転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい 作:五段活用
「ここがサトイ君の行きたかった場所?」
「そうだよ」
「綺麗な湖……こんな場所にあるなんて」
「普通こんな森の中にあるのは気付かないよね」
「どうやって見つけたの?」
「適当に森の上を飛びまわってたら見つけたんだ」
『お、ボスじゃねーか!最近森に来ねえから心配してたんだぞ?』
『ボスだ!久しぶりの生ボスだ!』
『オレコミュニティの奴ら呼んでくるわ!』
よく知っている個体の狼が複数いた。いや二番目の君、生ボスって……。俺アイドルじゃないんだしさ。あとコミュニティってのはこの狼たちと同じく俺の部下になった奴らの総称だ。5年間に色々あったんですよ。
「お、おおお、狼!?こ、怖い!」
そう言って俺の後ろに隠れるサラ。まあ普通の個体よりだいぶおっきい奴らだからね。
「あー、サラ。大丈夫だよ、こいつら俺の下僕だから」
『下僕じゃねえよ、部下だからな』
「な、なら大丈夫なの?」
「うん。あ、こいつモフってみたら?」
今いる奴らの中で1番デカいリーダーオーカを指さす。
「わぉん」
「いいの?」
「わふっわふっ」
「……わっ!やわらかい!」
オーカがやわらかいのを確認してから身体をオーカにうずめるサラ。幸せオーラが感じられる。
『わお〜ん(ボス!お久しぶりです!)』
一番前にいる狼からテレパシーを受け取る。名前は炎帝。狼たちの四天王的な立ち位置の奴で火属性の魔法を使う奴だ。その後ろには大勢の狼。多分一族郎党全員連れてきたんだろうな。
『それって全員?』
『はい!フェザー・ホーネット集団に声をかけてきたのでそいつらももう少しで来るはずです……ところでアニキに埋まってる女は知り合いですか?』
フェザー・ホーネットというのは羽毛のような毛に覆われたハチのことである。ミツバチのように蜜も作るし、スズメバチのように毒も持っている。いわば万能バチだ。
『そうそう。サラって言うんだ。ちょっと俺サラ止めてくるわ』
「サラさ〜ん?そろそろ元に戻ってくれないかい?」
「はっ!私は何を……」
「そこの狼を全力でモフってたんだよ」
「あ、狼さんごめんなさい」
『気にすんな。ボスが気を許した方なら全然オッケーだぜ』
「サトイ君、信頼されてるね」
「あ、ああ……サラ、こいつの声聞こえるの?」
「はい。心に語りかけてくるような感じで」
へえ、サラも《テレパシー》使えんだね。
「サトイ君の後ろにいる子たちも仲間なの?」
「そうだよ……あ、新しいのが来た」
空間識覚でこちらに向かってくる飛行体を複数確認した。
『キィィィ!(ボス!お久しぶりです!)』
「えっ!?フェザー・ホーネットまで従えてるの!?」
「あ、うんそうだよ」
《テレパシー》で1番前のやつに話しかける。
『調子どう?ヒメさんもみんなも元気かい?』
ヒメというのはフェザー・ホーネット軍団を従える女王バチのような存在だ。
『はい!みんな元気に甘い蜜を作ってますよ』
『元気なら良かった』
『ところで情報収集の依頼はないですかね?』
フェザー・ホーネットは素早く飛ぶことができる。また、温厚な気性をから、人は彼らに対してほとんど脅威認定していない。そのため近くの魔物の湧き場である迷宮や村の様子を観察してもらったりしていた。
『今のところはないね……』
『あ、あと俺この子と旅に出ることにしたからさ。しばらくここには来ないよ』
『なるほど……しばらく会えないのですね』
『ま、なんかあったら《テレパシー》送って俺んとこに来て。位置は分かるだろうから』
『了解、ヒメにもそう伝えておきます』
『頼んだ。じゃ、俺たちもう行くから』
「サラ、屋敷に旅の許可取りに行こうか」
「……また飛ぶ?」
「いや。こいつらのうちの誰かに乗って行く。サラはこいつに乗ったら?」
サラのモフりから解放されたオーカを指さす。
「こ、この子に?いいの?」
『ということで、頼んだオーカ』
『あいよ!お嬢は俺に任せとけ!』
いや、オーカよ。お嬢ってヤクザかよ。
「いいってさ。乗っていいよ」
「お、お邪魔します……?」
「わぅんわぅん」
「ちゃんと乗れた?」
「うん」
「落ちるかもしれないからちゃんと掴まっときなよ〜」
『……炎帝。乗ってもいい?』
『じ、自分ですか?』
『あ、乗られるの嫌だった?』
『そんなことありません!自分では役不足かな、と思いまして……』
いや、君が役不足ならリーダーのオーカ以外全員役不足ってことになるからね。
『いやいや、それはないから安心して。じゃ、乗るよ?』
『は、はい!』
んー、相変わらずフカフカだねぇ。
『ん、よし……じゃあ、村の方に向かって』
『了解です!』
炎帝は走り始めた。どんどん加速していくが、木にはぶつからないように上手く走っている。俺も最初は木にぶつかるんじゃないかとヒヤヒヤしてたがこいつらは上手く全部避けるし、この運転(?)に慣れた。
「えっ、木にこれぶつからないよね……キャアアア!」
これ俺が飛んで抱えてるほうがましだったかな……。判断ミスったな。
「もう声枯れそう……」
「ははは、そりゃああんなに叫んだらね」
途中の町で時々休憩を挟みながらなんとか昼前にグリンファルド家の屋敷に着いた。
『お疲れ様』
手の上に直径1メートルほどの円形の亜空間を出現させる。《
『この中に新鮮な生肉あるから。食べ終わったら出口の輪っかが見えるはずだからそこから出て』
『本当ですか!?』
『それはありがてぇな』
そうして2匹は素早く輪に入っていった。急がなくても肉は逃げないのになぁ。
「ごめん、待たせたね」
「う、うん……い、いまのって」
まるで信じられないものを見たかのような表情をしているサラ。
「ワープできる穴?みたいな物だね」
「ワープ……まさか空間転移魔法!?」
「まあ……そうだね」
厳密に言えば輪のある地点と特定の地点を亜空間を通して繋げる、というものである。亜空間内でいる間は現実世界で時間が経たないため、ある意味テレポートと同じことになる。
「あら、お嬢様。それにサトイ様まで。旦那さまは執務室にいらっしゃいますよ」
結構な回数この屋敷にお邪魔してるから1部のメイドさんには認知されてるんだよね、俺。今話しかけてきたのはルベルトさんの側近のメイドさんだ。
「そうなのね。今お邪魔しても?」
「確か今休憩されているので……」
「ならお邪魔させていただくわ。行こ、サトイ君」
「あ、ああ」
あっさり面会OKである。
コンコンコン。
「お父様、私です」
「入ってくれても大丈夫だ」
「失礼します」
「ああ、サトイ君。いつもサラを送ってくれてありがとう」
「あたりまえのことをしただけです」
「はは、紳士だね……ところでサラ、何かあったのかい?」
「……サトイ君、これから帝都を目指して旅をするんです」
「そうなのか」
「はい。少し帝都に用事ができまして」
「その旅に私もついて行きたいんです!」
「……そうか」
「その許可をいただきたいんです」
「サラが自分のしたいことを言うなんて、久しぶりだな」
サラ、欲あんまり出さないもんね。
「サトイ君。サラを頼むよ」
「ということは、いいのですか!?」
「ああ。ただし、サトイ君もだが危険な場所には行かないことが条件だ」
「やった〜!これでサトイ君について行ける!」
嬉しいのは分かるけれども抱きつかないでくれませんかね。ルベルトさんの視線が痛いんでね。
「そ、そうだけど……離れてくれ」
「あっ、ごめんなさい」
「ん"、う"う"ん"!ふたりとも、旅の前にご飯を食べていきなさい」
このあとめっちゃ食べました。もちろん美味しかったです。