ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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お久しぶりです。第四十一話をお送りします。

今話が、2014年最後の更新になると思います。


 第四十一話

 

 

 ――ガリア王国首都リュティス郊外ヴェルサルテイル宮殿内プチ・トロワ。

 

 「旬の極楽鳥の卵は、やっぱり美味だったなぁ。しかも、焼いた火竜の肉があんなに芳醇で濃厚な味だったなんて……なあ、セル?」

 

 「美食に耽るのも、王侯貴族の嗜みとはいえ、限度があるぞ、イザベラ。ただでさえ、きみは平時の食事内容に偏りが視られる」

 

 「う、うるさい! 余計なお世話だ!」

 

 ガリア王国第一王女イザベラと彼女の使い魔、長身異形の亜人セルは、諸国漫遊の旅から一ヶ月ぶりに小宮殿プチ・トロワに帰還していた。

 

 アルデラ地方エギンハイム村を皮切りに、イザベラは「北花壇騎士ジャンヌ」を名乗り、長身異形の亜人をお供に北花壇警護騎士団に寄せられた種々の依頼をこなしていた。さらに各地方領の様々な揉め事に、頼まれてもいないのに首を突っ込んだ。

 

 時には、辺境領の男爵が、うら若い娘を略奪していた村を救い、逆上してイザベラに襲い掛かってきた男爵をセルの餌にしてやった。

 時には、軍港都市の基地に降って湧いた不可思議な行方不明事件を解決し、罪悪感から断罪を求める王弟派のシスターを自ら処断した。

 時には、歓楽街のイカサマカジノに潜入し、高等幻獣を悪用した支配人を、死んだ方がマシ級な目に遭わせた。二枚目のディーラーに懇願されたので、命だけは、助けてやった。

 そして、旬の極楽鳥の卵を採りに火竜山脈へ向かい、たまたま火口から現れた馬鹿デカい火竜とそれに追随するように襲い掛かってきた竜種の群れを返り討ちにして、ものは試しと火竜の肉を味わってみたり。

 

 一ヶ月の漫遊の結果、ガリアの各地方では、「謎の花壇騎士ジャンヌと謎の亜人」という組み合わせが様々なゴタゴタを、ある時は華麗に、ある時は強硬に、またある時は一切の容赦なしで解決して廻っていると、噂が広まっていたのだった。

 

 自身の女官の一人から、それを聞いたイザベラは、有頂天になった。さも興味ない風を装いながら、女官に「謎の騎士ジャンヌ」について、問いただす。女官が、騎士の容姿や言動を褒めちぎると、さらにご機嫌となり、こうのたまった。

 

 「へえ、そんな殊勝な心構えを持った凄腕の「美少女」騎士が我がガリアにも居たとはねぇ! それは、ぜひとも、一度会ってみたいもんだね!」

 

 高貴な身分を隠した王族が、正体を明かさぬままに人々を救う冒険譚。正に彼女が、幼い頃から憧れ続けた「大アンリのガリア周遊記」そのものであった。

 

 「え? あ、あの、それって姫さまの事じゃ……」

 

 王女の言葉に呆気に取られた女官が、「ジャンヌ」の正体について、イザベラに質問しようとしたが、彼女の使い魔である亜人セルに制止された。

 

 「東方のことわざには、「好奇心、猫を殺す」とある……おまえは、猫になりたいのか?」

 

 二メイルを超える長身と筋骨隆々の体躯を誇る亜人に、凄みのある声色で迫られれば、女官はただ首を左右に振り続ける以外にない。イザベラにとっては、「正体不明」の騎士が、この世に蔓延る悪を成敗する、という勧善懲悪の筋書きこそが、何より重要なのだっだ。

 例え、洩れ伝わる「謎の亜人」の外見的特徴が、セルとピッタリ一致しても、今現在のイザベラの出で立ちが、「謎の騎士ジャンヌ」のそれと、寸分違わず同じであったとしても、「花壇騎士ジャンヌと長身異形の亜人」の正体は、万人にとって謎でなければならないのだ。

 

 少なくとも、イザベラの中では。

 

 「そうだ! シャルロッ、じゃなかった、タバサの奴にも、教えてやらなきゃね! おまえなんかよりも、もっと凄い「美少女」騎士がいるんだ、ってことを!」

 

 ここ最近、ご無沙汰になっていた小生意気な従妹にも、「謎の騎士ジャンヌ」の噂について問いたださなければ。イザベラは、女官に北花壇騎士タバサの呼び出しを命じた。

 

 (あいつ、昔っから「イーヴァルディの勇者」とか、「大アンリのドラゴンスレイヤー」とかの勇者ものが好きだったからな。意外に、ジャンヌの噂についても、色々知ってるかもしれない。それなら、あいつの前でジャンヌの正体をぶちまけてやれば……)

 

 いつも取り澄ました顔の従妹が驚く場面を想像したイザベラは、いたずらっぽい表情を浮かべ、微笑んだ。だが、今の彼女からは、セルを召喚する前に見られた陰湿さは、全く感じられなかった。

 

 「そ、それが、シャルロット様、あ、いえ、タバサ様について、騎士団連合本営から、通達が届いておりまして……」

 

 「本営から、タバサに? あいつ指定の任務でも舞い込んだのか?」

 

 女官から、通達状を受け取ったイザベラは、封を切り、中の書状を取り出す。以前ならば、自分の女官がタバサの名を、本名であるシャルロットと呼ぼうものなら、途端にヒステリーを起こしていたイザベラだが、今は気にも留めなかった。女官は、そんなイザベラを不思議そうに見ていた。

 

 「・・・・・・! なっ!?」

 

 書状を読み進めるイザベラの表情が一変した。書状を握る手が小刻みに震えている。

 

 「どうした、イザベラ?」

 

 

 ビリッ!

 

 

 イザベラは、使い魔の問いに答える代わりに、書状を力任せに引き裂いた。

 

 「ふ、ふ、ふざけんなぁぁ!!」

 

 「ひ、姫さま!?」

 

 怒声を上げたイザベラは、半分になった書状を地面に叩きつけ、さらに足で踏みにじった。

 

 書状には、『北花壇騎士タバサ、上の者、王命に背いた罪により、騎士身分及びすべての権利を剥奪の上、アーハンブラ城に幽閉の事。後日、処断する旨、ここに通達する』と記されていた。

 

 北花壇警護騎士団の団長であるイザベラにとっては、寝耳に水である。一ヶ月前、セルに命じて、「皆半殺し」にした有象無象の北花壇騎士どもならともかく、よりによって彼女の従妹であるタバサを、イザベラにも無断で幽閉の上、処断するというのである。イザベラ自身にも、よくわからない怒りが、彼女の心をふつふつと満たしていた。気付いた時には、イザベラは自身の使い魔である亜人セルに鋭く命令を発していた。

 

 「セル! 今すぐ!アーハンブラ城に行くぞっ!!」

 

 「ほう、アーハンブラ城か……承知した、我が主よ」

 

 

 男装の麗人姿のまま、イザベラは、セルとともにアーハンブラ城へ飛翔した。

 

 城に到着し、タバサと面会して、どうするのか?イザベラの心中は、定まっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ガリア王国領東端アーハンブラ城。

 

 千年以上前に、エルフ族によって建造された城は、ハルケギニア大陸各国の建築様式とは、異なる外見を持っていた。その城壁は、見事な幾何学模様の細かい彫刻に彩られていた。

 聖地回復連合軍が激戦の末、エルフから奪還してから数百年。軍事上の拠点としては、小規模であったため、放棄されて久しかった。

 

 

 

 

 「やれやれ、こんな辺境くんだりまで、動員されての仕事が、落ちぶれた王族連中の護衛かよ」

 

 半壊した正面門前で、歩哨に立っていた兵士が、愚痴をこぼす。

 

 「王家から追放したってんなら、適当な地下牢ででも、始末しちまえばいいのにな」

 

 同僚の兵士が、あくびをかみ殺しながら、相槌を打つ。彼らは、広大なガリア領の中でも、東部に位置するサルバードル地方領から、派遣された警備兵たちだった。

 

 「……ここだけの話だがよ。首都周辺じゃ、未だに王弟派が息を潜めてるってんで、わざわざこんな端っこの廃城を選んだらしいぜ」

 

 仲間内で事情通を自称する兵士が、声を潜めながら言った。

 

 「けっ! 王位継承のゴタゴタから三年も経つってのに無能王陛下は、ま~だ王弟派なんかにおびえてんのかよ」

 

 

 

 「貴様ら! 警備任務すら、ろくにこなせないくせに王権に対する批判だけは、一人前だな!」

 

 城内から、マントを纏い、杖を携えた一人の貴族が現れ、兵士たちを叱責した。彼は、警備隊を率いるミスコール男爵である。内心では、彼自身も今回の任務には、不満を抱いてた。汚れ仕事である事と、現場の指揮権が自分にではなく、王族を直接監視している他国出身のメイジに与えられていたからだった。王直属のシェフィールド護王騎士団に所属しているという若造は、トリステイン風の装束を纏い、栄えあるガリア王国男爵である自分に命令してきたのだった。

 

 「原隊に戻ったら、覚悟しておけ! 貴様ら、全員……」

 

 

 スタタッ!

 

 

 男爵が言い終える前に、アーハンブラ城の門前に上空から、一人の少女と一体の亜人が降り立った。男装の麗人姿の少女と、二メイルを超える異形の亜人の取り合わせだった。

 

 「な、なんだ!? 貴様ら、さては、王弟……」

 

 「セル、やれ」

 

 静かだが、怒りが込められた声で、イザベラは命じた。

 

 「承知した」

 

 

 グンッ! ギュドッ! グゴンッ! ドギャッ!

 

 

 セルは、念動力を発動し、ミスコールをはじめとする警備隊の面々を、幾何学模様があしらわれた城壁に、高速で叩き付けた。彼らは、うめき声一つたてることなく、糸が切れた人形のように力を失い、その場に倒れ伏した。イザベラは、彼らには見向きもせずに城内へ入った。セルが背後に控えながら、続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「きみの処遇だが、二日後に首都から、ある薬が届く。きみの母上が飲んだモノと同じ薬だ」

 

 アーハンブラ城の最上階に位置する城主専用の寝室で、ワルドは、ベッドで身を起こしたタバサに彼女の運命を告げた。水魔法による治療が施されたのか、タバサの身体には、目立った傷は見られなかった。だが、当然ながら、彼女は丸腰だった。

 

 「……母さまは、どこ?」

 

 それでも表面上は、いつもと変わらないタバサが、質問した。

 

 「隣の寝室だ。ひどく取り乱されていたので、沈静剤を投与した。今は眠っているはずだ」

 

 それを聞いたタバサは、ベッドを降り、隣室に向かう。隣の部屋のベッドには、やや苦しげな表情の旧オルレアン公夫人、タバサの母親が眠っていた。母のそばに寄り添い、その痩せ衰えた手を握り締めるタバサ。

 

 「薬の効果によって、きみの心は喪われるが母親共々、命は保障するとの御沙汰だ。残りの二日間、何か望みがあれば、可能な限り便宜を図ろう」

 

 隣室の入口に立ったワルドが、同情気味に言った。

 

 「母と二人だけにして」

 

 きっぱりとした口調でタバサは、自身の望みを口にした。

 

 「……わかった」

 

 ワルドは、静かに部屋を辞した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これは……」

 

 タバサは、母の枕元に一冊の本が置かれていたことに気付いた。

 

 「……『イーヴァルディの勇者』」

 

 それは、ハルケギニアにあって、最もポピュラーな冒険譚であった。平民出身の勇者イーヴァルディが、始祖ブリミルの加護を得て、剣や槍を巧みに操り、様々な悪を討伐するという筋書きである。ポピュラーであるがゆえに、各国、各地方によって膨大なバリエーションが存在していた。主人公たるイーヴァルディが平民であるため、平民達に非常に人気が高い。その反面、貴族達にはありえない御伽噺である、とみなされていた。読書家のタバサにとって、両親から最初に与えられた本であり、彼女の原点でもあった。

 

 本を手に取ったタバサは、静かにページを開くと、眠り続ける母に優しく、言った。

 

 「母さま、シャルロットがご本を読んであげますね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王族としての苦悩と責務からは、解放される。そう、考えれば、まだ……」

 

 扉の前に立った、ワルドは一人呟いた。さらに深い溜め息をつくワルドだが、何かに感づいたのか、レイピア状の杖を抜き放ち、最上階へつながる廊下の先に差し向ける。

 

 (警備兵どもには、こちらから、命じない限り、最上階には近付くなと言い含めたはずだが……)

 

 風のスクウェアメイジであるワルドは、建物や洞窟内などの空気の流れに非常に敏感である。その感覚が、彼に最上階へ続く階段を登る何者かの存在を教えていた。

 

 最上階に姿を見せたのは、一人の少女と一体の亜人だった。鋭い誰何の声を挙げようとするワルド。

 

 「何者だ! ここは、ぐっ!? がはっ!」

 

 突如、ワルドの全身が金縛りに遭ったように硬直した。さらに姿の見えない何かが、首を絞めているかのように、まともに呼吸ができない。

 

 

 グンッ!

 

 

 ワルドの肉体は、宙を浮き、亜人の下に引き寄せられる。

 

 「我が主の御前だ。控えろ、下郎」

 

 亜人セルは、低いが良い声で言い放った。

 

 「……セル、部屋には誰も通すな」

 

 「承知した」

 

 少女イザベラは、ワルドなど、最初からいなかったように、自身の使い魔に命じると、城主用寝室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「イーヴァルディは、くじけませんでした……」

 

 タバサは、かつて、自身の名を捨てた時、たった一人でも戦い、必ず目的を果たしてみせる、そう決意してここまで来たのだった。

 

 だが、戦いに敗れ、杖を失い、使い魔からも引き離され、囚われの身となった今、ずっと閉じ込めいていた感情が湧き上がるのを押さえることができなかった。

 

 (怖い……)

 

 

 ガチャ

 

 

 「!」

 

 その時、扉が開き、一人の少女が部屋に入ってきた。最初、タバサは、それが誰か分からなかった。だが、よく見ると、それは男装の麗人風の装束を纏った従姉、イザベラだった。

 

 イザベラは、部屋内にタバサだけでなく、彼女の母オルレアン公夫人も居る事に、やや驚いたものの、そのまま部屋内を進みタバサの前までやってきた。

 

 「おまえ、なにしてるんだ? お父様の命令に背いたそうじゃないか。わたしに恥をかかせやがって、何様のつもりだ?」

 

 「……」

 

 タバサは、顔をそらし、何も答えなかった。癇に障ったイザベラは、タバサの手から本を取り上げた。

 

 「わたしが聞いてるんだ! 無視してんじゃないよ!こんな本を……」

 

 ふと、イザベラは取り上げた本の表紙に目を留める。

 

 「ふん、「イーヴァルディの勇者」か。おまえ、まだこんな餓鬼向けの御伽噺を読んでたのか? 昔っから、変わらないな。」

 

 十年以上前、従姉妹同士だったイザベラとタバサは、小宮殿プチトロワやオルレアン邸で、共に過ごすことが多かった。その際、幼かったタバサは、二才年上の従姉であるイザベラに、本読みをねだった。

 

 「わたしが読んでやらないと、いつまでも泣き喚きやがって……」

 

 生まれてすぐ、ガリア王妃たる母を失ったイザベラは、自身の子にほとんど関心を払わない父王ジョゼフよりも、叔父であるシャルルの一家と幼少期を過ごすことが多かった。誰よりも聡明で優しい叔父、手作りの料理をいつも振舞ってくれた美しい叔母、そして唯一対等な相手として、自分と触れ合ってくれた年下の従妹。

 望めば、すべてを与えてくれた父が、ただ一つイザベラに与えてくれなかった家族としての愛情。それを示してくれたのはオルレアン公一家だった。だが、同時にイザベラは、幸せなオルレアン公一家に強い劣等感を持っていた。自分が持たないモノ、すべてを持ち合わせていたタバサにも。

 

 「……」

 

 三年前オルレアン公が死に、タバサが王家から廃された時、イザベラは従妹に対して、初めて暗い優越感を感じることができた。父が、叔父を暗殺したという噂も、あえて黙殺してきた。だが、イザベラは、今改めて、自身と従妹の状況を客観的に振り返った。

 

 優しかった叔父は、父によって暗殺され、反乱を企てた大罪人として、不名誉印を刻まれて葬られた。

 美しかった叔母は、父によって毒をあおる事を強要され、心を喪った。今では、娘の顔すら判別できない。

 小さかった従妹は、父によって王家から、廃され、自分の家臣に格下げされた。自分は、そんな従妹を危険な任務に駆り立てた。

 

 そして今、その従妹も父によって、処断されようとしていた。

 

 イザベラは、愕然とした。

 

 (え、うそ……なんで……こんな、こんなことに……)

 

 彼女の心に、父によって、いや、父と自分によって行われた所業に対する罪悪感と悔恨の念が押し寄せていた。

 

 

 ポタ、ポタ

 

 

 「!」

 

 「なんで?……なんで、こんなことになっちゃったんだろう……」

 

 タバサは、イザベラが本を持ったまま、両目から涙を溢れさせていることに気付いた。

 

 「わ、わたしは! わたしは、こんなこと望んでなんかいなかったのに! なんで……うっ、うっ、うぐっ、ううう」

 

 「……」

 

 イザベラの涙を見、悔恨の言葉を聞いたタバサは、冷え切っていたはずの従姉に対する感情が甦るのを感じた。

 

 王家所有の森を散策中に迷子になった自分を、誰よりも懸命に探してくれた。

 母に怒られた自分を、不器用ながらも慰めてくれた。

 本読みをせがんだ時も、なんだかんだ言いながら、最後には、必ず読んでくれた。

 

 意地悪だけど、優しい従姉。

 

 

 「……イザベラ、姉さま」

 

 タバサは躊躇いがちな声色で、年上の従姉姫に声をかけた。その声に、弾かれたかの様に涙に濡れた顔を上げたイザベラが、応える。

 

 「エ、エレーヌ! わ、わたしを!」

 

 かつて、イザベラは、タバサを彼女のミドルネームである「エレーヌ」と呼んでいた。紆余曲折を経て、三年振りに心を通わせた二人の王女が寄り添い合おうとした。

 

 その瞬間。

 

 

 バガンッ!

 

 

 「下がれ、イザベラ!」

 

 「ちょっ! 何しやがる、セル!?」

 

 扉を吹き飛ばしながら、部屋に飛び込んできたセルが、念動力によってイザベラを自身の下に引き寄せる。

 

 間髪入れず。

 

 

 ヴンッ!

 

 

 突如、寝室内に複数の人間が出現した。それは、正に瞬間的に現れたとしか、表現できなかった。その内の一人、桃色の髪をなびかせた小柄な少女が叫んだ。

 

 「タバサ! 助けに来たわ!!」

 

 「ルイズ? それに……」

 

 「きゅいきゅい! お姉さま!」

 

 アーハンブラ城の城主用寝室に現れたのは、六人の男女と一体の亜人だった。

 

 セルに支えられながら、イザベラが誰何の声を挙げる。

 

 「お、おまえら、どこから降って湧きやがった!?」

 

 おんぶのようにセルの背中にしがみ付いたままのルイズが、イザベラを指差しながら、吼えた。

 

 「タバサは返してもらうわ!!」

 

 「な、なんだと!? わたしがエレーヌを渡すとで……え?」

 

 「もうこれ以上、タバサにひどいことはさせな……え?」

 

 イザベラとルイズ、二人は改めてお互いのそばにいる長身異形の亜人の姿に目を引き寄せられる。

 

 そして、ほぼ同時に呟いた。

 

 

 「「……せ、セル?」」

 

 

 

 今ここに、二体の人造人間使い魔とその主たちが、邂逅を果たした。

 

 

 

 




第四十一話をお送りしました。

とうとう、本編にイザベラ様が登場しました。

ルイズ側を食ってしまいそうなのが、心配ですが……

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いいたします。


少々、早いかと思いますが、皆様、良いお年を。

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