セルなどのドラゴンボールのキャラクターはどのくらいの速度で飛ぶのでしょうか。
ネットで調べると光速超えかそうでないかで意見が分かれるようです。
このSSでは、基本光速超えはありません。そもそも必要ないですしね。
「ふむ……なかなか、珍しいルーンだな。研究のためにスケッチさせてもらうよ。なに、すぐに済むから」
コルベールは、セルの左手のルーンのスケッチを手早く済ませると、後方の丘で見物していた生徒達に呼びかけた。
「では、これにて、春の召喚の儀は全員終了となります。各自、学院に戻るように」
解散の許しが出たことで、生徒達は自らの使い魔を伴って、『フライ』や『レビテーション』を唱え、学院への帰路に着いた。もちろん、ルイズへの嘲笑も忘れない。
「ルイズ! おまえは歩いてこいよ! いつもどおりな!」
「あいつ、『フライ』も『レビテーション』も使えないんだよな!」
「気持ち悪い亜人と二人っきりでね!」
これ見よがしな嘲笑と共に飛び去っていく学友達を下唇をかみ締め、拳を握り締めながら、睨みつけ、それでも微動だにしないルイズ。
そんなルイズを横目にセルは、生徒達の『フライ』や『レビテーション』の魔法を検証していた。
(ほう、舞空術とは、根本的に異なる原理で飛行しているのか。気がほとんど変化していないにもかかわらず、それなりの速度と自身だけでなく、使い魔も浮遊させるか。だが、全員が杖を振るい、何事かを呟いていた……なるほど、発動体としての杖と発動のキーワードとなる呪文の詠唱が必要不可欠というわけか。フフフ、地球のファンタジーに出てくる魔法使いそのままだな)
セルはわずかな情報から、この地の魔法の発動条件を看破していた。彼は最強の人造人間であると同時に、知性や知識においても他の追随を許さない存在なのだ。
検証を終えたセルが、さきほどから身動き一つしない主たる少女に声をかける。
「ルイズ、きみも彼らのように飛んでいかないのか?」
「う、うるさいわね!! 私がどうしようと私の勝手でしょ!! あんたなんかに指図されるいわれなんかないんだから!!」
ルイズは弾かれた様にセルに対して、まくし立てた。目にわずかな涙を浮かべながら。そんなルイズにセルは、気を悪くした風もなく、さらりとこんなことを言い出した。
「ふむ、確かにそのとおりだな。私の主たる君が自分で飛ぶ必要などない。この私が、セルがいるのだから」
「な、なに言っているのよ? あんたがいるからってどうだって……きゃああ!!」
セルが自身の手のひらをルイズに向けると、ルイズの体が浮き上がり、一気に数十メートル上空に飛び上がった。セル自身もそれを追うように同じ高さまで、浮き上がった。もちろん、ルイズは大混乱である。『ゼロ』の二つ名で呼ばれる彼女には、『フライ』や『レビテーション』はほとんど経験がないのだから。
「ちょ、ちょっと、セル! あんた、な、なにしたのよ! ま、まさか、あんた、メイジなの!?」
「フフフ、私はメイジではない。人造人間だ。それに私は杖も持たず、呪文も詠唱していないではないか」
「え、ほ、ほんとだ。じゃあ、あんた一体? も、もしかして、『先住魔法』の使い手、エルフなの!?」
「それも、ちがう。私が行使している力は君たちの言う『魔法』とは、全く別種の力なのだ。『気』と呼ばれる生命が持つ根源の力をコントロールしているのだ。さて、主よ。我々はどこに向かえばいい?」
「そ、そうね……じゃあ、あ、主として命ずるわ、セル。先に飛んでいった連中を追いなさい。ううん、追い抜いてやりなさい!」
「承知した。我が主よ」
セルとルイズは、学院に向かって飛翔した。その速度は『フライ』の常識を遥かに超えたスピードだった。もちろん、セルがその気になれば、超音速はおろか、マッハ数十オーバーも容易だが、一緒に飛ぶルイズがひとたまりもない。それでも、時速二百キロを超える速度は、先行した生徒達をあっという間に追い抜いていった。
「な、なんだ? あれは、まさかルイズなのか?」
「う、うそだろ。『ゼロ』のルイズがあんなスピードで飛ぶなんて」
「ありえないだろ! 第一、スクウェアクラスの風メイジだって、あんな速度出るわけ……」
「そもそも、なんで『ゼロ』のルイズが『フライ』を使えるのよ!」
ルイズは興奮していた。大空を高速で飛ぶ爽快感、いつも自分を馬鹿にしていた学友達が、自分たちにあっさり追い抜かれて混乱している様。ルイズにはすべて初めての体験だった。
(私、もしかしてものすごい当たりの使い魔を召喚したんじゃないかしら! 見た目は、お世辞にもいいとはいえないけど、不思議な力は使えるし、頭もいいみだいだし、ご主人様にも従順だし)
ルイズは上機嫌だった。今まで、『ゼロ』の呼び名とともに屈辱に満ちた学院生活だったが、これからはちがう。
(私とセルのドキドキはらはら大冒険アドべンチャーのはじまりよ)
若干、ハイになりすぎているようだ。そうこうしている内にトリステイン魔法学院が見えてきた。
「あ、セル、あそこよ。学院の入り口に下ろしてちょうだい」
「承知した」
――日も暮れた頃、学院内のルイズの部屋。
部屋内は一学生の寄宿部屋としては、破格の広さと豪奢な造りを備えていた。おかげで、二メイルを超える長身のセルも労せず、部屋に入ることができた。今、セルは主たるルイズから、使い魔という存在について講釈を受けていた。
「なるほど、召喚魔法はあっても、送還魔法は存在しない。基本一方通行ということか」
「そういうことよ。ところで、セル。あんたってどこから来たの? 午後の授業の時、亜人に詳しい生物科の先生に聞いたけど、あんたみたいな亜人は見たことも聞いたこともないって言われたわ」
「そうだな……私はこの地から、遥かに離れた地球とよばれる場所からやってきた。聞いたことはあるかな?」
「チキュー? 聞いたことないわね。遥かに離れた場所って、東方の『ロバ・アル・カリイエ』の地名かしら? 東方は謎だらけの土地だし、あんたみたいな亜人がいても不思議じゃないわ」
「ほう、そんな土地があるのか。さて、ルイズ。使い魔として私は、これから具体的になにをすればいいのかな?」
「そうね。使い魔の役割は大きく三つあるわ。一つは主人との感覚の共有よ。わかりやすく言うと、あんたが見聞きしたものが私にも感じることができるの」
「……すでに共有しているのか?」
「だめね。召喚の儀式の専用教本通りに試したけど、全然繋がらないわ」
セルは密かに安堵した。今しばらくはおとなしく使い魔を続ける気でいたが、いざ、行動を起こす際に自分の動きが筒抜けなのは困るからだ。そんなセルの内心には、全く気付かず、ルイズは続ける。
「もう一つは、主のために危険な場所から秘薬の材料なんかを採集してくること」
「ふむ、この周辺の植生や鉱物に関する知識はないが、詳細を教えてくれれば、いかなる場所からも必要なものを採ってこよう」
「ふふん、すごい自信じゃない。期待してるわ。最後の一つは、使い魔は命を賭けて、主であるメイジを守るのよ。セル、あんた『キ』とかいう力が使えるらしいけど、ぶっちゃけ強いの?」
「私が強いかだと? ふふふ、そうだな。私は強かった、かつての地球でも私は、最強の存在となった……はずだった。だが、私は……わたしは……」
「……セル?」
物思いに沈んだかのようなセルにルイズは声をかけた。その時の彼女には、セルがやけに小さい存在に思えた。不気味な外見と、それに反する高い知性を持ち、『キ』という不思議な力を使う亜人。なのに、まるで迷子の子供のように感じられたのだ。
だが、セルはすぐに思い直したように、ルイズに告げた。
「君を守る程度の力はあると思ってもらって間違いない」
「そ、そう……」
「ところで、ルイズ。君も学生の身分なら、明日の授業に備えてそろそろ就寝したほうがよいのではないか?」
「そうね。思ったより話し込んじゃったわね。じゃあ、着替えさせて」
「……まさか、それも使い魔の役目だというのか?」
「そうよ。着替えは後ろのクローゼットに入っているから、それと脱いだ服は明日の朝、洗濯しておいて」
「……わかった」
若干の頭痛を感じたセルだったが、念動力を使い、ルイズを手早く着替えさせると、脱がした服を部屋内の籠に放り込んだ。ルイズはその鮮やかな着替えに驚きながら、ベッドに潜り込んだ。
「やっぱり、便利よね。その『キ』ってやつ、私にも使えないかしら?」
「難しいだろうな。『気』はすべての生命が持つ根源の力だが、その制御は非常に困難だ。それに君は魔法を操るメイジだろう?」
「わ、わかってるわよ! ちょっと聞いてみただけよ! セル、明日は七時に起こしてちょうだい。あ、それとあんたの寝るところだけど……」
ルイズは、床で寝なさいと言ったら、さすがに怒るかしらと思ったが、セルは何気なくこう言った。
「いや、私には睡眠は必要ない。そういう身体でね。それよりも、夜間は外出してもかまわないかな?」
「睡眠が必要ないって……まあ、いいわ。外出はいいけど、学院内で変な騒ぎは起こさないでよ? 私の責任になるんだからね」
「承知した、我が主よ。では、よい夢を……」
(こいつ、たまに顔に似合わないセリフを言うのよね)
ルイズは、昼間の召喚の儀式でかなりの魔力を消費しており、疲労も溜まっていたため、すぐに眠りへと落ちていった。
それを見届けたセルは部屋の窓から、空中へと飛び出した。そのまま、上空へ凄まじいスピードで上昇する。この世界の状況を確認するために。
第二話をお送りしました。
セルが若干おとなしすぎるかもしれませんが、いかがでしょうか?
ゼロの使い魔についても、設定の誤解があるかもしれませんので、お気づきの方はご指摘をお願いします。
ご感想、ご批評もお願いします。