ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第四章開始前に断章之肆をお送りします。

断章之参にて、セルを召喚してしまったイザベラ様はどうなってしまったのか……

……決して、第四章執筆に煮詰っているわけではありませんので。

……偉大なるマンネリって、やっぱり偉大ですね。


 断章之肆 ガリア北花壇騎士団壊滅

 

 

 ハルケギニア大陸最大の武力を誇る強国ガリア。その武力の頂点に立ち、諸国に遍く名声を轟かせるガリア宮廷近衛騎士団は、「薔薇園」とも称されるヴェルサルテイル宮殿にちなんで、様々な花壇の名を冠していた。王国最強といわれる南薔薇花壇騎士団や空戦においては、他の追随を許さない西百合花壇騎士団など、挙げれば切りがない綺羅星の如く輝く武名も高きガリア騎士団。だが、宮殿の北側には、立地及び建物の構造上、花壇が造成できないため、北を冠する騎士団は、表向き存在しない。

 しかし、北花壇警護騎士団は、確かに実在していた。ガリア王宮騎士団連合にも属しない非公式の実戦騎士団。あらゆる国がそうであるように、ガリア王国にも様々な裏の事情が存在し、秘密裏にそれらを処理するのが、彼らの任務だった。一部の者達からは、「掃除屋」、「死神騎士団」、「ガリアの暗部」などと蔑称されていた。

 その団長こそ、ガリア王国第一王女イザベラ・ド・ガリアその人であった。王家の第一王女に与える官職として、名誉とは無縁の汚れ仕事専門の騎士団長がふさわしいのかどうか、イザベラの住居である小宮殿プチ・トロワに住まう人々は、目をそらし、ただ頭を深く垂れるほか答えようがなかった。そのことを理解していたイザベラは、常に不満を募らせていた。

 だが、ここ最近のイザベラは、近年まれに見るほど上機嫌の様子だった。

 

 「あははは! 北花壇騎士が、一堂に会するなんて騎士団設立以来じゃないかい?」

 

 年のころは、十七前後。ガリア王家の証たる鮮やかな青髪と、同じ色の瞳を持ち、背丈に不釣合いな大きな冠によって秀でた額は滑らか。真紅の紅をひいた口を、大きく開けて目前の光景に言及した美貌の少女が、ガリア王国の第一王女イザベラである。彼女は、プチ・トロワの中庭に愛用の椅子を引き出させ、目の前に居並ぶ自身の部下たちを見渡していた。

 

 「……」

 「……」

 「……」

 

 本来、裏の仕事を専門とする北花壇騎士は、高い実力を持ちながらも、何らかの裏事情や兇状持ちの者達が多く所属しており、お互いに顔を合わすことは、まずない。今回は、団長の出頭命令を受けて、任務に従事していないすべての騎士が参集されていた。その数は、十数人ほど。中には、見た目少年少女にしか見えない者たちまで居た。

 

 「まあ、肝心の人形七号は、今頃アルビオンだけどねぇ……浮遊大陸から、落っこちまえばいいのに」

 

 北花壇騎士「人形七号」、それは、彼女の従妹姫に当たる少女である。複雑な事情によって王家から廃され、平時はトリステイン王国の魔法学院に留学しながら、事があるたびにイザベラに呼び出され、危険な任務に従事していた。今、彼女は、イザベラの守役である花壇騎士バッソ・カステルモールと共にトリステイン王国によるアルビオン遠征に従軍している。

 

 「さて、わざわざおまえたちを集めたのは、他でもない! ある仕事を命じるためさ! おいっ!」

 

 イザベラが、後ろに控える侍女に命じると、プチ・トロワの本棟に通じる大扉が開かれる。そこから現れたのは、百戦錬磨の北花壇騎士たちも、未だかつて見たことのない異形の亜人だった。

 身長は、二.五メイルほど、筋骨隆々の体格に昆虫のような外骨格を備え、その背からは先端が尖った尾が伸びている。容貌は、お世辞にも整っているとは言い難い。黒い額には、見慣れないルーンが刻まれていた。

 それは、人造人間セルの分身体の一体であった。セルはゆっくりと歩みを進め、イザベラが座っている椅子と北花壇騎士たちの間で止まった。

 

 「こいつは、わたしが召喚した使い魔、「ジンゾウニンゲン」セルだ!」

 

 イザベラは、自信満々の様子でセルを紹介した。その言葉に、今ひとつ要領を得ない北花壇騎士たち。イザベラは、口角を吊り上げるとさらなる大声で宣言した。

 

 「わたしのセルを負かすことができた奴には、十万エキューと花壇騎士団長のイスをくれてやるよっ!!」

 

 

 ザワッ!!

 

 

 それまで、無言だった騎士たちがとたんに騒ぎ出す。十万エキューといえば、大貴族の居城が丸々一つ買える大金である。また、ガリア花壇騎士団の団長の地位は、ガリアにおいて騎士を志すほとんどの者にとって、究極の到達点といえる。

 

 「そりゃあ、本当ですかい!? 姫さま、たしかに聞きましたぜ! 十万エキューって!!」

 「花壇騎士の団長……失われた家の名誉を回復することも夢では……」

 「おいおい! 豪気な話だが、順番はどうすんだっ!? 亜人は、一匹しかいねぇんだぞ!」

 「そんなの強い順に決まっているじゃないか。というわけで、僕がやるよ」

 

 口々に騒ぐ騎士たちに、イザベラが衝撃的な一言を発する。

 

 「はっ! 順番なんてまどろっこしいわ! おまえたち全員で一時にかかりなさい!! そうでもしなきゃ、わたしのセルに勝てっこないわ!!」

 

 

 ギンッ

 

 

 「ひっ……」

 

 イザベラの一言に、静まる騎士たち。だが、仕えるべき主の不用意な言葉を受けた彼らの全身からは、殺気と魔力が溢れ出していた。それに当てられた侍女が小さな悲鳴を上げ、その場に昏倒する。騎士たちの敵意を一身に受けるセルは、全く動じていなかった。

 

 「ふふん、いい雰囲気になったじゃないか! セル、一応言っとくけど、殺すんじゃあないよ!」

 

 「承知した」

 

 主の言葉に外見には、似つかわしくない声で答える異形の亜人。騎士たちは、一切の油断なく杖や剣を構える。正に一触即発の状態だった。

 だが、結着は一瞬で着いた。

 

 

 クンッ ブワッ!! 

 

 スッ  ズンッ!!

 

 

 セルが、左手の人差し指を上に動かすと、騎士たちの杖や剣といった武装が、主の手を離れ、すさまじいスピードで上空に飛び去る。さらにセルが、人差し指を下に動かすと、全ての騎士たちが地面に叩きつけられる。まるで、巨人の手に押さえ込まれてしまったかのように身動き一つできない。

 

 セルの圧勝だった。

 

 だが、イザベラは不機嫌そうに立ち上がると、セルに近寄りながら言った。

 

 「ああ、やめやめ!! おい、セル!殺すなとは言ったけど、いくらなんでも、あっさりしすぎじゃないか!! おまえ、次はその念力は使用禁止よ、いいわね!?」

 

 「ふむ、承知した」

 

 イザベラの言葉に頷いたセルは、騎士たちを押さえていた念動力を解除すると、上空に運び去った彼らの獲物を、彼らの目の前に落とした。

 

 「おまえたちが、あまりにも弱すぎて我が主が退屈だそうだ。北花壇騎士とは、ありもしない花壇を世話するハリボテのカスどもか?」

 

 セルの挑発に激昂した騎士が、イザベラがそばにいるのもお構いなしに、「フレイムボール」を放つ。

 

 

 バゴォォン!!

 

 

 火球の直撃によって炎に包まれる亜人と王女。残りの騎士たちも次々に自系統の攻撃魔法を放つ。火球、雷、竜巻、真空の刃が亜人に襲い掛かる。

 

 

 ズゴォォォォン!!

 

 

 プチ・トロワの中庭を吹き飛ばすほどの爆風が荒れ狂う。ほとんどの騎士たちが精神力を一気に使い果たしていた。騎士たちの中で、一際異彩を放つ十歳程度の金髪の少年が進み出ると、背後の巨漢に命じた。

 

 「やれやれ、王女まで巻き込んでいるじゃないか。まあ、しょうがない。ジャック、トドメを刺すんだ。相手は、相当な化け物だからね」

 

 「わかった、ダミアン兄さん」

 

 ジャックと呼ばれた大男は、強力な「錬金」を展開する。亜人が居た周囲の土をすべて火薬に変換するのだ。おそらく、その威力はプチ・トロワ自体に損害が及ぶだろう。だが、その時、濛々と立ち上る煙から何かが騎士たちに襲い掛かった。

 

 

 シュルンッ! バキッ! ドガッ! グシャッ! ドゴッ!

 

 

 亜人の尾が、途方もないスピードで、騎士たちを打ち据えていく。強力な先住魔法すら操り、「元素の兄弟」と呼ばれ恐れられたダミアン、ジャック、ジャネットも為す術もなく一撃で地面に這い蹲る。末弟のドゥドゥーが、全身の「硬化」と間接部への先住魔法の強化によって、常人を超越したスピードを発揮し、煙の向こうに居るだろうセルに渾身の一撃を叩き込む。

 

 「このォォォォォ!! 化け物がァァァァ!!!」

 

 

 グシャンッ!!

 

 

 鉄製の大扉すら、ブチ破るドゥドゥーの拳は、セルの腹部に直撃した。その瞬間、彼の右拳は原型留めぬ程に砕け散った。

 

 「ぎぃやあァァァァ!!」

 

 セルは、悲鳴を上げたドゥドゥーの首を掴み、自身の目線の高さまで持ち上げる。そして、実に優しく優しく、丁寧に地面に降ろした。

 

 

 ドグシャンッ!!!

 

 

 庭園の床面に敷き詰められた大型の石板を、打ち砕く勢いで叩きつけられたドゥドゥーは、全身を砕かれる激痛に意識を失った。

 

 「終わったぞ、イザベラ。全員息はある、今はまだな」

 

 「見ればわかるわよ、セル。全く、王女にして団長である、わたしまで巻き込むなんて。おまえが言ったとおりのカスどもだわ」

 

 攻撃魔法が巻き起こした煙が晴れると、無傷のイザベラが姿を見せる。よく見れば、イザベラの近くにいた侍女たちも気を失ってはいるものの、無事であった。セルが展開したバリヤーに守られたイザベラたちには、いかなる魔法も無効なのだ。

 

 「でも、まあ目的は達成したから、よしとするわ」

 

 そう言ったイザベラは、死屍累々と言った有様の中庭を見渡しながら、妙に芝居がかった仕草で高らかに宣言する。

 

 「ああ、なんということかしら!! お父様から、お預かりした北花壇騎士団が壊滅してしまうなんて!! すべての責は、団長であるわたしにあるわ!! 北花壇騎士の役目は、このわたしが立派に引き継ぎます!!」

 

 わざとらしく言い切ったイザベラは、自身の使い魔であるセルに向き直ると、瞳を輝かせながら言った。

 

 「よし、いくわよ、セル! このわたしが、ガリア王国第一王女イザベラ・ド・ガリアが、国の病巣も、恐ろしい吸血鬼も、王家に刃向かう愚か者はまとめて成敗してやるわ!!」

 

 「承知した、我が主よ」

 

 

 

 イザベラの愛読書に、「大アンリのガリア周遊記」がある。ガリア中興の祖と呼ばれる王、大アンリが若かりし頃、わずかな供回りを引き連れ、ガリア各地を旅し、ある時は、悪辣な領主を成敗し、ある時は、人々を苦しめる亜人を退治し、またある時は、港町を治める大貴族の令嬢と恋に落ちる。そんなありきたりな冒険譚である。ちなみに、「大アンリのアルビオン周遊記」、「大アンリのロマリア周遊記」などの続編が刊行されている。

 イザベラは、幼い頃から憧れていた諸国漫遊の旅に出るために、北花壇騎士団を壊滅させたのだった。ヴェルサルテイル宮殿の内部で、あれだけの戦闘を行えば、大問題に発展するはずだが、実はプチ・トロワの中庭は、最初からセルのバリヤーに包まれており、外部に影響は一切出ていなかった。さらに半死半生の騎士たちは、生体エキスの注入で、最低限の治療を行い、見るも無残な中庭は、物質出現魔術によって植物以外は再生させた。

 後始末は十分だろう。

 

 

 イザベラとセルの冒険が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




断章之肆をお送りしました。

次話から「イザベラの冒険」がはじまるよぉ……すいません、うそです。

イザベラ様を活躍させると、タバサが活躍できない罠。うごごごご……

次話にご期待ください。

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