ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第九話をお送りします。

虚無の曜日イベントとなります。

劇中の日数経過などは、スルーしてください。


 第九話

 

 

 人造人間セルが、トリステイン魔法学院に召喚され「ゼロ」のルイズの使い魔となって、一週間が経過していた。

 

 セルの一日は、主であるルイズを起こすことから始まる。寝惚けまなこのルイズの寝間着を念動力によって脱がせてやり、そのまま制服を着させてやる。その際、ルイズの下着姿を間近で鑑賞できるわけだが、当然セルがそのような瑣末な事に関心を寄せるはずがない。自称「天下に冠する美少女」たるご主人さまはそのことが、やや気に入らないようだった。着替えを終えたルイズは朝食に向かい、セルは洗濯カゴを手に一階の洗濯場を目指す。

 

 「あっ! おはようございます、セルさん!」

 

 「おはよう、シエスタ」

 

 洗濯場では、先に来ていたシエスタが、満面の笑みを浮かべ、セルと朝の挨拶を交わす。

 ギーシュとの決闘の翌朝、シエスタはルイズの部屋を訪れ、セルとルイズに食堂からの一連の騒動について、謝罪と感謝を伝えていた。特にシエスタは、セルが自分を庇ってくれたのに、貴族の権威を恐れる余り、決闘に赴くセルの前から逃げ出してしまったことを深く後悔していた。そのセルが、貴族との決闘を軽く制してしまった上に、貴族、ギーシュになにやら薫陶めいた言葉を伝えると、そのギーシュがあろうことか、平民である自分に正式に謝罪したいと言ってきたのである。平民として貴族たるメイジに畏怖を抱き続けていたシエスタにとって、セルの存在は正に衝撃だった。

 以来、セルに対して尊敬の念を露にするシエスタが、自称「トリステインが誇る美の結晶」たるご主人さまは、いささか癇に障るようだった。

 

 「セルさん、ほんとに洗濯が上手になりましたね。もう、わたしより上手かもしれませんよ」

 

 「シエスタの指導のおかげだ。それにきみにはまだまだ、及ばないだろう」

 

 「……そんな、セルさんったら」

 

 セルに褒められ、気を良くしたシエスタは自身の洗濯物をねじり上げる。セルは手洗いの洗濯の微妙な力加減が、自身の強大すぎる力をより細やかに制御するための一助になると考えていた。その訓練も兼ねて、この一週間、毎日朝の洗濯を欠かさなかったのだ。貴族のお召し物を手洗いで洗濯する二メイルの亜人は、学院で働くメイドや使用人の間では有名になっていた。特にアルヴィーズの食堂を取り仕切る料理長マルトーとその下で働くコックたちは、貴族を正面切った決闘で負かしたセルを「我らの亜人!」と呼んで、もてはやしていた。無論、平民に限らず、生徒や教師といったメイジたちもドットランクとはいえ、ギーシュをまるで寄せ付けなかったセルに対して一目置くようになっていた。

 そのことを知った、自称「ハルケギニアに並ぶ者無き美の顕現」たるご主人さまはさらに、悶々とするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズは悩んでいた。自身の使い魔であるセルについてである。使い魔としての能力については文句はなかった。「キ」による念動力や飛行といった特殊能力が使え、さらに実際の戦闘力についても、ギーシュとの決闘ではっきりした。基本、ご主人さまにも従順だし、なにより、「ゼロ」の自分を主として認めてくれている。それゆえ、彼女は悩んでいた。

 

 (私、セルにご主人さまらしいこと、なにもしてあげてないかも……)

 

 セルは、食事を必要とせず、また睡眠も要らないため、ある意味全く、手の掛からない使い魔ともいえた。だが、プライドの高いルイズは、自身が何も与えていないのに使い魔の忠誠を得ることを良しとしなかった。

 

 

 

 「……よし、決めたわ!! セル、武器を買いに行くわよ!!」

 

 大陸共通の休日である虚無の曜日の前夜、ベッドに座り込んでしばらく唸っていたルイズは突然立ち上がり、仁王立ちとなってセルにそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――同時刻、魔法学院本塔宝物庫前。

 

 「……なるほど、ではこの宝物庫の扉や周辺の壁には、よほど強力なメイジでも手も足も出ないということですわね」

 

 「そうでしょうな。なんでも、オールド・オスマンの盟友だという複数のスクウェア・メイジがあらゆる呪文を無効化するために過剰ともいえる対魔法処理を施したとか、そのメイジたちもすでに他界しているそうで、それゆえ事実上の完全魔法防御を達成してしまった唯一の例といえるでしょう」

 

 「ミスタ・コルベールは本当に豊かな知識をお持ちでいらっしゃるのですね。尊敬いたしますわ」

 

 「え、い、いやあ、ミス・ロングビルもお上手ですな! は、ははは!」

 

 忘れていた決済書類をオールド・オスマンに届けるため、学院長室に向かっていたコルベールは、学院長室の一階下に位置する宝物庫前に佇んでいたロングビルと何気ない立ち話に興じていた。妖艶に微笑むロングビルの気を引こうとコルベールはさらに宝物庫に関する話を披露する。

 

 「ですが、ミス・ロングビル。この世に始祖「ブリミル」以外の絶対は存在しない、という言葉通り、この宝物庫も絶対に安全というわけではないのです。実際にはありえんでしょうが、もし本塔の大きさに匹敵するような巨大なゴーレムがその質量にものをいわせて物理的衝撃をピンポイントに加えれば、おそらくは。まあ、あくまで可能性の話ですがね」

 

 「まあ……とても、とても興味深いお話でしたわ、ミスタ・コルベール」

 

 今日一番の笑みを浮かべて、学院長専属秘書ミス・ロングビルはコルベールに応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――翌日。

 

 トリステイン王国王都トリスタニア最大の市街通り、ブルドンネ街。白い石造りの城下町を魔法学院の制服と外套を身に着けたルイズと二メイルを超える長身の亜人セルが連れ立って歩いていた。通りを行き交う人々や、露店の店主たちはこの奇妙な二人連れを最初は驚いて見つめていたが、ルイズがメイジであることに気付くと、酔狂な貴族が令嬢の護衛に奇妙な亜人を使っているんだろうと考え、あえて騒ぎ出すことは無かった。実際、大陸のいくつかの国では一部の亜人を自国の軍事力や労働力として使役していたのだ。

 

 「う~ん、王都のこの雰囲気、久しぶりだわ。それにしても、「キ」の飛行って便利よね。本当なら、馬で往復六時間はかかる王都まで、片道たったの十五分だなんて。お尻も痛くならないし、景色は最高だし。それで、セル。トリステイン王都に、はじめて来た感想は?」

 

 「……狭いな」

 

 「えっ、本当? トリスタニアで一番大きな通りなんだけど。まあ、あんたの図体じゃ、そう感じるのもしょうがないかもね」

 

 ブルドンネ街の道幅は五メートルほどしかない。セルが地球において、はじめて訪れた都市ジンジャータウンと比較しても極端に狭いといわざるを得なかった。

 

 「ところで、預けた財布は大丈夫でしょうね?」

 

 「心配はいらない」

 

 ルイズは財布は使い魔が持つものだといって、セルに金貨の入った皮袋を渡そうとしたが、その時になってルイズはセルが服を着ていないことに気付いた。どうしよう、と立ち尽くすルイズに、セルは尾の先端を漏斗状に拡げ、この中に入れればよいと言い出した。しかたなしにルイズはセルの尾の中に皮袋を入れた。まあ、たしかに亜人の尾の中に金貨を隠すなど誰が想像するだろうか。たとえ、貴族くずれのメイジのスリが居ても、盗まれる心配はなかった。

 

 (それにしても、セルって……い、言ってしまえば、ぜ、全裸ってことよね。言われなければ、あんまり気にならないけど、やっぱり、武器だけじゃなくて服とかも買ってあげたほうがいいのかしら? たとえば……)

 

 そこでルイズは、禁断の想像をしてしまう。ヴァリエール家専属執事のお仕着せを一分の隙も無く着こなすセル。

 ルイズの優秀な頭脳は、その情景を寸分違わず、彼女の脳内に構築してしまう。その破壊力は推して知るべし。

 

 「……ぶふッ!!」

 

 思わず、吹き出したルイズは、その衝動に耐えるため、両手で口を塞ぎながらプルプルと震えていた。

 

 「どうした、ルイズ?気分でも悪いのか?」

 

 心配して声をかけてきたセルの方を見てしまったルイズの脳内にまたしても、さっきの映像が再生される。

 

 (……もう駄目)

 

 しばらくのあいだ、ブルドンネ街に少女の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え~と、ピエモンの秘薬屋の近くだから、この辺のはずだけど……」

 

 なんとか、笑いの衝動を押さえ込んだルイズはセルとともに裏路地を進んでいた。道幅はさらに狭くなり、道端には汚物やゴミが散乱し、臭いもひどい。

 

 (ルイズ、よもや精神疾患を患っているのでは?天賦の才を与えられた者は、同時に狂気をも与えられるというが……いや、そう判断するのは早計か)

 

 きょろきょろと周りを見渡して、裏路地を進む主の後ろに付き従いながら、若干失礼なことを考えるセル。ルイズは、銅でできた剣の意匠の看板を見つけ、声を上げた。

 

 「あ、ここよ」

 

 武器屋の無骨な扉を開け、ルイズとセルは店内に入った。薄暗い店の奥で、暇をかこっていた中年の店主は、貴族の令嬢と見たこともない長身の亜人という二人連れに目を剥いたが、すぐに愛想よく二人に声をかける。

 

 「こりゃあ、ようこそのお越しで、貴族の若奥さま! 剣をお求めで? それとも、儀礼用の鎧のご注文ですかい?」

 

 「私の使い魔に似合う立派な大剣はあるかしら?」

 

 ルイズはそう言って、セルの方に顎をしゃくる。店主は、はじめて見る長身の亜人を無遠慮に眺め回す。

 

 「ははあ……これは……また、ずいぶん珍しい使い魔をお使いで。そういや、近頃は「土くれのフーケ」なんて貴族専門の盗賊があちこちに出張っちゃ、貴族の方の邸宅や別荘から貴重なお宝を盗みまくっているとかで、用心のために貴族の方々の間じゃあ、下々の用人にまで剣を持たせるのがはやっておりやしてね」

 

 「ふ~ん、貴族専門ね。当然、そのフーケってのもメイジでしょうけど……」

 

 「ルイズ。私が選ばせてもらうがかまわないかね」

 

 ルイズと店主の世間話をさえぎるようにセルが声をかける。

 

 「まあ、あんたが使うものだし、別にいいけど。あんまりみすぼらしいものは選ばないでよね」

 

 セルは、店内に所狭しと並べられている剣や槍、斧といった武器を見て廻り始めた。すると、どこからか低い男の声が響いてきた。

 

 「おめえ、みたことねえ亜人だが、さては「使い手」だな。こりゃあ、おでれーた! 亜人の「使い手」たあ、おでれーた!!」

 

 「……剣が口を利いただと」

 

 セルが見つけたのは、細身ながら一.五メイルはあろうかという大剣だった。しかし、表面にはびっしりと錆が浮き、埃も積もり放題という見栄えのあまりよろしくない剣だった。

 

 

 「それってインテリジェンスソード?」

 

 ルイズが問いかけると、店主は苦い顔しながら説明した。

 

 「へえ、おっしゃるとおりで。まったく、どこの物好き魔術師が剣をしゃべらせるなんて考えついたんだか。こいつは、デルフリンガーなんて大層な名前持ちなんですが、やたら口は悪いわ、客という客にケンカを売るわで、あっしもほとほと困っておりやしてんね」

 

 「これをもらおう。ルイズ、かまわないな?」

 

 「えっ、そんなボロッちいのでいいの? もっと、きれいな剣の方がいいんじゃない?」

 

 「いや、自意識を持つ剣、なかなかに興味深い」

 

 「まあ、あんたがそれでいいなら、私は別にいいけど……」

 

 「デル公でしたら、鞘込みで新金貨百枚でけっこうで」

 

 「見る目があるじゃねえか、おめえ!! さあ、おれっちを握ってみろい!!」

 

 セルはデルフリンガーの柄を握った。そして、わずかに力を込めた。セルの左手の甲に刻まれた紋様が光を放つ。

 

 「!! うおおおおおぉぉぉ!! こ、こりゃあ、まちがいねえ!! 「使い手」にまちがいねえッ!! おでれーた!!…………え、うそ、なにこれ!? でかすぎる!! こんな馬鹿でかい力!! あ、ありえねえッ!! む、むりむりむり……こんなんむりにきまって……あっ」

 

 

 バヂンッ!!

 

 

 次の瞬間、デルフリンガーの刀身が粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第九話をお送りしました。

デルフリンガーの運命や如何に……

次話で、ゼロ魔世界の苦労人、フーケさんが登場します。

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