に、ドリームちゃんは気付いているのに知らないふりをしてにっこりしました。
「じゃあ決まりね! 私を今すぐつれていって!」
そしてぎゅっとBSS神の腕に抱き着くようにして笑顔でおねだりしました。
それまでずっと不機嫌だったり仏頂面だったドリームちゃんのいきなりの素朴な笑顔のドアップ、おまけに腕に感じる豊かな恵みに、BSS神はどきゅんと心臓を貫かれてしまいました。
「う、うん!」
こうしてBSS神は洗脳をするどころか、逆に言いなりになる形でしたが何とかドリームちゃんと言う秘書を手に入れました。
その後、ドリームちゃんは自分が成人して親元を堂々と離れられる数年後には人間界に帰るつもりで提案し、それまで精々BSS神を利用するつもりでしたが、素直に懐いてくるBSS神にほだされて結局ずっと秘書として公私ともに支えることになりますので、BSS神も尻に敷かれながらも幸せな神生を送るのでした。