ブザー音が鳴った瞬間、私は駆け出した。迷路のような訓練所の曲がり角をうまく使い、彼女を撒くように走りながら仕留める方法をいくつか考えピックアップする。
彼女は少なからずこの訓練所においての地理を把握していないだろう。なら、そう広範囲に動き回ることはしないはずだ。近場で隠れながらこちらの様子をうかがおうとする。そうあたりをつけ、彼女の隠れそうな確率が高い場所に先回りをし奇襲をするという算段を立てたが──
しかし、ここでたきなの予測は裏切られる。
「──ッ」
なぜなら、彼女は始まりの合図が鳴ってから一歩もその場から動いていないからだ。最初から隠れる気などないというばかりにただただ何も行動を起こさず立っていた。
流石に歴戦のリコリスであろうと度肝が抜かれたような感覚に陥るが、同時に苛立ちが湧き立つ
──やはり、なめられている!
しかし、彼女のその慢心は命取り!こちらから一気に仕掛け終わらせる──
彼女の真横の通路に隠れ急所に標準を合わせる。手に持つのは模擬戦で何度も使い慣らしたペイント銃
これで模擬戦は終了。彼女には悪いが早々に終わらせる。
手の震えはない、比較的落ち着いた状態だ。はずすことはない。物音でこちらに気づいたよだがもう遅い。指を引き金にかけ、そして引いた──
「パンッ」と聞き慣れた音が響く──
これで雌雄は決したかにに思われたが──瞬間、目を見開き驚愕した。
そこには、ペイントで汚れているはずの彼女がいなかった。
──外した!?いや、違う!避けられた!
冷静に見れば頭を少し傾けているのが分かる。
しかし、すぐに彼女に向け数発ペイント弾を撃つがこれも体を最小限の動きをもってかわされる。
態度には出さなかったものも、内心の驚きはすごかった。
だが、すぐに切り替える。伊達にセカンドリコリスとしてやってきたわけじゃない。
たきなはなぜ自身射撃をかわすことができたかを分析を始める。
(──こちらの、射撃は間違いなく完璧だったにもかかわらず、こちらを一瞥した瞬間避けられた。まぐれ?いや違う!まぐれで避けられるならその後の数発を避けることは不可能!なら、彼女は銃弾を見切ったのか?いや、それは人間業ではない。これも除外。どちかといえば、銃弾を見切るというより銃口で弾の弾道を見切ったという方が正しいのだろうか。なるほど、彼女の動体視力はずば抜けている。今彼女と対面してようやく司令が怪物と評した理由が本当の意味で理解できる。彼女は私達の常識の外にいるが、しかし、こちらも長年リコリスとして修羅場を潜ってきたという自負がある。だから負けるわけにはいかない!)
すぐにその場からたきなは走り出し彼女に勝利するための最適解を見出す。たきながたった一つ見つけ出した彼女に勝利するための道筋──
──死角からの狙撃
目は人間が情報を得る際もっとも使われている場所だ。その割合は8割を占めるともいわれる。彼女は先程、目で銃口の標準を見て弾丸を避けたに違いない。なら、目の見えない範囲からの攻撃は対応不可能なはず。この戦略はほぼ全ての人類に有効で、彼女も例外ではないはず。ならばやることは決まった。慢心しきった彼女のことだ。どうせあの場から動こうとすらしないだろう。
今度は真後ろからの狙撃で勝負をつける。物音を立てずにうまく隠れる。彼女に動きはない。
──次は確実に当てる!
通路から顔を出して彼女の位置を確認し頭に狙いを定め銃口を向け、引き金を引いた──
が、そこで信じられないものを見た。頭を少し傾けまたもや避けられた。それもこちらを見ずに。
──バカな!そんな芸当できるわけがない!
彼女が振り向き様にこちらを見てほんの少し口角をあげた。
さらに数発撃つが、やはり避けられる。
──なら近づき当てるかしない!
彼女に向かい走り出すが、瞬間、背中に寒気がした気がした。
──ゾクッ
私は彼女の中に垣間見た。一見普通を取り繕う彼女の中に内包される圧倒的なドス黒い強さを。
自然と私の足が止まる。
あっ──
「──悪くないね。まぁ、良くもないけど!」
言葉と同時に瞬時に私との距離を詰める。
はや──
瞬間、床と天井が逆転していた。そしていつの間にか倒れ伏している私。反応すら許されなかった。背中がずきずきるする。
「──ッ、一本背負いですか」
「まだ続けますか?」
「降参です」
そこから彼女は何も言わずただただ見下ろすだけ。彼女の瞳に何もできず負けた私はどう映っているのだろうか。
わずか数分の間に模擬戦は終了した。佐藤さらの圧勝という形で──
◆◇◆
体の節々が痛い!
今回模擬戦で最後ぐらいしか動いていないにも関わらず体が痛い。とういうか最後が痛かった!体が急に動き出そうとするんだから思わず痛みで頬が引き攣ってしまった。
「私の負けですね」
暴力さんが少しいや、かなりしょげているように見える。選択肢様がしっかりと勝利に導いてくれたおかげで先リコの暴力さんがしょげてしまった。こうしょげていると可愛く見える謎の現象。
選択肢で強制されたとはいえ煽るようなことを言ってしまったことに少し罪悪感を感じてしまう程度には、可愛く見える。
「えぇ、あなたの負けです。模擬戦直前の約束を覚えていますか?」
彼女に模擬戦直後にした約束を確認する。私自身ちょっとずるいと思ってはいるが、勝ちは勝ちだ。勝利の戦利品として利用させてもらう。
「……覚えています。あなたが勝ったらなんでもいうことを聞くと」
どうやらしっかり覚えていたらしい
「そうですね。約束は守ってもらいますよ」
「自分で言い出したことです。しっかり守りますよ」
言質はとった。なら──
「あなたには全裸になって四つん這いでこの施設を一周してもらうことにしましょう」
「……は?」
彼女は私が言ったことが理解できないといった感じにポカンと口を開け、こちらの顔を見る。中々のアホヅラに笑いそうになる。
「ちょっと待ってください!流石になんでもするとは言いましたが、それは……」
さすがに、抵抗感あるようだ。まぁ、私がそんなこと言われたら絶対にやらないが。
「井ノ上パイセンは自分の言葉に責任を持てないんですか?」
「しかし……」
「言葉には責任を持ちましょう!」
「……ッ」
「ぬーげぬーげぬーげ!」
暴力さんに言葉責めをしていると、目がうるうるしてきたのが分かる。
いや〜少女をいじめるのは最高だね!このイジメは勝者の特権!
「早く脱いでください!」
そう急かすと、制服に手をかけるが、そっから一向に動きがない。目には涙が溜まりに溜まっている。流石にやりすぎた。
「も〜う真に受けないでくださいよ〜。冗談ですよ〜」
「……へ?」
「こんなこと強要するわけないじゃないですか。常識的に考えて」
すると、途端顔を赤くして涙目でキッと睨んでくる。うん、そんな状態で睨まれても可愛いだけ。
「そう睨まないでください。ワザとです」
「──ッ、あなたって人は!!」
イジメがいがあるなんて考えていると右手が頬に伸びてきて──
「イタッ!?」
頬に痛みが走った。
「あなたが悪いです!」
やはり暴力さんは暴力さんでした。
「それで、あなたは私に何をしてほしいのですか?」
おやおやおや、ここまでこんな仕打ちをされたのに聞いてくれるらしい。真面目でいいね。顔はすごい嫌がってるけど
私は少し考え──
「そうですね。カラオケに行きましょう」
「カラオケですか?」
「えぇ、カラオケですよ。もちろん点数で勝負しましょう。負けた方はカラオケ代と昼食代奢りで」
「しかし、カラオケなんてしたことは……」
「負けるのが怖いんですか?」
「受けてたちましょう。煽ったことを後悔させてあげます」
こうして後日カラオケに行くことになった。もちろん結果は、私の圧勝。暴力さんが悔しそうにカラオケ代及び飲食代を奢ってくれた。
ちなみに暴力さんの歌のレパートリーは君が代しかなかった。