転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい 作:五段活用
その複数の飛行物体は屋上の上で八の字を描きながら旋回する。黄と黒のストライプのボディを持つこの生物はよく見知ったものだ。
「こ、これは一体……?」
「フェザー・ホーネットですよ」
「あ、あのフェザー・ホーネットかい!?遭遇したら幸せになれるって言われてる!」
「そ、そうなんですか……ん?」
旋回を終えて着陸した先頭のフェザー・ホーネットは何か言いたげだ。というか何かなかったらわざわざここに来ないよね。
『ボス。報告に参りました』
『何があったの?』
『まず、カーレの森の大量の魔物は魔狼族や我が軍団によって制圧されました』
『お、あいつらやってくれたんだな』
またオーカたちには高級肉でもあげようかな。ヒメさんたちには……高ランクの魔物の魔石でもあげるか。魔石は生きるためのエネルギーになるらしいし。
『しかし、この奥にあるダンジョンから溢れ出した魔物はこちらに向かっている数千の魔物の他に近くの町に向かう100体ほどの魔物が確認されました』
『ここから見えるだけがすべての魔物じゃないと?』
『はい。こちらに向かう魔物は見えているものがすべてですが』
『ふむ……とりあえずこの人にそのことを伝えるわ。ちょっと待ってて』
『御意』
「アークさん、ここから見えている魔物こちらに向かう魔物のすべてだそうです」
「まさか……フェザー・ホーネットと交信をしたのかい!?」
「はい」
「君はほんとに規格外だね。君には毎回驚かされるよ」
「はは、そりゃどうも。そろそろ撃つ準備しますね」
まあ準備と言っても少し魔力を貯めるくらいなんだけどね。
こうして俺たちか話している間にも魔物の大群は近づいているのだ。それにこれの他にも魔物がいるらしいから、早く片をつけなればならない。
「うん、頼むよ」
「少し離れておいてくださいね」
『俺の後ろに下がっといてな』
アークさんへのことばと同時にテレパシーを送る。
『了解です。ボスの指示、聞いてたな?』
『もっちろん!』
『あたりめーだ!』
「……よし、遮蔽物はないな。はぁ!」
魔力のエネルギーを溜め始める。すると10秒ほどで目的の量が溜まった。それと同時に建物が少し振動する。
「シィィ……(ゆ、揺れてる?)」
「な、なんて凄まじい力だ……」
魔力が溜まったので、次はピンポン球ほどの大きさに圧縮する。このとき、俺の意思で溜めた魔力のエネルギーが球から放出されるようにイメージをする。これで発射の準備はできた。
「今から撃ちますけど、いいですよね?」
「う、うん。いつでもいいよ」
「じゃあ行きます」
球は魔物の大群に向かってゆっくり放物線を描いて飛んでいく。
「これで後は待つだけですね」
「え、ええ……?」
そう、あの球が魔物の大群の中心付近に行き着くまでただひたすらに待つだけだ。
「……あ」
ピカッ……キュイイイイン!
圧縮弾は最初に眩い光を出し、魔力のエネルギーを放出し始めた。
「こ、これはどういう魔法なんだい?」
「……えーと。魔力を圧縮した球を今のように、って見えないか……まあ細工した魔力球を破裂させる魔法です。疑似爆裂魔法、とでも言いましょうかね」
「疑似爆裂魔法……凄まじいな」
「僕自身でも驚いてますよ……終わったみたいです」
魔力の放出が終わった。魔力球の爆心地であろう場所はここから離れているが、くっきりとクレーターが見える。
「……魔力反応が消えました。魔物は全部倒せましたよ」
俺の眼では爆心地周辺の魔力の反応はなくなった。これは魔物が残っていないことを意味する。
「広範囲の探知スキルかい……?」
「まあ、そんなものですね」
眼の能力だけど、一応隠しておこう。異端な能力が知られると後に面倒だし。
「多彩だね。もう君1人で……いや、なんでもない」
「?1人で?」
暗い雰囲気でそう言うから、少し心配だ。
「いや、本当になんでもないから。大丈夫だよ?」
「そ、そうですか」
そう言われると気になってしまうんだよね。でも聞かなくて良かったような気もする。
すると、この微妙な雰囲気を察してか後ろにいるフェザー・ホーネットが前に出てきた。
「シィィ……!(ボス、残りの魔物が向かった場所へ案内します)」
「……アークさん。こいつら、残党の向かった場所に案内してくれるそうです」
「それはありがたい。本当に助かるよ」
「それはそうとアークさん、ここから飛び降りることできますか?」
「え……うん。できるよ」
「分かりました」
『じゃあ出発していいよ』
『了解です!行くぞおまえら!』
『オウッ!』
『よっしゃ行くぞ!』
「行きましょう」
フェザー・ホーネットたちが動き出すのを見て飛び降りる。アークさんも容易く飛び降りてるから、こういうのには慣れているのだろう。
「は、速いね」
「このペースきついですか?」
「いや、大丈夫。こんなスピード出して走るの久しぶりだからさ。ちょっと感動して」
ほほう、この人は昔は戦闘系の職に就いてたのかな。てか感動って何ですか。まさかこの人、ちょっとおかしい人……?
「そういえば今向かってる方向に人の住んでいる場所ってありませんよね?」
「……辺境伯領にはないよ。でも辺境伯領の先、騎士爵領にはそこそこな規模の村がある」
「なるほど。そこまで魔物が行き着いてないといいですが……」
なんせ<スタンピード>が始まってから数時間が経過している。それだけの時間があったら遠くまで行っていても不思議じゃない。
それにその村の防衛能力があると考えても数百もの魔物の襲撃に耐えきれる可能性は限りなく低いだろう。
そこに魔物が辿り着く前に……あれ?これ走ってて間に合うか?
「アークさん、その村って上空からよく見えますかね」
「え?うん。木はそんなに生えてないし、よく見えると思うよ?」
「この方向で一番最初に見えた民家群がその村なんですよね」
「?そうだよ」
「なるほど。なら大丈夫だ」
「?」
「あ。僕、今から先に飛んで行きますから」
「え、ええ……?」
「今人が魔物に襲われてるかもしれないと考えるとどうしても早く行きたいと思いまして」
「だから飛んで行くの……?」
「はい。前の奴らについて行けばきっと大丈夫ですから」
『俺がいなくなったらペース落として。多分この人疲れてきたと思うから』
『了解ですボス』
「じゃあ、行ってきます。ふっ……《
足に思いっきり力を入れて跳ぶ。それと同時に翼が生成される。そして魔力を噴射し、空を飛ぶ。スピードは走っている時と比べものにならないくらい速い。
「これなら上空から効率的に探せそうだ」
「くそぉ!なんて量の魔物だ!」
「オレたちだけじゃどうにもならねえぞ……!」
サトイ一行が目指している村、ランダール村では既にゴブリンやオークといった魔物の襲撃に遭っていた。
ランダール村はアーレスド騎士爵領の唯一の村で、もちろん騎士爵一家もこの村に住んでいる。村人もそこそこの人数住んでいるが、草原の中にある村だ。道もきちんと整備されていないため、交通の便は悪い。
「シスターリューネ!こいつらを頼む!」
「はいぃ!」
前線から怪我をして領主宅前の広場に運ばれてきた村人に治癒魔法をかける少女。名前をリューネと言う。
彼女は村の唯一の治癒魔法使いで、普段は教会でシスターとして働いている。
「《ヒール》!」
彼女が治癒魔法をかけた男は腕を中心に切り傷が酷かったが、すっかりその傷は消えてなくなった。
「すまねえ、ほんとに助かった」
「これしかわたしはできないので。お役に立ててよかったです!」
申し訳なさそうに礼を言う男に少女は微笑んで答える。
ガチャン!
「なんだ平民ども!さっき騒がしいぞ!」
細身の男が領主宅から出てきた。この男はミヤーセ・フォン・アーレスド騎士爵。村とそのまわりの領主である。
「領主様!実は大量の魔物が押し寄せてきていまして」
怪我が治った男は必死にミヤーセに訴える。しかしミヤーセは何処吹く風と言った表情だ。
「お前たちで対処できないのか」
ミヤーセは男に馬鹿にするような視線を向ける。
「はい。全力を尽くして魔物の鎮圧しようと奮闘していますが……領主様!どうにかしていただけませんか!」
「あの……わたしからもお願いします!」
男が頭を下げるとそれに続いてリューネも勢い良く頭を下げる。
「ふむ……ではお前たちは俺に何をしてくれる?人に依頼をする時は報酬が必要だ」
「ほ、報酬……?」
「そうだ。それがなければ俺は何もしないぞ」
「そっ、そんなっ!領主様!魔物を鎮圧しなければ村に住む人たちも領主様も命は助かりませんよ!」
「なに、俺は馬車で逃げられる。この村を捨てても問題はない」
実際、問題がないわけではない。何せ彼の領地内の有人の村はここしかなく、この村が壊滅すれば領主であるミヤーセは税を取ることができない。よってミヤーセは命は助かったとしても今までの生活水準を保つのは難しいだろう。
「では何をすればよろしいのですか?」
「そうだな……シスターリューネ、お前が俺の妻になれ!そうすれば村は守ってやる!」
ミヤーセ騎士爵はニヤリと笑みを浮かべて決めゼリフを放つように言う。
彼は子どもの頃から彼の父親に剣術を習っていた。そしてその才能があり、幼少期で単体のゴブリンを1人で余裕を持って倒せるほどの実力を持っていた。今も鍛錬は欠かすことなくしている。
しかし今回は相手は数百の魔物だ。彼と騎士爵家に雇われている冒険者数人が全力を尽くしても、彼らだけで魔物を鎮圧することはできない。現在前線で戦っている村人と協力すれば鎮圧できるだろうが、プライドが高く村人を平民と見下している彼のことだ。
きっと1人か雇っている冒険者たちと共に魔物を迎撃しようとするだろう。
「わ、わたしが?」
「そうだ!さあ、お前はどちらを選ぶ?」
「わたしは……」
リューネがそれに答えようとした時、さっき彼女に傷を治してもらった男は空を見上げていた。
「なんだ!人が飛んでるぞ!」
男は彼女の答えを遮るように叫ぶ。リューネ、怪我人を運んできた男、そして騎士爵の3人は同じように見上げる。その視線の先には銀髪の青年の姿がある。