ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

21 / 91
第十九話をお送りします。

早々にウェールズ皇太子(趣味コスプレ)と遭遇したルイズとセル。

早くも任務完了か!!

……こういうのも出来レースですかね。


 第十九話

 

 

 「……凛々しく行くか、聖女風のたおやかさで行くか、それが問題ね」

 

 雲海の中で待機しながら、ルイズは自分の登場シーンのイメージトレーニングに余念がなかった。なにしろ、これが自分のアルビオンデビューなのだ。ミスは許されない。やはり、聖女風ね。そう決心したルイズは、自分の体がゆるやかに降下しはじめたことに気づいた。

 

 「あら、もう終わったのね。さすが、セル」

 

 ルイズは自分で聖女のポーズと名付けた両手を祈りの形に組み、両足を揃え、軽く目を瞑った状態で、輸送船の甲板に降り立った。目を開き、いざ口上を述べようとしたが、どうも様子がおかしい。

 

 「あん?」

 

 予想では、いかにも空賊というむくつけき男たちがセルにボッコボコにされた状態で、呻きながら命乞いをしている、そんな状況を考えていたのだが、空賊たちは武器は捨てているようだが、傷一つ無くピンピンしている。肝心のセルはというと、一人の空賊と向かい合っていた。その男は格好こそ、これぞ空賊の頭というようなセンスの欠片もないド派手な装いだが、顔の方はといえば、金髪碧眼の美青年。しかも、ギーシュなどとは比べることすらおこがましい本物の気品をにじませていた。どっかで見たような。

 ルイズは使い魔の虫のような羽を引っ張りながら、小声で尋ねる。

 

 「ちょっと、セル。あれ、誰?」

 

 使い魔は、ご主人様にわかりやすく、簡潔に説明した。それをさらに要約すると……なんか普通の空賊じゃなさそうだったんで、頭っぽい野郎を締め上げて素性をゲロさせたら、実は皇太子殿下でした、てへっ。

 

 「……」

 

 自身の血の気が引いていく音を、ルイズは確かに聞いた、ような気がした。

 

 

 「も、も、も、申し訳ありませんでしたぁぁ!! 知らぬこととはいえ、こ、こ、皇太子殿下になんというご無礼をォォ!!」

 

 土下座せんばかりの勢いで謝り倒すルイズ。一方、セルは何処吹く風、といった様子だった。それを見ていたウェールズは、ルイズに鷹揚に笑いかけた。

 

 「いや、謝罪は無用だ、特使殿。貴族派の補給線を断つためとはいえ、空賊の真似事をしていた我々にも一端の責がある。それに君の使い魔がその気であれば、今頃我々は無事ではすまなかっただろう」

 

 「……き、恐縮です」

 

 「さて、特使殿には、改めて名乗らせてもらおう。アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーだ」

 

 「お、お初にお目にかかります、トリステイン王国ラ・ヴァリエール公爵が三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します」

 

 なんとか、外国の王族に対する最上級の礼をもって、自己紹介をするルイズ。

 

 「ラ・ヴァリエール公爵とは、以前お会いしたことがある。ご立派な方だった。さて、まずは御用の向きを伺おうか。なんでも、アンリエッタからの勅命を受けているとか」

 

 「はい、姫殿下より、こちらの親書を言付かって参りました」

 

 ルイズは懐から出したアンリエッタの書状を手渡す。受け取ったウェールズは、ルイズの右手に光る指輪に目をとめた。

 

 「ほう、水のルビーだね。なるほど、アンリエッタの特使というのは間違いないようだ」

 

 ウェールズは自身の右手にはめていた指輪をルイズの水のルビーに近づける。二つの宝石は、互いに共鳴し、虹色の光を周囲に振りまいた。思わず、見とれるルイズ。

 

 「私の風のルビーとアンリエッタの水のルビーは、始祖「ブリミル」から伝えられる四王家の至宝だ。特使としての身分証明にこれ以上のものはない。さすが、アンリエッタだ」

 

 「は、はあ……」

 

 まさか、旅費代わりに売っぱらえと渡されましたとはいえず、言葉を濁すルイズだった。その時、二つのルビーが光を放つ様子を、セルが只ならぬ様子で見ていたことに気づく者はいなかった。

 手紙を開いたウェールズは、しばらく読み進めると顔を上げて言った。

 

 「なんと、姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタ、私の可愛い従妹が……」

 

 無言で一礼し、その言葉を肯定するルイズ。手紙を読み終えたウェールズは静かに微笑み言った。

 

 「姫は、自身が送った手紙を返してほしいとお望みのようだ。私にとって何よりも大切な手紙だが、姫の願いとあらば、是非も無い。お返ししよう」

 

 さらに深く頭を下げるルイズだが、ウェールズが笑いながら付け加える。

 

 「だが、今すぐというわけにはいかない。かの手紙は手元にはないのだ。面倒をかけてすまないが、ニューカッスル城まで、同道願いたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェールズら、王軍派が操る軍艦「イーグル」号と貴族派の偽装輸送船「マリー・ルイーズ」号は、アルビオン大陸の険しい海岸線に沿って、雲海に紛れながら航行していた。「マリー・ルイーズ」号の船員達は両船に積まれていた脱出用の小型艇に分乗させられ、開放された。ロサイスまでは到底無理だが、陸地までは余裕で到達できる風石と水や食料を与えられていた。

 二隻の船が三時間ほど航行すると、大陸から突き出た岬が見えてきた。岬の突端には城がそびえている。城を指差したウェールズが言った。

 

 「あれが、我ら王家の最後の砦、ニューカッスル城だ」

 

 そして、岬に至る平原には、数万を超える軍隊が布陣していた。その上空には複数のフネが航行していたが、巧みに雲海を進む「イーグル」号たちを視認できてはいないようだった。ウェールズが苦々しく口にした。

 

 「あちらに見えているのが、我が王国を蹂躙している貴族派、自らを「レコン・キスタ」と称する叛徒どもだ。その兵力は地上戦力だけでも、五万を超える。最も、艦隊戦力と空域封鎖については、後の外征を意識してか、それほどではない。おかげで、我々も空賊稼業に勤しむことができているのだが」

 

 「……」

 

 レコン・キスタ主力艦隊の失踪については、ウェールズら王軍派も詳しい情報を得てはいないようだった。

 

 「さて、空賊らしく根城に帰還するとしよう!」

 

 王立空軍の精鋭たちが操船する二隻のフネは、ニューカッスル城の地下に拡がる広大な鍾乳洞を改装した秘密の港に入港した。地形図と魔法の明かりだけを頼りに軍用艦を航行させることは困難を極めるが、よく鍛えられた航海士たちには、造作も無いことだった。ウェールズが誇りを込めて言った。

 

 「アルビオンの厳しくも美しい空に、我ら王立空軍は育てられたのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェールズが、ルイズ達を伴って港に降りると、一人の年老いたメイジが彼らを恭しく迎えた。

 

 「殿下、ご無事のご帰還、お待ち申し上げておりました。なにやら、大層な戦果を伴っておられるようで」

 

 「うむ、パリー、良き知らせだ。大量の硫黄を手にいれたぞ!」

 

 老メイジをはじめとする周囲の兵たちが歓声をあげる。

 

 「おお、硫黄とはまた! 戦に欠かせぬ火の秘薬ではありませぬか!! これで我らの名誉も守られるというもの!!」

 

 パリーは目頭に浮かぶ涙をぬぐいながらに言った。

 

 「先王陛下より、お仕えして六十年、このパリー今ほど武者震いが止まらぬことはありませなんだ。反乱が起きてから、こちら苦渋を舐めさせられるばかりでしたが、これほどの硫黄があれば……」

 

 ウェールズがパリーの言葉を継ぐ。

 

 「王家の名誉と誇りを、あの叛徒どもの骨の髄にまで刻み込み、そして散ることが出来るだろう」

 

 「栄光に満ちた最期を迎えることが出来るわけですな! して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日正午に総攻撃を仕掛けてくる旨を通達してまいりました」

 

 「そうか、間一髪だったな。戦に遅れるなど武人にあるまじき恥だからな!」

 

 傍目から見ると、ウェールズたちには悲壮感は感じられなかった。だが、散るや最期を迎えるなどの言葉を聞けば、その結果が死であることはルイズにも理解できた。恐れを抱かないのだろうか?ルイズには判らなかった。

 

 「殿下、そちらの方は?」

 

 「トリステインより参られた特使殿とその使い魔だ。さる重要な案件のため、あえて戦時中の今、参られたのだ」

 

 年端もいかぬ少女と見たことも無い亜人という取り合わせに、若干眉をひそませるパリーだが、すぐに表情を改めると歓迎の言葉を述べる。

 

 「これはこれは、特使殿。それがし、殿下の侍従長を仰せつかっております、パリーと申す粗忽者にございます。遠路はるばるようこそ、我がアルビオンへ。何分、戦時中ゆえにたいしたおもてなしもできませぬが、今宵はささやかな祝宴が催されます。是非、ご出席ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城内の最も高い一室で、ルイズはウェールズから、アンリエッタの手紙を受け取った。その手紙を取り出す際、最期に読み返す際、そしてルイズに手渡す際、隠しきれない愛情と惜別の念がウェールズから伺えた。

 

 「姫よりいただいた手紙、間違いなく返却したぞ」

 

 「確かに……殿下、ぶしつけながら質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 手紙を受け取ったルイズが意を決して問いかけた。

 

 「聞こう」

 

 「王軍に勝ち目はないのですか?」

 

 「ない。我が方は三百、敵方は五万だ。いかに始祖「ブリミル」のご加護を受けたとしても、百七十倍近い戦力差はどうにもならない。我らにできることは、せいぜい勇敢な死に様をやつらに見せつけるぐらいだ。」

 

 ウェールズはこともなげに言った。さらにルイズは問う。

 

 「その中には、殿下の討ち死にも含まれているのですか?」

 

 「当然だ。私はいの一番に敵に突撃をかけるつもりだ」

 

 ルイズは深く息を吐き、ウェールズの目を見据え、強い意志を込めて言った。

 

 「殿下、恐れながら無礼を承知で申し上げたいことがございます」

 

 「なんなりと、申してみよ」

 

 「はい、姫さまとウェールズ殿下は……相思相愛の間柄であると、私は愚考いたします」

 

 「……」

 

 ウェールズは肯定も否定もしない。さらに言い募るルイズ。

 

 「出発前の姫さまのご様子、そして先程の殿下のご様子から、相違ないと確信いたしました。とすれば、姫さまの手紙の内容も容易に想像がつきます。どうか、殿下!」

 

 「いや、ヴァリエール嬢、それ以上はいけない」

 

 ウェールズの制止を振り切るかのようにルイズは語気を強める。

 

 「我がトリステインに亡命なされませ!! 殿下、姫さまもそれをお望みのはずです!! 姫さまの手紙にもそう記されているのでは!?」

 

 「いや、アンリエッタからの手紙には、そのような文言は一切、記されてなどおらぬ」

 

 「殿下!!」

 

 詰め寄るルイズを諭すように語るウェールズ。その口調には若干の苦しみが含まれていた。

 

 「ミス・ヴァリエール、君はとても正直な女の子なのだね。だが、聞いてほしい。私もアンリエッタも王家の血を継ぐ者なのだ。なによりも国の大事を優先しなければならない。今、私が亡命などしようものなら、あの叛徒どもに、トリステイン侵攻の絶好の口実を与えることになってしまう。それに亡国の王族を受け入れれば、国内の反発も大きいだろう。アンリエッタ本人にも多大な迷惑をかけることになってしまうんだ」

 

 二の句を継げなくなってしまったルイズの両肩に手を置いてウェールズは続ける。

 

 「だが、そうだね……ヴァリエール嬢、どうか、アンリエッタにこれだけは、伝えてほしい。ウェールズは、王家の誇りとともに勇敢に戦い、勇敢に死んだ、と」

 

 「……殿下」

 

 寂しそうに俯いたルイズが承諾の返事をしようとした、その時、それまで一言も発していなかった亜人セルが、言った。

 

 「くだらん」

 

 その場の空気が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第十九話をお送りしました。

次話で、セルさんの弾丸論破が炸裂します。

……3はいつでるのだろうか?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。