ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第三章外伝後編をお送りします。二話連続投稿の二話目となります。

ぼくらの、と言ってますが、次々とキャラが死んでいくわけではありませんので。

ご了承ください。


 第三章外伝 ぼくらのロサイス防衛戦 後編

 

 

 --ロサイス港湾施設。

 

 ほんの数日前には、二百隻のフネと三万の兵でごった返していた大陸最大の工廠を擁する港湾施設は、ロサイス西部の戦いの喧騒とは、無縁だった。

 そこに、十数人のメイジたちが降り立つ。メンヌヴィル率いる「白炎中隊」である。逃亡兵部隊を囮にして、まんまと港湾施設へと侵入を果たしたのだ。

 

 「はっ! 腑抜けの居残り部隊かと思ったが、なかなかどうして、やってくれる」

 

 部下の使い魔であるカラスを使って、ロサイス西部の戦況を確認したメンヌヴィルは、そう言い放った。

 

 「これから、どうしやす?」

 

 革コートを纏った部下の一人が、メンヌヴィルに問いかける。

 

 「そうだなぁ……使えそうなフネは、ある。おさらばする前に、ここの施設を焼き尽くして、おっとり刀で駆けつけた連中も灰にしてやろう」

 

 メンヌヴィルが、顔の火傷を撫でながら言った。

 

 「さて、何から焼くか……ん? ほう、もうここに来た奴らがいるのか」

 

 白炎の二つ名を持つメンヌヴィルの両目は、二十年前に光を失っている。彼の顔に広がる火傷は、皮膚だけでなく眼球そのものを焼き尽くした。光を失った彼が二十年もの間、生き延び、伝説の傭兵メイジとまで呼ばれた理由は、特異な熱感知能力にあった。元々、火メイジは他の属性のメイジに比べ、熱に敏感であるという。視力を失ったメンヌヴィルは、自身の熱感知能力を極限まで磨き上げ、今ではあらゆる熱源を把握し、距離や位置、果ては、個人の特定や感情の把握すら可能にしていた。

 その超熱感知能力が、複数の人間が港湾施設に侵入してきたことをメンヌヴィルに知らせた。

 

 「数は……四人か、男二人に女二人。全員メイジだな……いや、待て。この熱は、まさか、そんな、こんなところで……」

 

 珍しく言いよどむメンヌヴィルに、部下のメイジが声をかけようとする。すると、メンヌヴィルは突然、喜色満面となり、叫びだした。

 

 「そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだぁ!! この熱は、間違いなくそうだぁ!! 二十年間一度も忘れたことはない!! あの男の!あのメイジの!あの隊長の熱だぁぁぁ!!」

 

 弾かれたように、走り出すメンヌヴィル。呆気に取られる部下達も慌ててメンヌヴィルの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「数日前は、トリステイン全軍の半分近くがこの施設を利用していたのに、今はなんだか、物悲しい雰囲気すら感じるよ」

 

 コルベール、キュルケ、タバサ、ギーシュの四人は、無人の港湾施設に足を踏み入れた。ギーシュが、感慨深げに言うとキュルケとタバサが呆れたように突っ込む。

 

 「夜間なんだから当たり前でしょ」

 

 「……静かに」

 

 二人の突っ込みにへこむギーシュ。それを聞いていたコルベールが三人に指示を出す。

 

 「まずは、中型艦用ドックに向かおう。今、使えるフネは、あそこにしかないからね」

 

 キュルケら三人が頷く。四人が警戒しながら、ドックに移動しようとすると、ドックの大扉が内側から吹き飛ぶ。

 

 

 ドゴォォン!!

 

 

 「きゃあ!!」

 

 「うわぁ!!」

 

 吹き飛んだ大扉の場所に人影が見える。コルベールが杖を構えると、人影は突然笑い出した。

 

 「は、はは、ははは、はははははははははは!! そうだぁ!! やはり、そうだぁ!! その熱!! その殺気!! 隊長、コルベール!! そうだろう!?」

 

 「わたしを知っている? おまえは……」

 

 「その声!! もう、間違いない!! 焦がれ続けた熱だぁ!! 隊長、オレだよ! メンヌヴィルだ! あんたに光を奪われたメンヌヴィルだよぉぉぉ!!」

 

 人影は、鍛え上げた肉体にローブを纏い、無骨な鉄棒を握った男だった。顔の大半に火傷の痕が生々しく残っている。その容貌を確認したコルベールから表情が消える。

 

 「貴様、生きていたのか……」

 

 今までのコルベールとは、明らかに違う声色だった。まるで感情を感じさせない人形のような平坦な声だった。

 

 「み、ミスタ……」

 

 思わず、キュルケが声をかける。その声には答えず、コルベールが詠唱する。

 

 「ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ」

 

 

 ゴオォォォォ!!

 

 

 コルベールの杖の先から、巨大な炎の蛇が生み出される。その顎が、一切の容赦なくメンヌヴィルに襲い掛かる。

 

 「ははは、相変わらずやるなぁ!! 隊長ォォ!!」

 

 熱感知能力によって、炎の蛇をやすやすとかわすメンヌヴィル。

 

 「た、隊長、一体どうし……ギィヤアァァァ!!」

 

 メンヌヴィルを追ってきた「白炎中隊」の隊員たちが、コルベールの炎の蛇に飲み込まれ、瞬時に炭化する。後方にいた数人が難を逃れる。

 

 「オレは隊長を焼く!! おまえらは、ガキどもを殺せっ!!」

 

 メンヌヴィルの鉄棒から、複数の火球が生み出され、コルベールに向かって飛んでいく。コルベールは、瞬時に炎の壁を創り出し、火球を飲み込む。

 

 「さずがだなぁ。腕は落ちていないようだなぁ、隊長!」

 

 続けざまに、メンヌヴィルは火球を放ちつつ、施設内の闇に隠れることを繰り返す。熱感知を持つメンヌヴィルには、闇はハンデにはなり得ないが、コルベールは、目標を定め切れず、防戦一方となり、施設の奥へ追いやられる。

 

 「ミスタ!!」

 

 コルベールを追いかけようとするキュルケに、白炎中隊のメイジが放った風魔法が迫る。

 

 

 バシュッ!!

 

 

 間一髪で、タバサが展開した「エア・シールド」が、風魔法を弾き飛ばす。

 

 「……こっちに集中」

 

 タバサの言葉に、頭を振って気持ちを切り替えるキュルケ。

 

 「ごめん、タバサ。ありがとう」

 

 「ぼ、ぼくのワルキューレで詠唱の時間を稼ぐ!」

 

 ギーシュの杖が振られ、四体のワルキューレが完全武装で出現し、敵メイジに突撃する。

 

 「はっ! ガキのゴーレムが何だってんだっ!!」

 

 敵メイジの放った火球に飲まれ、四体のワルキューレが瞬く間に溶解する。ギーシュの計算通りだった。

 

 「お熱いのは、お好きかな?ワルキューレ!!」

 

 さらに、出現した三体のワルキュールが、溶解し、煮え滾る青銅を掬い上げ、敵メイジ達に投擲した。

 

 

 ドジュウウゥゥゥ!!

 

 

 「ギィヤァァァ!!」

 「か、顔がぁぁぁぁ!!」

 「こぉのクソガキがぁぁぁ!!」

 

 予想外の攻撃に、痛手を受け逆上したメイジが、ギーシュに「エア・カッター」を放つ。強力な風の刃は、ワルキューレを寸断し、ギーシュに迫る。

 

 「う、うわあぁぁ!!」

 

 だが、風の刃は、風の壁に遮られ、ギーシュには、届かなかった。

 

 「あ、ありがとう、ミス・タバサ」

 

 「……敵は、まだ残っている」

 

 「あら、やるじゃない、ギーシュ。わたしたちも負けてられないわね!!」

 

 キュルケの放った極大の「フレイム・ボール」と、合わせるようにタバサが放った「エア・ストーム」が巨大な爆風を発生させ、敵メイジたちを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はは、ははは、どこまで逃げるつもりだぁ、隊長!!」

 

 巧みに闇を利用するメンヌヴィルの炎から逃れたコルベールは、港湾施設の端に設けられた物資集積場の影に隠れた。集積場の周辺は、広い空間しかなく、完全に追い込まれた状態だ。広い空間があるとはいえ、施設内は密閉空間だ。奥の手である「爆炎」を使えば、コルベール自身も死を免れない。

 

 「だが、奴さえ始末できれば……」

 

 コルベールが、死を覚悟した時、彼は隠れていた物資箱に見覚えがあることに気がついた。それは、彼自身の物資箱だった。中身は、彼の発明品の一つと、昔使っていたモノだった。

 

 「破壊だけが……火の見せ場ではない、だが!!」

 

 物資箱を開け、中身を取り出すコルベール。彼が手にしたのは、鉄で出来た長い筒状の物体だった。それは、彼の研究の成果の一つだった。箱の影から姿を見せるコルベール。それを熱感知で把握したメンヌヴィルが、火傷に引き攣る唇を歪める。

 

 「覚悟を決めたようだなぁ、隊長。あんたは、オレの憧れだ。心配しなくても、きっちりと焼き尽くしてやるよ」

 

 「メンヌヴィル、一つ聞いておきたい。隊を抜けて二十年、おまえは何をしていた?」

 

 「あん?その答えが、隊長の冥土の土産か。まあ、いいだろう。あんたに負けて二十年、オレは燃やしに燃やしてきたよ。あんたに勝つために、なんでもなぁ! 二十年前のあんたのように、男も女も子供も老人も、なんでも燃やしたよぉぉ!!」

 

 メンヌヴィルの言葉に、限りなく苦い表情を見せるコルベール。

 

 「さあ、終わりだぁぁ!! 隊長ぉぉぉぉ!!!」

 

 最大級の火球を放とうとするメンヌヴィルに向かって、コルベールは手にした鉄の筒の尻側についていた紐を引く。

 

 

 シュポッ!!

 

 

 鉄の筒から火矢が飛び出し、正面に向かって飛翔する。だが、その速度は、銃や大砲の弾よりも遅かった。

 

 「くだらん小細工だな!!……な、なにっ!?」

 

 飛来する火矢を悠々と避けるメンヌヴィル。ところが、あさっての方向に飛び去ると思われた火矢が、弧を描くように軌道を変え、彼に追いすがってきた。

 

 「ちいぃ!!」

 

 火魔法で、自身を追尾してくる火矢を薙ぎ払う。その瞬間

 

 

 ズドオォォォォン!!!

 

 

 メンヌヴィルの予想を遥かに超える大爆発が起きる。爆風に吹き飛ばされたメンヌヴィルが、なんとか起き上がると、すぐにコルベールの熱を探した。

 

 「後ろっ……!!」

 

 

 ドスッ!

 

 

 メンヌヴィルの逞しい胸板から、血塗られた銀色の刀身が、生えていた。

 

 「た、隊長……」

 

 

 ドサッ

 

 

 致命傷を負わせた、かつての部下を無表情に見下ろすコルベール。彼の右手には、メイジの証である杖ではなく、長剣が握られていた。

 

 「はっ、はは、剣も磨け……あんたの……く、口癖だった……な、ゴボッ」

 

 メンヌヴィルの口から、鮮血が溢れる。

 

 「さ、先に……逝ってる……よ、たいちょ……う…………」

 

 白炎は、永遠に消えた。

 

 「……ああ、副長。いつか必ず、わたしもそこに逝く」

 

 長剣を捨てたコルベールは、メンヌヴィルの光を失った目蓋を静かに閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 --同時刻。

 

 ロサイス西門守衛所前の戦いも、逃亡者部隊の退却によって終結した。

 

 後に「ロサイス防衛戦」と呼ばれる局地戦は、トリステイン守備隊と学徒・教職小隊の活躍によって、市内への被害を最小限に抑えた上で、勝利を実現することができた。トリステイン王国アルビオン遠征軍における唯一の実戦としてこの戦いは、戦後の軍組織の変革に一石を投じることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --ロサイス西部ブーベイルの森。

 

 西門守衛所前の戦いに敗れ、退却できた「レコン・キスタ」逃亡者部隊の残党は、数十人ほどだった。かつての隊長たちが、メンヌヴィルに焼き殺された森の広場まで、彼らは戻ってきていた。

 

 「ち、ちくしょうっ!! 何が留守部隊は腑抜け揃いだよっ!!」

 「メイジ部隊まで、あんなに揃えられちゃ、勝ち目なんかあるわけねぇ!!」

 「あ、あの盲目野郎どもさえ、現れなけりゃ……」

 

 口々に、ロサイス守備隊や白炎中隊に対する罵詈雑言を並べ立てる逃亡兵部隊の敗残兵たち。一人の兵士が、下を向きながら、荒い息をつき、これからについて陰惨な気分に陥っていた。

 

 (これから、どうすりゃいいんだ……)

 

 

 ふと、兵士があることに気付く。さっきまで、やかましいぐらいに耳に入ってきた仲間達の怨嗟の声が、急に聞こえなくなったのだ。

 

 「えっ……」

 

 兵士が、顔を上げると、森の広場に思い思いにへたり込んでいたはずの仲間たちが、一人も居らず、彼らの装備だけが脱ぎ捨てられていた。

 

 「お、おい、おまえら、なにふざけて……」

 

 

 ガササッ

 

 

 「う、うおおおっ!!」

 

 何かが、上から落ちてきた。慌てて払った兵士は、それが悪友が、いつも身に着けていた革製の剣帯ベルトだと気付いた。はっと上を向く兵士。

 そこに居たのは。

 

 

 ズギュン!ズギュン!ズギュン!

 

 

 兵士の悪友の身体に、尾の先端を突き刺した長身異形の亜人だった。空中に浮かんでいる亜人と悪友。何かが吸い取られるような音がして、悪友の身体が見る間に痩せ細り、ついには消える。ベルトだけでなく、穴あきの軍靴も、悪臭を罵りあった革鎧も、地に落ちる。

 

 亜人と目が合う。

 

 「!!!」

 

 叫び声を挙げる間も無く、兵士は亜人セルの分身体に吸収された。

 

 

 

 

 「レコン・キスタ」逃亡兵部隊三百二十四名と、メンヌヴィルが率いた「白炎中隊」十四名は、一人残らず全滅した。

 

 

 

 

 

 




第三章外伝後編をお送りしました。

ようやく、ようやく、第三章も完全に終了して、第四章に入ることができます。

ご感想、ご批評をよろしくお願いします。

次話は、「第四章 無能王 第三十二話」となります。

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