ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第十一話をお送りします。

虚無の曜日完結及びフーケさんとの初接触です。




 第十一話

 

 セルとの絆をさらに強固なものにしたルイズは、ブルドンネ街に戻ってきた。

 使い魔の武器を購入するという、一応の目的は果たしたが、まだまだ時間的には余裕がある。懐にも思いがけず、余裕ができた。久しぶりの王都を満喫するのも、悪くない。そう、考えたルイズがとりあえず、落ち着ける店を探そうと通りを見渡していると、見知った顔が声をかけてきた。

 

「あら、ヴァリエールじゃない。王都で会うなんて珍しいわね」

 

「……」

 

ルイズに声をかけてきたのは、キュルケとタバサであった。見れば、二人の背後にはかなりの量の荷物が積み上げられていた。タバサはそのうちの一つに腰掛けながら読書に没頭していた。若干、顔をしかめたルイズだが、往来で声をかけられて無視するわけにもいかず、しかたなしにキュルケたちに近づきながら、答えた。

 

「それは、こっちのセリフよ、ツェルプストー……随分、買い込んだわね、バーゲンでもやってたのかしら?」

 

「せっかくの虚無の曜日だもの。しっかり、楽しまなくちゃ。ちなみにこれぜーんぶ、王都でも指折りの高級店のドレスとか宝飾品とか香水なんかよ。まあ、学院の補修費用をわざわざ自分から負担しているあなたには買えない代物かもね」

 

 

カチーン

 

 

「こぉれだから、ゲルマニア貴族は野蛮な成り上がりだっていわれるのよね。金にあかして高級品さえ身に付けていれば、自分たちが誇りも持たない貴族モドキだとバレないとでも思っているのかしら?」

 

 

カチーン

 

 

 「……言ってくれるわね、ヴァリエール。やっぱり、あなたとは決着をつける必要があるわね」

 

 「こっちこそ、望むところよ!」

 

往来でヒートアップするふたりの美少女メイジ。そろそろ止めるか、とセルが動き出そうとした時、それに先んずる者がいた。

 

 「周りの迷惑……後、お腹すいた」

 

二人の間に割って入ったのはタバサだった。いつもの無表情で仲裁すると同時に自身の要求も申し立てる。そのマイペースぶりに毒気を抜かれたのか、ルイズとキュルケは矛を納めた。

 

 「……わかったわよ、タバサ。近くに私オススメのカフェがあるから入りましょう。ヴァリエールも一緒にどう? お詫びの印におごるわよ」

 

 「ま、まあ、いいわ。いつまでも遺恨を抱えるなんて、それこそ貴族らしくないし……ところで、そのカフェ、クックベリーパイはあるんでしょうね?」

 

 「もちろんよ。任せておいて……あっ、荷物はどうしようかしら?」

 

 「それは、私に任せてもらおうかしら。セル! この二人の荷物を運んであげてちょうだい。出来るわよね?」

 

 「無論だ」

 

 セルが手のひらを二人の荷物に向けるとすべての荷物が地上数十センチほどに浮き上がった。その様子に目を見張るキュルケとタバサ。

 

 「……すごいわね。杖はもちろん詠唱も必要としない念力。わかる、タバサ?」

 

 「……わからない。本来ならありえないこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人と一体は、ブルドンネ街を少し進んだ場所にあるアルラザード広場に店を構えるオープンカフェに腰を落ち着けた。一通りのものを注文し終えたところで、キュルケが切り出した。

 

 「ねえ、ヴァリエール、彼ってどういう使い魔なの? 私たちは東方から召喚された人語を話す珍しい亜人ってことしか知らないけど、まさかそれだけじゃないでしょ?」

 

 「……「キ」というものについても知りたい」

 

 「正直なところ、私だって、くわしいことはわからないわよ。学院で亜人辞典なんて呼ばれてる生物課の先生に聞いても、いまツェルプストーが言った以上のことはわからなかったし、セル本人に聞いても、元々いたチキューって場所は相当辺鄙なところらしくて、最初はぜんぜん話が噛み合わなかったんだから。まあ、「キ」については本人に説明させるわ。セル、簡単に教えてあげて」

 

 「承知した」

 

 ルイズが座っている椅子の背後に護衛兵のように控えていたセルは、例によって渋い声色で話し始めた。

 

 「「気」とは、きみたちの魔法とは根本的に異なる力だ。生命の根源の力であり、それを増幅、制御することで、先程のような念動力や高速飛行などを行使することができる。「気」そのものは植物も含めたあらゆる生命が微弱ながら備えているものだが、それを鍛え、自在にコントロールすることは非常に困難だ」

 

 「魔法とは、全く違う力ね。てっきり、先住魔法かとも思ったけど、それも違うわけね……」

 

 「生命の……根源の力……」

 

 セルの説明に感心しながら、うなずくキュルケ。逆にタバサは何か思うところがあるのか、俯きながらセルの説明を反芻していた。その時、ちょうど注文していた飲み物や軽食、甘味などがルイズたちのテーブルに届けられる。だが、タバサの前に置かれたのは、どう見ても軽食どころか大の大人三人分はあろうかという量の食べ物だった。思わず、ルイズが確認する。

 

 「えっ? これって注文間違いじゃないの?」

 

 「ふふふ、ヴァリエールは知らなかったわよね。タバサはね、とってもよく食べるのよ。私もはじめて知ったときは驚いたものよ」

 

 「限度があるでしょうよ。私より小柄なのに……」

 

 「……」

 

 呆れるルイズをよそに、タバサははしばみ草が山もりに盛られたサラダを次々に口に放り込んでいく。

 

 そこからは、女学生同士の他愛ない会話に花が咲いた。基本、ルイズとキュルケがしゃべり、時折タバサが妙に鋭い意見を述べたり、短いながらもキレのよい突っ込みを入れる。話の内容も、やれあの先生の授業は眠くなるだの、やれあの男子学生の目つきは誰に対してもいやらしいだの、取るに足らないものばかりだったが、ルイズにとっては、とても楽しいものだった。いままでの彼女の学院生活ではなかったごく自然な人とのふれあいだった。それを見たキュルケは密かに微笑ましい気持ちにとらわれた。

 

 (……ちょっと、変わったわね、ヴァリエール。いままでより険が無くなったっていうか、自然に笑うようになったわ。使い魔の彼のおかげかしら?)

 

 

 その後も、三人娘の会話は限りなく続いた。女性の話は長いというが、さすがに限度があるだろう。すでに陽は傾き、辺りは薄暗くなりつつあった。セルが突っ込みを入れなければいつまで続いていたことか。ちなみ、タバサはその日、カフェが仕入れていたはしばみ草を残さず平らげてしまった。

 

 「ふう、思ったより話し込んじゃったわね。それじゃタバサ、シルフィードを呼んでくれる?」

 

 「……わかった」

 

 「シルフィード? 誰のことよ?」

 

 王都の大門から少し離れたところまで、セルの念動力で荷物を運んでもらったキュルケはタバサにそう言った。ルイズが疑問を口すると同時にタバサが甲高い口笛を吹いた。するとはるか上空から一頭のウィンドドラゴンが飛来した。

 

 「あれが、タバサの使い魔、ウィンドドラゴンの幼生、シルフィードよ」

 

 「……そういえば、召喚の儀の時、六メイル近い竜種を召喚した生徒がいたけど、タバサだったのね」

 

 ところが、飛来したウィンドドラゴンはなぜかルイズたちのすぐ上空を旋回するばかりで降りようとしない。なにかを警戒しているかのようだった。

 

 「あら、シルフィード、どうしたの?」

 

 「……おそらく、彼を警戒している」

 

 「え、セルを? 珍しい亜人だからかしら?」

 

 「……わからない。」

 

 セル自身は特に気にした風もなく、ルイズの背後に佇んでいた。

 

 「う~ん、でもこのままじゃ、学院に帰れないわよ、タバサ」

 

 「……そもそも、荷物が多すぎる。シルフィードでも運ぶのは無理」

 

 「え~、今更、王都直配便に頼めっていうの? もう、そんなお金ないわよ」

 

 なにやら揉め始めたキュルケとタバサを尻目にルイズはセルに確認する。

 

 「ねえ、セル。あんたの念力って飛行と一緒に使ったりってできるの?」

 

 「あの程度の重量物であれば、念動力と飛行の同時行使は問題ない。飛行の速度も王都まで来た時と変わらないと思って貰っていい」

 

 実際には、その数十倍の重量であろうと、全く余裕なのだが、必要以上に力をひけちらかすのを良しとしないセルはあくまで、問題はない程度に返答する。

 

 「じゃ、決まりね。ツェルプストー!」

 

 結果として、セルとルイズ、キュルケたちの荷物がセルの念動力と高速飛行で先行し、キュルケとタバサがシルフィードに同乗してその後を追う形となった。ウィンドドラゴンの幼生であるシルフィードは、二人を乗せた状態でも、時速百キロ以上の速度で飛行できたが、セルの高速飛行にはとうてい追いつけず、仕方ないのでセルがシルフィードの速度にあわせる形で減速飛行を行ったため、学院に到着したころには、完全に夜になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ルイズたちが学院に帰還する十数分前、魔法学院本塔前の中庭。

 

 まだ、宵の口といった時間だが、虚無の曜日のためか周囲に人影はない。黒いローブを翻した、ただ一人を除いて。土くれのフーケである。昨晩の下見で、宝物庫の壁の破壊は容易ではないという結論に至ったが、今朝になって得た情報から時間をかけて仕事している場合ではなくなっていたのだ。

 

 「まさか、近日中に「破壊の篭手」を王立アカデミーに引き渡すかもしれないなんて、ね」

 

 王立アカデミーは王室直属の魔法研究機関であり、新しい魔法理論の確立や未知のマジックアイテムの解析などを表向きの主業務として行っていた。だが、裏では様々な非合法活動にも従事しているという噂もあるキナ臭い組織だった。そんなところにせっかくのお宝を奪われるわけにはいかない。フーケは計画の前倒しを決めた。

 

 「さて、やってみようかね!!」

 

 フーケは杖を取り出し、長い詠唱に入る。詠唱が完成すると、フーケの足元の土が大きく盛り上がる。見る間に盛り上がる土の量は増大し、大きな人型を形成する。それは全高三十メイルはあろうかという土製のゴーレムであった。

 ゴーレムの左肩に「フライ」で飛び乗ったフーケは、ゴーレムに全力での壁破壊を命じる。大きく振りかぶった右ストレートが壁に直撃した瞬間。

 

 

 バゴオォォォ!!

 

 

 宝物庫の壁が巨大な爆炎を放った。炎はゴーレムの右腕をひじ部分まで飲み込んだものの、フーケの魔力を受けたゴーレムは、瞬く間に再生する。

 

 「くっ、なんだっていうんだい!? 爆発する壁だって!?……いや、あれは、もしかして!」

 

 宝物庫の防衛のために施された魔法の一つに「爆壁」というものがあった。これは、「固定化」を解除するための「錬金」や物理的な衝撃に対して発動し、トライアングルクラスの炎を目標に放つという、魔法版「リアクティブアーマー(自爆装甲)」ともいうべきものだったが、何分、理論先行の未完成魔法であり、発動した場合、その魔力が「固定化」と干渉してしまい、その効力を著しく減退させてしまう欠点があった。宝物庫の壁などの制作を行ったスクウェア・メイジたちは、もとより魔法学院の宝物庫に盗みに入る者などいるわけがないとタカをくくり、手当たりしだいに未完成の防御魔法を施してしまっていた。その結果、「爆壁」を発動した壁面には目に見える大きさのヒビが入ってしまっていた。

 

 「はははっ!! やっぱり、あのエロジジイの盟友だけはあるね! いい仕事してくれるじゃないか!!」

 

 フーケは、再度ゴーレムに破壊を命じる。そしてゴーレムの拳が壁に当たる直前にその拳を土から鉄に「錬金」によって変化させる。

 

 

 ボゴォォ!!

 

 

 今度こそ、ゴーレムの拳は宝物庫の壁面に大きな穴を造りだす。フーケはゴーレムの体を身軽に伝わると、宝物庫の中へと入る。

 

 「……これが「破壊の篭手」、いったい、なにでできてるんだい、こいつは?」

 

 フーケが台座からとりあげた「破壊の篭手」は長さは大人の拳からひじの半ば程度、おそらくその名の通り、腕に着けるものなのだろうが、先端には大砲のような砲門がついてる。見た目、金属のようだが、持ってみると驚くほど軽く、土メイジであるフーケにもどんな金属が使われているか見当もつかなかった。だが、今はこいつの材質がなんであろうとどうでもいい。フーケはローブを翻すと、壁の穴から外へと身を躍らせようとした。だが、その直前なにを思い出したのか、杖を台座に対して一振りした。すると、台座の一部にこう刻まれていた。

 

 

 『破壊の篭手、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なによ! あれは!?」

 

 

 学院に戻ってきたルイズたちが見たのは、学院本塔のそばにそそり立つ巨大なゴーレムと本塔の壁に開いた穴から身を躍らせた黒いローブの人影であった。

 だが、ローブの人物がゴーレムの手のひらに飛び乗ったと思った、次の瞬間には、ゴーレムは瞬く間に崩れ去り、すさまじい砂埃が煙幕となって、本塔全体を包み込んでしまった。

 

 

 砂埃が晴れた後に残されていたのは、こんもりと積もった土山だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第十一話をお送りしました。

つなぎ回のような感じになってしまいましたが、次話でフーケとの決着がつくかと。

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