ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第十七話をお送りします。

ルイズとセルは、アンリエッタ王女のある依頼を請けることになります。

……上の人間がアレだと苦労しますよね。


 第十七話

 

 

 ――使い魔品評会が、行われたその日の夜。

 

 会における賞という賞を総なめにしたルイズは、机に向かい上機嫌で手紙をしたためていた。送り先は彼女の実家、ヴァリエール公爵家である。これまでは、学院での近況について、ほとんど実家に知らせることなどしなかったルイズだが、品評会の大成功によって彼女自身に精神的な余裕が生まれていたのだ。誇り高い貴族の子弟とはいえ、ルイズも十六歳の少女である。自分がうまくやったことに対する家族からの賞賛を望んでいたのだ。

 

 「ふふふ、ちい姉さまは褒めてくれるだろうけど、エレオノール姉さまはどうだろう? 「ちびルイズのくせに生意気ね」とか、かしら。父様と母様もきっと……」

 

 そんなルイズを見守るセル。サイドテーブル上のデルフリンガーがセルに尋ねる。

 

 「嬢ちゃんは、大喜びだけどよぉ。良かったのかい、旦那?あんな、派手に力を見せちまって。どうも、俺さま余計なドタバタに巻き込まれそうな気がヒシヒシとするんだけどよぉ」

 

 「でなければ、困るのだがな」

 

 「あ、そう……あんたにとっちゃ、織り込み済みってわけだ」

 

 気落ちしたデルフリンガーをよそに、セルは何かを感じたのか、ドアのそばに立ちながらルイズに声をかける。

 

 「ルイズ、客人のようだ」

 

 「え、こんな時間に? 誰かしら」

 

 ほどなく、ルイズの部屋のドアがノックされる。初めに長く二回、続いて短く三回。はっとしたルイズが急いでドアを開ける。そこには黒の頭巾をまとった少女が立っていた。少女は周囲を見回すと、するりと部屋に入り、ドアを閉める。ルイズが驚いていると、少女は杖を取り出し、短い詠唱とともに杖をふる。探知魔法のようだ。

 

 「どこに目や耳があるかわかりませんものね」

 

 そういって、少女は頭巾をはずす。あらわれたのは、なんとアンリエッタ王女だった。

 

 「姫殿下!!」

 

 

 慌てて、膝をつき臣下の礼をとるルイズ。背後のセルもそれにならう。王女が涼やかな声で言った。

 

 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

 

 改めて、懐かしい旧友と再会したアンリエッタは、感極まったようにルイズに抱きついた。

 

 「ああ、ルイズ!! わたくしのおともだち、ルイズ・フランソワーズ!! なんて、懐かしいのかしら!!」

 

 「いけません、姫殿下。このような下賤な場所にお一人でいらっしゃるなんて……」

 

 ルイズのかしこまった言葉に、アンリエッタは頭をふるとさらに想いをこめて言った。

 

 「ああ、どうか、やめてちょうだい!! わたくしのルイズ、ここは宮廷ではないの。枢機卿も、わたくしを王女という記号でしか見ない宮廷貴族もいないのだから。あなたにまで、そんな他人行儀な態度をとられたら、わたくし、もうどうしていいか判らなくなってしまうわ!!」

 

 「姫殿下……」

 

 「あなたはわすれてしまったの? 二人して宮廷中を走り回り、毎日のように泥だらけになったあの頃を!」

 

 アンリエッタの言葉に少し恥ずかしそうに答えるルイズ。

 

 「忘れたことなどございません。毎回、最後は侍従の方々、総出でお叱りを受けました」

 

 「そうよ、ルイズ、わたくし思い出したわ!! ほら、いつもうるさい女官長のグリームワルト侯爵夫人に仕返ししようとして!!」

 

 「ええ!! 夜中に侯爵夫人の部屋に山のように虫を放って、翌朝驚いた夫人が寝間着のまま宮廷中を逃げ惑って!!」

 

 アンリエッタとルイズが声をそろえて言った。

 

 「「ついた渾名が「グリームワルトの走りニワトリ」!!」」

 

 二人は、顔を見合わせて大笑いした。すこし落ち着くと、アンリエッタはベッドに腰掛けた。笑い顔から深い憂いを秘めた顔に変わる。

 

 「姫さま?」

 

 「ルイズ、私はドアの外で見張りをしている。何かあれば呼んでくれ」

 

 それまで、黙っていたセルがデルフリンガーを片手に部屋を出る。その長身異形の姿を見送るアンリエッタとルイズ。

 

 「そういえば、昼間はドタバタしてちゃんと伝えることが出来なかったわね。わたくしのルイズ、すばらしい石像をどうもありがとう。すごい、使い魔を召喚したものね」

 

 「お、恐れ入ります。姫さまに喜んでいただければ、このルイズにとってなによりの褒賞ですわ」

 

 「あなたが羨ましいわ。何よりも自由とは、尊いものね、ルイズ・フランソワーズ……」

 

 アンリエッタの深く沈んだ様子に、ルイズは気遣しげな声をかける。

 

 「姫さま、どうされたのですか?もし、私でよろしければ、なんなりとお申し付けください」

 

 「実はね、わたくしのルイズ……」

 

 王女の口から語られたのは、ルイズの予想を大きく超える事態についてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズの部屋の前で番兵よろしく佇むセル。その右手に握られたデルフリンガーが言った。

 

 「あの姫さん、間違いなく騒動の種をもってきやがったな。旦那、あんた最初から、この展開を予想してたってのかい?」

 

 「いや、王女自らが足を運ぶとは予想外だった」

 

 「どうだかなぁ……おや?」

 

 「おまえも気付いたか、デルフリンガー」

 

 セルはデルフリンガーを片手に廊下を進み、観葉植物の鉢の陰に隠れていた存在に警告を発した。

 

 「何をしている、ギーシュ・ド・グラモン?」

 

 「う、い、いや、何をしているかって、それはそのぉ……」

 

 しぶしぶ、姿をあらわすギーシュ。気まずそうな顔を隠そうともしない。

 

 「ここが、女子生徒の寄宿棟であることは、知らないはずはあるまい。そして、今この時間のこの場におまえがいるという事……生かしておいたのは間違いだったか」

 

 セルの尾が、不気味に蠢く。ギーシュは思わず、自身の首をおさえながら必死に言い訳を並べ立てる。

 

 「ち、ちがうんだ! ぼ、僕は、そんな不埒な理由でここにいるわけじゃないんだ!! この寄宿棟に、その、黒頭巾の怪しい人影が入っていくのをたまたま、見かけてそれで、女子のみんなに何かあったら大変だと思って。ほ、本当だ! 信じてくれ!!」

 

 「そうか。だが、その人影なら問題ない。私がすでに処分した」

 

 「な、しょ、処分って王女殿下をかい!?……あっ!」

 

 「やはり、王女だと気付いていたか」

 

 セルの誘導尋問に見事にひっかかったギーシュは、もはやこれまでと神妙な様子を見せた。

 

 「王女殿下とルイズは幼馴染だそうだ。立場があるため、お忍びで旧交を温めにきた。それだけだ」

 

 「そ、そうなのか……ルイズと王女殿下が。たしかに公爵家の令嬢なら王家の遊び相手として適当だけど。でも、そんなことを僕に言ってしまっていいのかい?」

 

 「このことを知っているのは、当事者たちを除けば、私とおまえだけだ。万が一、あらぬ噂が立てば……どうなるか、わかるな?」

 

 凄みを利かせたセルの声に、ひたすら頭を上下させるギーシュ。手を振るセルに従い、回れ右をするが、なにを思い出したのか再度、セルに話しかける。

 

 「こ、こんな状況で言うのも何だけど。昼間の品評会できみが造ってみせた王女殿下の石像……見事だった。土メイジとして、尊敬の念を禁じえない。そ、それだけだ」

 

 そそくさとその場を後にするギーシュ。セルは、ルイズの部屋の前に戻る。人造人間としての超聴力によって、部屋内の二人の会話はセルに筒抜けだった。どうやら、盛り上がっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、始祖「ブリミル」よ。どうか、この哀れな王女に救いの御手を……」

 

 アンリエッタは、顔を両手で覆うと、腰掛けていたベッドに横たわる。傍から見ると芝居の一幕のような大仰さが目立つ。

 

 「姫さま! どうか、おっしゃってください!! 姫さまの手紙は、トリステインとゲルマニアの同盟を損ないかねない手紙とは、今どこにあるのですか!?」

 

 ルイズも興奮してきたのか、ベッドに詰め寄らんばかりにまくしたてる。

 

 「あの手紙は、今はアルビオンにあるのです」

 

 「ま、まさか、すでに敵方の手に!?」

 

 「いえ、手紙を持っているのは、反乱軍と決死の戦いを繰り広げているアルビオンのウェールズ皇太子なのです」

 

 アンリエッタは一度を身体を仰け反らせると、ベッドに突っ伏して悲壮な声をあげる。

 

 「ああ、破滅です!! 遠からず、ウェールズ皇太子は敗れ、反乱軍の虜囚となってしまうでしょう!! 手紙も暴かれ、トリステインとゲルマニアの同盟は反故となり、我が国は単独でアルビオンと対峙しなければなりません!! 破滅を迎えることになってしまうでしょう!!」

 

 「では、アルビオンに赴き、その手紙を……」

 

 ルイズの言葉に、身を起こすアンリエッタ。

 

 「だめよ!! 無理よ!! わたくしのルイズ!! ああ、今聞いたことはどうか、忘れてちょうだい!! 戦乱の嵐渦巻くアルビオンに行けだなんて!! そんな危険極まりないことをあなたに頼もうとするなんて。」

 

 「何をおっしゃいます! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、姫さまのご下命とあれば、いかなる修羅の巷だろうと、世界の果ての果てだろうと、微塵も恐れません!! 何卒、この一件、私にお任せくださいませ!!」

 

 「ああ……ルイズ。ルイズ・フランソワーズ!! わたくしのルイズ!! わたくしの力になってくれるの? ああ、なんという忠誠と友情!! 今日の感動をわたくし、一生忘れませんわ!!」

 

 二人は抱き合い、涙を流し、お互いを称え合う。

 

 

 

 

 

 

 (この王女殿下は一体、何を考えている……)

 

 セルは二人の小芝居を拝聴しながら、困惑していた。アンリエッタ王女の話は、全くの荒唐無稽なものにしか、セルには感じられなかった。

 

 (いかに力を秘めているとはいえ、今のルイズは一学生に過ぎない身だ。内乱中の他国に単独で潜入など試みれば、どうなるかなど火を見るより明らかだ。まして、ルイズは身分こそ学生だが、王家に連なる公爵家の息女。それが王女の独断で万が一の事があれば、公爵家も黙ってはいまい。下手をすれば、このトリステインでの内乱の火種にすらなりかねん。仮にも為政者ならば、いや、それ以前にまともな思考力を持つ人間ならありえない話だが……)

 

 そこまで、考えたセルは、ある可能性に思い当たる。

 

 (!……なるほど、この王女殿下は、ルイズの「力」を知っているという事か。幼少からの知己であれば、ルイズの力の発現を何らかの形で目にしていても、不思議ではない。その上で、あえて無知で愚かな姫さまを演じることで、ルイズの同情を引き出すか……この女、存外したたかだな)

 

 妙な深読みで、アンリエッタ王女の評価を斜め上に上方修正するセルであった。その時、部屋内の話も終わりに近付いていた。

 

 

 「では、明日早朝には、学院を出発いたします」

 

 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。件の手紙をすぐに返してくださるでしょう。それと、これをせめてのお守りに」

 

 アンリエッタは、その場でしたためた手紙と、自身の右手から引き抜いた指輪をルイズに手渡した。

 

 「母上からいただいた「水のルビー」です。それなりに高価な宝石のはずですから、売り払って旅費にしてください……ルイズ、あなたの行く先に始祖「ブリミル」の加護がありますように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第十七話をお送りしました。

次話でアルビオンに向かうルイズとセルですが、セルのおかげで超ショートカットをすることになります。

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