ジョジョの奇妙な教室 作:空条Q太郎
中間試験の打ち上げから一週間ほど経ったある日の休日。
和のテイストに改装された落ち着きのある渋い趣味の承太郎は、コンコンとしつこくノックする音で目を覚ました。
若干の苛立ちを覚えながら体を起こし音の発生源に目をやり、驚いた。というのも、音が玄関からではなくベランダから聞こえてくるのだ。
まだ6時にもならない早朝に嫌がらせのようにノックする輩なら、しめることも考慮したが、ベランダからの侵入者であれば問答無用にぶちのめす。そう心に決めてカーテンを勢いよく開け放った。
「……鳩、だと?」
カーテンを開けると小刻みに鳴り響いていたノックが止まる。
承太郎が鳩を凝視すると罠にでもかかってしまったのか、脚に枷のようなものがついている。
「どれ、少し見てやるか」
野生動物に触れるつもりはないが、必要とあれば助ける。それが空条承太郎だ。
ガラス戸を開き、しゃがみ込む。
「……これは、伝書鳩か」
何かと思った金属は筒状で物が入れられる構造になっており、テレビや新聞で見るものより一回りほど大きい。訓練されているであろう鳩は承太郎が手を伸ばしても逃げ出そうという素振りはない。
承太郎は筒を開け、予想通り入っていた紙を取り出した。鳩は、それを確認したかのように一度承太郎の方を向くと大空へ羽ばたいていった。
「こんなことができるのはジジイ……いや、
小さく丸められた紙を開くと、やはり差出人は祖父ジョセフ・ジョースターだった。
『親愛なる我が孫承太郎へ。そろそろしみったれた日本の教育に嫌気が差してきた頃じゃあないかと思って手紙を書いた。ホリィも随分と心配しておる、とっとと帰ってくるんじゃ。
アメリカならもっといい学校も腐るほどある。何も心配することはない、安心して自主退学すれば良い。……が、漢が一度決めた道、無理に退学させるつもりは毛頭ない。
わしの孫に限って退学処分を受けることはないと思うが、万が一に退学すればアメリカの一流学校。Aクラスで卒業すればジョースター不動産のアメリカ本社への就職を約束しよう。
これから定期的に鳩を飛ばす。ホリィのためにもたまには手紙を書くんじゃぞ?
ジョセフ・ジョースター』
「やれやれだぜ。あのジジイ平然とルールを知っていて、その上破ってきやがる」
3年間の完全隔離をおこなっている高度育成高等学校は電話や手紙はもちろん、SNSへの書き込みなども監視し、写真等のアップロードを除きメッセージ全般を禁止している。
が、現代社会において伝書鳩は坂柳理事もびっくりの抜け道だ。
とはいえ、承太郎は返信を書くつもりは全くない。
時に王道でない手も使うことも厭わない承太郎だが、この学校のルールの中で戦うことに意義を感じているため外部からの影響は受けたくない。文面的にジョセフが介入してくることはなさそうだが、万が一手を出してこようものなら容赦するつもりはない。
一応、祖父からの手紙を丁寧に引き出しにしまう。
そして、目覚めの悪い朝になってしまったが、承太郎は朝の諸々の準備に取り掛かったのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
———同日昼。
承太郎はポイント節約のため自炊をしている。必然的に材料の買い出しは定期的に行くことにはなるのだが、この日ばかりはいつも通りにはならなかった。
休日にもかかわらず制服を着込み気合の入っている承太郎。授業であれば別だがプライベートでは、彼は例え死者が出るほどの灼熱の砂漠であっても学生服を着ているだろうと言えるほど、学生という部分にこだわりを持っていたりする
肉やら野菜やらだけでなくペットボトルまで詰めたエコバックを軽々と片手で持ち、帰路についてしばらく承太郎の視線に一人の少女が映る。
銀髪の美しい小柄な少女は足が悪いのか杖をつき、重たい足取りで買い物袋を片手に少しずつ歩を進めていた。
買い物袋もなかなかの質量があるのか、体重を反対側に乗せて、全身を使って持っている有様だ。
寮までそれなりに距離はある。
それを見過ごすということは承太郎にとって後味の良くないものを残す。
空条承太郎は正義感もまた、それなりに強いのだ。
「貸しな。寮まで持ってやる。もっとも、アンタが迷惑じゃあねえっていう前提だが」
善意とて押し付ければ受けてからすれば悪意と相違ない。
突然声をかけられた少女は少し驚いたように振り向くと、身長差故に承太郎を見上げた。
「ご親切にありがとうございます。もし宜しいのであれば大変助かります」
柔らかな笑みを浮かべて少女はペコリと頭を下げた。
承太郎は特に何も言うことなく、手を差し出し買い物袋を受け取ろうとする。
それに呼応して少女も荷物を差し出した。
「1年Aクラス坂柳有栖と申します。あなたはCクラスの空条承太郎さん、ですよね?」
「名乗った覚えはねえが?」
「ふふふ、空条さんは有名ですからね。お気を悪くされたのなら申し訳ありません」
悪戯っぽく笑う坂柳の笑みはどこか意味ありげな雰囲気を纏っている。
「初日にこの学校のシステムを見破っていた、と。噂というものの広まる速度は速い物で、初月の答え合わせの際に小耳に挟んだのです。担任の真島先生も開校以来Dクラスが1か月でクラスを上げた歴史的快挙であると賞賛されていました。その立役者であるとも噂されていましたよ?」
「なるほどな」
承太郎は歩みを坂柳に合わせて寮に向かう。
「こうして出会ったのも何かの縁。少し質問させていただいてもよろしいですか?」
「ああ」
「では、お言葉に甘えて。空条くんはこの学校どう思われていますか? 私としては現状では少し退屈しているところです」
「『これから』に期待しているっていうのは同じだぜ」
「ふふ、そうなりますよね。その時がきたらお手柔らかにお願いしますね」
「ああ、胸を借りさせてもらうぜ」
「あら、随分と謙虚なのですね。やはり、噂は噂に過ぎないと言うことですね」
承太郎に荷物を持ってもらっている立場の坂柳だが、だからと言って会話の中で遠慮することなどはない。Aクラスは当然初日に学校のシステムにある程度勘づき、個々人の素の能力の高さと統率により、1000ポイントを丸々ほぼ残しており、現状Bクラスに大差をつけてトップを走っている。
その立場にいる坂柳の一連の発言は嫌味と取られても仕方のないものばかりだ。
しかし、承太郎はそんなものを気に留める様子はない。実際気にもしていなかった。
「ところで、空条くんはどうして私にお声がけを?」
坂柳有栖は生まれつき脚が弱く、杖を使用して生活している。いわゆる先天的疾患と呼ばれるものだ。
そのため、承太郎がしたように坂柳に声をかけるものは意外と多い。
見目麗しい坂柳に近づくため、下心を持って近づく者。
周囲からの評価評判を意識し、善人を気取るための手段として近づく者。
弱者は助けるものと刷り込まれた日本の教育ゆえの自己満足のため近づく者。
純然たる善意でのみ動いている変人。
坂柳の経験上大きく四つに分けられるが、大抵は前者の二つだ。
もちろんそれは、直接的に見聞きしたわけではなく、人間観察能力に秀でた坂柳の観察眼を持ってして導き出された答え——坂柳の——主観ではあるものの、実際のところその通りである。
4種類に分類される人間性だが、答えは皆同じ『困っている人を助けるのは当たり前』これに尽きる。
言い回しに多少の誤差はあるものの、本質に差異はない。
短い時間の観察では、承太郎が異性として接触するため声をかけてきたとは思えないが、クラス間で対立するこの学校で何を考えて声をかけてきたのかが気になった。故の質問だ。
坂柳は好奇心に忠実な少女。並び歩く承太郎の顔を少し前屈みになり覗き見る。
「アンタを見なかったことにしてとっとと帰るってのは俺の心に後味のよくねえものを残す。それだけだぜ」
「ふふふ、随分ユニークな答えですね。ご自身のためとはっきり答えた方は初めてですよ」
表情ひとつ変えずに言った承太郎に嘘偽りはなさげだと驚きながら、坂柳は口元に手を添えて上品に笑った。
「私ばかり質問させていただいていますが、空条くんは何か聞きたいことなどはないのですか?」
「ねえな」
「ない、ですか」
「ああ、Aクラスの二つの派閥の片割れのトップに立つアンタならわかるんじゃあねえか」
「ご存知だったのですか。空条くんも、案外お人が悪いのですね」
「それとこれとは別の話だ」
「確かに、その通りですね」
AクラスがいつからSシステムに気が付いていたのか、中間テストをどのように乗り切ったのか、クラスの現状はどうなのか。
坂柳に聞かずとも保有クラスポイントを見れば答えは明白だ。
加えて承太郎は特に坂柳という少女に興味があるわけでもない。質問がないのは必然といえよう。
これが櫛田や平田であればたとえ理解していても、会話を円滑に進めるために質問しているだろうが、承太郎は沈黙を気にしない。
静寂に包まれた帰り道。
煉瓦で舗装された綺麗な道を鳴らすのは、坂柳の杖。右手に己の、左手に坂柳の荷物を持つ承太郎の横をカツカツと一定のリズムでテンポよく歩く。
「おいおい、いつからCクラスの番長がAクラスの姫の荷物持ちになったんだ?」
その後ろから野暮ったく声をかけてきた輩に反応することはなく、2人は歩みを進める。
「無視ってか? クク、いい度胸してやがる」
声の主が、顎をしゃくるとサングラスをかけた男子生徒が承太郎たちの前に躍り出た。
「
「……やれやれだぜ」
留学生かハーフなのか、明らかに純粋な日本人の容姿ではない、目の前に立ちはだかった生徒が呼びかけると承太郎たちも脚を止める。
かなりガタイの良い生徒だが承太郎には数歩及ばない。
承太郎は坂柳に荷物を返し、自分の荷物を手放して龍園へと向き直った。
「あなたは龍園翔くんですね」
「これはこれは、Aクラスの姫様は下々の名前まで覚えてるのか? 大変だな上に立つってのも。だが、今日はてめぇに用はねえ、すっこんでな」
坂柳の表情が一段険しくなる。
「おい空条、こいつはどういう風の吹き回しだ? 側から見りゃ組長の娘と世話係ってな構図だぜ。Cクラスの連中が知ったらどうなるんだろうな?」
「鬱陶しいぜお前、失せな」
「はっ、てめぇに指図される筋合いはねえよ」
再び龍園が顎をしゃくるといつの間にか龍園の側まで戻っといた男子生徒——山田アルベルトが承太郎との間合いを詰めた。
アルベルトは手の届く距離になると、拳を引き絞った。
承太郎はただただ冷静にアルベルトと龍園の行動を見つめている。
龍園は不敵な笑みを浮かべ、坂柳は荒事には耐性がないのか目を見開いた後目線を逸らした。
その間に限界まで溜めたアルベルトの拳が承太郎に向けて放たれる。
ぶんと布切れ音により空を切ったかの如く感じるほどのスピードで振り抜かれた拳は承太郎が避けることもなく、顔の横を通過した。
「番長つっても、アルベルトの拳にびびって動けないようじゃたかが知れてるなぁおい。赤猿をぶっ飛ばしたって噂はガセか?」
挑発のためか油断からか、顎を上げ両手をポケットに突っ込んだままの龍園が煽り立てる。
「前言撤回するぜ坂柳」
まさか自分の名前が呼ばれるとは思ってもみなかった坂柳は一瞬反応に遅れるが、承太郎からの呼びかけに応える。
「ひとつ質問させてもらうが、さっきそいつが俺を害そうと拳を振るったってのは間違いねえな?」
「そうですね。確かに拳を空条くんに向けていました」
「だ、そうだ。で、だ。てめえら、当てなきゃあ暴行にならない……なんて勘違いはしてねえだろうな?」
「はっ、何を言い出すかと思えばてめえの情けなさを棚に上げて法にかこつけてポイントを掠めようってか?」
龍園はあたりを見渡す。
「第一、監視カメラのないこの場でどう証拠を上げるつもりだ?」
「応える必要はないぜ」
「随分と臆病な番長だな。ええ? 未だ脚がすくんで動けねえってか?」
「竦む? 違うな。殺気も込められてねえ、見え透いた拳を避ける必要がなかっただけだ。フェイントにもなりやしねえ」
承太郎はポケットから両手を出し、アルベルトに徐に近づく。
「オラッ!」
龍園やアルベルトが承太郎が腕を引いたように見えた次の瞬間にはアルベルトの眼前に殺気の込められた拳が伸びてきていた。
その迫力は拳を向けられていない坂柳が思わず後ずさるほどだ。
誰1人反応できない拳がアルベルトの眼前、ほんの数センチの所で止められる。
龍園の額に脂汗が滲み、殺気を向けられたアルベルトはその場に尻もちをついていた。
「クク……バケモンかよてめぇ」
龍園は一瞬で理解した。
アレをモロに受けて意識を保つことのできる人間はそうはいない。そして、自分達がその少数ではないことを。
承太郎は龍園たちに背を向けると坂柳と自分の荷物を持ち再び寮へと歩き始めた。
「個としてのてめえの強さは理解した。だが、ここでのゲームじゃあ支配者じゃねえてめえを堕とす方法はいくらでもある。覚悟しとけ」
「宣戦布告? てめえこそ随分と評判と違って律儀じゃあねえか」
「まぁそういうこった」
龍園の指摘は実に核心をついている。そのことを理解していない承太郎では無いが、現状維持以上のことをしようと動いてはいない。
帰路についてしばらく——
「空条くんは何か格闘技をやっていらしたんですか?」
「いいや」
「そう……ですか」
格闘技を習得せず、どのようにアレほどの戦闘力を身につけたのか聞かずとも理解してしまった故の間。
それから間も無くして寮に着いた。
「ありがとうございました。よろしければお茶でも淹れますよ」
玄関前で荷物を受け取った坂柳は、ペコリと頭を下げた。
「悪いが用がある」
「そうですか、それは残念です。では、お礼はまたの機会に」
1番脚がグンバツの女子生徒は?※承太郎と何かあるわけではない
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堀北
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櫛田
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軽井沢
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佐倉
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一之瀬
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坂柳
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神室
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伊吹
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茶柱
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真鍋
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西野