ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第七話をお送りします。

セルVSギーシュのバトルが始まります。


 第七話

 

 

 ギーシュの決闘宣言に騒然となるアルヴィーズの食堂内。だが、決闘の意思を叩き付けられたセルは悠然とギーシュに言葉をかえす。

 

 「ほう、決闘とはまた……この上、恥の上塗りを望むとは、伝え聞くところの被虐願望者だったとはな」

 

 「ちっ、ちがう! 僕にそんな趣味はない!! そ、そういうのは、ま、マリコルヌ、そう!! マリコルヌの役目なんだ!!」

 

 「そこで、僕に振るなよっ!! てか、何で知っているんだぁぁ!?」

 

 「とぉ、とにかく! 貴族として、グラモン家の名を持つ者として、きみに正式な決闘を申し込む!! あれだけの罵詈雑言を僕に浴びせてくれたんだ。よもや、断りはしないだろうね」

 

 突っかかってくる小太りの男子生徒をいなしながら、なおも芝居じみた所作でセルの意思を確認するギーシュ。もとより望むところのセルは、静かにこれを受諾する。

 

 「いいだろう、決闘を受けよう。だが、今この場で始めるつもりではないだろうな」

 

 「無論だ。ここは、神聖なアルヴィーズの食堂。僕たちの決闘の場所はヴェストリの広場だ。僕は先に向かう、君はせいぜい主やそのメイドと最後の別れを済ませてから来たまえ」

 

 そう言って、ギーシュは何人かの取り巻きの生徒とともにアルヴィーズの食堂を後にする。その後ろを、「おい、ギーシュ!! ちゃんと僕の趣味のこと、否定してくれよぉぉぉ!!」と小太りの男子生徒、マリコルヌが半泣きで追いかけていく。

 

 「ちょっと、セル!! アンタ、どういうつもりよ!? ご主人様に断りもなく、勝手に決闘ですって!?」

 

 成り行きをとりあえず見守っていたルイズがさっそく、セルにくってかかる。ギーシュのやつはたしかにいけ好かないし、メイドに理不尽な怒りをぶつけていたのも正直、見るに耐えなかった。

 だが、事が決闘となれば、話がちがう。

 

 「あんた、わかってるの!? 貴族と決闘するってことの意味」

 

 「ルイズ」

 

 「な、なによ?」

 

 まくし立てようとするルイズを静かにさえぎるセル。そして、まるで教え諭すかのような口調でルイズに語りかける。

 

 「ルイズ、私は彼女シエスタに借りがある。その借りをいずれ返すと明言した。そして、今がまさにその時なのだ。それにこの決闘は、きみにとっても無関係ではない。ルイズ、きみにあえて問おう。貴族とはなんだ?」

 

 「はあっ? き、貴族とはって……貴族とは、ただ支配し君臨するものではないわ。弱き民を護り、教え導くもの。そして不正や虚偽、いわれなき暴力にもっとも最初に立ち向かい、最後まで退かない、確固たる誇りを自らに課すもの。それこそが真の貴族よ」

 

 「ならば、弱き民にいわれない非難をあびせる輩は、真の貴族とはいえまい。そして、そのような貴族を騙る卑賤な者を成敗するのもまた、貴族の責務。だが、ルイズ。きみは、かよわき女性の身なれば、悪漢を打ち倒す役目はどうか、この私に任せてほしい、わが主よ」

 

 そう言ってセルは、ルイズの前に静かに跪く。周りの生徒たちは、異形の亜人がまるで王に仕える騎士であるかのように主たる少女の前に控えるその姿に、思いがけず目を奪われる。まるで、神話か伝説の一場面のように感じられたのだ。

 

 「……セル、あんたその言い方、ちょっと卑怯なんじゃない。そんなふうに言われたら、だめなんていえないじゃない。ふう、わかったわよ。まあ、たしかにギーシュの奴が目に余ったのは確かだし、でも、やるからには必ず勝ちなさい。それとあんな奴でも、貴族は貴族なんだから、万が一にも殺しちゃったり、大怪我させるのはダメ。大見得切ったんだから、それぐらいできるわよね?」

 

 「もちろんだ。わが主、ルイズよ」

 

 「そ、そんな!! どうか、セルさんを止めてください、ミス・ヴァリエール!! メイジである貴族と決闘なんてされたら、セルさんが死んでしまいます!!」

 

 「シエスタだっけ? 大丈夫よ、セルは絶対に勝つわ。なんたって私の使い魔なんだから!!」

 

 「で、でも、そんな、わたしのせいでセルさんが……そんな、どうしよう……わたし……わたし……っ!!」

 

 半ばパニックに陥ってしまったシエスタは、大粒の涙をこぼしながら厨房へ走り去ってしまう。

 

 「あらら、まあしょうがないわよね。じゃあセル、私たちはヴェストリの広場にいくわよ!」

 

 「承知した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、トリステイン魔法学院の最高責任者オールド・オスマンの執務室。

 

 「なにを、なさっておいでなのですか、学院長?」

 

 豊かな緑色の髪を束ね、フレームの細い眼鏡をかけた妙齢の美女、トリステイン魔法学院学院長専属秘書ミス・ロングビルは自らの上司である偉大な老メイジに問いかけた。

 

 「どうか、聞かんでおくれ、ミス・ロングビル。女性の身には、決してわかるまいて。いついかなるときも男の魂をとらえて離さぬ未知なる領域への探究心というものはのう……」

 

 魔法学院のすべてを統括する学院長、オールド・オスマンは書棚の書類整理をしているロングビルの背後から匍匐前進で近付き彼女のスカートの中身、彼曰く未知なる領域、を覗き込もうとしながら、そうのたまった。

 

 「……速やかに撲殺されたいということですね、かしこまりました。遺言についてはご心配なく。わたくしが完璧に捏造いたしますので」

 

 どこからか取り出したウォーハンマーを大上段に振りかぶるロングビル。

 

 「ごめんなさい。もうしません。おねがいです、ゆるしてください」

 

 匍匐前進からの高速土下座で謝り倒す、齢百とも三百ともいわれるトリステイン最高のメイジ、オールド・オスマン。

 

 

 ゴドッ!!

 

 

 下ろしたウォーハンマーが床面を砕くのも気にせずロングビルは、一抱えもある書類の束をオスマンの前に置き、冷徹な眼差しと完全な事務口調で宣告する。

 

 「こちらの書類すべてに目を通して、決済をお願いいたします。すべて今日中にです」

 

 「ちょっ、そのハンマー本物!?……ワカリマシタ」

 

 

 コンコンコン

 

 

 「あー入りたまえ」

 

 書類の束から目を離さずにオールド・オスマンは訪問者に入室を促す。ドアを開け、入ってきたのは、ルイズたちの召喚の儀に立ち会った教師コルベールだった。

 

 「失礼いたします、オールド・オスマン。お忙しいところ、大変申し訳ありません。少々、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 「ふむ、急ぎかね。しょうがないのう。ミス・ロングビル、ジャンベール君に紅茶を」

 

 「あっ、いいえ。そのようなお気遣いはどうかご無用に。ただ、その……」

 

 コルベールは申し訳なさそうな視線を、ロングビルに向ける。それを察したオスマンは、ため息をつきながらロングビルに退出を促す。

 

 「も、申し訳ありません。ミス・ロングビル、お仕事のお邪魔をしてしまった上に……」

 

 「クス、お気になさらないでください、ミスタ・コルベール。では、失礼いたします」

 

 ロングビルの密やかな微笑みに、訪問の理由も、忘れとろけた顔をさらしてしまうコルベール。そんなコルベールに凍てつく視線を突き刺すオスマン。

 

 (今期、減棒確定じゃな! このエロハゲめ!!)

 

 「それで、一体どうしたというんじゃ、コッパハゲ君?」

 

 「実は、オールド・オスマンに見ていただきたいものがあります、こちらです……あと、コルベールです」

 

 コルベールはそう言って、小さなスケッチをオスマンに差し出す。ミス・ヴァリエールが召喚した亜人に刻まれた珍しいルーンを書き写したものだった。

 

 「ほほう……あまり、見かけぬタイプのルーンじゃのう。はて、以前どこかで……」

 

 「次に、この本に載っているルーンをご覧ください」

 

 差し出された本は、六千年前、このハルケギニアを救った偉大なる始祖『ブリミル』とその使い魔に関する研究書であった。コルベールの指し示したページに載っていたルーンは。

 

 「……『神の盾』ガンダールヴ。詳しく話すのじゃ、コルベール君」

 

 コルベールは、『ゼロ』の二つ名で呼ばれるミス・ヴァリエールが召喚した東方の亜人にこのルーンが刻まれたことをオスマンに伝えた。

 

 「うーむ、ミス・ヴァリエールのことはわしも聞き及んでおる。彼女が召喚した亜人も何度か遠見の鏡で視たことがあるが、よもや、ガンダールヴとは……」

 

 「オールド・オスマン、このことを王室には?」

 

 「たわけ!! 伝説にうたわれるガンダールヴは、一人で千の敵を蹴散らしたという。そんな武器を王宮の馬鹿どもが手にしたら、どんな大馬鹿な真似をしでかすかわかったものではないわ!!とはいえ、放置するわけにもいかぬかのぅ」

 

 

 ドンドンドン

 

 

 その時、退出したはずのロングビルが慌てた様子で学院長室に戻ってきた。

 

 「お話中、失礼いたします! 学院長、ヴェストリの広場で生徒による決闘騒ぎが起きていると現場の教師から報告が……」

 

 オスマンは盛大に舌打ちしながら、その不埒者の素性を尋ねた。

 

 「かッー!! どこのまぬけじゃ、この忙しいときに……なに、グラモン家の四男坊じゃと、あの色狂いの馬鹿一族が、面倒ばかり起こしおって……相手はだれじゃ?……なんじゃと? ミス・ヴァリエールの使い魔じゃと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――トリステイン魔法学院の西側に存在するヴェストリの広場

 

 今この広場は、グラモン伯爵家の四男、ギーシュ・ド・グラモンとヴァリエール公爵家の三女、ルイズが召喚した東方の亜人セルとの決闘を一目見ようと集まった生徒たちでごったがえしていた。よく見ると、呆れたことに一部の教師たちも見物の列に加わっていた。こういった騒ぎにつきものの賭け事も一部の祭り好きな生徒たちが音頭をとって執り行っていた。勝ち負けの大勢は、やはり長身異形の亜人とはいえ、正面からメイジと戦って勝てるわけないだろうということで、圧倒的にギーシュが優勢であった。

 

 「呆れるわね、午後の授業どうすんのかしら、コレ?」

 

 「あまり、騒々しい場所は好まないのだがな……では、いってくる」

 

 「……頑張ってね、セル」

 

 「無論だ」

 

 

 決闘の主役が揃ったことで、広場の熱気も最高潮となる。ルイズは決闘場となる広場中央から離れた場所からセルの決闘を見守ろうとしていた。そんな彼女に見知った顔が声をかける。

 

 「ヴァリエール、ずいぶん遅かったわね。主役はあえて遅れてやってくる、てとこかしら」

 

 「そんなところよ、ツェルプストー。あんたも暇人の一人なのね……えーと、それからタバサだったかしら?」

 

 「……」

 

 ルイズに話しかけたのは、隣室のキュルケとその友人、無口で小柄な少女タバサだった。

 

 「ところで、ヴァリエール。彼、大丈夫なの? いくらギーシュがドットランクとはいえ「錬金」の実力は侮れないわよ」

 

 「わ、わかってるわよ!セルは勝つわ!……多分」

 

 「多分て、あなた……」

 

 「だって、しかたないじゃない! あいつがまともに戦ってるところ、見たことないんだもん!」

 

 そうなのだ。「キ」という不思議な力を使うのは何度も見たが、肝心のセルの戦いの実力についてはルイズにも未知数だった。不安を隠し切れないルイズだったが、意外な人物が太鼓判を押す。

 

 「……大丈夫、彼は勝つ」

 

 「へっ? なんで、あんたが……」

 

 「ちょっと、タバサ! あなた、何か知っているの?」

 

 無口な少女のセル勝利宣言について問い詰めようとした二人だが、それを遮るようにギーシュの開始宣言が響き渡る。

 

 

 「諸君! 決闘だ!!」

 

 ギーシュは、口に銜えていた薔薇の造花を空に放りながら、高らかに宣言する。見物の生徒達からも歓声が巻き起こる。

 

 「ギーシュの奴が決闘するぞ!! 相手は、ルイズの亜人の使い魔だ!!」

 「いくら、うすらでかい亜人だからって正面切ってメイジに勝てるかよ!!」

 「最終の倍率は、八対二!! ギーシュの圧勝だな!!」

 「まじかよ!? 亜人の札を買った奴がいるのか!!」

 

 (さて、メイジの戦い方……みせてもらおう)

 

 セルとギーシュは互いに十メートルほど離れて相対していた。ギーシュは手にしていた薔薇の花を模した杖を振った。その花から散った一枚の花弁が瞬く間に甲冑を身に着けた女戦士の像を結ぶ。

 

 「僕の二つ名は「青銅」。よって、君の相手は「青銅」のゴーレム、ワルキューレが務める。よもや、異論はないだろうね。だが、僕は貴族として慈悲の心を持っているんだ。君が食堂での暴言を心から謝罪し、僕の足元に跪くなら、寛大な処置を考えてやらないこともないけど、どうかな?」

 

 「無駄に話の長い男は、女性からの尊敬を集めることはできない」

 

 「ぐっ!! この期に及んで……いいだろう!! ならば、容赦はしない!! いけっ、ワルキューレ!!」

 

 ギーシュの命令を受けたワルキューレは外見からは思いもよらない俊敏な動きを見せて、セルに一気に肉薄する。そして、大きく振りかぶった右ストレートをセルに叩き込む。

 

 

 グシャンッ!!

 

 

 ギーシュを含めた大多数の人間が、ワルキューレの攻撃に吹き飛ばされるセルの姿を思い描いたが、ワルキューレの攻撃を無防備に受けたはずのセルはその場から小揺るぎもしていなかった。むしろ、攻撃をしかけたワルキューレの様子がおかしい。その場から動かないのだ。

 

 「ど、どうした、ワルキューレ!? 一度離れて態勢を整えるんだ!!」

 

 ギーシュの必死の命令にも反応しないワルキューレ。視れば、すでにワルキューレは半壊状態にあった。セルに突進し、ストレートを叩き込んだ拳は原型を留めておらず、右腕もへし曲がり、右肩から背中にかけても大きく歪んでいる。半ば、セルに寄りかかるような形でようやく自立している状態だった。

 

 (ふむ、青銅か。組成自体は地球のそれと非常に近いのだろうが、おそらくわずかな相違がみられるはずだな。まあ、耐久力に関しては同レベルのようだな)

 

 セルは、右手をワルキューレの頭部に乗せた。そして、ごくわずかに力を込めて下方向に手のひらを動かした。

 

 

 メギャグシャンッ!!!

 

 

 ワルキューレが消えた。

 

 「ギーシュのゴーレムが消えたぞ!!」

 「あの亜人が消したのか!?」

 「そんな魔法があるのかよ!?」

 「あ、あいつは亜人だぞ!!杖ももっていないし、詠唱だって……」

 

 「ちょっと、ヴァリエール! あなたの使い魔、今なにしたのよ!? ゴーレムを一瞬で消し去るだなんて!」

 

 「わ、わたしにもよくわからないわよ!!……あれも「キ」の力なのかしら?」

 

 「……「キ」とは、なに?」

 

 セルの主たるルイズも、訳が分からず混乱していた。キュルケやタバサも同じ思いだった。そして誰よりも混乱していたのはギーシュだった。

 ちなみにセルはワルキューレを不可思議な力で消し去ったわけではない。ただ、文字通りの桁外れの膂力によって、押しつぶし地面深くにめり込ませただけだった。

 

 (ぼ、僕のワルキューレが……くっ! ただの亜人ではないということか!! ならばっ!!)

 

 「ワルキューレッ!!」

 

 最初のワルキューレを失ったギーシュは、ようやくセルが見掛け倒しの存在ではないことを悟った。薔薇の杖を大きく振るい、残りの魔力を尽くして六体のワルキューレを一気に造り出す。しかも、今度のワルキューレは徒手空拳ではない、全員が身体と同じ青銅製の盾と剣や斧、槍といった武器を携えていた。完全武装の戦乙女による波状攻撃、ギーシュにできる最大最強の攻撃だった。

 

 「きみを少し甘くみていたようだ。だが、今度の攻撃はさっきとは訳が違う! 精鋭の傭兵一個小隊を制圧する一斉攻撃だ!! きみに耐えられるか!?」

 

 一列横隊で、突撃を開始するワルキューレ部隊。ギーシュは、たとえ二~三体がやられても、残りのワルキューレが必殺の一撃を叩き込めば、今度こそ勝てると思っていた。あるいはそう、思い込もうとした。

 突撃を受けるセルはワルキューレという存在に奇妙な感慨を抱いていた。

 

 (ふむ、人が造りだした人の形をしたものか……ふふふ、私としたことが。すでに視るべきものは視た。これで終わりにするとしよう)

 

 

 シュルン!

 

 

 セルの尾がしなやかに動いた、次の瞬間!

 

 ギャルン!! バギャッ!! メギャッ!! ゴギャッ!! ボゴンッ!! グシャッ!! ドグシャッ!!

 

 一気に数十メートル伸びたセルの尾は常識外の超スピードで横隊の一番外側にいたワルキューレを貫く。間髪いれず、尾はさらに伸び、横隊のワルキューレをジグザグに貫いていく。最後のワルキューレを貫いた後、わずかに力を込めて、尾を上空に向かって振るう。

 

 

 バガシャァァァァァンッ!!

 

 

 六体のワルキューレが粉々の青銅製の破片となって空中にばら撒かれた。だが、一般人と変わらないルイズやギーシュたちに知覚できたのは、突撃を開始したワルキューレ達が数メイル進んだと思った次の瞬間に、大音量の破壊音とともに青銅製の破片による打ち上げ花火に変わったことだけだった。

 ヴェストリの広場にいた全員が呆然と空中を見上げていた。決闘の最中のギーシュですら。

 

 (ああ……きれいだ……青白い花火のようだ。そうだ、モンモランシーにも見せてあげたいなぁ……あれ、僕は何をしていたんだっけ?)

 

 「ぐへっ!!」

 

 いつの間にか背後に廻っていたセルの尾が、ギーシュの首に巻きつく。セルとしては、脆いガラス細工を真綿で包むような繊細さでギーシュの首を吊り上げていたのだが、ギーシュからすればひとたまりもない。文字通り、万力にかけられたかのように首の骨が軋み、酸素の供給も止められてしまう。

 意識まで朦朧としてきたギーシュは、手にしていた薔薇の杖を取り落としてしまう。それを確認したセルは尾による拘束を解き、ギーシュの杖を踏み砕く。

 

 「げほっ! げほっ! がはっ!! はあっ、はあっ、ゴホゴホッ!!」

 

 尾の拘束を解かれ、四つんばいのまま咳き込むギーシュ。ようやく呼吸が落ち着いてきて、顔を上げると喉元に鋭い何かが突きつけられた。セルの尾の先端だ。

 

 「ひっ!!」

 

 (こ、殺される!? ぼ、僕がこんなところで……い、いやだ! し、死にたくない!! ぼ、僕は、僕は! こ、こんな!!)

 

 「……どうする?」

 

 無感情に響くセルの声が最後通牒となって、ギーシュの全身を貫いた。

 

 選択の余地など、彼には与えられてはいなかった。

 

 

 

 「……ぼ、僕の……負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第七話をお送りしました。
これまでで一番の長編となってしまいました。前後編に分けようかと思いましたが、
今回はこのまま投稿させていただきました。

次話は決闘の後始末と虚無の曜日イベントの予定です。王都で待つ出会いとは・・・

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