ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第五話をお送りします。

ゼロの意味を知ったセルの言動とは……

みんな大好き、ギーシュ君も登場します。


 第五話

 

 

 「さぁ、皆さん、これから授業を始めますわよ」

 

 ふくよかな女性教師がゆっくりとした足取りで、教壇に立ち、各生徒と使い魔たちを見渡す。

 召喚の儀が終わって、最初の授業は大講堂のような広い教室内に生徒と使い魔をともに入れて、行うのが慣例となっていた。

 土系統の授業を担当する『赤土』のシュヴルーズは、満面の笑みを浮かべ、生徒と使い魔たちに語りかける。

 

 「皆さん、春の召喚の儀は、全員大成功だったようですね。毎年、みなさんの新しい使い魔のお披露目に立ちあえるのが、このシュヴルーズの何よりの楽しみなのですよ。今から、今年の使い魔品評会が待ち遠しい限りですね。去年の品評会では……」

 

 シュヴルーズは、上機嫌で話を続けたが、教室は微妙な雰囲気に包まれていた。教室内のほぼすべての使い魔が何かを警戒するように身構えているのだ。普段と変わらない様子の使い魔は、ただ一体。『ゼロ』のルイズが召喚した長身異形の亜人、セルである。当然シュヴルーズも、この目立つ使い魔に目を留める。

 

 「ミス・ヴァリエールは、本当に珍しい使い魔を召喚なさいましたね。なんでも、東方ロバ・アル・カリイエにしか棲まない人語を解する亜人だとか」

 

 これは、セルの種族について、ルイズに聞かれた生物科の教師が教師室でも、他の教師たちに問われた際に苦し紛れに答えたものだが、地球の詳細について、セル自身がルイズにも明かしていないため、それなりに信憑性があると考えられていた。それだけ、トリステインの人々にとって、『ロバ・アル・カリイエ』は謎に満ちた土地なのであった。

 

 「あ、ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ! 召喚の儀に成功しても、それに慢心せず、これからもメイジとして、貴族として研鑽に勉めたいと思います!」

 

 「すばらしいですわ、ミス・ヴァリエール! 他のみなさんもミス・ヴァリエールの向上心を見習うとよいでしょう。さて、そろそろ実際の授業に入りましょう。まずは、基礎のおさらいから……」

 

 ルイズはこれまで、座学以外で褒められた経験がほとんどなかったため、シュヴルーズからの賞賛に有頂天となっていた。いつもなら、周りの生徒達が「ゼロ」のくせに、と野次を飛ばすところだが、どうも自分たちの使い魔が警戒というか恐れているのが、ルイズの使い魔である亜人らしいと気付くと、悔しげに舌打ちしながら、ルイズとセルから視線を逸らしていた。

 

 (ふふん! 私のセルに比べれば、あんたたちの使い魔なんて足元にもおよばないんだから!)

 

 ルイズは、気付いていなかった。肝心の使い魔が、自分のことを冷ややかな目で視ていることを。

 

 (ふむ、ルイズ。どうやらきみは私の存在、私の力を自分のそれと勘違いしているようだ。これは、見込み違いだったか。まあ、いい。今はこの世界の情報の収集を優先しよう。『系統魔法』、『失われた虚無の魔法』、『メイジのランク』か、なかなかに興味深いな。特に六千年前に、この世界の基礎を築いた始祖『ブリミル』と『虚無』の魔法か。この箱庭の世界を創り出したのが、その『ブリミル』だとすると。だが、それにしても……)

 

 セルはシュヴルーズの授業から、様々な知識を吸収していった。だが、この授業でセルはさらなる衝撃を受ける。シュヴルーズが黒板に書いている文字が理解できないのだ。セルは地球上で系統化されているすべての言語に精通していたが、異世界ハルケギニアのそれはセルにとって、未知の言語だったのだ。

 

 (だが、言葉は何の不自由もない。召喚されたその時から。ルイズの話では『コントラクト・サーヴァント』は、まれに契約した幻獣が人語を解する特殊な効果を発現するというが。なんにせよ、文字については早急に習得せねばな)

 

 「では、錬金の魔法の実演を……ミス・ヴァリエールにお願いしましょう」

 

 

 ザワッ!!

 

 

 それまで、比較的に静かにしていた生徒達が一斉に騒ぎ出した。

 

 「ゼロに魔法なんか使わせたら、まためちゃくちゃになるに決まってる!」

 「先生、危険すぎます! 考え直してください!」

 「たまたま、召喚がうまくいったからって、あのルイズだぞ!」

 

 シュヴルーズは大きく咳払いして、ルイズを教壇の上に置かれた錬金実演用に鉱物の前に促す。

 

 「失敗を恐れていては、進歩はありえません。さあ、ミス・ヴァリエール、こちらへ」

 

 「は、はい!」

 

 意を決したルイズがセルのそばを離れ、教壇へ向かう。生徒達は、各々机の下に隠れたり、いち早く教室を脱出する。

 近くにいたキュルケがあわてた様子でセルに話しかける。

 

 「ミスタ・セル! 早く身を伏せたほうがいいわよ! 悪いことは言わないから!」

 

 「ありがとう、ミス・ツェルプストー。私のことはセルと呼んでくれ。せっかくだが、私はルイズの使い魔だ。彼女を見届けなければならない」

 

 「ほんとにどうなってもしらないわよ!!」

 

 キュルケはフレイムを伴って、近くの机下に避難する。

 

 (さて、ルイズ。きみに何ができるのか見せてくれ。このまま、私の威を借るだけの矮小な存在で終わるなら、その時は……)

 

 教壇の前まで来たルイズは、一度だけセルの方を振り返った。そのセルが自分を見つめていることに少しだけ安堵した。

 わかっている、わかっているのだ。大空を高速で飛んだのも、念動力で着替えたのも、シュヴルーズに褒められたのも、全部セルの力。自分の力じゃない。

 でも、それでも、私はセルを召喚できた。それなら、他の魔法だってできるかもしれない。そして、私はセルの主として、ふさわしいメイジにならなくちゃだめなの。

 ルイズは、『サモン・サーヴァント』を成功させた時と、同じほどの集中力と想いを込めて、杖を鉱物に向かって振り下ろした。

 

 

 カッ!!

 

 シュン!

 

 ボスンッ!!

 

 

 次の瞬間、鉱物を乗せていた教壇は縦に砕け、シュヴルーズは爆風の煽りを受け、黒板にぶつかり気絶。そして、ルイズと教壇の間には、亜人セルが居た。

 

 「やっぱり、失敗だ! ルイズは『ゼロ』なんだよ!」

 「なんにもかわってない! 『ゼロ』はずっと『ゼロ』なのよ!」

 「いい加減に退学とかにしてくれよ! こっちの身が持たないだろう!」

 

 恐れていたほどの爆発は起きなかったものの、結局失敗したルイズに対して、生徒達は、これまで以上に辛らつな言葉を浴びせる。なんとか、目を覚ましたシュヴルーズも、ルイズに破壊された教壇の片付けを言いつけた上で、授業の終了を伝えてよろめきながら保健室に向かった。生徒達と使い魔もすべて教室から出て行き、ルイズとセルだけが残された。

 

 

 

 ルイズの目は、光を映していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕けた教壇と飛び散った破片の片付けはセルの念動力で、苦もなく完了した。だが、ルイズは動かない。セルもあえて声をかけない。

 

 やがて、ルイズが普段からは想像できないような、無機質な声でしゃべりはじめた。

 

 「これで、わかったでしょう……なんで、わたしが『ゼロ』ってよばれるか……これが、答えよ。どんな魔法を唱えても、爆発、貴族なら五歳の子供でもできるコモンマジックでも爆発……魔法失格者……それがわたし、トリステイン王家に連なる名門貴族ヴァリエール公爵家の三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」

 

 そこまでだった。ルイズの感情の堤防が決壊した。

 

 「なんとか……いったら、どうなのよ!!」

 

 

 ドガン!!

 

 

 ルイズはその体格からは、思いもよらない膂力で、新しく備え付けた教壇をひっくり返した。

 

 「あんたも、私のこと『ゼロ』だって、『役立たず』だって……『いらない子』だって思っているんでしょ!! わ、わたしなんかに召喚されなければよかったって……そう思っているんでしょ!! 他の連中も……あいつら……魔法も使えない落ちこぼれ、ヴァリエール家の厄介者、勘当同然に学院に捨てられた……わ、わたしが、わたしが何も知らないとでも思っているの!! 馬鹿にしないで!! わたしは、わたしだって、ヴァ、ヴァリエール家の一員としての誇りを……ほこりを……う、ううう……わ、わたしは……うぐうううぅぅぅううっ……うっうっ」

 

 そこからは、声にならなかった。ルイズの嗚咽が、彼女がこれまで溜め込んでいたものとともに教室に響いていた。

 

 

 

 

 

 だが、セルはそんなルイズを見限るようなことはなかった。むしろ、全くの逆の心境を抱いていたのだ。

 

 

 (すばらしいぞ、ルイズ。やはり、きみはこの私を召喚するにふさわしい力の持ち主だったのだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズが杖を振り下ろそうとした、その瞬間--

 

 

 (こ、これは!? まさか!)

 

 

 セルは、ルイズに凄まじい力が集中していくのを感じた。いや、正確にはルイズではない。ルイズが杖を振り下ろそうとしている鉱物だった。

 セルは、間髪入れず、瞬間移動を発動する。ルイズと鉱物の間に入り、巻き起こった爆発を尾の先端を漏斗状に拡げ、飲み込む。

 だが、爆発の威力はセルの予想を大きく上回り、エネルギーの一部が漏れてしまう。それが教壇を砕いたのだ。

 

 

 (この威力は、いや、威力だけではない。この爆発のエネルギーは、この……『生体エキス』は!!)

 

 

 (ルイズ、きみはこんなところで折れることは許されないのだ。この世界にとって……そして、この私にとっても)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズの嗚咽が小さくなった頃、セルはルイズに声をかけた。慰めるでもなく、蔑むでもなく、ただいつもどおりの声色で。

 

 「ルイズ」

 

 

 ビクッ!!

 

 

 ルイズは脇目にもわかるほど、大きく体を震わせた。

 

 「きみは自らを『ゼロ』だと言った。魔法失格者だとも。私はこの土地とは全く別の地からやってきた。だから、その境遇がきみにどのような忍従の日々を強いたのかはわからない。だから、私は、私自身の言葉をきみに伝える……私は、この地に召喚されるその時、まさに戦いに敗れ、消滅の危機にあったのだ。きみが召喚してくれなければ、私はこの場にも、世界のどこにも存在していなかった。きみは、私の命の恩人だ。そして、この私を召喚したという事実こそが、きみが『ゼロ』ではないという何よりの証だ。私はきみと使い魔の契約を結んだ。その理由は、きみが命の恩人だからというだけではない」

 

 セルの視線は、ルイズを正面から捉えていた。

 

 「ルイズ、きみこそが私の主にふさわしいと、私自身が望んだからだ。きみの魔法が失敗する際に巻き起こす爆発、あれはきみ自身が考えているよりも、遥かに凄まじいものだ。なぜ、きみがそのような力を持っているのか、私にもわからない。だが、私はその理由を知りたい。できるならば、きみとともに……」

 

 セルは、その場に跪いた。

 

 

 「我が主よ、どうか、私とともに歩んでほしい……」

 

 

 言葉を終えると、セルは、騎士が自らの剣の主にそうするように、頭を垂れた。

 

 

 「……セ、セル、ほんとに……わたしと? でも、わたしは……でも……でも…………」

 

 

 ルイズは涙に濡れた顔を上げ、跪くセルを見つめる。そして、ごく短い時間の後。

 

 

 「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが命じます。セル、使い魔として永久に私と共に在らん事を……」

 

 「承知した、我が主よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第五話をお送りしました。

ギーシュが登場するといいましたが、すいません。うそでした。

次話こそは、ギーシュが大活躍するはず・・・DEATH!!

・追記・

がう様からご指摘いただきましたコントラクト・サーヴァントのくだりを修正しました。

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