ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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お久しぶりです。第四章の最終話、第四十五話をお送りします。


 第四十五話

 

 

 ガリア王国首都リュティスは、騒然とした様相を呈し始めていた。

 

 今は亡き王弟オルレアン公シャルルを崇拝する一部の花壇騎士たちによるヴェルサルテイル宮殿内にて開催されていた御前会議への襲撃。「無能王」と呼ばれていたガリア王ジョゼフ一世は、不可思議な魔法を発動させ、それによって、襲撃部隊を御前会議の出席者もろとも、生き埋めにしてしまった。その上、反乱が起きた宮殿と首都を尻目に怪鳥型ガーゴイルに飛び乗ると、何処かへと出奔してしまう。

 

 御前会議には、実際にガリアを差配する重臣の大半が出席しており、そのほとんどが瓦礫の下敷きとなってしまった。救出作業すら、ままならないところにさらに急報がもたらされる。王弟派の花壇騎士団と、それに同調した反ジョゼフ派の軍部隊、さらに襲撃の情報を得ていた一部の地方軍閥の戦力が、リュティスにて蜂起したのだ。指揮中枢を失った正規軍は、誰が敵で、誰が味方すらも判らず、まともな応戦すらできない有様だった。

 

 唯一生き残った、御前会議の進行役バリベリニ儀典長も、残りの廷臣たちと共に右往左往するばかり。

 

 

 

 

 

 「ちっ! 大陸最大の王国たる我がガリアの中枢を担う連中が、この体たらくなんてね!」

 

 バリベリニから、事のあらましを聞いたガリア王国第一王女イザベラが吐き捨てるように言った。

 

 だが、イザベラは、内心では父王の出奔に安堵を感じていた。父と向き合うと決心したはずのイザベラだったが、いざ、父の奇行の結果を目の前にすると、その決心が大きく揺らいでしまった。自身の背後に控える長身異形の亜人セルに一言命じれば、たちどころに父王の後を追うことが出来るはずなのに。イザベラの苛立ちは、半ば以上宮廷ではなく、自身の不甲斐無さに向けられていた。

 

 そんなイザベラに対して、使い魔たるセルは、いつもどおりの声色で言った。

 

 「イザベラよ、物事は常に単純だ。ジョゼフ一世を追う前に、いずれきみのモノとなる、このリュティスを荒らす不逞の輩どもを蹴散らし、リュティスを守る。そして、その後にジョゼフを追う。何も悩む必要などない。きみはただ、わたしに命じればいい」

 

 「セル、わ、わたしは……」

 

 使い魔の何気ない言葉が、自身の心に染み渡ることを感じたイザベラは、うつむきながら涙をこらえた。一瞬の後、顔を上げたイザベラは、いつもの高慢とした表情で言った。

 

 「ふん、使い魔風情が、偉そうな事を言うな! わたしが、わたしのモノを守る。そんなの当たり前だよ!」

 

 「それでこそ、我が主だ。そんなきみにこれを……」

 

 セルが、イザベラに手渡したのは、一見何の変哲もない一本の短剣だった。

 

 「こんな安っぽいナイフがなん……!! な、なんだこれ!?」

 

 イザベラが短剣を握ると、その短い刀身が、青白く輝き始めた。

 

 「そのナイフには、わたしの「気」が込められている。使い魔と主の同調によって、きみの力のほんの一端を引き出してくれるだろう」

 

 かつて、本体たるトリステインのセルが、ルイズから買い与えられた投げナイフ五本の内の一本である。分身体セルの「気」が込められており、主従の契約の繋がりを利用することで、イザベラが秘めていた「始祖の系譜」の力を半強制的に覚醒させるものだった。ある程度、自力での覚醒を果たしつつあったイザベラをさらに高めるための一手である。

 

 実際には、ドットランクに過ぎなかったイザベラの魔力は、変換されたセルの「気」を取り込む事で、スクウェア・クラスすらも、はるかに凌駕したランクへと到達していた。

 

 「自ら陣頭指揮に立つ、凛々しくも見目麗しい王女の姿は、有象無象の者どもを大いに魅了するだろう。それは、新たな支配者の誕生を十二分に印象づけるのではないかな?」

 

 「た、確かにこれなら、わたしだって!……ってか、セル? な~んか、わたし、おまえの美辞麗句にうまくのせられている気がするんだけど?」

 

 「滅相もない、我が主よ」

 

 ジト目の王女に対して、優雅に礼をしてみせる長身異形の亜人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 「セル、おまえには、外の連中の掃除をまかせる。わたしのリュティスを傷付けるバカどもにキツイ仕置きをしてやんな!……ただし、殺すなよ? おまえなら、それぐらい楽勝だろう?」

 

 「承知した」

 

 セルは、天井を失った謁見の間を飛翔して、リュティス市内へ向かった。それを見送ったイザベラは、深呼吸を一つすると、自身の杖とセルから渡された短剣を両手に構え、意識を集中させた。短剣の青白い輝きが、イザベラの全身を覆った。

 

 (ありがとう、セル……おまえは、やっぱり最高の使い魔だよ)

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 謁見の間を埋め尽くしていた瓦礫の山が、ひとりでに宙に浮いた。

 

 「な、なんと!? こんな念力があ、あるはずが……」

 

 多くの者が生き埋めになっている為、攻撃魔法で瓦礫を破壊するわけにもいかず、人力やガーゴイルによる救出を試みていたバリベリニたちは、驚愕と共に、王女の声を聞いた。それは、宮廷の人間たちが今まで聴いたことがないほどの威厳と決意に満ちた王女の言葉だった。

 

 

 「皆、そのままで聞け! 今、我がリュティスは危機を迎えている! 本来であれば、先頭に立って、この国難に対処すべき父王ジョゼフ一世は、この場にはいない! よって、異例の事ではあるが、このわたし、ガリア王国第一王女イザベラ・ド・ガリアが、王権代行者たる「副女王」となり、事態に対処する! よいな!!」

 

 イザベラは、宣言とともに空中に浮かべていた無数の瓦礫を、これまた無数の竜巻を生み出し、微塵に粉砕してみせた。廷臣たちを前にしたイザベラの全身は、青白い魔力の奔流に包まれており、その決然とした表情と相俟って、冒すべからざる神々しさすらも醸し出していた。

 

 

 (……そ、蒼光を纏う者だと? ま、まさか!?)

 

 

 ロマリア宗教庁よりの密命を受けて、ガリアに派遣された助祭枢機卿バリベリニが、予想外の衝撃を受けるなか、謁見の間に居た多くの者たちが、イザベラの前にひとり、またひとりと跪いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェルサルテイル宮殿を飛び出したセルは、上空数百メイルまで上昇すると、大陸最大の都市リュティスを睥睨した。眼下では、首都の玄関となる各大門の周辺や、軍部の駐屯地などで、いくつもの火の手が上がり、鬨の声も聞こえて来ていた。さらに首都郊外には、千人を超える軍部隊が複数待機している様子が見て取れた。遥か西方に位置するサン・マロンに視線を飛ばしたセルが笑みとともに言った。

 

 「この状況を、ジョゼフ一世は自ら演出した、ということか……フフフ、大した「無能王」だ。わたしとイザベラにとっては、好都合だがな」

 

 セルは、大きく息を吸い込み、身体を反らした。そして、一瞬の溜めの後。

 

 

 『聞けぃ!! リュティスに生きるすべての者どもよっ!! わたしの名はセル!! 神聖にして偉大なる王権代行者イザベラ副女王殿下の使い魔であるっ!! 今この時を以って、このリュティスの地はイザベラ殿下の統治下となったっ!! 要らざる騒乱を引き起こす者、またこれを助長する者は、イザベラ殿下の御名において、すべて逆賊として処断するっ!! 心するがいいぃ!!』

 

 セルの張り上げた大声は、首都リュティスの隅々にまで響き渡り、首都郊外で状況を静観していた地方軍閥の部隊にまで余す所なく、伝わったのだった。

 

 

 

 「ぬうう……ぶるあぁ!!」

 

 続いてセルは、「四身の拳」を発動。自身の肉体を四つに分身させた。本体のそれとは違い、完全なる分身体を生み出すことは出来ず、それぞれの戦闘力は四分の一となってしまうものの、王弟派の反乱部隊と日和見の造反部隊を蹴散らすなど、訳もなかった。

 

 

 

 

 空から舞い降りる長身異形の亜人の存在は、リュティスにおいて杖と剣を振るう者たちにとって、正に悪夢としか呼べないモノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首都リュティスにおける騒乱が、沈静化に向かいつつあったその頃、ガリア最大の軍港都市サン・マロンの上空に一隻のフネが滞空していた。全長は五十メイルほどだが、その艤装には、魔法先進国ガリアの最新鋭装備が惜しみなく投入されていた。

 

 そのフネの名は「アンリ・ファンドーム」号。かつての英雄王の名を冠した王家専用の座乗艦であった。

 

 

 

 

 「すべての準備、整いましてございます、ジョゼフ様」

 

 船首に佇む、最愛の主たるガリア王に恭しく報告するのは、神の頭脳「ミョズニトニルン」ことシェフィールドである。

 

 「……うむ。我がミューズよ、そなたの造り出した「最強の巨人」、余に見せてくれ」

 

 「御意」

 

 座乗艦に乗船している人間は、ガリア王ジョゼフ一世と、その使い魔であるシェフィールドだけであった。操船をはじめ、船内のあらゆる作業がシェフィールドが操るガーゴイルによって行われていた。

 

 「……「フレスヴェルグ」起動!!」

 

 ジョゼフの前に進み出たシェフィールドが、自身の額に刻まれたルーンに意識を集中させ、眼下の「実験農場」の中でも、最大の規模を誇る施設にて、未だ眠りについている、最も新しく、最も強大な存在を呼び起こした。

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 バゴッ!!

 

 

 地鳴りと共に「実験農場」最大の施設の天井を何かが突き破った。

 

 それは、鈍い輝きを放つ手甲を纏った巨大な腕だった。

 

 

 バゴッ!! ドゴッ!! バガッ!!

 

 

 次々に施設天井を突き破り、四本の巨大な腕が現れた。

 

 そして。

 

 

 

 バゴォォォォン!!

 

 

 

 施設の天井のすべてを破壊して、姿を見せたのは、とてつもなく巨大なゴーレムの半身だった。

 

 

 ズンッ! ズンッ!

 

 

 上半身を起こしただけで、施設を半壊させた巨大ゴーレムは、さらに轟音を巻き起こし、両足を大地に突き立て、その全貌を現した。信じがたい巨体でありながら、その動きは、通常のゴーレムとは、比較にならないほど滑らかで無駄のない、まるで人間そのものの動きを思わせた。

 

 ゴーレムは、施設内に残っていた自身の専用装備を、これまた巨体に似合わぬ俊敏さで身に纏っていく。

 

 

 ガシャッ! ガシャッ! ジャキンッ! ジャキンッ!

 

 

 屹立するその巨体は実に八十メイルに及び、全身に鈍い光沢を放つ装甲を纏い、四本腕の内、二本の腕には、その巨体を半ば覆ってしまうほどの巨大な盾を構え、残りの二本の腕には、その巨体をも両断してしまいそうな長大な剣を携えていた。一本角を持つ頭部で、光る三眼が、サン・マロンの市街を睥睨していた。

 

 

 

 

 

 「おお! あれこそが、最大最強のゴーレム「フレスヴェルグ」か!! ミューズよ!!」

 

 ジョゼフは、自身の使い魔たるシェフィールドを抱き寄せると、頬擦りせんばかりに強く抱きしめ左右に振り回した。

 

 「すばらしいぞ、我がミューズよ!! あの威容!! あの軽快な動き!! このハルケギニアの歴史上、まさに究極のゴーレムが誕生したと我が名において断言できようぞ!!」

 

 「あん、んふっ……ジョゼフ様にお喜びいただき、このシェフィールド、天にも昇る心地ですわ……」

 

 主に身を任せながら、陶酔した表情を見せるシェフィールド。ひとしきり、使い魔をねぎらったジョゼフが、言った。

 

 「ならば、その心地をサン・マロンに住まう親愛なる我が民達にも、味あわせてやらねば、な」

 

 「ジョゼフ様の仰せの通りに……」

 

 

 ルーンを通して発せられたシェフィールドの命令に応えて、試作型ゴーレム「ヨルムンガンド」十体分の製造資材と伝説とまで謳われた「風」と「火」の結晶石を掛け合わせて生み出された巨人「フレスヴェルグ」が、動く。背後のサン・マロン市街地に振り返ると、二本の巨剣と二個の巨盾を自身の巨躯を固定するかのように大地に突き立てる。

 

 

 ガゴンッ!!

 

 

 胸部の装甲が開き、禍々しい砲口が姿を見せる。生き血を吸うことで切れ味を増し続けるという、恐るべき魔剣の名を冠した砲口の照準は、数万の人々が住むサン・マロンの市街地を捉えていた。

 

 

 「……「ダインスレイヴ」発射!!」

 

 

 キュウイィィィィン!

 

 

 バシュッ!!

 

 

 シェフィールドの命令とともに砲口から放たれた真紅の光弾が、サン・マロンの中心部に吸い込まれた。

 

 

 

 

 ズドゴォォォォォン!!!

 

 

 

 火結晶石から抽出された純粋無垢なる火の魔力の奔流が、軍港都市サン・マロンの市街地を焼き尽す。紅蓮の炎に照らし出された「フレスヴェルグ」の巨体を眺めながら、ジョゼフは溜め息とともに言った。

 

 

 「まだだ、まだまだ足りん。この煉獄を、さらに塗り潰すような、もっと、もっとおぞましい景色を生み出さなければ、オレは……」

 

 

 

 

 

 「無能王」と渾名されたガリア王ジョゼフ一世。

 今、彼の最後の人形遊びの幕が、上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                        ゼロの人造人間使い魔 第四章 無能王 完




第四十五話をお送りしました。

これにて、第四章は区切りとなります。

次話から、またいくつか断章を投稿する予定です。

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いいたします。







後、どうでもいい話ではありますが、本作オリジナルのゴーレム「フレスヴェルグ」の外見イメージは、ファイブスター物語の旧デザイン版のA・トール(ラウンドバインダシステム装備)と、スターウォーズシリーズの白マント扇風機ことグリーヴァス将軍を足して2で割った感じです。

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