ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

27 / 91
第二十三話をお送りします。

第三章となります。原作とはちがい、トリステイン単独で挑むアルビオン戦役。

レコン・キスタいじめではありません。多分。


第三章 王権守護戦争
 第二十三話


 

 

 ジェームズ一世とウェールズ皇太子を首班とするアルビオン王国亡命政権は、トリステイン王国の全面的な支援を受けて、反乱軍「レコン・キスタ」の討伐と国土の奪還を宣言した。トリステイン王国はアンリエッタ王女と事実上の宰相マザリーニ枢機卿の連名を以って、ウェールズら亡命政権こそが、アルビオンの正当なる王権所持者であることを支持し、反王権を掲げる「レコン・キスタ」はアルビオン、トリステインはもちろん、その他の王権国家にとって、相容れない敵であり、すべての王権国家が手を携えて討ち果たすべきだと主張。各国家に「レコン・キスタ」討伐戦争、後に「王権守護戦争」と呼ばれる戦いへの支持と支援を求めた。

 

 

 このトリステイン王国の要請に即座に反応を示したのが、ハルケギニア最大の王国ガリアである。ガリアは国王ジョゼフ一世の詔勅を以って、トリステインとアルビオン亡命政権の戦いを正当なる権利の行使であると認め、最大限の支援を行うことを明言したのだ。次いで宗教国家ロマリアが教皇聖エイジス三十二世と全枢機卿が、宗教庁の総意として、「レコン・キスタ」の蛮行は「始祖」ブリミルの御心に反する犯罪行為であると糾弾。「始祖」ブリミルの系譜たる四王家の意思が表向き、一致したことで、大陸の小国や都市国家もこれに追従。最後まで、態度を保留していた帝政ゲルマニアも、対「レコン・キスタ」戦に賛同を示した。

 

 

 これに慌てたのが、言うまでも無く「レコン・キスタ」である。彼らはただちに旧王都ロンディニウムに残存兵力を集結させると、クロムウェルを総議長とする神聖アルビオン共和国の建国を宣言するが、トリステインをはじめ各国はこれを無視。「レコン・キスタ」は事実上の詰みの状態となってしまう。

 

 

 各国の支持は取り付けたものの、実際の兵力派遣については、各国は及び腰であったため、ここ数十年、大規模な戦を経験していないトリステイン軍は急遽、アルビオン遠征軍を編成することになった。王軍の大半と諸侯軍の三分の一、さらに各国の傭兵ギルドを介して、調達した傭兵軍。それらを浮遊大陸へ上げるためのフネもトリステイン領内から掻き集めた。本来、不足するはずだった士官についても、アルビオン王軍派の精鋭三百名を遠征軍に無理やり組み込むことで、体裁を保つ形をとった。

 さらに、マザリーニ枢機卿の命令によって、魔法学院の教員や生徒から志願兵を募ることが通達された。オールド・オスマンをはじめとする教員たちは強く反対したが、マザリーニは引かなかった。これは、貴族の子弟をあえて、戦場に送ることで王国を挙げて今回の遠征に力を尽くしていることを内外にアピールする目的があった。また、その通達の影にはアンリエッタ、マザリーニ、オールド・オスマンしか知り得ない一人の生徒とその使い魔に対する要請があった。

 すなわち、ヴァリエール公爵家の三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢とその使い魔、亜人セルへの従軍要請だった。亜人セルの常識を超えた能力とそれを唯一制御し得るルイズの存在。アンリエッタとウェールズが彼女らの従軍を強く望んだのだ。

 

 

 学院からは、ギーシュ・ド・グラモン、マリコルヌ・ド・グランドプレら複数の生徒が志願。それを傍観していたキュルケ、タバサといった各国からの留学生たちだったが、彼女らの元に予想外の書簡がもたらされる。各々の本国からのアルビオン遠征従軍命令書であった。各国家は、兵力派遣を行わない代わりとして、自国のエリートである学院留学生の従軍という搦め手でお茶を濁す算段だったのだ。無論、各国の名門貴族の子弟であるため、従軍範囲は後方支援部隊に限定された。

 

 

 

 

 アルビオン遠征軍の編成は急ピッチで進められた。遠征軍の最高司令官には、アンリエッタ王女自らが志願し、マザリーニ枢機卿も副司令官として従軍。ウェールズ皇太子も自身の親衛隊三十名とともに司令部付き特務隊として王女の護衛を務めることになった。また、国家の銃後を守るため、アンリエッタの実母、マリアンヌ太后が暫定女王の地位に即位する旨も発表された。人、金、食料、武器、フネ、あらゆるものが遠征軍構築のため集められた。

 学院からの志願者たちも、わずか一ヶ月の即席士官教育を叩き込まれ、後方支援部隊に配属されることになった。ちなみに留学生志願者は士官教育を免除された。

 

 

 

 すべてが、戦争へと向かう流れの中、ゼロの渾名を持つ少女とその使い魔たる亜人は、少女の実家に向かって二台の馬車に分乗していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちびルイズ! ちゃんと聞いているの!? わたくしの話はそんなにつまらないのかしら!?」

 

 「ちゃ、ちゃんと聞いています、姉さま! つ、つまらないだなんて、そんな……」

 

 王族専用にも匹敵する大きさと豪奢さを備えた馬車に揺られながら、ルイズは同乗している女性の前でひたすら恐縮していた。ルイズの向かいに座っている女性は、見事なブロンドの髪ときつめの美貌を備え、年の頃は二十代後半、眼鏡が知的な印象を与えている。その顔立ちはどことなくルイズにも似ていた。彼女の名は、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール公爵家の第一子であり、ルイズの長姉でもあった。優秀な土メイジであり、王立魔法研究所アカデミーの研究員を務める才媛だった。

 

 「た、ただ、実家に帰省するのにわざわざ、学院のメイドを同道させなくてもいいかな、なんて……」

 

 「あのね! いいこと、おちび? ヴァリエール公爵家はトリステインでも屈指の、いえ、随一の名門なのよ。その名門本家の娘が帰省するのに従者が使い魔だけだなんて、示しがつかないでしょ? しかも、得体の知れない亜人だなんて……」

 

 「せ、セルは得体の知れない亜人じゃありません! あひゃっ!!」

 

 ルイズが長姉に向かって、わずかに口答えすると、エレオノールは素早く末の妹のほっぺをつねり上げる。

 

 「ちびルイズ、わたくしの話はまだ、終わってなくてよ。貴婦人というのはね、どんなときでも身の回りを世話させる侍女を最低一人は帯同させるものよ」

 

 「ひゃ、ひゃい……」

 

 アカデミーの研究員として、多忙な日々を送っているはずのエレオノールが魔法学院を訪れたのは今朝早くのことだった。その目的は妹であるルイズを伴っての実家への帰省だった。その時、毎朝の日課として、セルとの洗濯に向かおうと鼻唄を唄いながら、通りがかったシエスタは、道中の侍女はこの子でいいわ、というエレオノールの独断で半ば拉致されるような形で、彼女らの帰省に同行することになった。エレオノールは、学院に無理やり従者用の馬車を用立てさせ、セルとシエスタを乗せ、自分はルイズとともにヴァリエール家専用の馬車に乗り込んだ。

 

 エレオノールの折檻に耐えながらルイズは二つの事を危惧していた。一つは、目の前のエレオノールも含めた家族の説得だ。トリステインは今や、アルビオンへの侵攻作戦のため、挙国一致をもってその準備に奔走している。ルイズもアンリエッタとウェールズ皇太子から特に強く請われて、この戦争に参陣するのだ。ところが、その旨を実家に伝えると、そのようなこと、まかりならぬという父、ヴァリエール公爵の手紙が届き、さらに間を置かずにエレオノールが学院にやってきたのだ。実家はルイズの参戦に否定的なのだ。だが、トリステインの名門貴族を自負するヴァリエール家ならば、祖国のために力を尽くすことに間違いなどない。その信念をもって説得すれば、骨は折れるかもしれないが、家族の同意を得ることはできるとルイズは考えていた。まあ、その骨折りがヒビですむか、全身複雑骨折になるかが問題なのだが。

 

 そして、もう一つの問題は彼女の使い魔亜人セルだった。あの使い魔は基本自分には従順だし、貴族社会についても亜人にしては、理解がある方?だと思うが、彼自身の理屈というか信念というか、とにかくそれに外れていると見なした者には容赦がない。例えそれが、一国の皇太子や王女に対してさえもだ。父や目の前の長姉があまりに無茶なロジックを展開した場合、彼お得意の「くだらん」が発動してしまうかもしれない。ルイズに輪をかけて、貴族としての誇りに固執している父や長姉がそんな言葉を許すはずが無い。無論、セルも引かないだろう。下手をすればヴァリエール本家の居城が見るも無残な有様になるかもしれない。使い魔にはよぉく言い含めておかなくては。ルイズはほっぺをつねられながらも、気を引き締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、あの、セルさん?……大丈夫ですか?」

 

 「問題は、ない」

 

 シエスタの心配そうな問いに、何事も無いように答える亜人セル。二人は、学院が用意した馬車に乗って、ルイズとエレオノールの帰省に同道していた。何しろ、急な話だったので学院に残っていた馬車はごく普通の造りの物だった。シエスタは問題ないが、二メイルを超える長身のセルには非常に窮屈だった。なんとか身体を縮めるように乗り込み、頭の角が天井に刺さらないように頭を完全に横にして馬車の振動に耐えていた。本人は問題ないというが、傍から見るととても難儀そうだった。

 

 「こういう旅って、わたし、あまり経験がないので、とてもわくわくします!」

 

 「そうか、私には解らない感覚だ」

 

 「わたし、これを持って来ちゃいました」

 

 シエスタは自身の荷物から木箱を取り出すと慎重にふたを開けた。箱の中には以前セルが贈ったシエスタの木像が入っていた。彼女の宝物となっていた木像は相変わらず、素晴らしい造型でモデルであるシエスタを精巧に模していた。自身の木像をニコニコしながら眺めていたシエスタは、ふと顔を曇らせるとセルに聞いた。

 

 「あの、セルさんは、ミス・ヴァリエールには木像を三体も贈られたんですよね……」

 

 シエスタは解っていた。ミス・ヴァリエールはセルのご主人様であり、名門貴族ヴァリエール家の息女。自分なんかとは雲泥の差、いや、比べることすらおこがましいと。だが、横向きの亜人はさらりと言ってのける。

 

 「私はメイド姿のきみしか知らないからな」

 

 「え……そ、それじゃあ、今のわたしが着ている服の、そのぉ、木像を造ってくれますか?」

 

 「大した手間ではない。いいだろう」

 

 「あ、ありがとうございます! あ、あの私、これ以外にも服を持っているんです! そんなに代わり映えしないんですけど……あ、それなら水着とかでも、え、そんな恥ずかしい! でも……」

 

 セルの言葉に舞い上がったシエスタは、しばらくの間、頬を染めながら一人芝居を展開した。その時、セルは全く別の事を考えていた。

 ルイズの実家、ヴァリエール公爵家。始祖「ブリミル」の末裔たる四王家の一つ、トリステイン王家に連なる血統を誇る名門中の名門。ルイズの姉だというエレオノールという女性は優秀なメイジのようだ。彼女を含めたヴァリエール家の人間が、始祖の血をどの程度、受け継いでいるのか。セルの興味はそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二十三話をお送りしました。

エレオノール様、いいですね。

次話で、ヴァリエール家は勢ぞろいとなります。

ご感想、ご批評、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。