ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第十二話をお送りします。

フーケさんは迫り来る人造人間セルの魔の手から逃れることができるのか?

……出来レースって嫌ですね。




 第十二話

 

 

「土くれのフーケ」が魔法学院が誇る本塔宝物庫から、未知のマジックアイテム「破壊の篭手」をまんまと盗み出した、その翌朝。

 

 魔法学院内は上から下まで、大騒ぎの様相を呈していた。平民の衛兵たちは、自分たちが当直の晩になんてことが起きてしまったんだと、自らの不運を呪った。下手をすれば、当直担当の全員がお役御免になりかねない。貴族たる教師連も、フーケの所業をただ声高になじり、当直担当の教師の不手際をことさらに非難したが、大半の教師たちもまともに当直を勤めたことがなく、しかも、半ばそれが慣習化していた。

 

 「……責任を問われる者がいるとすれば、それは、わしも含めたこの場にいる教師全員というわけじゃな」

 

 オールド・オスマンの言葉に沈黙する教師陣。宝物庫に見事に空いた大穴から視線を移したオスマンが尋ねた。

 

 「それで、犯行を目撃したのは誰じゃ?」

 

 「こちらの三人です」

 

 コルベールが指し示したのは、ルイズ、キュルケ、タバサの三人だった。セルは使い魔として、少し離れた場所で待機していた。件の亜人の使い魔がその場にいることに目を細めるオスマン。目撃したことの説明を促されると、代表してルイズが進み出る。

 

 「私たちが見たのは、本塔のそばに立つ巨大なゴーレムと、宝物庫だと思われる壁に空いた大きな穴から這い出してきた、黒ローブの、性別はわかりませんがメイジでした。メイジがゴーレムの左手に飛び乗ると瞬く間にゴーレムは崩れて、ものすごい砂埃を巻き上げました……砂煙が晴れた跡には土山以外にはなにもありませんでした」

 

 「ふむ、つまりその黒ローブのメイジに関する手がかりはないというわけか……」

 

 「いいえ、手ががりならありますわ、オールド・オスマン」

 

 その場にいた全員の視線が、宝物庫の入り口に現れたミス・ロングビルに注がれる。

 

 「ミス・ロングビル! いままで、どちらに居られたのですか!? 大変な事態が起こったのですぞ!」

 

 「ですから、その事態についての調査ですわ、ミスタ・コルベール。なんとか、有力な情報を得ることができましたわ」

 

 コルベールの詰問に、落ち着き払った態度で応えるロングビル。さらに、オスマンが調査の結果を尋ねる。

 

 「ほう、仕事が早いのう。して、その有力な情報とはなにかね?」

 

 「はい、学院周辺の農民に聞き込みを行ったところ、徒歩で半日、馬で四時間ほどの距離の森の中に放棄された狩人の休憩小屋があるそうで、その小屋に黒いローブの男が出入りしているのを見たと。おそらく、それがフーケではないかと……」

 

 「黒いローブの男? それがフーケに間違いありません!」

 

 ロングビルの説明に思わず声をあげるルイズ。

 

 「ふ~む、居場所が特定できたなら、速攻をしかけるべきじゃな。いまから、王宮に魔法衛士隊の出動を要請しても、とうてい間に合わんじゃろう」

 

 オスマンは室内にいるメイジたちを見渡し、声を大にして有志を募った。

 

 「では、フーケ探索隊を編成する! 我はという者は杖を掲げよ!」

 

 しかし、教師陣から杖を掲げる者は現れなかった。オスマンの檄に応えたのは三人の少女たちだった。

 

 「ミス・ヴァリエール! ミス・ツェルスプトー! ミス・タバサ! あ、あなたたちは生徒ではありませんか! 危険ですぞ!」

 

 コルベールの言葉にルイズたちはそれぞれに反論する。

 

 「だれも杖を掲げないじゃないですか!」

 

 「そうよね、教師が及び腰なら、私たち生徒が頑張るしかありませんわ」

 

 「……二人が心配」

 

 「ほっほっほっ、これは一本とられたのう。うむ、ここは君たちに任せよう。なにしろ、ミス・タバサはその年で「シュヴァリエ」の称号を持つ逸材であり、ミス・ツェルスプトーはゲルマニアの名門の出で、優秀な炎メイジだという……そして、ミス・ヴァリエールは、かのヴァリエール公爵家の三女であり、まあ、将来は有望なメイジだと聞いておる。なにより、その使い魔は亜人でありながら、メイジとの決闘を制すほどの強者だと聞く」

 

 オスマンの言葉に教師たちは黙るほかなかった。三人に向き直ったオスマンは学院長として威厳に満ちた声で言った。

 

 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族としての誇りに期待する!」

 

 「「「杖にかけて!!」」」

 

 ルイズたち三人は直立不動の姿勢で唱和した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズたちフーケ探索隊は、ミス・ロングビルが御者をつとめる馬車に揺られ、フーケが目撃されたという森を目指していた。探索隊の陣容はルイズ、キュルケ、タバサ、ミス・ロングビル、そしてルイズの使い魔セルという四人と一体で構成されていた。ルイズは最初、セルの飛行を使ってフーケに対して奇襲をかけるつもりだったが、昨晩の王都からの帰還の際、「キ」を使い過ぎたため、多人数の同時飛行は難しいとのセルの言葉にしかたなく、学院が用意した馬車に乗り込んでいた。実際には、セルの「気」は全く減退していないのだが、彼自身に思うところがあったのだ。

 

 「ここからは、徒歩で行きましょう」

 

 ロングビルは馬車の御者台から降りながら、ルイズたちに声をかけた。鬱蒼と茂る森が一行の前に拡がっていた。

 セルを先頭にして探索隊は森に入っていた。しばらく、進むと開けた場所に出た。その中心にロングビルの情報にあった猟師小屋らしきものが見える。

 

 「あの小屋にフーケがいるらしいのですが……」

 

 「セル、あんたの「キ」であの小屋に今、誰がいるとかってわかる?」

 

 小屋から離れた森の中で、様子を伺う探索隊。ルイズの問いにセルは意識を集中するように目をつぶり、すぐに応える。

 

 「いや、あの小屋の中、あるいはその周囲に我々以外の人間や亜人の「気」は感じられない。どうやら、フーケはいないようだな」

 

 「え、ミス・ヴァリエール、彼はいったい……」

 

 セルの言葉に思わず、困惑した声をあげるロングビル。たしかにフーケはいない。だが、なぜこの亜人にそれがわかるのか。

 

 「大丈夫です、ミス・ロングビル! セルがああいうなら、今はフーケはいないはずです」

 

 「あの小屋をフーケがアジトにしているなら、もしかしたら「破壊の篭手」をあそこに保管しているかもしれないわね」

 

 「……魔法の罠があるかも」

 

 キュルケとタバサの言葉に、探索隊はひとまず、偵察兼囮としてセルを小屋へと送りだすことに決めた。セル曰く、彼の外骨格ならいかなる魔法の罠も無効化できるということだった。

 

 「気をつけてね、セル」

 

 「心配は無用だ、ルイズ。何かあれば、合図を送る」

 

 セルは一足飛びに小屋へと近付くと鍵のかかっていない扉を無造作に開ける。小屋の中は薄暗く、半ば朽ちかけた家具がわずかばかり残されていた。そのなかでセルは小屋の奥にある大型のチェストに目を向けた。そのチェストだけは、新品同様で周りの家具のなかにあって異彩を放っていた。

 

 「……これが「破壊の篭手」だと?」

 

 セルはチェストから取り出したものに見覚えがあった。このハルキゲニアでではない。かつての地球において、コンピューターから与えられた知識の中に同じものを見たことがあったのだ。

 

 (なぜ、これがハルキゲニアにある? 私以外にも、この世界に召喚された者がいたというのか、あるいはコレのみが召喚されたか。そして、フーケはこれがこの世界に属するモノではなく、地球が存在する宇宙からのモノだと知っていたのか。聞いてみるしかあるまい……)

 

 セルはルイズたちに合図を送る。それを受けたキュルケとタバサが小屋へ向かい、ルイズは小屋外の警戒を担当、ロングビルは周辺の偵察に出かける。

 

 「確かに「破壊の篭手」だわ。以前、宝物庫の見学のときに見たことがあるわ」

 

 「……魔法の罠はない」

 

 杖を「破壊の篭手」に向けて意識を集中していたタバサが罠の有無を確認する。

 

 「やはり、これが「破壊の篭手」か」

 

 その時、外にいるルイズが叫び声をあげる。

 

 「きゃああああ!!」

 

 「ヴァリエール! どうしたの!?」

 

 

 バゴォォォォ!!

 

 

 キュルケの言葉と同時に、轟音が響き、小屋の天井がまるごと吹き飛ぶ。そこには、青空をバックに佇む巨大ゴーレムの姿があった。

 

 「出たわね!! ゴーレム!!」

 

 タバサとキュルケは即座に杖を振るい、詠唱を開始する。間を置かず、二人の杖からそれぞれ、巨大な竜巻と一抱えはある火球がゴーレムに直撃した。だが、巨大な質量を誇るゴーレムにはダメージらしいダメージを与えられない。

 

 「全く効いてないわ!!」

 

 「……撤退」

 

 キュルケとタバサが小屋から飛び出し、ゴーレムから距離を取る。セルはゆっくりと小屋から出るとルイズを探した。

 いた。ゴーレムの横で倒れている。意識はあるようだが、全高三十メイルの巨大ゴーレムの動きにあおられたようだ。そのことに気付いたゴーレムがルイズを踏み潰そうと、さしわたし五メイルはあろうかという足を持ち上げた。身動きがとれないルイズは思わず目をつぶる。

 

 (私、死んじゃうの?……ごめんなさい、セル、わたし…………あれ?)

 

 いつまで経っても、何の衝撃もこない。不思議に思ったルイズが恐る恐る目を開けると、目の前にはセルがいた。呆れたことにセルは巨大なゴーレムの足を左手一本で支えていた。

 

 「無事か、ルイズ?」

 

 「う、うん、平気。セル、あんた、か、片手で……」

 

 「……ぶるぁ!」

 

 

 ズドォォン!!!

 

 

 さらにセルは、なんと左手だけで、巨大なゴーレムを吹き飛ばしてしまう。宙を舞ったゴーレムは猟師小屋を押しつぶし、砂埃を巻き上げる。

 

 

 「うそでしょ?どうなってるのよ、。」

 

 「……非常識」

 

 セルの膂力の凄まじさに思わず、呆れ果てるキュルケとタバサ。

 だが、ゴーレムも大きなダメージは受けなかったのか、すぐに立ち上がろうとする。セルは右手に持っていた「破壊の篭手」を見ながら、思案する。

 

 (これが、私の知っているモノであるならば……試すことができるか)

 

 「ルイズ、これを右腕に着けるのだ。奥の取っ手を握れ。親指側にある突起部分が引き金だ。押し込めば発射される」

 

 そう言って、セルはルイズの右腕に「破壊の篭手」を装着する。ルイズは困惑した。

 

 「ちょ、ちょっと、セル! なによ、これ!? ひょっとして、「破壊の篭手」!? はっ、発射されるって何のことよ!」

 

 「そのままでは無理だろう。ルイズ、左手に杖を持つのだ。詠唱する魔法は何でもいい。詠唱の完了と同時に「篭手」の砲門をゴーレムに向け、引き金を押し込むのだ」

 

 「だから、なんでよ!? ちゃんと、説明しなさいよ!!」

 

 「……ルイズ。私を信じてほしい。」

 

 セルはルイズの目を真っ直ぐに見つめ、強い意志を込めて言った。

 

 「……もうっ! あんたのそれ、卑怯よ! 詠唱は何でもいいのね!?」

 

 ルイズは半ば、やけくそに右手の「破壊の篭手」と左手の杖をゴーレムに差し向け、詠唱をはじめる。もっともポピュラーな攻撃魔法「ファイアーボール」だ。詠唱が完了する直前、ルイズは左手の杖の柄を強く握り締めた。デルフリンガーの意識が開放される。

 

 「おれは……つえ……た~だのつえ~……も~う、けんじゃあ~ないのよ~~……あれ、俺さま、今度は……う、うおぉぉぉぉぉ!! ま、まさか、そんな、うそだろう!? ぶ、「ブリミル」!! あなたなのか!?」

 

 詠唱が完了した。同時に引き金を押し込む。

 

 「ファイアァァーボォォォォォォル!!!」

 

 

 ズオォォォォォォォォ!!

 

 

 「破壊の篭手」から放たれた光の奔流はゴーレムの足首から上部を一瞬で蒸発させ、背後の森をなぎ倒しながら進み、やがて虚空に光の一線を描き、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第十二話をお送りしました。

次話をもって当SSの「第一章」は終了となります。

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