北方蛮族転世記(仮称)   作:鈴木田中高橋

1 / 2


転生した。死んで目を覚ますとそこは異世界であった。

 

死に方も、トラックに轢かれかけた子供の身代わりになって死んだ…といった感動的な死に方ではなく、階段で転びそのまま打ち所が悪く…といった普通の、何なら少し間の抜けた死に方であった。

薄れゆく意識の中、こんなあっけない死に方かと自分自身に軽く引いたほどだ。

 

しかし、ふと気が付き、『ああ、何だ死ななかったのか。間抜けな死に方でなくて良かった』なんて思いつつ、目を開ければ体が赤ん坊になっていた。

 

『はっ?えっ?』と思いながら、自分では止められずに『おんぎゃあ、おんぎゃあ』と声を上げていると、おそらく母であろう人物に抱きしめられ、次に父であろう人にも抱きかかえられ、ここでようやく『ああ、自分は転生したのか』と気が付いたのだった。

 

それからは早かった。

 

成長していく中で父と母、そして周りの大人達から様々なことを学んだ。

 

この世界は剣と魔法の世界であること、自分達が住んでいる場所は極寒の北の土地であること、自分たちは他の人々からは蛮族と呼ばれていること、厳しい北方での生活の知恵、食べられる野草や狩りの方法、魔法と槍の扱い方などを学んだ。

 

そして毎年の厳しい冬、子供には過酷な訓練、出陣はしなかったが初めての戦争、両親との死別などを乗り越え今に至る。

 

いやあ大変だった。

 

環境が厳しすぎてひたすら生き延びるのに必死だった。お約束のチートはないし、内政無双しようにも知識がない。転生者である意味とは?と考えてしまうほどだ。

 

しかし悲しいかな、チートが無くても日々の暮らしはある。特にクソ環境の北方では集団の中で役割を全うし、周りに認められないと生きていけないのだ。特に親がいない自分は何かがあれば一番切り捨てられやすい。なので、ひたすら努力せねばならないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シン、族長がお呼びだ。」

 

何となしに今までの半生を振り返りつつ、魚を捕るために釣り罠を仕掛けていると、若衆の頭に呼ばれた。いつもと同じのっぺりとした面、感情の読めない声だ。気味が悪いから年下の若衆からは魚面と陰口をたたかれている。

 

「俺ですか?」

 

罠を仕掛けながら聞き返す。クソ寒い北方の、クソ寒い冬の、クソ冷たい水のせいで手がかじかみ、なかなか作業が進まない。

 

「お前以外にシンはいないだろう。無駄な口を叩くな。」

 

仏頂面で頭を小突かれる。下っ端の若造にまともな人権なんてものはない、返事で認められるのは『ハイ』だけだ。そうでなければ殴られる。まあ『ハイ』と答えても殴られる時は殴られるが。

 

「さっさと行け。族長を待たせるな。」

 

おまけにもう一度小突かれてから族長のテントに向かう。

 

族長のテントは他と比べて二回りほど大きく、刺繍などで装飾されている。集会所としての役割もあり、何かあれば長老たちがここで話し合う。遠くから客人が来る時もここで歓迎をする。

 

「失礼します族長、シンです。」

 

扉の外から声をかけ、返事を待つ。

 

「おお、シン、よく来た。さあ、そこに座りなさい。」

 

キセルをふかしながら、穏やかな口ぶりで族長が答える。禿頭と、長く伸ばした真っ白なあごひげ、柔らかい笑顔をしたこの老人が族長だ。今年で八十を超えるはずだが、顔の皺と髭以外はあまり老けた雰囲気は無く、筋骨隆々で若々しい。五年前の戦争では自ら槍を持って前線に立ち、敵指揮官の首を挙げた程である。

 

「ありがとうございます。それで族長、俺はなぜ呼ばれたのでしょうか?」

 

族長は言葉を探るようにゆっくりと煙を吸い、吐き出す。

 

「ふう…、うむ。シン、お前、本国に興味があるかね?」

 

「帝国に、ですか?まあ、興味深い場所だとは思います」

 

帝国、五年前の戦争相手だ。俺たちが住む北方から多く産出する魔石と、精霊という北方独自の魔術体系の簒奪、独占を狙い侵攻してきた。帝国の侵略に対して、普段はいがみ合っている北方の五氏族全てが協力して戦ったが、結局は国力の差で押し負けた。

しかし帝国側も予想以上の損害を受けたことから戦争の長期化を望まず、名目上帝国の属国となることを条件に北方の全氏族に一部の交易権や鉱山の採掘権を除いた今までの権利を保障した。それ以来、北方では帝国の事を本国や本土と呼んでいる。

 

「おお、そうかそうか、それは良かった。それではシン、うちの氏族を代表して本国に人質…もとい留学してきなさい」

 

このジジイ笑顔でとんでもないこと言い始めやがった!

 

「い、いやいや、待ってください族長!どういうことですか!」

 

話の流れが読めない、いったいどういうことなんだ。

 

「実は本国からワシ等宛に手紙が届いての、本国に留学生を送れという話なのじゃ。

まあ、体のいい人質の要求じゃな。今の情勢的に殺される心配はないじゃろ」

 

イケる、イケると軽いノリで促してくるクソジジイ、ふざけんじゃねえぞ。

 

「それにしたって、なぜ俺なんですか?そういう重要な仕事は族長の直系や若衆頭の方が適役でしょう。俺なんかにはとても勤まりません。格が足りませんよ」

 

絶対に行きたくない。五年前まで戦争してたんだぞ、間違いなく針の筵だ。それに有力者を差し置いて若者代表的な立場になったら出発前に殺されかねない

 

「それに実力なら俺よりも上のやつが何人もいるでしょう。俺なんか行かせたら氏族の恥になりますから!別のやつにしましょう!ね!」

 

必死の訴えも耳に届いていないのか、クソジジイは穏やかな笑顔のまま続ける。

 

「ホホホ、そんなに自分を卑下するでない。確かにお前は若衆の中でも目立つ存在ではない。槍の腕、狩りの腕、精霊の扱いでもお前よりも上は多くいる。だがな、ワシはお前の他の部分を買っているのだ」

 

「他の部分、ですか?」

 

…自覚はあったが実際に他人より劣っていると断言されるのは少し寂しい。だが自分の優れている点!これは気になる!どうせ本国送りは断るがそれは知りたい!

 

「うむ!ワシはお前の卑屈さを買っておる!」

 

ええ…、期待させておいてそれかよ、絶対いい意味じゃないいじゃん、というか単なる悪口じゃん。

 

「そう露骨に残念そうな顔をするでない、これは褒めておるのじゃ」

 

族長は煙を大きく吐き出し、ニンマリと笑顔のまま続ける。

 

「お前は人の顔色を見るのが上手い。上の顔を立て、仲間との諍いをいなし、目下からはそこそこ頼られる」

 

そら前世と合わせりゃ何十年と生きてるからな、いやでも多少の処世術は身につく。

 

「いや、買いかぶりすぎですよ。さっきも頭に小突かれましたよ」

 

こんな理由で本国送りが決められたらたまったもんじゃない!絶対に回避してやる!

 

「そこじゃ!お前は人間関係を上手く立ち回り過ぎない。そこをワシは買っておるのじゃ!」

 

そう言いながら族長は俺をキセルで勢いよく指差す。 

 

「実際、お前よりうまく立ち回っている者もおる。上からは可愛がられ、仲間からは慕われるといった具合にな。しかし、そういう者は必ず妬まれる。表向き何も問題はなくとも、裏では不満が溜まるものじゃ”どうしてあいつだけ””ずるい、俺だって”といった具合での。これは厄介じゃぞ、何せ表には出てこない、出したら自分は器の小さい人間だと宣言するようなものじゃからな」

 

何が楽しいのか族長はキセルを指で弄び、愉快気に笑う。

 

「表に出せない分、余計に不満は溜まる。時にそれは、狩りや訓練の際の”些細な”不手際、”不幸”な事故といった形で現れる。やった側もわざとでない場合が大半じゃ。雑念による判断の遅れ、わずかな手元の狂いといった具合での」

 

浮かべていた笑みを消し、真剣な顔つきになって族長が続ける。

 

「じゃが、お前はこの無意識の感情の動きを理解し、自分の印象を良すぎもせず、悪すぎもせずといった具合に調節しておる。生まれて十五の若造ができる立ち回りでは無い。」

 

何だこのハゲ、俺そこまで考えて行動してないよ、完全な勘違いだよ。

 

「此度の留学で必要になるのは槍の腕、精霊の扱いなどではない、思慮深さじゃ。

敵地である帝国においてどれだけ冷静に立ち回れるかそれが重要なのじゃ」

 

何だかそう言って褒められるとなかなか悪い気はしない…ってやばい!話が締めに入った!このままではなし崩しに本土送りが決定する。

 

「ですから買いかぶりですって!そんまで考えて動けるほど俺は頭良くないですよ。人に慕われないのは魅力がないだけで、冷静さとか思慮深さとは無縁の人間です!」

 

やばい、やばい、やばい若い身空で敵国での人質生活は嫌だ!絶対に嫌だ!

 

「ホホホ、まあ、お前の帝国行きは決定事項じゃ、三日後に迎えが来るから準備しておくんじゃよ。それと先ほど自分では格が足りんといっておったな」

 

ハッ!そうだ、その手があった。普通に考えれば族長の血縁でも無く、重要な役職ではない人間では帝国側としても人質の意味がないのだ。

 

「ええ!ですから貴重な機会ではありますが、残念ながら行けませんね!いやー残念!残念だなー!」

 

「いや、お前ワシの孫じゃから格は十分じゃよ」

 

はあ?

 

「ちょっと前に本土から戸籍の調査が来ての、その時にピンと来てワシの家系にお前をねじ込んでおいたんじゃ。いやー『ふぁいんぷれー』じゃったの」

 

唖然としている俺を他所に族長は立ち上がる。

 

「とにかく話は終わりじゃ、仕事に戻りなさい。罠の仕掛けをしておったのじゃろう?ほおっておくと餌だけ盗られるぞ。さあ行った行った」

 

そのまま、あれよあれよと反論を許されず、テントから追い出されてしまった。こうなっては留学は確定、さようなら糞寒い北方、こんにちは敵意と害意に満ちた新天地である。

 

 

「ちくしょう!覚えてろ!こうなったら留学先でコネ作って、こんな村出てってやる!」

 

誰にも聞かれないように小声で決意を叫んだ。我ながら少し惨めだ。




 貴重な時間をドブに捨て、こんな駄文を読んでくださりありがとうございます。
感想または罵倒でも吐いて行って下さると泣いて喜びます。

 宜しければ時間をドブに捨てたついでに、アドバイスでもして頂いてさらに時間をドブに捨てて頂けると幸いです。

 続きはまだ考えていないので気長にお待ち下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。