ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

31 / 91
第二十七話をお送りします。

本SSではいつか、オールド・オスマンの活躍も描きたいと考えていますが、あの人、スクウェアクラスはありますよね?


 第二十七話

 

 

 使い魔品評会において、ルイズとセルが製作したアンリエッタ王女の巨大石像「聖王女立像」は、アルビオンへの遠征が迫る中、多くの人々が出征する家族の無事を祈るご神体のような扱いを受けていた。トリステイン国内にも、ブリミル教の教会は多数建立されていたが、何よりもインパクト抜群の巨大さと精巧極まる造作、さらに遠征軍の最高司令官にアンリエッタ王女自らが志願したこともあって、聖王女のご利益にあやかろうとする貴族や平民の参拝が引きも切らなかった。

 

 「ほんとに新しい名所になっちゃったわよね、あの石像」

 

 キュルケが、残っていた紅茶を飲み干そうとしながら、何気なく言った。ふと、キュルケら三人が囲んでいたテーブルに影が落ちる。それに気づいたタバサが上を向くと、何かが空から降りてきた。

 

 

 スタッ!

 

 

 「ぶふっ!!」

 

 思わず、口に含んだ紅茶を噴き出すキュルケ。空から降ってきたのは、さっきから話題に上がっていた級友ルイズとメイドのシエスタ、そして学院の馬車を馬ごと片手で支える長身異形の亜人セルだった。

 

 「はじめから、飛行していけば、余計な時間をとられなかったのよね……あら、キュルケにタバサ、それにモンモランシーじゃない。ひさしぶりね」

 

 ルイズは、久方ぶりに再会した級友たちに、にこやかに話しかける。あっけにとられるキュルケとモンモランシー。タバサがポツリと言う。

 

 「……非常識」

 

 「ルイズ、私は馬車を馬屋に返却した後、シエスタを部屋へ送ってくる」

 

 馬車を片手で支えたまま、セルは気を失っているシエスタをも反対の腕で抱きかかえるようにして言った。ヴァリエール領からの帰り道、時速二百リーグでの高速飛行は、平民であるシエスタには、やはり酷であったようだ。

 

 「ええ、お願い。しばらくしたら、私も部屋に戻るから」

 

 「承知した」

 

 馬車とメイドを抱え、飛び去っていく使い魔を見送ったルイズは、そのまま、空いている椅子に座る。そして、近くで呆然としていたメイドに自分の分の紅茶を命じる。

 

 「ルイズ、あなたには色々、言いたいことはあるけど、とりあえず品評会が終わってから、何をしていたのよ?」

 

 口の周りをハンカチでぬぐいながら、キュルケが聞いた。

 

 「うーん、色々あったとしか言えないんだけど、ここ三日ぐらいは、ちょっと実家に戻っていたのよ」

 

 「ヴァリエールの領都に? そういえば、公爵家は諸侯軍の派遣を拒否して兵役免除金を支払ったって、王宮じゃ大騒ぎらしいわよ」

 

 首をひねりながら答えるルイズに、モンモランシーがなかなかの事情通ぶりを発揮して言った。

 

 「父様が、そんなこと言っていたわね。モンモランシー、あんたの家は参陣するの?」

 

 「私の家は、ヴァリエール公爵家と違って莫大な兵役免除金なんて払えないもの。分家を継いだ叔父様が兵を率いて参陣するみたい」

 

 「ちなみに愛しのギーシュも学徒士官に志願して、今は士官教育の真っ最中なのよね、モンモランシー?」

 

 キュルケがからかい気味に言うと、モンモランシーは嫌そうな顔で手を振りながら答える。

 

 「変な言い方はやめてよね」

 

 「へぇ、あのギーシュがね。ちょっと信じられないわね」

 

 「さらに言えば、私とタバサも留学生士官として、従軍するのよ。ま、後方支援部隊だけどね」

 

 キュルケの言葉を聞いたルイズが驚いた様子で二人に問いかける。

 

 「えっ!あんたたち、留学生の上に女子生徒なのに、わざわざトリステインの戦争に参加するっていうの?」

 

 「仕方ないじゃない、本国からの命令だもの」

 

 「……ルイズ、あなたは従軍する?」

 

 タバサの問いに、決意を秘めた眼差しで答えるルイズ。

 

 「もちろん、従軍するわ。姫さまの直属として最前線に立つと思う」

 

 「……やっぱり」

 

 「最前線って……いくら、使い魔の彼がいるからって大丈夫なの、ルイズ?」

 

 「でも、殿下の直属なら、司令部付きでしょ。実際にルイズが戦場で戦うわけないじゃない、公爵家の令嬢なんだから」

 

 キュルケとモンモランシーの会話を聞きながら、ルイズはもうすぐ、こういった日常が終わりを迎えるだろうことを実感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車を返却し、気絶したシエスタを彼女の部屋に送り届けたセルは、主の部屋に戻る途中の廊下でコルベールと出会っていた。

 

 「おや、セルくんじゃないか。もう、ヴァリエール領から戻ってきたのかい?」

 

 気さくに話しかけてくるコルベールに、いつもの調子で返答するセル。

 

 「つい先程、主と共に戻ったばかりだ」

 

 「そうか、ちょうどいいタイミングだな。さっき、オールド・オスマンからきみが戻り次第、学院長室に来る様に伝えてくれと頼まれたばかりだったんだ。」

 

 コルベールは、セルの左手に視線を向けながら言った。

 

 「どうやら、きみのルーンについて、戦争前に話しておくつもりみたいだ」

 

 「そうか、わかった」

 

 そのまま、学院長室に向かうセルの背中にコルベールが言葉を投げかける。

 

 「セルくん! 出征前の忙しいときに申し訳ないが、学院長の話の後で、もし時間があったら私の研究室に来てくれないか?「破壊の篭手」の件で少し話したいんだ」

 

 「確約はできん」

 

 「それでかまわない。火の塔のすぐ横の掘っ建て小屋だからすぐにわかるよ」

 

 背を向けたままのセルにそう言ったコルベールは、慌てて自身の研究室に向かった。とても来客を迎えるような状態ではない自分の城を片付けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おお! セルくん。もう戻ってきたのかね? さっきコッペルスくんに伝言をお願いしたばかりなんじゃが」

 

 セルが学院長室を訪れた時、オスマンは書類の山を相手に悪戦苦闘していた。やはり、秘書がいないと色々不都合があるらしかった。

 

 「コルベールから伝言は聞いている。私のルーンについて話があると」

 

 「うむ、本当はもっと早く話しておきたかったんじゃが、品評会が終わってからのきみとミス・ヴァリエールはえらく忙しかったようじゃからのう」

 

 オスマンの視線がセルの左手のルーンに注がれる。そして、書類の山の中から、一冊の本を取り出す。その際、うず高く積まれた書類の山がいくつも崩壊するが、オスマンは現実逃避を決め込んだのか、見向きもしない。

 

 「この本に、きみのルーンについての記述があってのう。そのルーンは「ガンダールヴ」と言って……」

 

 「虚無の使い魔か」

 

 先回りしたセルの言葉に納得の表情を浮かべるオスマン。手にした本を開くと、さらにその続きを話し始めた。

 

 「まあ、気づいておって当然じゃな。ちなみに虚無の使い魔と呼ばれ、始祖「ブリミル」に仕えた存在は四体おってな。「ガンダールヴ」、「ヴィンダールヴ」、「ミョズニトニルン」、「リーヴスラシル」という。それぞれに異名があって、「神の左手」、「神の右手」、「神の頭脳」、「神の心臓」とよばれておったそうじゃ」

 

 「メイジ一人に使い魔は一体という原則ではなかったか?」

 

 「なにしろ始祖「ブリミル」じゃからな。使い魔の四体ぐらい使役するのは朝飯前だったんじゃろう。そして、「ガンダールヴ」を召喚し、系統魔法とは異なる超魔法を発動させたミス・ヴァリエールは「虚無の担い手」というわけじゃな」

 

 「……虚無の担い手」

 

 「正直なところ、虚無の使い魔と虚無の担い手については、わからないことの方が多くてのう。じゃが、わしも伊達にオールド・オスマンと呼ばれておるわけではない。王立図書館の禁書目録をちょっとした伝手で手に入れたのじゃが、その中に始祖と虚無について詳しく記された書物があるらしいのじゃ。どうも、特殊な魔法が施されておって解読もままならないというのじゃが、きみたちが戦争から戻ってくるまでには、何かしらの成果を見つけてみせるわい」

 

 「期待するとしよう。コルベールとも約束があるのでこれで失礼する」

 

 学院長室を後にしようとするセルにオスマンが言葉をかける。

 

 「セルくん。こんなことをきみに頼むなど筋違いだとわかってはおるんじゃが……」

 

 オスマンは深々とセルに対して頭を下げながら懇願した。

 

 「どうか、出征する生徒たちを守ってやってほしい。このとおりじゃ」

 

 セルは、振り向かずに言った。

 

 「それが、主の望みであれば、やぶさかではない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コルベールの研究室は、学院を構成する火の塔の横にひっそりと立つみすぼらしい小屋だった。セルが訪れた時、コルベールは片付けの真っ最中だった。

 

 「ああ、セルくん。もう、来てくれたのか。すまないが、すこし散らかっていてね。えーと、て、適当に座ってくれるかな?」

 

 コルベールの研究所内は、実に雑多な物が溢れていた。常人が見れば、単なるガラクタの山にしか見えないだろうが、これらは、コルベールが先祖代々の土地や財産を売り払ってまで収集した様々な秘薬や貴重な素材なのだった。セルは研究室内の惨状には、興味を示さずに単刀直入にコルベールに聞いた。

 

 「破壊の篭手について、話があるのだったな」

 

 「ああ、うん、そうなんだ。きみたちがミス・ロングビル、いやフーケから取り返してくれた後で、私も何度か調べてみたのだが、素材といい造作といい、とても今のハルケギニアでは再現できないほど洗練されていると感じたんだ。その「破壊の篭手」の使い方をきみは知っているという。ぜひ、詳しい話を聞きたいと思っていたんだ」

 

 「残念だが、私も情報として知ってはいたが、実物を見るのは、初めてだった。構成物質や稼働原理などを詳しく教えることはできない」

 

 セルの言葉に若干落胆の表情を見せたコルベールだが、さらにセルに問いかける。

 

 「でも、あの篭手はきみが元々居た東方の技術で造られたのだろう?」

 

 「……そういって差し支えはあるまい」

 

 実際には、次元を超えた異世界の、さらに異星文明によって製造された兵器なのだが、その事実をコルベールに伝える必要性をセルは感じなかった。

 

 「ああ、いつかは東方に行ってみたいものだ!」

 

 コルベールは年に似合わない、まるで少年のように瞳を輝かせながら言った。そんなコルベールにセルがいつもの調子で問いかけた。

 

 「おまえは、従軍志願をしなかったのか?」

 

 「い、いやあ、私のような軟弱の輩が従軍しても、皆の足手まといになるだけだよ」

 

 セルの問いに目をそらし答えるコルベール。セルがわずかな殺気をコルベールに放つ。

 

 「!!」

 

 普段からは想像できない俊敏な動きを見せ、セルから距離を取り、同時に杖を構えるコルベール。

 

 「せ、セルくん、なにを?」

 

 「私がルイズによって召喚された際も、おまえは鋭い殺気を私に向けていた。今の反応といい、軟弱の輩が聞いて呆れる」

 

 杖を下げたコルベールが苦々しく言葉を発した。その表情にはこれまでにない苦悩の色が見て取れた。

 

 「昔取ったなんとやらだよ。今の私にとっては……忌むべき過去だ。私はね、自身の炎を使って多くの過ちを犯してきたんだ。それから逃げるために、捨て去るために教師になった。破壊だけが火の、炎の見せ場ではない。そう思って今日までこの掘っ建て小屋で研究に勤しんできたのだ。臆病者の「炎蛇」だよ。私を笑うかね?」

 

 セルは答えず、研究室の机の上に置かれた発明品の一つに目を留めた。それは、コルベールが発明したもので、ふいごで気化させた油を内室に送り込み、それを着火することでクランクを回転させ動力を生み出すという原始的な内燃機関だった。

 

 「破壊だけが、火の見せ場ではないだと? 当然だ。たとえ、風だろうと、土だろうと、水だろうと破壊をもたらす。その逆もしかりだ。すべての力は、力でしかない。それをあやつる者によって千変万化するのだ。おまえたちメイジはそのための魔法を六千年もの間、研鑽を積んできたのではないのか?」

 

 「そ、それは……」

 

 「私は、おまえの過去などに興味はない。だが、今の立ち振る舞いを見れば、おまえが過去から逃げることも、それを捨て去ることもできず、ただ引き摺りながら見て見ぬ振りをしてきたことはわかる……オスマンは、私に生徒たちを頼むと頭を下げた。おまえはどうする? 「炎蛇」のコルベールよ」

 

 「わ、私は……」

 

 研究室からセルが去った後、コルベールは長い間、粗末な椅子に座りながら両手で頭を抱えていた。やがて、顔を上げたコルベールは自身が発明した様々な道具や器具を見つめる。

 

 「そうだ、破壊だけが……見せ場ではない、だが!」

 

 コルベールは研究室を飛び出すと、学院長室を目指して駆けに駆けた。

 

 

 

 

 翌日、学院の従軍志願者名簿に、ジャン・コルベールの名が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 




第二十七話をお送りしました。

ようやく次話から「王権守護戦争」の戦争編が始まります。

レコンキスタは迫り来るトリステインの侵略軍に打ち勝つ事が出来るのか?

……いやあ、どうなってしまうんでしょうねぇ(スマホを見ながら)

ご感想、ご批評をよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。