転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい 作:五段活用
「え……信じてなかったの?」
「……ふつう喋る剣に『私人になれます』って言われても信じられないからね?」
そもそも喋る剣って時点で普通じゃないから。
「むぅ……マスターはあたしのこと信じてくれないんだ」
頬を膨らませる少女。色白の綺麗な肌、赤みがかった黒髪をツインテールでまとめている彼女がそれをやれば当然……。
「かわいい」
「なっ……!べ、別にそんなこと言われたってうれしくないんだからねっ!」
目に見えてうれしそうだけど。照れ隠しがテンプレすぎるぅぅ!
「はいはい。うれしくてもうれしくなくてもどっちでもいいからさ……。とりあえず君の名前を決めないとね」
「何か軽くあしらわれてる感がする……でも名前は大事だね〜」
君、他人事みたいな感じだけど決めるのは君の名前なんだよね。
「……で、なんで俺を見てんの?」
「マスターが名前を決めてくれるのを待ってるの」
「……あ、俺?俺が決めていいの?」
「ウン」
うーむ。そうは言っても難しいものだ。元は刀剣だし、人としてもおかしくない名前を付けないといけないからな。
「『ファネル』なんてどうだ」
人の名前かつ刀剣の名前で通じる名前はこれしか思い浮かばなかった。
「ファネル……いい名前だね!」
「お、おう……気に入ってくれたんなら良かった」
「ほんとにありがとっ!」
「わっ!ちょ、抱きつくなって!」
コンコンコン。
「サトイ君、入ってもいい?……サトイ君?」
あ、これヤバいやつだ。この体勢をサラに見られるのはヤバいぞ。
「ちょ……お前離れるか剣に戻ってくれ……」
「え〜?どうしよっかな〜?」
「おい!まじで離れろ!」
「サトイ君?入るよ?」
ガチャ。
「サトイ君だいじょ……な、ななな!」
「サトイ君が部屋に女の子連れ込んでる!?」
「ちょ、誤解だから!」
「サトイ君がそんな人だったなんて……!」
「ほんとに誤解だから!」
「な、なるほど。そちらのファネルさんは人化している刀剣なんですね……」
今にも泣き出して走り出しそうだったサラを引き留めて何とか誤解を解いた。その代償にかなりの時間を使ったが。
「うん。こいつも初めての人化で俺との距離感が分からなかったんだろうね」
「これからは気をつけます……」
ほんと頼むよ。君のせいで誤解されるのはもうこりごりだからね。
「でも、同世代の友達ができたはうれしいよ!」
「恋のライバルかもしれないよ……?」
「むむむ、それは考えてなかった……強敵の予感がする」
何か俺が聞いてはいけない話をしているような気がするのは気のせいだろうか……?いや、気のせいじゃないな、うん。
「それはともかく、これからは旅の仲間としてよろしくね!」
「こちらこそ〜」
出会いは最悪だったけど、穏便に終わって良かったよ。
「じゃ、ファネル。元に戻って」
「は〜い」
ファネルの身体は光りだし、やがて小さくなる。そして光が収まり、光源には刀剣があった。
「《
それを拾って黒い空間に入れる。
「……いつ見ても規格外だね」
「でももう慣れただろう?」
「まあね。でもやっぱりサトイ君は凄いなぁって」
「……それ、いつも言ってくれるよね」
「うん。いつも見てることでも改めて見ると感心するの」
「そうかい」
「サトイ君の魔法だけだけどね。あ、もうこんな時間!」
「あらら。明日もあるし、もう戻った方がいいかもね」
「そうするね。じゃ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
ガチャ……バタン。
あいつに名前は付けたし、やることはない。寝間着には着替えてるし、寝ますかね。
あれ、なんだか目の前が暗くなってきた。せめて布団まで行きたかったけど無理そうだな……。
「はっ!」
「あら、やっと目を覚まされましたか」
周りを見渡すと一面に白。そして見覚えのある少女。
「もしかして……俺を転生させた神様?」
「ええ。お久しぶりですね」
「うん。久しぶり。今回はどんな用件で?」
「あの子からの報告であなたの《鑑定》が神級……いわば魔神に対抗できる武器や装備や素材へ使えないようでしたので今回はその状態を改善するためにお呼びしました」
「ふむふむ」
「それと今回のお詫びに便利なスキルを付与しようと思いまして」
「え、お詫び?」
「はい。本来あなたに付与するのは《鑑定》は存在するすべてのものの能力が分かるものだったのです。しかしそれができていなかった」
「だからお詫びなの?」
「ええ。もしあなたがそれを受け取りたくないと言っても拒否権はありませんからね」
そんないい笑顔しなくても俺はちゃんと受け取るからね?
「あ、そう。ありがたくいただくわ」
「ありがとうございます。それではあなたには《変装》を授けます」
「……これはどんなスキルなの?」
一応聞いておかないとね。名前からして変装できるんだろうけどもしかしたら裏機能があるかもしれないしね。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。このスキルは魔力を消費することで服装、容姿、声、性別などを一時的に変化させることができます」
ふーん、チートじゃん。というかそんなスキル俺に与えても世界のバランス崩れないの?
「そこはちゃんと調整してありますのでご心配なく」
「なら大丈夫だね」
「他に質問はありませんか?なければ戻っていただきますが」
「ないよ」
「分かりました。ではあの世界にあなたを戻しますね」
そのことばとともに視界は黒く染まっていった。
「……ん!……トイ…ん!サトイ君!」
目に見えたのは亜麻色の髪の少女、サラだ。あれ、確かさっきまで神界(?)にいたはずだが……。
「ん……ぁ」
「起きて!もう朝食の時間になるよ!」
え、もうそんな時間なの?これは寝過ぎたなぁ。
「あ、着替えるからあっち向いててくれる?」
あの後俺はあまり朝食を食べられなかった。起きてすぐだったからね。ほんとバイキング形式でよかったよ。
まあその話は置いといて。あれから宿をチェックアウトして向かうのは冒険者ギルド。冒険者なんだから冒険者らしく依頼を受けて稼がないとね。
ということで手にはEランクのゴブリン討伐の依頼書。
「はい。依頼の受理ですね。冒険者タグをいただきます」
「はい。どうぞ」
「お預かりします……。Eランクのサトイ様でいらっしゃいますね」
「そうです」
「では……こちら、依頼カードです」
依頼カード。これに素材買取所で対象物の交換数の印を押してもらい、受付でそれを見せることで初めて依頼達成料と達成実績がもらえるのだ。
この達成実績をためていくと冒険者ランクをアップさせられる。ちなみに依頼には推奨ランクというものがあって、それはその推奨ランクの冒険者なら安定して依頼達成ができることを示している。
あとランクに関わらず、何回も連続して依頼に失敗すると冒険者ランクをダウンさせられることがあるらしい。
「ありがとうございます」
そして今度は昨日都市入りする前に見つけた森の前に来ている。実はこの森、グリンファード中心部から徒歩1時間の郊外からも離れた場所にある。
人がほぼ住んでおらず、昨日ちょうどこのあたりでゴブリンを遠目に見つけた。ゴブリンは基本群れで生息しているらしいので、1体見つけると10数体はいるらしい。
「うう……ちょっと気分が悪いよ……」
「あたしも休憩しないとこれはきついな〜」
ちなみにここまで亜空間を通って、さらに森の奥まで来たから初めて通った2人には来るものがあったのだろう。
まあ亜空間は主に赤と黒からできてて、細長い目みたいなものがいっぱいあるからね。
「椅子出すからそこに座ってなよ」
毎度お馴染みの《
「ありがとうサトイ君」
「ありがと〜」
「ふぅ……俺も座ろっと」
ここでゴブリンが出て来るか、2人の気力が回復するまで待機してようか……
「ギャァァァ!」
な、と思ってたけど10数体ほどオークが出てきたので戦います。