ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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お久しぶりです。第三十六話をお送りします。

改めて、ドラゴンボールがタイムトラベル物だと思うと妙な気分です。

セルが、エイジ何年に原作の世界に来たとか、すぐには思い出せませんでした。


 第三十六話

 

 

 宝探し旅行から、学院に帰還したコルベールは、残りの休暇を研究小屋横に安置したタイムマシンと分配された財宝の一つ「ブリーシンガメル」の解析に費やすことを決め、研究小屋に引き篭もった。コルベールとの二人っきりでの旅行を計画していたキュルケは、はじめ不満顔だったものの、真剣な表情で解析に取り組むコルベールをそばで見守ることにも喜びを見出していた。「仕事に熱中する真剣な男性の横顔、惚れるわ……」などと、ほざき倒し、ルイズやモンモランシーを大いに閉口させた。

 

 

 また、財宝の分配金という原資を手に入れたギーシュは、これを元手に愛するモンモランシーとの、これまた二人だけの旅行を画策していた。ある程度の年齢の貴族の子息と令嬢が、自分達だけで旅行をすれば、その仲は決定的だと、周囲には見なされる。モンモランシーを誘うタイミングを計っていたギーシュだが、運悪く彼は、マリコルヌ、ギムリ、レイナールらに計画を看破され、「祝福」という名の制裁と「幸せの分け前」というの名の奢りを強要され、分配金のほとんどを散財してしまうのだった。

 

 

 当のモンモランシーは、旅行中に採取した良質な薬草と分配金で購入した高級秘薬の合成を行い、新作の香水を完成させた。学院内とトリスタニアの一部で販売された香水は、瞬く間に人気商品となり、モンモランシーの懐をさらに潤すことになる。だが、彼女は、その売り上げの大半を実家であるモンモランシ家に仕送りした。かつては、水の精霊と王家の橋渡し役として王国内で確固たる地位を築いていたモンモランシ家も、彼女の父の代で、精霊との交渉不備による干拓事業の失敗によって、衰退の一途を辿っていた。「香水」の二つ名を持つ彼女は、そんな実家の助けになるようにと香水作成に励んでいたのだ。

 

 

 シエスタは、久しぶりに帰省した実家の家族に、セルを紹介できたことが、旅行の一番の収穫だと考えていた。最初は、セルの外見のあまりの特異さに忌避感を感じていた家族も、セルが、目の前で造った木像の素晴らしさには、驚嘆するしかなかった。父や村長などは、何時の間に購入していたのか、アンリエッタ王女や若かりし頃のマリアンヌ王妃の肖像画を持ち出し来て、セルに木像製作を懇願する始末だった。母や村長の奥さんが、般若の如く怒り狂ったものの、セルが彼女たちの木像を、若干の修正と誇張を加えた上で製作すると、その出来栄えに、ころりと機嫌を直すのだった。もちろん、シエスタ自身も、新しい木像を造って貰い、ご満悦だった。

 

 余談だが、後にタルブの村では、セル謹製の木像に着想を得た独自の木彫り細工「セル彫り」が生み出され、村の特産品として永く伝えられることになる。

 

 

 ルイズは、帰還したその日に、ロマリアの助祭枢機卿ジュリオの誘いを正式に受諾し、彼主催の茶会に出席した。ルイズ自身は、ジュリオに対する興味や関心は希薄であり、むしろ常に泰然自若の姿勢を崩さない自身の使い魔が、ジュリオに対してどう嫉妬するかを見定めるために出席したのだった。

 

 しかし、セルがそのような態度を微塵も見せるはずはなく、その点では、ルイズにとって、この茶会は失敗だった。それでも、茶会で出されたロマリアから取り寄せたという「聖茶」と祖王フォルサテも愛したという伝統的な菓子類は、ルイズの舌を大いに満足させた。

 特に問題も起こるはずもなく、茶会はつつがなく終了した。だが、茶会後、出席者が退席していく中、ジュリオは、ルイズの使い魔たる長身異形の亜人セルに近付き、声をかけた。

 

 「できれば、君にも、ロマリア自慢の「聖茶」と「聖菓」を味わってもらいたかったんだけどね、「ガンダールヴ」?」

 

 ジュリオは、その美貌に似つかわしい一種、蠱惑的な笑みを浮かべていた。無論、セルが動揺などするはずもなく。

 

 「あいにくだが、わたしは、茶も菓子も嗜まないのでな、「ヴィンダールヴ」よ」

 

 「!」

 

 ジュリオの「月目」が、驚きに見開かれる。

 

 「……どうして、わかったのかな?使い魔同士の共鳴とか共振とか、そういう類かな?」

 

 「おまえは、茶会の最中も右手の手袋をはずさなかった」

 

 「たったそれだけで? どうやら、僕が考えていたより、はるかに切れるみたいだね、トリステインの使い魔は」

 

 最年少の枢機卿の表情から笑みが消え、警戒の色が強く滲み出る。

 

 「おまえが、ここに来た理由は、ルイズか?」

 

 「もちろん、そうさ。ぼくたちロマリアは、建国からずっと、「始祖」の痕跡を追ってきた。ブリミル教の総本山だからってだけじゃない。いつか訪れるであろう「災厄」から、ハルケギニアを守るためにね。これは、今きみだけに言うのだけど、「災厄」は、今この大陸に近付きつつあるのさ。それを防ぐためには、すべての「担い手」と「使い魔」を一堂に集める必要があるんだ。いずれ、彼女にもお願いしなければならないけど、将を射んと欲すれば、まず馬から、ってやつさ」

 

 今度は、年相応の不敵な笑みを浮かべるジュリオ。最初の蠱惑的な笑みよりも、なぜか彼には、似つかわしく見えた。

 

 「……」

 

 

 シュンッ

 

 

 「! き、消えた!?」

 

 「二つ、言っておく」

 

 ジュリオの目の前から文字通りに消えたセルは、彼の背後に高速移動すると、ジュリオの肩口に顔を近づけ、いつもの良い声を一段階低くして、言った。その余りの威圧感にジュリオは、念動力を受けたわけでもないのに、身体を動かすことができなかった。

 

 「わたしにとって、この世界で価値あるモノは、唯一つ、ルイズだけだ。他は、何がどうなろうと知ったことではない」

 

 

 ポンッ

 

 

 セルは、右手をジュリオの右肩に軽く置いた。ジュリオは、まるで巨竜の爪に掴まれたかのような錯覚を受けた。

 

 「ぐっ!」

 

 「おまえとおまえの主が、何を考えているかなど、どうでもいい。だが、ルイズを害するようなことがあれば……ロマリアは、この世から消える」

 

 すでに退室した主を追って、扉に向かうセル。背後を振り返らずに言った。

 

 「ゆめゆめ、忘れるな、「ヴィンダールヴ」よ」

 

 

 バタン

 

 

 セルが、退出しても、ジュリオはしばらく身動き一つできなかった。やがて、大きく息を吐くとその場にへたり込んでしまう。

 

 

 「……まず馬から、だって? 冗談じゃない。あれを呼び込むなんて、「災厄」を二乗にするようなものじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズたちが宝探しから帰還して、三日後、タバサは自身の使い魔である風竜シルフィードの背に跨り、トリスタニア随一の歓楽街チクトンネ街を訪れていた。

 

 目的は、北花壇騎士団の連絡員と落ち合うためであった。学院に戻ったタバサの元に、北花壇騎士団からの招集状が齎されたのが昨日である。だが、その内容は、常とは違い、ガリア王都リュティスではなく、トリステイン王都トリスタニアが、集合場所として記されていた。

 

 

 「これはこれは……貴族のご令嬢が、当店にお越しになるとは。どのような用事かは、わかりかねるが、悪いことは言わない。すぐに帰ったほうがいい」

 

 指定された酒場は、チクトンネ街では、それなりに上等な造りの店だった。それでも、タバサのような見た目、年端の行かぬ貴族の少女が、夜半に訪れる場所ではない。カウンター席に陣取ったタバサに対してグラスを磨いていた店主が、やんわりと帰宅を促す。

 

 「……」

 

 反応を示さないタバサに、再度警告を発しようとする店主を一人の女性が止める。

 

 「遅れてしまったかしら? ああ、わたしの連れなのでお構いなく」

 

 黒いローブを纏った女性が、その身から発する只ならぬ雰囲気は、長くチクトンネ街で商売をしてきた店主の警戒心を刺激するに十分だった。触らぬ神に祟りなし、とカウンターの奥に引っ込む店主。

 

 「お初にお目にかかるわね、北花壇騎士タバサ、あるいは「七号」と呼んだ方が良いのかしら?」

 

 「……どっちでも」

 

 そっけないタバサの返答に、肩を竦めた女性は、目深にかぶっていたフードをずらす。二十台前半の鋭利な美貌を備えた彼女の額には、ルーン文字が刻まれている。ガリア王ジョゼフの使い魔にして、「神の頭脳」ミョズニトニルン、シェフィールドであった。

 

 「では、単刀直入に話すわ。我が主は、世界を切り取れるほどの力を組上げようとされているわ。でも、実際に世界を相手取る前に、その力を試してみたいと仰せなの。強大な力を試す相手、当然その者も強大な力を持っていなければならない。あなたには、その者の捕獲をお願いするわ」

 

 「強大な力を持つ者? まさか……」

 

 形の整った唇を歪めたシェフィールドが、一枚の紙をタバサに差し出す。紙に記されていた少女の肖像と名前を確認したタバサの瞳がわずかに見開かれる。

 

 「……ルイズ」

 

 「任務達成の暁には、相応の報酬が支払われるわ。あなたにとって、何よりも欲しいもの……母親の失われた心を取り戻すことができる秘薬よ」

 

 「!!」

 

 その言葉に、弾かれたかのように顔を上げるタバサ。

 

 この女は、そしてその背後にいる伯父王は、「母」を救いたければ、「友」を裏切れ、という。紙を握りつぶしたタバサは、明らかな殺意を込めた目で、シェフィールドを見据える。

 

 「ふふ、いい目だわ。さすがは、北花壇騎士団にあって恐れられる「雪風」のタバサ。ところで、標的には亜人の使い魔がついているはずだけど、その使い魔の身体のどこかに、わたしの額のそれと似たようなルーンを見たことはあるかしら?」

 

 「……確か、左手の甲に」

 

 タバサの言葉に、さらに笑みを深めるシェフィールド。

 

 「ふふ、そう、左手、ね。「ガンダールヴ」とは、おあつらえ向きじゃない」

 

 「彼は……危険」

 

 母を救う秘薬という餌をぶら下げられた以上、タバサには、もはや否応はない。だが、ルイズを害しようとすれば、必ず、あの長身異形の亜人と対することになる。「キ」と呼ばれる正体不明の力を操る彼と正面からぶつかれば、勝てない。戦士として、いくつもの修羅場を潜ったタバサの勘が、そう告げていた。

 

 

 「心配は、いらないわ。その使い魔の相手は、わたしがしてあげる。あなたは、ただ友人を捕らえればいいのよ。そうすれば、愛する母親を救うことが出来るのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ある日の深夜、トリステイン魔法学院を構成する火の塔の横にひっそりと建つコルベールの研究小屋。

 

 その小屋の裏手に鎮座する異質な存在、タイムマシン。周辺には、コルベールが、この貴重極まりない研究対象を守る為に、ロサイスでも活躍した警戒装置「しらせるくん」の改良版、「しらせるくんグレート」を隙間無く配置していた。「しらせるくん」は、メイジとその魔法しか探知できなかったが、「グレート」は、ディテクトマジックだけでなく、コルベールが錬金で作成した極細の鋼線も張り巡らされており、その鋼線に触れれば、メイジ以外でも容赦なく警報の対象となる。

 

 しかし、コルベール曰く、鉄壁の警備体制も、長身異形の亜人の前では、何の役にも立たない。

 

 

 カチッ

 

 グ……グィイイン

 

 

 自らが、かけていたバリヤーを解除したセルは、キャノピー開放スイッチを押し、コックピットに乗り込む。セルの長身には、狭すぎる座席だが、身を屈め、マシンの計器類を確認する。

 

 「エネルギー残量は、ほぼゼロか。跳躍した時間軸は、エイジ763。わたしがトランクスを殺し、タイムマシンを奪い行った跳躍の到着先と同じ。どうやら、シエスタの曽祖父は、わたしが成熟のため地下に潜った後にマシンを発見し、偶然跳躍してしまったということか……」

 

 セルは、跳躍先の液晶パネルも確認するが、本来であればエイジ暦が表示されるはずが、完全に文字化けを起こしており、判読は不可能だった。セルといえど、超科学の産物であるタイムマシンの構造や原理を完全に理解しているわけではない。それでも、各箇所の調査によって、このタイムマシンは、いくつかの重要部品が欠けていることが判ったのだった。

 

 「跳躍の衝撃で脱落したか、あるいは……」

 

 

 何にせよ、このタイムマシンの再起動、再跳躍は、現時点では極めて困難である、とセルは結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三十六話をお送りしました。

ロマリアもガリアもエルフも、セルの一撃で消滅させれば、一番楽な展開なんですが……

すいません、少し疲れているのか、超展開を夢想してしまいました……(ゴロ寝でおやつをパクつきながら)

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いします。

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