「よって合理的に考えて、こうするのが最も効率的だと判断しました」
「……」
「まだ納得ができませんか?」
目の前にいるのは普通の大人の女性、に見えるけど普通の人間じゃない。
人工的につくられ胎児の時から特殊なナノマシンを体に注入して、特殊な能力をを持つ能力者として育て、この国の平和を守る自治組織の一員となる。それが魔法少女防衛計画。この国が百年前からひそかにすすめ、ついに十年前から公に実行されたものだ。
つまり、この人は国を守るための構成員である魔法少女だ。非人道的だけど一応国家公務員みたいなものなのに、どうしてここにいるのか。
それには私のことを説明しなければならない。私は悪の組織の人間だ。
悪の組織、と言われているけどそれをつくった父にそんなつもりはない。父はただ、病弱な娘である私を助けたくて、ナノマシン技術を通常医療にも開放しろと迫り、学会を追放されてからも組織をつくって今も対抗している、ただ私を思ってくれている、それだけのつもりだ。
ただナノマシン技術を手に入れる為、民間人は別としても政府の所有物であり被験体である魔法少女を拉致することに成功し、彼女、魔法少女ナンバー02500の体を研究しているので、控えめに見積もっても邪悪で非道な悪の組織だろう。
魔法少女たちに人権がないのは政府の行いに対してだけで、それ以外は一般人よりむしろ優先される権利があると法律で決まっているので、法律違反でもあるし、普通に犯罪者だ。
父は一応罪悪感を持っていて、できるだけ痛くないようにしたり、命をうばったり洗脳したりはしないけど、彼女はその被験体であることに違いないのだ。
だから私たちを恨んでしかるべきなのに、どうしてか今、彼女は自分から私の世話係をしている。
今なんて、私のことを膝に乗せて食事を食べさせてくれようとしている。今日は体調もいいから、ご飯くらい一人で食べられるのに。
膝にのせるのは全然合理的じゃないと思うし、最初もっと冷たい雰囲気だったのに急に態度が変わっている。
「納得と言うか、どうしてよくしてくれるのか、わからないから。私のせいであなたはひどい目にあってるのに」
「私は人を助ける為につくられました。あなたが助かるなら、魔法少女は協力します。そうあれと、つくられたからです」
「でも、痛いでしょ?」
「いいえ、政府からの指令により戦闘行為をする方がずっと痛みの有る行動です」
「でも……」
父は医者の免許も持っていて、非合法にだけど薬品も施設も用意できている。だからきっと、痛くはなかったんだろう。だけど強引に血をぬかれ、傷をつけてからのナノマシンの活動状況などを観測され、完全に物扱いだ。私だったら、心が痛くなる。
だけど彼女は、魔法少女である彼女にはそれが伝わらないのだ。何と言えばいいのだろう。私はただ、私の為に誰にも傷ついてほしくないだけなのに。
そんな私に、彼女は不器用ながらも笑みをつくった。
「あなたは言ってくれました。私が望むなら自由にしてくれると。なら、私は私の自由意思で望みます。名前を呼んでください」
「……ニコさん」
話しかけた時に魔法少女ナンバー02500と名乗ったから、勝手にじゃあニコさん、と一時的に呼んだだけなのに。
たったそれだけで、彼女は、ニコさんは急に雰囲気を変えたのか。捕まっても、父に半ば脅すように頼みこまれて研究させてくれと言われた時も、無表情無感情で従っていたのに。
今、ニコさんは自分から私に話しかけてくる。表情を変えて、優しくしてくれる。
こんなのは駄目なのに。きっと今まで、魔法少女としての生活はひどいもので、だからちょっとした私の行いに、まるで雛鳥が親鳥になつくかのように優しくしてくれているのだろう。
きっと私の判断は間違っていた。軽率なことをすべきではなかったのだ。そう思うのに、嬉しいって思ってしまう。
私の為に協力する、私と一緒にいたい、お世話が楽しい。そんな風に言ってもらえて、嬉しいって、私もニコさんと離れたくないって、思ってしまう。
「でも……私と一緒にいるって言うことは、国も、他の魔法少女も裏切るってことだよ?」
「はい。あなたの為なら、他の魔法少女も連れてきましょう。そうしていつか、あなたが自分の足で立って、外を歩けるようになるなら。私は、何もかも、あなたに捧げます」
最初に見たニコさんは、どこまでも無感情にただ政府の言う正義に従っていて、その目はどこまでも透明で綺麗に輝いて見えた。
だけど今、私に笑いかけているニコさんの瞳はどこか妖しく光っていて、私はそれが、たとえ人から間違っているのだと言われるものなのだとしても、なにより美しく見えてしまう。
「あなたと出会って、私は……自分だけの正義を見つけたのです」
正義の反対は別の正義だと、私もどこかで聞いたことがある。だけどそうじゃない。ニコさんのそれは、正義なんかじゃない。味方も政府も裏切るのは、大多数にとって悪でしかないだろう。
それでも、私は、喜んでしまった。
「ニコさん……。じゃあ、私は……ニコさんの為に、ニコさんが誇れるような、正義になるよ」
もうきっと、元には戻れない。ニコさんは私がなんて言ったって、きっと私の傍にいてくれるだろう。だったら私は、ニコさんが誰からも後ろ指をさされないようにしよう。
魔法少女を捕まえて、私の病気を治して、組織を大きくして、政府もなにもかもめちゃくちゃにしてしまうんだ。そうして、全て倒したら、正義も悪もひっくり返るはずだ。最後に立っていた側が、正義になるんだから。
「……はい」
私の言葉にニコさんは柔らかく微笑んだ。この笑顔の為なら、私は自分の意志で、正義になろう。