転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい 作:五段活用
「さて、どーしようか……」
とりあえず湖の水を飲むには毒を取り除かないといけない。今の俺には毒を無効化できる魔法がないからだ。というか治癒魔法を使えない。
ということで現在、毒を取り除くのに使えそうな魔法を探している。
「爆裂……冷却……音破……分離……分離?」
【分離】
【対象から特定の物質とそれ以外の物質、または特定の性質を持つ物質と持たない物質を分離する。そしてどちらか一方を魔力を使って操る】
これは使えそうだ。これを使って毒とそれ以外の物質に分けて《
やり方は決まったし、後はやるだけだ。
「……対象:カーレ湖の水、分離対象:有毒物質。分離、発動」
湖の水の茶色い濁りはだんだん俺の足下に集まってきた。何かドロドロしている。これが毒なのか。毒よりヘドロって感じだな。
「《亜空間物質収納術》」
毒の塊を収納する。
「《鑑定》」
湖の水に《鑑定》を使う。毒はないといえども、念のために。
ピピピピピピ……デン!
【カーレ湖の水】
【綺麗な透き通った水。野生動物を引き寄せる力を持つ】
へえ、ここの水ってそんな能力あったんですか。知らんかったわぁ……とりあえずここの水は危険じゃないことが分かったし、飲もう。
両手で水を掬って、口元に持ってくる。
「おお……!美味い!」
やばい、水がめっちゃ美味い。村の井戸水なんかと比べものにならんくらい美味い。もう1度水を掬って、飲む
「これは毒取り除いた甲斐あったなぁ……」
「ウォン!ワォン!」
「!?な、なんだ」
いつの間にか横に結構大きな狼がいた。そして身体を擦り付けてくる。ちょっとこいつが何をしたいのか分かりません。ハイ……《テレパシー》を使ったらこいつと意思疎通出来るかな……。
『あ、あ……君、聞こえる?』
『おう、聞こえるぜ』
あ、聞こえるんだ。《テレパシー》って動物にも使えるのね、理解理解。
『なら良かった。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、なんで君さっきから身体を俺に擦り付けてんの?』
そう、こいつは俺が《テレパシー》を使おうとした時からずっと身体を俺に擦り付けているのだ。
『ん、ああそれはな……特に理由はないぜ』
いや、ないんかい。
『それにしてもあんたすげぇな!』
『え、何が?』
『ここの水の毒取ってくれただろ!前にミヤコってとこの人間が来たんだけどな、何も出来ずに帰ったんだ』
『へえ、そいつは余程使えねえやつなんだな』
実際は結構強い人かもしれないけど。魔法能力超強化された俺がレベチなだけかもしれないけど。
『ハハッ!あんたおもしれぇな!ミヤコの軍のセイエーを使えねえって!』
『てかミヤコってどこ?』
『……あんた、国の首都も知らねえのか!?ハハッ!』
ん?ミヤコって国の首都で、そこの軍の精鋭が出来なかったことを俺がやっちゃったってこと?要するに……。
『俺って結構強い?』
『ハハッ!あんた自覚なかったのか!』
『ハイ……』
まさか一段階目の強化がこんなに強力だと思わなかったんですよ。
『俺、あんたのこと気に入ったぜ!』
狼がそう言ってくっついてくる。ということで、さっき遭遇した狼に気に入られました。パチパチパチ。絶対こいつ熱血だよなぁ……。
『お、おう。そうか……ちょ、分かったから離れてくれ。暑い』
『わりぃわりぃ。あ、そういえば名前言ってなかったな。俺、オーカって言うんだ。あんたの名前は?』
『サトイ』
『サトイ、か。良い名前だな』
前世から変わらない名前ですよ、とは言わない。
『あ』
『?どうした』
『仲間連れてくるわ。すぐ戻ってくるからあんたはここで待っててくれ』
『唐突だな……』
そうして狼、もといオーカは森の奥に走り去って行った。これから少しはひとりの時間だ。何をするか……。あ、さっき取った毒出すか。
『《亜空間物質収納術》』
漆黒の空間から毒を取り出す。漆黒の空間というのは亜空間のことだ。
『《鑑定》』
ピピピピピピ……デン!
【毒の混合物】
【主成分はトクシックトカゲの毒。水溶性。触れるとその箇所を痺れさせる。表面麻酔などに使われる。成人男性の摂取致死量35グラム】
ふむふむ、これは使えそうだ。これを純粋なトクシックトカゲの毒に分離すれば麻酔の原材料として売れる。見た感じ結構量あるしこれは金がガッボリ稼げそうだ。
『おーい、連れてきたぞー』
『はや、もう来たのかよ。というか数多くねえか?』
『すげぇだろ?俺こいつらの族長なんだよ』
『へえ……あ、これ片付けないとな。《亜空間物質収納術》』
触れたら身体を痺れさせる毒、これをあの狼たちが触れたら拙いからな。危険物は触れさせない。
『なあ、今したんだ?そこにあった物が黒いやつに吸い込まれて消えたけど』
『ただの収納魔法だよ。ちなみにさっき収納したの湖の毒な』
『なに、さっきの茶色いものが毒?土にしか見えなかったが……』
『うん、まあそんなもんだよ。主成分はトクシックトカゲの毒だし』
『トクシックトカゲ……ああ、あの水辺にいる毒トカゲか。俺たちのいい栄養素だったが最近いなくなったんだよなぁ』
要するに食い尽くしたってことか……。でもこれで湖に毒が大量混入することはなさそうだな。
『というか後ろの狼たちめっちゃ暇そうにしてるぞ。放っておいていいのか?』
『あ……お前ら!待たせてすまん!でもちょっと俺の話を聞いてくれ!』
あ、やっぱり忘れてたのね……。こんなのが族長で大丈夫なんですかね?
『お前らに紹介したい人がいる。俺の前にいるこの男。名をサトイという。湖を汚染してた毒をたったひとりで取り除いた』
『俺はこのサトイを俺たちの頭にしたい。お前らはそれでもいいか?』
え、そんなの聞いてないんですけど。
『え、湖の毒をひとりで?すげぇ人じゃん!』
『アニキが頭にしたい人ならいいぜ!』
『いいに決まってんだろ!』
あれ、オーカって意外と慕われてんのか?
『……この中でサトイを頭にするのが嫌なやつはいるか?』
しーん。
『そうか。なら俺たちはサトイを頭にする。決定だ!ということでサトイ、何か言いたいことはあるか?』
おいおい、急に俺に振るなよ……。というかなんで俺がこいつらの頭になることに……?まあいいか。
『あ、えーと、よろしくお願いします?』
あ、疑問形になっちゃった。隣にいるオーカが笑い出した。
『ハハッ!なんで疑問形なんだよ!とりあえずここにいる全員あんたの部下だから。これからよろしく頼むぞ、ボス?』
はあ、ボス……ね。
『まあ、なるようになるか。じゃあ、解散!』
『え?』
『解散。集まってもらったけど、俺家に帰りたいし』
あまりに遅いとユナを心配させるし。魔法は……そんなに使えなかったけど。
『あ、ちょっと待ってくれ!』
『ん?どうした』
『主従関係の契約をしておきたいんだ』
『いいけど……お前契約魔法使えるのか?俺多分使えないぞ』
主従関係や眷属関係の契約には契約魔法を使う。でも1回目の超強化にはこれはなかった。
『俺は使えるんだ!いいなら始めるぞ!《
俺とオーカの足下に魔法陣ができる。そしてそのまわりに狼たち。いやお前らまだ帰ってなかったんかい。
『我、オーカは汝、サトイに主従関係の契約を申し込む』
『受託する』
足下の魔法陣が光りだしてそこから出る白い魔力が俺たちを包む。しばらくすると魔力は消えて魔法陣も消える。
『……なあ、これで終わったのか?』
『ん、ああ。終わったぜ』
『そうか。じゃ、また近いうちに来るから。《
魔力で翼を作り、翼をはばたかせる。
『うおっ、でけえ翼だな』
『あ、これ小さく出来るぞ。ほら』
流す魔力の量を調節して翼を小さくする。そしてまた大きくする。
『すげぇな!やっぱりあんたをボスにして正解だった!』
『そうかい……じゃあな』
翼から魔力を地面方向に噴出して飛ぶ。ある程度の高さに来たら魔力噴出を横方向に切り替える。
それにしても今日は色々濃い1日だったな。起きたら神様からの手紙であと4回強化を残してることが分かったし、水飲みたくて湖の水を綺麗にしたらなんか狼たちの頭になるし……。
さっきまでずっと寝てたけど、今日はぐっすり眠れるような気がするわぁ……。