転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい   作:五段活用

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魔物鎮圧へ

 

「ああ、なんてことだ……!まさか同時に2箇所で<スタンピード>が起こるなんて……」

 

 

 ギルドマスターは絶望した表情を見せる。まわりのギルド職員も纏う雰囲気は暗い。

 

 そんなに深刻なことなんだね、<スタンピード>って。

 

 

「魔物の侵略で受けるであろう被害が大きいのはここ。だからと言ってカーレの森の方を放っておくこともできるわけがない……サトイ君、君はオークやゴブリンを今日何体倒したんだい?」

 

 

「オーク10数体とゴブリン6体です」

 

 

「なるほど。それは魔法で?」

 

 

「はい」

 

 

「ということは魔法が得意なんだね……君、このギルドにある魔力回復ポーションをありったけ集めてダンジョン方向の検問所まで持って来て」

 

 

「は、はい!少し時間がかかりますが……」

 

 

「大丈夫。それは気にしない。サトイ君、ダンジョンの近くまで案内するよ。着いてきて」

 

 

「ぎ、ギルドマスター!危険ですよ!ここは私が」

 

 

「彼が<スタンピード>鎮圧に動いてくれるのにボクが出なくてどうするんだ!……ああ、他の冒険者の統率はサブギルドマスターのガーブに任せると伝えておいてほしい」

 

 

「わ、分かりました……どうかご無事で」

 

 

「もちろん。サトイ君、街の外れのダンジョンの近くまで案内するよ。サラ嬢、ファネル嬢。ここが危なくなったら安全な場所に案内させるよ」

 

 

「そんなわざわざ……ありがとうございます!」

 

 

「ふぅん……ま、サトイなら楽勝だと思うけど頑張ってね〜」

 

 

 あっ、俺の呼び方がサトイになってる。

 

 

「サトイ君、頑張ってね」

 

 

「もちろん。ギルドマスター、行きましょう。一刻も早く魔物を倒さないと」

 

 

「そうだね。あ、ボクはアークでいいよ?」

 

 

「分かりました。じゃ、2人。また後で」

 

 

 ガチャ……バタン。

 

 

「急いで行くから走るよ。ついてきてね」

 

 

「はい」

 

 

 さっき俺たちが来た道を走るギルドマスター、基アークさんについていく。足速えな。魔力で身体強化して追いつくのがやっとだ。

 

 街の通りに出るとすれ違う人たちが振り返ってまで俺たちを見ている。そりゃあそうか。この街で有名なギルドマスターと銀髪の美青年(であろう男)が爆走してたら振り返ってでも見るわな。

 

 俺だって同じ状況なら絶対振り返るわ。

 

 

「道を空けろっ!」

「おおっ!ギルドマスターだ!」

「後ろで走ってる人は誰だろ……?」

 

 

 少しアークさんが速度を落として俺と並走する形となった。

 

 

「どうやら注目されているようだね」

「そりゃあそうでしょう。この街のギルドマスターが爆走していたら誰でも気になりますよ」

「ふっ……確かにそうだね。あ、そこを左に曲がって」

「了解です」

 

 

 言われた通りに十字路をブレーキをかけて左に曲がる。アークさんはスピードを落とさない。そうして意図せず俺はアークさんの後ろの位置に戻った。

 

 それからしばらく……いや結構同じ速度で走っていると遂に検問所が見えてきた。

 

 

「ああ、漸く着いたね」

 

 

「でも本番はこれからですよ」

 

 

 そう、今はまだ検問所に着いただけ。魔物の鎮圧に向かうための中間地点に着いただけだ。

 

 

「そうだね……まずはこの街から出ないと話にならない」

 

 

「おや、ギルドマスター。お出かけされるのですか?」

 

 

 門を守っている衛兵のうちの1人がこちらに話しかけてきた。

 

 

「ああ。少し郊外に用事あってね」

 

 

「なるほど。そちらの方は?随分と美しい容姿をお持ちのようですが……」

 

 

「同伴者です」

 

 

 この人から見えないように《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》から冒険者タグを取り出して渡す。

 

 

「ふむ……君は冒険者なのか」

 

 

「はい」

 

 

「君はあの門を通っても問題ない。もちろんギルドマスターもですが」

 

 

「ありがとう。少しここに残ってもいいかい?」

 

 

「はい、いいですが……」

 

 

 その時、ギルドマスター、とアークさんを呼ぶ声が聞こえた。声が聞こえた方向を見るとエコバッグのような袋を持った男の人が走ってきた。

 

 あれ、これさっき応接室にいたギルドの職員さんじゃないか。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ふぅ、魔力回復ポーション、お持ちしましたっ!」

 

 

「ありがとう。助かったよ。ではサトイ君」

 

 

 エコバッグを受け取ったアークさんに行こうか、と声をかけられる。

 

 

「そうですね。ありがとうございます」

 

 

「ぜぇ、はい!こちらこそ!行ってらっしゃいませ!」

 

 

 門兵とギルド職員の人に見送られながら門を通る。

 

 

「あ、ギルドマスター。お気をつけて」

 

 

 門の外にいる門兵にも声をかけられるアークさん。やっぱり慕われてるんだなぁ。

 

 それから2時間ほど進んだ時、アークさんが突然動きを止めた。そして《探知》と唱えた。この人、魔法使えたんだね。

 

 

「……ここなら誰もいないね。さてサトイ君。この魔法袋は収納魔法を応用して作られたものなんだ。この中には魔力回復のポーションが入ってる。半分ほど出すから君の収納魔法で受け取って」

 

 

「分かりました。ここにポーションを入れてください」

 

 

 そう言って手の上に黒い亜空間を出す。アークさんが魔力袋からポーションを出す。

 

 

「ここにポーションを入れたらいいんだよね?」

 

 

「はい」

 

 

 アークさんがポーションを黒い亜空間に落とすと同時にもう片方の手にポーションを出す。そして収納する。

 

 

「今みたいにちゃんと出ますよ」

 

 

「へえ、凄いね……どんどん入れちゃうよ」

 

 

 それから魔力回復のポーションと治癒のポーションを計10数個ほどもらった。ちなみに使わなかったポーションはそのままもらっていいらしい。魔力回復のポーションは多分出番ないけど、治癒のポーションは使う可能性が高いから特にありがたい。

 

 

「これでポーションは渡したし、先を急ごう」

 

 

 さっきと同じようにアークさんの後ろをついていく。しばらくすると前とは違う景色が広がっていた。

 

 まわりが低木ではなく高木が生えている。太陽の光が遮られ、涼しい。こんなところに魔物の大群がいたら地形破壊せずに戦うのはほぼ不可能だろう。あと空を飛んでたら絶対魔物の存在に気づきにくいな、ここ。

 

 

「ここを抜けると学校の戦闘施設がある」

 

 

「学校の、ですか」

 

 

「うん。王立イースフィールド学院というところの施設なんだけどね。そこは3階建てで屋上から遠くの様子まで見える。だからそこに向かってる」

 

 

「それは確かにいい場所ですけど……そこに生徒はいないんですか?」

 

 

「いないよ。そこは普段は使われないからね。教師はいると思うけど、戦闘施設の教師だし……」

 

 

「大丈夫そうですね」

 

 

 さすがに戦闘施設の教師なら低ランクの魔物に囲まれても自衛はできるだろう。

 

 

「多分。もしかするとボクたちに協力してくれるかもしれないね」

 

 

「そうだと少し楽でいいんですけどね」

 

 

「そうだね。あ、言い忘れてたけどもうすぐでこの森林も抜けられる……見えてきたね」

 

 

 前には木がなく光の当たっているある程度整備された道。その奥には立派な門と大きそうな建物。

 

 早速門前に移動する。そして門を飛び越える。

 

 

「ここですね?」

 

 

「うん。そうだけど入る方法間違ってない……?」

 

 

「これ以外に入る方法見当たらなかったので」

 

 

「それもそうだね……っと」

 

 

 ちゃっかりアークさんも門を飛び越えて門の内側に侵入した。いや、あんたもそうするんかい。

 

 

「ちょっと待ってね……《探知》」

 

 

「この近くには誰もいないみたいだ」

 

 

「それはある意味良かった……早く屋上に行きましょう」

 

 

「そうだね。階段は……あそこだ」

 

 

 建物に沿ってある非常階段が見える。俺が地球時代に住んでたアパートもあんな階段だったなぁ。何だか懐かしい。まあ使いませんけどね。

 

 

「ふっ……っと」

 

 

 魔力での身体強化で一気に屋上まで跳ぶ。階段上がって行くよりこれの方が断然早いんだよね。さすがにこのレベルの身体強化は魔力の消費量が普通の人からしたらかなり多いらしいけど、俺の莫大な魔力量の前では問題にもならない。

 

 屋上から森林と反対側の景色を見る。いい眺めだけど、遠くに点で見えるものの集まりがある。そしてそれには大量の魔力の塊が感じられる。

 

 この量の魔物を見てたら俺の眼と脳への負担が大きくなる。それが続けば頭痛くなるから視界に大群を入れないようにする。

 

 

「さ、サトイ君。君、規格外すぎない……?」

 

 

「そうですかね。ただ魔力で身体強化をしただけなんですけど」

 

 

「君の魔力は一体どうなってるんだ……あれほどの能力になるなんて」

 

 

「それはそうと、魔物です。魔物見えましたよ」

 

 

「もうそんなところまで来ているのか……」

 

 

「ここからの攻撃は相当な射程のものでしかできませんね」

 

 

「ボク、基本的に近距離戦闘しかしないから遠距離攻撃は弓矢か銃くらいでしかできないよ。それに今は持ってないし……」

 

 

「僕は遠距離攻撃できる魔法、使えますよ」

 

 

 おそらく魔導書に載ってなおオリジナルの魔法だけど。魔法はイメージって著名な宮廷魔術師も言ってるし、特に特殊な効果のない魔法なら自ら作るのは可能だ。

 

 

「地形を変えてしまいますが」

 

 

「ち、地形が変わる!?そんな高威力の魔法を使えるのかい?」

 

 

「はい。尤も魔物の死体は跡形もなくなりますが……」

 

 

 地形を破壊するほどの威力だからね。魔物の死体なんて魔石ごと粉々になる。

 

 

「できる限り威力を抑えて使ってくれないかい。この手を使わなければボクたちには近接戦闘をするしか選択肢がないからね」

 

 

「分かりました。今から準備しますね」

 

 

「うん。あ、少しだけ待ってほしい。何かがこちらに向かって来てる」

 

 

 森の方向からこちらに飛んでくる複数の物体が確認できた。

 

 

「あれは……」


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