ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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お久しぶりです。なんとか、10月中に第三十四話を投稿できました。

原作では、サイトの愛機ゼロ戦が眠っていたタルブですが……


 第三十四話

 

 

 「ねえ、ジャン。今日のわたしのグロス、どうかしら?あなたの好みに合っているとうれしいのだけど」

 

 「あ、ああ、と、とても似合っていると思うよ、ミス・ツェルプストー。そ、それから、あまり胸を押し付けないでもらいたいのだが……」

 

 「もう! ジャンってば、キュルケと呼んでって、あれほど言ったのに」

 

 「……」

 

 宝探し旅行出発の朝、ルイズは、この世界には自身の想像力を超えた現象も起き得るのだということを痛感していた。セルを召喚してから、常識外の出来事にはそれなりに耐性が付いてきたと思っていたが、目の前の光景は、かなりベクトルは異なるものの彼女の予想を斜め逆さに超えていた。

 赤毛の美女が、禿げ上がった四十男の腕をかき抱き、自身の豊満な胸を押し付けていた。相応に怪しい光景ではあるが、キュルケとコルベールの取り合わせである。旅装を整えたルイズは、ギギギと油の切れたカラクリ人形のような動きで首を巡らすと、青毛の小柄な友人に救いを求めるかのように言った。

 

 「……あの、タバサ?……あれ、なに?」

 

 「……いろいろ、あった」

 

 同じく旅装のタバサが軽く目をそらしながら、呟いた。それを見かねたようにギーシュが助け舟を出す。

 

 「まあ、当然驚くだろうね。でも、ロサイスでの戦いでは、ミスタ・コルベールが僕たちを強力に指揮してくれなかったら、どうなっていたことか。その点、あの人は「炎蛇」と呼ばれるのにふさわしいメイジだよ」

 

 「その話は聞いたけど、実際いくつ離れてるのよ、あの二人。しかも、ゲルマニアの名門ツェルプストー家の令嬢と、没落したとはいえトリステイン貴族コルベール家当主の恋。今時、大衆歌劇でもやらないわよ、こんなコテコテの悲恋モノ」

 

 「で、でも、素敵だと思います! 愛情さえあれば、年齢とか外見とか種族とか、関係ないですものね!」

 

 「そ、そう、平民には、そう見えるのかしら?……え、種族?」

 

 ギーシュの言葉に、現実問題として疑問を呈するモンモランシー。だが、平民の一般的な旅装を纏ったシエスタが勢い込んで肯定的な意見を述べる。

 

 

 

 「そろそろ、出発するが、大丈夫か?」

 

 学友と教師の恋愛沙汰を話し合うルイズたちに、長身異形の亜人セルが、いつもと変わらぬ調子で話しかける。

 

 「そ、そうね、ただ、しゃべっててもしょうがないものね! じゃあセル、最初はアーネックス地方の放棄された寺院跡よ!」

 

 「承知した」

 

 そんな主従の問答を聞いたモンモランシーが、不思議そうに言った。

 

 「そういえば、移動手段はどうするの? てっきり、タバサの風竜を使うと思ったんだけど」

 

 「モンモランシーは、知らなかったっけ。彼に任せておけば問題なしよ」

 

 コルベールにひっついたままのキュルケが、ウインクしながら言った。

 

 「え、それって……」

 

 モンモランシーが言い終える前に、一体と七人と旅行のための荷物が、地上数十メイルに浮き上がる。モンモランシーとギーシュの悲鳴とともに彼らは目的地に向かって高速で飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリステインとゲルマニアの国境近くに位置するアーネックス地方には、開拓民が拓いた村々が点在していた。

 そのうちの一つ、数十年前に放棄された村の門前に一行は、到着していた。

 

 「はあ、はあ、そ、そういえば、いつだったか、ルイズ、あなた空から降ってきたことがあったわね……こういうことだったの」

 

 「ま、前に兄上直属の竜騎士に乗せてもらったことがあるけど、比較にもならないよ」

 

 「こ、これが、セルくんの飛行能力……詠唱も杖も使わず、複数の人間を「フライ」の数倍の速度で同時に飛翔させるとは」

 

 セルの飛行を初体験したモンモランシー、ギーシュ、コルベールは、その規格外の能力に驚きを禁じえなかった。一方、すでに慣れた感のあるルイズやキュルケ、シエスタは、村の様子を確認していた。タバサは、例のごとく本を読んでいた。

 

 「ふーん、数十年前に打ち捨てられた割には、雰囲気は悪くないわね」

 

 「少しだけ、タルブに似てるかもしれません。後で、村の広場で昼食にしましょう」

 

 四十軒ほどの民家が寄り集まっただけの小さな村だったようだが、昼日中の陽光に照らされたそこは、いまだ牧歌的な佇まいを残していた。

 

 「一応言っておくけど、オーク鬼の襲撃で放棄された村なんだから。油断してたら、その辺の家から、やつらが飛び出してくるかもしれなくてよ、ルイズ」

 

 「オーク鬼には、狭すぎると思うけど。まあ、いいわ。セル、亜人とか山賊とか、そういった連中の「キ」を感じる?」

 

 ルイズが、自身の背後に控える使い魔に尋ねる。セルは、左手を村に向けて意識を集中する。本来、そのような動作を必要とはしないが、それらしく見せるポーズとしての動きだった。

 

 「この村は、完全に無人だ。人間だけでなく、亜人や獣の類も存在しない」

 

 「オーク鬼にも見捨てられたってわけね。そう考えると、ちょっと切ないわね」

 

 「そうですね。誰も訪れない、忘れ去られた村……」

 

 地図を見ながら、キュルケが口を挟む。

 

 「ちょっと、いきなりしんみりしないでよ。わたしたちは、お宝探しに来たんだから。村の奥にある寺院跡に隠されているはずよ」

 

 「ちなみに、ここにはどんな財宝が眠っているの?」

 

 息を整えたモンモランシーが尋ねる。キュルケは、地図に記された注釈を見ながら答える。

 

 「えーと、寺院を管理していた司祭が、ここを放棄する前に蓄えていた資産と秘宝「ブリーシンガメル」を隠したとあるわ!」

 

 「聞いたことがあるね。確か、「炎の黄金」と呼ばれる特殊な金塊を加工して造られたマジックアイテムで、持ち主を強力に守護するとか……」

 

 「さすが、わたしのジャン! 物知りだわ!」

 

 歓声をあげたキュルケが、コルベールに抱きつく。

 

 「でも、オーク鬼からは、守護してくれなかったんですね」

 

 朗らかなシエスタの一言に、気まずそうに目をそらすルイズたち。タバサがぼそっと呟く。

 

 「……正論」

 

 「確かに、そんな秘宝なら、わざわざ放棄する寺院になんか隠さずに、何を置いても持ち出しそうだけどね……」

 

 ギーシュの指摘に、冷や汗を一滴垂らしたキュルケが、わざと大声を出して皆を鼓舞する。

 

 「と、とにかく!行ってみなきゃ始まらないわ! さあ、お宝に向かって突き進むわよ!」

 

 そう言って、キュルケは、先頭に立って打ち捨てられた村の門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、村の広場で、野営のための火を熾した一行は、焚き火を囲みながら、皆ほくほく顔だった。

 

 「いやあ、まさかこれほどのモノが見つかるとはね!」

 

 「ほんとね。わたしなんか、九割方ガラクタ見つけて終わりだと思っていたわ」

 

 ギーシュとモンモランシーは、それぞれに高価な宝石の巨大な原石や色あせたものの、かなり純度の高い金貨を手にしながら言った。

 

 「おーほほほほっ! だから、言ったじゃない! この「微熱」のキュルケに任せておきなさいって!!」

 

 これ以上ないほど、ご機嫌のキュルケが、豊満な胸をさらに反らしながら言った。その胸元には、寺院の最奥部で発見した色取り取りの宝石をあしらったネックレスが輝きを放っていた。

 

 「すごいですね! わたし、こんな金銀財宝なんて、生まれて初めて見ましたよ!」

 

 「確かに、すごいわ。このダイヤなんて、母様お気に入りの指輪についてるのと同じぐらい大きいもの」

 

 ルイズが拾い上げたダイヤモンドは、細かい研磨はされていないものの、トリスタニアの社交界でも、なかなかお目にかかれない代物だった。

 

 「こ、これが、伝説の「ブリーシンガメル」……確かにとてつもない魔力のような力を感じるが、ディテクトマジックにも反応しないとは、むむむ……」

 

 コルベールは、燃え盛る炎を象った純金製のペンダントをさんざんに弄り回しながら、唸っていた。

 

 「……」

 

 タバサは、相も変わらず読書に勤しんでいたが、その右手には、絢爛豪華な宝石を埋め込んだ腕輪が嵌められていた。心なしか、タバサもご機嫌のように見えた。

 

 

 結果として、宝探しは、大成功だった。

 

 地図に記されていた寺院跡は、すぐに見つかった。村の中では、それなりの大きさの建物だった為か、オーク鬼が住み処としていたらしく、こん棒や薄汚れた皮製の腰巻きなどが、散乱していたが、オーク鬼の姿は見られなかった。

 隠し場所だという祭壇にはチェストが設えられていたが、中身はありふれた装飾品と数枚の銅貨のみ。それ見たか、といった表情でみんなの視線がキュルケに突き刺さる。

 その時、セルが皆に祭壇から離れるように指示。ルイズたちが、距離を取ったことを確認したセルが、祭壇に左手を向ける。

 

 閃光。

 

 

 ズッ!!

 

 

 ルイズたちが、確認すると祭壇とその周囲が抉り取られたように消滅していた。その下には。

 

 「ち、地下への階段だわ!」

 

 現れた階段は、地下数十メイルに秘されていた宝物殿へと通じていたのだった。

 

 

 「地下宝物殿の伝説と開拓村の放棄の話が、どこかで組み合わさって伝わってしまったのだろう。眉唾物の話だが、かつてアーネックスの地には、トリステインからの独立を画策した古代の公国の末裔が逃れたというからね」

 

 「じゃあ、この財宝も、もしかしたら……」

 

 「可能性は、あるだろうね」

 

 「セル、すごいじゃない! よく見つけたわね」

 

 「わたしは、単に祭壇の下から、地下の空気が流れ込んできているのを感じたまでだ」

 

 

 

 地下宝物殿から運び出された財宝は、宝石をふんだんにあしらった装飾品や宝石そのものや研磨前の原石、さらに古い時代の質のいい大量の金貨など、ざっと見積もっても、その価値は数万エキューは、下らなかった。下手な領地の年間収入をも上回る額である。念のために出発前に取り決めていた分配法に従い、セルとシエスタを除く六人で等分し、一人分の十分の一の額を全員が負担してシエスタに分配した。それでも、ルイズたちは、一人頭一万エキュー以上、シエスタも一千エキューを超える臨時収入である。

 

 皆ほくほくにもなろうというものだ。

 

 「正直言って、ここまで大当たりに当たるとは思ってなかったわ!」

 

 「ミス・ツェルプストーも満足したようだし、一件目ではあるが、もう学院に戻るというのは、どうだろうか? いくらわたしやセルくんが帯同しているとはいえ、教職の身としては、あまり危険な冒険に生徒がのめり込むのは、看過できないのだが」

 

 人格者らしい発言をするコルベールだが、内心では伝説の秘宝「ブリーシンガメル」を解析したくてうずうずしていたのだった。

 

 「ジャンってば、また……でも確かに、もう十分過ぎるほど成果は挙げたし、戻りましょうか?」

 

 キュルケの言葉を聞いたシエスタがあわてて発言した。

 

 「ま、待ってください! まだ、タルブに行ってないじゃないですか!」

 

 「でも、あなたの故郷ってだけで、要は田舎でしょ?」

 

 「お、おいしい葡萄が採れて、お、おいしいワインや珍しいシチューもあります!!」

 

 「美味しいワインなら、僕としては興味あるかな。アルビオンのワインは酷かったからね」

 

 「確かにタルブの周辺は土壌が良いから、質のいい薬草も採れるのよね」

 

 ギーシュとモンモランシーの援護を受けたシエスタがさらに言い募る。

 

 「そ、それにセルさんもタルブに行きたいって言ってましたし」

 

 その言葉にルイズが反応する。

 

 「ち、ちょっと待ちなさいよ! セルがシエスタの故郷に行きたいってどういうことよ!?」

 

 「どうもこうも、セルさんがそう言ってくれたんです!!」

 

 シエスタの剣幕に一瞬怯むルイズだったが、すぐに自身の使い魔に問いただす。

 

 「どういうことなのよ、セル!?」

 

 「タルブには、使用用途が不明な物品が祀られているそうだ。あるいは、「破壊の籠手」のような未知の兵器である可能性もある」

 

 「あ、つまりそれを見に行くだけってことね。わたし、てっきり……」

 

 拍子抜けしたルイズを押し退けるようにコルベールが食い付く。

 

 「ほ、本当かね!? 「破壊の籠手」のような未知の技術の結晶がタルブに!? 実に興味深い!! キミたちにとっても、これは生きた学習となるはずだ! ぜひ行こうじゃないか!!」

 

 先ほどの発言をあっさり翻す、「炎蛇」のコルベール。

 「はあ、ジャンがそこまで言うんじゃ、しょうがないわね」

 

 ため息をついたキュルケがシエスタに頷きかける。ルイズたちのタルブ行きが決定したのだった。

 

 

 一行の背後で、セルが密かにほくそ笑む。ルイズたちは、生涯知ることはなかった。

 打ち捨てられた村での心踊る宝探しが、すべて長身異形の亜人の手のひらの上で行われていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、わたし、家に一度戻って皆さんがいらしたことを報せてきますね。祠は、この道を真っ直ぐです! 後でわたしも行きますから!」

 

 翌日、一行はセルの飛行でシエスタの故郷、タルブを訪れていた。ひなびた村に貴族が来るなど滅多に無いらしく、シエスタは歓待の準備のため、実家に小走りに戻っていった。

 

 件のモノが安置されているという祠は、すぐに見つかった。

 

 「祠というより、掘っ立て小屋ね」

 

 キュルケの言葉は、セルとコルベールを除く全員の感想だった。先頭のセルが、祠の扉を掴む。悲鳴のような音を立てて、扉が開いて行く。薄暗い祠に鎮座するモノ。それを目にしたセルの瞳が見開かれる。

 

 「これは……」

 

 全体の大きさは、四メートルほど。卵型の本体の上部は、ドーム状のキャノピーとなっており、本体から延びた四本のアームがそれぞれ推進機を保持し、同じく四本の着陸脚が本体を支えていた。本体の中程には、本来の世界であれば、知らぬ者など居ないと言われるほどの知名度を誇るロゴが鮮やかに刻まれ、その上に手書きと思われるHOPEの文字。

 

 タルブの人々から、「光の竜篭」と呼ばれているそれは、かつて世界最大の企業カプセルコーポレーションの天才科学者ブルマが開発し、セル自身も搭乗した経験を持つ。

 

 

 タイムマシンだった。

 

 

 

 

 

 




第三十四話をお送りしました。

以前にも、書きましたが、本SSに出て来るドラゴンボールのキャラはセルだけです。

今のところは……

あ、アイテムは出さないとは、言ってない(震え声)

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いします。

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